772 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/08/08(火) 02:40:06.82 ID:MJbEmHGA0
がくん、と頭が落ちたのが、自分でもわかった。

('A`) 「……うー、やべぇやべぇ」

二、三度と首を振って気を取り直し、モニタに目を戻す。
しかし、ものの三秒も保ちやがらねぇ俺の意識。
また睡魔が襲ってくる。
数秒? いや数分? お花畑にトリップしてた脳味噌を、むりやり現実に引きずり戻した。

終電が行っちまってから、もう一時間。
内藤の野郎、てめえのミスのくせにさっさと帰りやがるし。

「ドクオ、まじですまんこ! せめてもの詫びに差し入れ置いとくお!」
などと抜かして飛んで帰った新婚野郎が置いてった、ブラックブラックガムのミニボトル。
ざらざらっと口の中に流し込む。ひとつやふたつじゃとても効きそうにない。

('A`) 「……多すぎたかも」

('A`) 「……」

(-A-) 「……zzz」

773 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/08/08(火) 02:40:46.09 ID:MJbEmHGA0
川 ゚ -゚) 「どうだ? はかどってるか?」

いきなり間近で聞こえた声に跳ね起きた。イスから5ミリくらい飛び上がってたかもしれない。
ていうか、全っ然効果ねえじゃねえかブラックブラックさんよ。よだれ垂れてないよな、俺?

('A`) 「……や、ごらんの通りの有様よ。ちょいと別世界のお花畑に旅してた」

川 ゚ -゚) 「そうか。長旅ご苦労」

真夜中を過ぎたオフィス。
他にひと気もなく、有線の音楽も切れて、蛍光灯だけが煌煌と照らす静かな室内に二人っきり。
俺は普段からネクタイ緩めっぱなしで、しょっちゅう上司に注意されているクチだが、いつもかっちりとスーツを着こなしているクーも、今はジャケットを脱ぎ、少しリラックスしている様子だ。

川 ゚ -゚) 「疲れたろう。疲労回復には甘いものだ」

クーが差し出したのは、定番のガーナチョコレート。
正直にやけそうになるほど嬉しかったが、ゆるむ頬をどうにか苦笑いに変え、かぶりを振った。

('A`) 「わりぃ。実はすでに先客が」

口を開けてガムを見せようかと一瞬思ったが、さすがに品がないかと思い、ミニボトルを指してみせる。
クーは別段気分を害した様子もなく、「そうか」と言って、チョコをひとかけら自分の口に運んだ。

川 ゚ -゚) 「ところで、知っているか?」

('A`) 「ん?」

川 ゚ -゚) 「ガムをキャラメルと一緒に食べると溶ける、と>>695が言ってたんだが」

('A`) 「>>695? 知らねえな。どこの部署の奴よ?」

774 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/08/08(火) 02:41:13.61 ID:MJbEmHGA0
川 ゚ -゚) 「チョコレートと一緒に食べても、ガムが溶けるらしい」

('A`) 「へー」

その手の話はちょくちょく聞くけど、俺はあまり好きじゃない。
なんだっけ、バニラアイスに醤油かけて食ったらプリンの味がするんだっけ? んな気持ち悪い食べ方するくらいなら、最初からプリン食えっての。
って、これはちょっと違うか。
いや、味が変わるとかじゃなく「溶ける」ってちょっと恐くね? だって自分の口内で化学変化が発生するようなもんだぜ?

川 ゚ -゚) 「試してみるか?」

いつもの無表情の中に、わずかにいたずらっぽい笑みを含ませて、クーが俺の顔をのぞき込む。
きゃしゃな指先には、ガーナチョコがひとかけら。

('A`) 「勘弁してくれ。俺はその手の食い物ネタは好きじゃな―――」

言いかけたその時。
クーが、チョコを自分の口に含む。
そして、その綺麗な顔を近づけてきた。

775 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/08/08(火) 02:41:34.71 ID:MJbEmHGA0
唇に、柔らかい感触。
すぐ目の前に、閉じられた長いまつ毛。
いつもクーが漂わせているいい香りが、鼻腔を満たす。

数秒? いや数十秒?
さっきとは違うお花畑が見えた気がした。

川 ゚ -゚) 「……溶けた?」

唇を離し、クーが問う。
脳味噌が溶けました。なんて阿呆な答えを返すわけにもいかず、言葉を探しあぐねていると、

川*゚ -゚) 「私は、自分が溶けるかと思った」

せっかく人が言わないでおこうとした阿呆な台詞を……。
ていうか、いやだからその、そこで頬染めるの反則。

自分で言っておきながら、やっぱり照れくさいのだろう。
赤くなったクーは、ガーナチョコの赤い箱を俺のデスクに置くと、身を翻してオフィスを出ていった。

('A`*) 「……まぁその何だ」

('A`*) 「……少なくとも、ブラックブラックよりは目が覚めたかもな」

目が覚めたのはいいが、それからしばらく残業が手につかなかったのは言うまでもない。


おわり

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