365 ('A`)がもう一度走り出したいようです 1/15 と思ったら専ブラの方にあった New! 2006/10/10(火) 23:41:41.71 ID:G6IIhUNc0
荒れ狂う大気。

地鳴りを上げる大地。

耳をつんざくような咆哮が響き渡る中、そこに立つは冒険者達。

彼らの目の前には、金色に輝く一頭の竜。

人間達は、色とりどりのオーラを纏いながらその巨躯と戦う。

炎を吐き、爪で地面を抉り取りながら暴れるを竜をかわし、
身に纏うオーラに守られながら人間達は、
竜の鋼の様な鱗に目掛け武器を振りかざす。

(メ'A`)「やばい!!そろそろ補助呪文が切れるぞ!!クー!!」

(メ^ω^)「ブーン達が、時間を稼いでる間に
       魔法士組みは、 補助呪文の掛け直しと攻撃呪文を頼むお!!」

そう言うと、筋肉隆々な二人の冒険者が再びドラゴンの懐へと飛び込んでいく。

川 ゚ -゚)「私は彼らに、身体能力強化の呪文を送り続ける。
     ツンは、前衛にヒールを頼む」

ξ゚听)ξ「わかったわ」

川 ゚ -゚)『紅き刃よ!!我と相対する者を浄化させし力を仲間に与えよ』

ξ゚听)ξ『汝、癒しの風を運び傷つき者たちを包まれん』

378 ('A`)がもう一度走り出したいようです 4/15 New! 2006/10/11(水) 00:03:05.65 ID:ZLAfLwTk0

彼らは、竜の足元から一気に肩までのぼり詰める。

ドクオは、黒金に鈍く光る大剣で。
ブーンは、白銀に輝く巨大な斧で。

奇妙に曲がりくねる竜の首に、渾身の力を込めて炎を纏う獲物を振り下ろす。

二人は、激しい電流が両手に流れながらも
力を緩める事はせず、竜の首に武器をめり込ませていく。

やがて、二人の武器は勢いを無くし
竜の首を左右から50cm程ずつ切り込んだ所で止まった。

痛みに悶える竜は、首を激しく振り回し二人を弾き飛ばす。

(メ'A`)「っち!!戦闘終了とまでは行かなかったか!!」

己の首を三分の一程切り込まれても
今だ直、激しく襲い掛かってくる竜。

その生命力は、途絶える事など想像できない位に強大だ。

しかし、その様な生物と相対している冒険者達の顔には、既に余裕すら感じ取れる。

( メ^ω^)「ブーン達の役割は、果たしたお。
      ショボン!!全魔力で例のアレ頼むお!!」

(´・ω・`)「首に刺されたままの武器+僕の黒魔法。
      もう必勝パターンだよね」

379 ('A`)がもう一度走り出したいようです 5/15 New! 2006/10/11(水) 00:03:57.26 ID:ZLAfLwTk0

(´・ω・`)『古の雷鳴よ、今再び姿を現し全てを死へと誘え』

(´・ω・`)「サ ン ダ ー ボ ル テ ッ ク ス !!!!」

彼が高らかに叫ぶと、竜を中心とした電撃の渦が巻き起こる。

それは、竜の首に刺されたままの大剣と大斧に引き寄せられ
竜の巨躯を内側から焼き尽くしてく。

脳、脊髄、内臓、血液、
体のありとあらゆる場所を沸き立たせられた竜は、暴れ狂う。

そして、白目を向いた竜は、肉の焦げた匂いを放ちながら
その巨躯を地面へ叩きつけ――――絶命。

それを見届けた冒険者からは、歓喜の声が一斉にあがる。

380 ('A`)がもう一度走り出したいようです 6/15 New! 2006/10/11(水) 00:04:41.92 ID:ZLAfLwTk0

(メ'A`)「よっしゃ!!これで俺達もSランクハンターの仲間入りだぜ!!」

( ^ω^)「流石にヤバかったお〜」

川 ゚ -゚)「うむ。なかなか厳しい任務だった」

ξ゚听)ξ「前衛が、もっと良い動きしてればもうちょっと楽に終わったけどね」

(´・ω・`)「みんな。おつかれ〜」

(メ'A`)「今日は、ぶっ通しで任務に取り掛かったから流石に疲れたな」

(メ'A`)「俺、もう寝るわ」

川 ゚ -゚)「おつかれ」

( ^ω^)「又、明日だお」

ξ゚听)ξ「じゃあね、筋肉馬鹿」

(メ'A`)「おう。おつかれ!!」

381 ('A`)がもう一度走り出したいようです 6/15 New! 2006/10/11(水) 00:06:40.27 ID:ZLAfLwTk0
――――――――――――
―――――
――
('A`)「……」

PCのモニターに移るもう一人の自分。

それを現実世界のドクオは、虚ろな目で眺めている。

その仮想世界の中で生きているドクオは、
現実世界のドクオには、疎遠な物を手にしていた。

冒険、仲間、武力、挑戦。
それのどれもが現実のドクオには甘美な物

('A`)。o( 『おう。おつかれ!!』っと……)

彼が、声を発する事は無い。

その代わりに、キーボードに並ぶローマ字を指で弾き顔も知らない誰かにメッセージを送る。

ドクオは手馴れた手つきでPCの電源を落とす。

唯一の光源が失われた5畳ほどの狭い部屋は、
カーテン越しに伝わる僅かな朝日だけが、床を照らしていた。

ふとドクオは、部屋見回す。

('A`)。o(疲れた……部屋汚いな……掃除するのダルいなぁ)

382 ('A`)がもう一度走り出したいようです 7/15 New! 2006/10/11(水) 00:07:52.58 ID:ZLAfLwTk0
その部屋には、小さなベットとPCと本棚だけが在り
その周りも整理されている。

いや、整理されてると言うより
全く手を触れていないと言う方が、
埃を薄く纏う物達にとっては正しい表現だろう。

そんな人気の無い部屋にも、
一つだけ人の手が加えられただろうと思われる物がある。

それは――――床一面に散らばる、ちぎり尽くされた教科書。

生活感の無い筈の部屋が、汚いと表される最大の原因はこれだろう。

('A`)。o(なんで……俺は……こんな人生を生きてんだろ)

今日は、10月9日月曜日。
10月の3連休、最後の祝日。

人々は、明日から始まる仕事、学校の為に
残された余暇をこれから満喫する事だろう。

しかし、二ヶ月前に学校を辞めたドクオには、
土曜日も日曜日も祝日も平日も関係なかった。

383 ('A`)がもう一度走り出したいようです 8/15 New! 2006/10/11(水) 00:08:50.11 ID:ZLAfLwTk0

『高校すら満足に勤め上げれなかった自分が、社会に出て働ける訳が無い』

『だが、このままの生活を営める訳も無い。
自分に食事を与えてくれている親も、何時かは死ぬ』

『でも……もう自分で歩みだすのが…怖い』

『しかし、このままの生活をしていける訳も(ry』

そんなジレンマに悩まされ続ける、毎日訪れる地獄の様な休日。

('A`)。o(ああ……死にてぇ…………)


『死ぬのが、怖いから生きている』

多分、この生存理由は、人間に限らず生物全般が抱いている
最低限の生存理由だろう。

しかし、今のドクオには、『自分が生きている理由』を聞かれた時に
答えられるものは、それしかなかった。

恐らく、そんな惨めな自分の存在を紛らわせる為に、
仮想世界に居るドクオに自分を投影させているのだろう。

仮想世界のドクオは、現実世界のドクオの時間と生気を奪いながら
どんどん強くなっていく。

384 ('A`)がもう一度走り出したいようです 8/15 New! 2006/10/11(水) 00:10:06.05 ID:ZLAfLwTk0
('A`)。o(まぁ……良いや……寝よ)

時刻は、既に午前6時を指していた。

強烈な睡眠欲を満たす為、ベットに潜り込むドクオ。

視覚を閉ざしたドクオの耳には、窓の外で鳴く鳥のさえずりと
一階の台所で行われているだろう洗い物の音が入ってくる。

(-A-)。o(カーチャン……ごめん。
      ああ……誰か俺を殺してくれないかな……)

自分の意志とは関係なくもたらされる絶対的な無を求めながら
彼は、眠りの世界へと落ちる。

(-A-)「Zzz……Zzz」

――――――――――――
―――――
――

385 ('A`)がもう一度走り出したいようです   行数計算しくじった New! 2006/10/11(水) 00:10:55.88 ID:ZLAfLwTk0
だが、彼の定例的になった浅い眠りは、
何処からともなく流れてきたポップな音楽に呼び起こされる。

ドクオが、どれ程眠ったのかのかは解からないが、
外はまだ明るい。

('A`)。o(……?)

ドクオの強制的に耳に入ってくる、どこか聞き覚えのあるメロディー。

その音の正体をベットに横たわりながら探るドクオ。

そんなメロディーと供に鳴り響く、乾いた発砲音。

その瞬間、ドクオは、その音源が近所の小学校である事に気付く。

('A`)。o(そうか……今日は……体育の日だったな……。
      運動会か……懐かしい)

過去の優しい思い出を振り返るドクオだったが、
再びその行事に自分が参加する事は無いだろう現実が、脳内に突きつけられる。

('A`)。o(なんで……あの頃は…あんなに俺は……頑張れてたんだ……)

徒労も顧みず、未来への不安も無かった幼き日の自分。
今の自分と比べて見た時、それはあまりに輝き過ぎていた。

386 ('A`)がもう一度走り出したいようです   New! 2006/10/11(水) 00:11:54.44 ID:ZLAfLwTk0

('A`)。o(ああ……泣きたい)

そんな思いとは裏腹に、ドクオの顔の筋肉は動く事は無い。

('A`)。o(…………運動会か)

ドクオは、ゆっくりと身を起こすと
3.4日ぶりだろうシャワーを浴びる為に一階へと降りる。

('A`)。o(……)

そして体の汚れを落とし、着古してロクな服が無い中から、
比較的まともな物をタンスから選び出し身に纏う。

自分の全体像を確認する為に鏡の前に立って、髪を乾かしていくドクオ。

('A`)。o(……頬こけたな……髪もボサボサじゃねーか……)

この2ヶ月の間でやせ細り、
見るも無残な容姿になっている自分を見たドクオ。

彼は、好き勝手に伸びきった髪を隠す為にタオルを巻きつけると
深く深呼吸をして玄関へ向かう。

('A`)。o(ああ……ドアノブに触るのなんて久しぶりだな)

ドクオは、少し躊躇しながらもドアを開く。

そこからは、爛々と輝く日差しが漏れた。

388 ('A`)がもう一度走り出したいようです   New! 2006/10/11(水) 00:12:50.55 ID:ZLAfLwTk0

('A`)。o(やべ……体が重い)

自分の体を動かす度に感じる倦怠感。

ドクオが立ち止まるまで3分少々の道のりだったが、
それは、彼にはとても長い物に思われた。

('A`)。o(……) 

校庭を囲むフェンスの外から運動会の様子を眺めるドクオ。

子供達は、一生懸命にトラックを走り
親達、兄達、姉達は、それを応援している。

('A`)。o(……)

足の速い子供が、ぶっち切りでゴールまで駆け抜けるレース。

1、2、3位までが接戦で、最後の最後で勝負が決するレース。

ぽっちゃりとした肥満児同士が、5.6位を掛けて必死に走るレース。

目が見えないのだろう、先導する教職員の手拍子を頼りに完走を目指す子供と
そんな彼を皆が暖かく見守るレース


皆がゴールの瞬間には、一応に誇らしげで嬉しそうな表情を浮かべていた。

401 ('A`)がもう一度走り出したいようです サルとんじる恐るべし New! 2006/10/11(水) 00:46:11.03 ID:ZLAfLwTk0

('A`)。o(……お前ら……輝きすぎだよ)

トランペットを眺める黒人の子供の様な視線で
ドクオは、子供達を眺め続ける。

('A`)。o(俺も……もう一回走りたいなぁ……)

心で願っても従ってくれない体。

展望で願っても従ってくれない心。

そんな劣等感に打ちひしがれながらドクオは、
校庭を後にすると来た道を戻る。

体は、やはり鉛の様に重い。

('A`)。o(……)

ドクオが、再び部屋に戻ると
散乱した教科書のページの破片が、いつもの様に散乱していた。

それをドクオは、一枚一枚拾い上げていく。

('A`)。o(もう……昔みたいは、友達と笑えないんだよな)

それは、まるで記憶のパズルの様。

床が、一箇所綺麗になっていくと供に
彼に過去の思い出を運んでくる。

403 ('A`)がもう一度走り出したいようです サルとんじる恐るべし New! 2006/10/11(水) 00:46:56.52 ID:ZLAfLwTk0

('A`)。o(ああ……昔に戻りたい)

二度と叶う事のない夢を想いながら、
床に散らばる全てのパズルを拾い集めたドクオ。

彼は、それをしばらく眺めると勢い良くゴミ箱へ突き入れる。

('A`)。o(今からでも……あいつらに追いつけるかな……)

ドクオが、自分の行く末を考える度に襲い掛かる、
体が、深い闇に飲み込まれていく様な感覚。

恐怖、劣等感、焦燥、後悔達が渦巻く中で
もがき苦しむ自分。

その渦の頭上には、先程まで走っていた子供達の姿。

勝利を目指し走り続けていた子供達。

体格のハンデにも負けず走り続けていた子供達。

暗闇の中を走り続けていた子供。

('A`)(あいつ等みたいに……自分に今できる事……俺もしたいな)

ドクオは、PCの電源へと手を伸ばす。

映し出されたのは、見慣れたデスクトップ。

405 ('A`)がもう一度走り出したいようです サルとんじる恐るべし New! 2006/10/11(水) 00:47:46.17 ID:ZLAfLwTk0

('A`)。o(俺に今……できること……)

彼は、マイコンピューターの中に収められている
一つのフォルダをダブルクリックする。

そのファイルの下方には一つのアイコン。

【 Adventure Online UnInst 】

('A`)。o(俺に今できる事…………)

彼は、そのアイコンを静かにダブルクリックする。

それは、『現実世界』でもう一度旅立ちたいと言う
彼の決意表明だろう。

('A`)。o(さよなら、ドクオ)

その日、仮想世界に居たドクオは姿を消す。

406 ('A`)がもう一度走り出したいようです New! 2006/10/11(水) 00:49:30.57 ID:ZLAfLwTk0
今後、一人に戻ったドクオが、どの様な人生を歩むのかは解からない。

だがそれは、きっと辛く苦しい道になるだろう。

HPに換算された生命力を、
万能に回復してくれる呪文など無い険しい道のり。

現実とは、いつも非情なまでに厳しい。

しかしそれは、降り注ぐ太陽の日差しの様に皆に公平である……と信じておきたいものだ。

('A`)「ふぅ…腹減った。よし、何か食おう」

彼の助走への一歩が今始まる……。

                          ('A`)がもう一度走り出したいようです−完−
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