215 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/10/10(火) 21:08:24.43 ID:AbCCkj9vO
俺も投下。久しぶりに書いた奴。
詳しくは短篇まとめで。

( ^ω^)は死神のようです。

名月や 池もめぐりて 夜もすがら

松尾芭蕉

月を見ながら池を散歩していたら、夜が明けてしまった。という意味だ。

廃ビルの屋上から見えるるは、見事な満月。
こういう夜は、俳人でなくとも一句詠みたくなる。
それがたとえ、人外の死神だとしても。

ξ゚听)ξ「いい身分ね。内藤。
仕事もせずに俳句?」

内藤は死神課の課長であり、自分の妻であるツンにふと、顔を向けた。
彼女が人間界に降りてくるとは珍しい。

218 ( ^ω^)は死神のようです。 New! 2006/10/10(火) 21:14:26.36 ID:AbCCkj9vO
そう――三国一の武将が反乱を興した時以来だろうか。

( ^ω^)「……仕事はきっちりこなしているお。
それにほら、あの綺麗な満月――こんな時くらい、仕事を忘れたらどうかお?」

そういって内藤は巨大な満月を再び眺めた。
何時の間にか、ツンも隣に来ている。
月の光を反射し、輝く黒いマントと、柔らかな金髪。
遥か昔は、絶世の美女と持て囃され、計略の手伝いをしたというが、それも頷ける。

不意に、彼女が口を開いた。

ξ゚听)ξ「ま、月に浸るのもいいけどね。
……今夜は、誘われる人間が多いわ」

そう言って、ツンは内藤に手帳を手渡した。
露骨に嫌な顔を内藤はしたが、それで許されるほど仕事は甘くない。

220 ( ^ω^)は死神のようです。 New! 2006/10/10(火) 21:18:15.19 ID:AbCCkj9vO
手帳に書いてある人物は、月に誘われる人間。

満月が人間に与える影響は決して少なくない。
鼻で笑う者もいるだろうが、これは事実だ。
人間に潮の満干きをコントロール出来やしない。
逆に、月の引力に引かれないと、何故言えるだろう。

先程まであれほど内藤の心を捉えていた満月。
だが、今やそれは障害となって内藤に立ち塞がっていた。

ξ゚听)ξ「……内藤? どうしたの?」

ツンの声に、内藤は身を震わせる。
月を睨み付けているうちに、誘われそうなったとは言えない。
内藤は頭を振り、ツンの後を追った。

月は黙って、去って行く死神をただ見つめる。
“彼女”に罪は、無い。
もしも、罪があるとすれば――その存在なのだろう。

十三夜の月は、人を狂わせる。

名月や 座にうつくしき 顔もなし

松尾芭蕉

終わり

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