533 夏の終わりに New! 2006/09/10(日) 00:02:24.94 ID:+ddJE+DcO
http://bobobobobooon.web.fc2.com/22page/hatesummer.html

知らない人はコレを。

嫌いだった筈の夏の終わりは何故か哀しくて。
肌を焼こうとした日差しも、ベトベトした潮風も、何故か柔らかく感じた。

「今日で店仕舞いっスよ。……淋しくなるっスね」

海の家のバーテンは遠い目をし、誰にともなく感慨深く呟く。
思えば、このバーテンともすっかり馴染んだ。
ロン毛茶髪だからって、見た目で判断しちゃいけないという事を、俺はこの夏学んだ。

多少馴々しいのは目をつぶろう。

535 夏の終わりに New! 2006/09/10(日) 00:03:13.38 ID:+ddJE+DcO
「……ドクオさん、また小説っスか? たまには泳ぎましょうよ」

俺の前に、苦笑いをしつつ爽やかな青のカクテルを差し出すバーテン。
酒を飲みながら小説を読むだけの変人にも優しいのが、この海の家の良い所だ。

川 ゚ -゚)「隣、いいか?」

('A`)「どうぞ」

そしてバーテンが首を傾げる。ありきたりだが、『幽霊は見えない』って事だ。

この夏、繰り返して来た変わらない応酬。それも今日で終わってしまうのだ。
だが、俺は別に構わない。

なぜなら。

川 ゚ -゚)「……夏も終わり、だな」

(;'∀`)「……来年もあるじゃん」

淋しい気持ちを無理に押し込み、明るく言い放つ俺。

537 夏の終わりに New! 2006/09/10(日) 00:04:29.58 ID:+ddJE+DcO
――そうさ、来年があるじゃないか。哀しむ事なんてない。

だが、ねぇちゃんは顔を曇らせ、俯いた。
俺の胸中に嫌な予感と、とある確信が渦巻く。

川 ゚ -゚)「出ようか、ドクオ」

顔を上げたねぇちゃんは、いつもと変わらない、優しい無表情で――。
それが、俺には哀しかった。

海の家から出る時、バーテンの声が背中に掛かる。

「来年もよろしくお願いしゃース!」

来年も、か。今の俺には、想像できないな。

太陽は、もう沈みかけている。

538 夏の終わりに New! 2006/09/10(日) 00:05:11.77 ID:+ddJE+DcO
俺とねぇちゃんは終始無言で、海を眺めていた。
海から離れた、まばらな草が生えている場所。
いつもと変わらない。

いや、今の俺はこの状況の変化を恐れていた。
普段ならば気にならない沈黙も、重く感じるのはその所為だろう。
俺は意を決してねぇちゃんの方を向き、呼び掛けた。

(;'A`)「あのさ」
川 ゚ -゚)「あのな」

同時にお互いの顔を見つめる形になり、二人で噴き出してしまった。
どうやら俺とねぇちゃんは、とことん似ているらしい。
不器用で、不愛想で。

539 夏の終わりに New! 2006/09/10(日) 00:06:01.53 ID:+ddJE+DcO
俺達にのしかかっていた重圧が、消えたような気がする。

('A`)「……もう、会えないんだよな」

ねぇちゃんが。哀しい無表情で頷いた。


本当は、ねぇちゃんをテトラポットから解放した時から分かっていたんだ。
もう、成仏出来るんじゃないかって。
それは、良い事だし、万万歳じゃないか。
俺も嬉しいよ。


540 夏の終わりに New! 2006/09/10(日) 00:08:07.90 ID:+ddJE+DcO
――それなのに。

(;A;)「……あれ?」

なんで、涙が止まらない。
ちくしょう。
素直に喜べよ、俺。クソ。

川 ゚ -゚)「君は、大人になったかと思ったが――」

ねぇちゃんは優しく俺を抱き締めてくれた。

母のように。
恋人のように。

そして、姉のように。

川 ; -;)「やはり、甘えん坊は治っちゃいないな」

俺の腕からねぇちゃんの感触が消えていく。
豊かな胸の膨らみと、華奢な身体が。

全てが消えた後、俺は一人でぼんやりと夜の海を眺めていた。
夏の残滓か、弱々しい花火を網膜が捉える。

――俺の夏が終わった瞬間だった。

541 夏の終わりに New! 2006/09/10(日) 00:09:20.08 ID:+ddJE+DcO
俺は、夏と海が嫌いだ。
照りつける太陽と、べたべたした潮風が嫌いだ。

それでも、俺は海に行くよ。
たとえ夏の暑さに挫けそうになっても。
バーテンに馬鹿にされても。

だからさ、ねぇちゃん。
いつかまた、俺の隣に座ってくれよ。

「隣、いいか?」

ってね。

俺、いつまでも待ってるからさ。

終わり

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