840 アパートの騒音 New! 2006/09/02(土) 18:25:10.80 ID:LIZlVchkO
(#^ω^)「ったく……何時だと思っているんだお?」

内藤は愚痴をこぼしつつ、目覚まし時計を覗いた。
時刻は……。

なんてこった、まだ二時半じゃないかお。

ただ、『安い』、という理由でこのアパートを借りた内藤だったが、その安直な判断が間違っていた。
とにかく、喧しい。
笑い声、嬌声、怒鳴り声――区別が無い。

とはいえ、内藤に壁を叩く、文句を言いに行くなど、抗議する度胸は無い。
せいぜい耳栓を使い、布団を頭から被るぐらいだ。

841 アパートの騒音 New! 2006/09/02(土) 18:27:05.34 ID:LIZlVchkO
(#^ω^)「もしもし、美府不動産ですかお?
そちらからアパートを借りている内藤といいますが……はい……はい」

アパートを借りてから一月が経ち、ついに内藤は不動産会社に電話をした。
ひどく消極的な方法だが、内藤にはこれで精一杯なのだ。
心中には、『注意を受けた隣の住人が、乗り込んできたらどうしよう』という思いが渦巻いている。

『あ、もしもし。
内藤さん?どうしました?』

843 アパートの騒音 New! 2006/09/02(土) 18:28:21.60 ID:LIZlVchkO
受話器の向うから親しげに呼び掛ける声は、内藤の物件探しを担当したドクオだ。
親身になってくれた彼にクレームを言うのは心苦しいが、仕方ないだろう。
このままでは内藤の仕事に差し支える。

(;^ω^)「あ、ドクオさん、実はアパートの事なんですが……。
……隣の人がうるさいんですお」

内藤が話している最中にも隣は大賑わいだ。
一方、受話器の向うのドクオは、沈黙した。

(;^ω^)「今もうるさくて……。耳栓をして我慢していたんですが……」

この音はドクオにも届いているはずだ。
笑い声と、壁を叩く音が。

844 アパートの騒音 New! 2006/09/02(土) 18:29:27.64 ID:LIZlVchkO
『……確かに……。
……あの、そのアパートには……内藤さん以外の人は、住んでないんですけど』

ドクオがそう言った瞬間、隣の部屋の喧騒は忽然と止んだ。

呆然と受話器を置いた内藤が、ふと視線を感じ窓に目を向けると――。

曇りガラス一杯に顔、顔、顔。

それらは一様に内藤を見つめていた。

終わり

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