165 秋雨の降る夜に(1/6) New! 2006/10/10(火) 20:36:47.15 ID:IG5jCoWO0

≪ 秋雨の降る夜に ≫

ボクは、その真っ白な体を抱きしめて泣いた。
あの人の名を呼びながら、ただ、ただ泣いた。
澱のように積もった想いを洗い流すかのように。

その泣き声は降りしきる秋雨に掻き消され、誰の耳にも届く事はなかった───

           ※

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           ※

しぃと出会ったのは、ちょうど一年前。
やはり今日のように冷たい雨の降る、秋の夜の事だった。

ニィ〜…… ニィ〜……

(´・ω・`) 「・・・ん?」

166 秋雨の降る夜に(2/6) New! 2006/10/10(火) 20:37:28.62 ID:IG5jCoWO0

すっかり日も暮れた肌寒い雨空の下、ボクは家路を急ぐ足を止めた。
道の端から、小さな鳴き声が聞こえてきたからだ。
雨音に掻き消されてしまいそうな、か細いその鳴き声。

( ´・ω・) 「・・・ねこ?」

鳴き声がした方を振り向くと、電柱の脇にダンボール箱がポツンと置かれていた。
それを捨てた者か、それとも通りがかった人の善意なのか、ビニール傘がその上に被さっている。

近づいて中を覗き込むと思った通り、
手のひらに収まるくらいの小さな猫が、雨でしょぼ濡れた体を震わせていた。
一匹しかいないところを見ると、この子だけ捨てられたのか、
それとも他の子は誰かに拾われ、この子だけが残ったのか。

∧ ∧
(*゚ー゚) 「ナァ〜ォ・・・ナァ〜ォ・・・」

子猫はその紅い瞳をこちらに向け、必死で鳴き声を上げる。
街灯に照らし出されたその姿は、曇りのない雪のように真っ白だった。

その姿を見て、ボクは初恋の少女を想い出す。
その子も先天性色素欠乏症(アルビノ)だったから。
もう九年も前に、不慮の事故で短い一生を終えた少女……

彼女の影と子猫の姿が重なり、ボクは思わずダンボールに手を伸ばす。
ボクの手が触れた瞬間、子猫は体を固くするが、すぐに体を委ねてきた。

小さな体を注意して抱きかかえると、冷たく濡れたその体をハンカチで覆い、
ボクは再び家に向かって足早に歩き出した。

169 秋雨の降る夜に(3/6) New! 2006/10/10(火) 20:38:06.29 ID:IG5jCoWO0

家に連れ帰ったその子猫に、ボクはしぃと名付けた。
亡くなった人の名前を猫に付けるなんて不謹慎なのかもしれないが。

(´・ω・`) 「・・・とりあえず猫缶を買ってきたけど、食べるかな?」
∧ ∧
(*゚ー゚) クンクン……ハグハグ……
(´・ω・`) 「あ、食べてる、食べてる。おいしいかい?」

           ※

同居しているシャキン兄さんと交互に面倒を見、ときには猫好きの隣人のお世話になりながら、
しぃはすくすくと育っていった。
そうして季節は巡り、また秋が訪れ───

ボクはあの日を思わせる雨空の下、やはり家へと急いでいた。
仕事を終えた後、しぃと遊ぶ事が今のボクにとって一番の楽しみになっていたからだ。

そのとき、不意に曲がり角から出てきた人とぶつかりそうになってしまう。
お互い傘を深く差していたため、気付くのが遅れたのだ。

从;'ー'从 「わゎっ、ごめんなさい!」
(;´・ω・) 「あ、いえ、こちらこそ・・・って、渡辺さん?」
从 'ー'从 「あれれ〜、ショボンさん? な〜んだ、奇遇だね」

渡辺さんは猫大好きなお隣さんだ。
手には大きなビニール袋を提げている。多分、ペットショップの帰りなのだろう。

( ´・ω・) 「こんばんは。いつもしぃがお世話になってます」
从;'ー'从 「・・・その事なんだけど〜、しぃちゃん元気?」

170 秋雨の降る夜に(4/6) New! 2006/10/10(火) 20:38:49.44 ID:IG5jCoWO0

重そうなビニール袋を持ってあげようと差し出したボクの手が、ふと止まる。
何か、彼女が意味ありげな表情を浮かべていたからだ。

( ´・ω・) 「? ええ、元気ですけど・・・」
从;'ー'从 「・・・実はさっきね〜、近所で白い猫ちゃんが車に轢かれたらしくて・・・」
(;´・ω・) 「えっ!?」
从;'ー'从 「この辺りじゃ真っ白な猫ちゃんは珍しいから、もしかして〜と思って・・・」

一瞬、凍りついたか思えた心臓が、今度は凄い勢いで暴れ始める。

今朝は兄さんが先に出たから、戸締りはボクがした。
しぃが抜け出せそうなドアや窓は、ちゃんと締めたはずだ。
それなのになんだろう、この胸が締めつけられるような不安感は?

ボクは向きを変えると、何も言わずに家に向かって駆け出す。

从;'ー'从 「あっ! ちょっと・・・」

後ろで渡辺さんの声が聞こえたが立ち止まらなかった。
冷たい雨の中、ただひたすら家へと急ぐ。
邪魔な傘はどこかに放り投げたらしい。気がついたら、いつの間にか手から消えていた。

全身びしょ濡れになりながら家の玄関までたどり着くと、ボクは震える手で鍵を開ける。

(;´・ω・) 「・・・しぃ! しぃっ!!」

ボクは大声で彼女の名を呼びながら、勢いよくふすまを開けた。
そして───

171 秋雨の降る夜に(5/6) New! 2006/10/10(火) 20:39:25.20 ID:IG5jCoWO0

そこには、お気に入りの座布団の上で丸くなっている、しぃの姿があった。

∧ ∧
(*゚ー゚) 「・・・ニャ〜?」

しぃはボクを見ると、小首をかしげて小さく鳴いた。

(´;ω;`) 「しぃっ! 無事で、よ・・・よか・・・った・・・」

ボクは、その真っ白な体を抱きしめて泣いた。
あの人の名を呼びながら、ただ、ただ泣いた。
いつもは濡れるのを嫌がるしぃが、なぜかこの時だけは身じろぎもせず、泣き止むまで付き合ってくれた。
まるで、ボクの気持ちが通じでもしているかのように。

九年前のあの日、彼女が亡くなったと聞かされたとき、ボクは泣かなかった。
とても悲しく、とても辛かったのに、なぜか一粒の涙すら零れなかったのだ。
そして今日に至るまで、彼女のために涙を流した事はなかった。

そのボクが、彼女と同じ名の猫の無事を確認して子供のように泣いてしまった。
この涙は、あの日に流すはずの涙だったのだろうか……?

服に沁み込んだ雨で濡れてしまったしぃの体をタオルで拭きながら、在りし日の彼女に想いを馳せる。
目を閉じると、まるで昨日の事のように鮮やかに脳裏に甦るその姿。

172 秋雨の降る夜に(6/6) New! 2006/10/10(火) 20:39:59.53 ID:IG5jCoWO0

穏やかに晴れた秋空の下、フワリとひらめく長い丈のワンピースの裾。
赤い花が一面に咲く丘の上で振り返り、ボクの名を呼んで手招きする彼女。

(*゚ー゚) 『ふふふ・・・ショボン君。早く、早く───』

陽光を浴びて白く透き通る手、風にそよぐ長い銀色の髪、見つめられると吸い込まれそうな深紅の瞳。
そして大きなつばの帽子の下の、その儚げな笑顔……

           ※
∧ ∧
(*゚ー゚) 「ニャ・・・?」

目を開けると、タオルにくるまったしぃが不思議そうな顔でボクを見上げていた。
その喉元を撫でてやると、気持ち良さそうに目を細める。

(´・ω・`) 「・・・大丈夫だよ、しぃちゃん・・・ボクはもう、大丈夫だから・・・」

タオルごとしぃを抱き上げると、ボクは窓の外を見上げてそっとつぶやく。


その夜、雨はいつまでも降り続いていた───

( 終 )

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