636 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/06/11(日) 13:35:42.88 ID:PxjTWkxc0
――じゃあ行ってくるお

――いってらっしゃい。でも無理はしないでね

――わかってるお。僕はもう子供じゃないんだお




( ^ω^)「ふう…」
家に帰ってきて自分の荷物を玄関に置くと、ブーンは溜息をついた。

( ^ω^)「………」

あたりを見回す。
まだ玄関の電気すらつけてない状態なので真っ暗で何も見えない。
確か玄関の奥には四畳半の部屋があったはず。
だがそれすらも暗闇によって支配されている。

637 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/06/11(日) 13:36:16.92 ID:PxjTWkxc0
( ´ω`)「暗いお…」

何気なくつぶやく。
だがそれは部屋のことではない。

( ´ω`)「心が暗いお……」

貧しい家を救うために上京してからはや一ヶ月。
ブーンは孤独を感じていた。

別に仕事場に友達がいないというわけでもない。
とはいっても社交的な性格ではないため人数は少ないが。

それでも心が暗いといっている訳、それは――

( ´ω`)「淋しいお…」




639 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/06/11(日) 13:36:49.31 ID:PxjTWkxc0
('A`)「おいブーン、なんか最近お前やつれてないか?」

(;^ω^)「そ、そんな事はないお」

('A`)「そうならいいんだけどな…」

仕事をしてる時間は決して淋しいとは思わない。
話し相手がいるし孤独を感じる事は少ないからである。
けれどこの時間があるからこそ家に帰ったときの孤独感がより一掃増すわけで…



('A`)「じゃあ俺はこっちだから…」

( ^ω^)「じゃあまた明日だお」

('A`)「ああ。またな」


ああ、これからは一人だ。

641 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/06/11(日) 13:37:04.73 ID:PxjTWkxc0
人間一人になれる時間が欲しいときはある。ブーンにだってそう思う時がないわけではない。
しかし今ブーンは一人になりたくなかった。
自分の家に入ってもそこが本当に自分の家なのか分からなくなるような暗闇。
一人で黙々とコンビニ弁当を食べるときの静寂。
テレビを見るときも一人、話しかける人がいない。
ブーンはどうしてもこの淋しさに耐えられないでいた。

こういうのは時間が解決する問題なのだろう。
しかし一ヶ月たった今でも全然慣れない。
それどころかむしろ悪化している。

この調子じゃいつか心が壊れてしまいそうだ。


( ´ω`)「はぁ…」
そうして今日も暗黒へ続く扉に手をかける。


( ´ω`)「ただいまだお」
誰に言うわけでもないこの言葉。『ただいま』に意味があるのは返してくれる人がいる時のみだ。
つまりここでこの言葉を言ってもなんの意味もない――


J( 'ー`)し「おかえりなさい、ブーン」


――はずだった。

642 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/06/11(日) 13:37:21.87 ID:PxjTWkxc0
( ゚ω゚)「か、カーチャン!何でここに?」

J( 'ー`)し「何でって……昨日行くって留守番電話に入れといたじゃないか」

ブーンはそう言われ電話の方を目にする。
言われてみると確かに赤いランプが点滅していた。

J( 'ー`)し「迷惑だったかい?」

( ^ω^)「そんなことないお!むしろ嬉しいお」

J( 'ー`)し「それならよかった。でもブーン、ちょっとやつれたんじゃないかい?」

(;^ω^)「そ、そんなこと…」

J( 'ー`)し「また無理してるんじゃないだろうね?あんたはいつも頑張りすぎるから…」


ブーンは何も言えなくなってしまった。
何か言おうとしても口が開かない。
口が開いても声が出ない。


( ;ω;)「おっおっおっ…」


その代わりに目から涙が溢れてきた。

643 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/06/11(日) 13:38:04.12 ID:PxjTWkxc0
ブーンは一人暮らしがしたくなかった。
なのにこうして頑張っている理由――それは母親のためである。
ブーンの家は貧しく、生活していくのがやっとの状態。
それでも彼女は女手一つでブーンを育ててきた。
その母親に少しでも楽をさせてあげるために高校を卒業してすぐに上京することに決めたのだ。
が――




644 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/06/11(日) 13:38:19.76 ID:PxjTWkxc0
J( 'ー`)し「ブーン……やっぱり無理してたんだね…」

カーチャンはそう言うと泣いてたブーンを抱き寄せた。

( ;ω;)「カーチャン…。淋しかったお」

J( 'ー`)し「そうかい、苦労したんだねブーンも」

( ;ω;)「暗闇が…静けさが恐いお…」

この言葉でブーンが言いたかったこと、悩んでいたことが何なのかを理解するのは普通の人なら無理だろう。
しかし今ブーンを抱きしめてる女性にとってそれを知る事は容易なことだった。

J( 'ー`)し「ブーン、誰だって孤独に淋しさを感じる事はあるのよ。それが当たり前なの。でもね――」

ブーンの背中をさすりながら、続ける。

J( 'ー`)し「その孤独を知ることも大事なことだと思うの。一人でいる時の淋しさ、誰かがいてくれる事の大切さ、こういう事は一人にならないとわからないことだと思うわ」

( ;ω;)「カーチャン…」

J( 'ー`)し「それにカーチャンがいつでもついてるわ。淋しくなったらいつでも電話しなさい。話し相手くらいにはなってあげるから」


645 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/06/11(日) 13:38:36.07 ID:PxjTWkxc0
( ^ω^)「ふう、今日も疲れたお」

今日の仕事も終え、また暗闇への扉を開ける。
母親は今日ブーンが仕事をしている間に故郷へ帰っていた。

( ^ω^)「ただいまだお」

誰に言うわけでもないこの言葉。『ただいま』に意味があるのは返してくれる人がいる時のみだ。
今でもそう思っている。
それでも僕はこの言葉を口にするだろう。
今はない『ありがたさ』を。



( ^ω^)「お、カーチャンがなんか作ってくれてるお」
ブーンは家に上がり台所を見る。とそこにはしまってあったはずの鍋が置かれていた。
はやる気持ちを抑えつつ鍋の蓋を開ける。
するとそこには――

( ^ω^)「肉じゃがktkr!」

母親が作ってくれた肉じゃが。ブーンはこれが大好物だった。

( ^ω^)「おいしいお…」

このおいしい肉じゃがを食べたのはいつ以来だろうか。
いや、おいしいだけではない。
昔はおいしいと感じていた肉じゃが、だが今はそれ以外にも何か淋しくもあり、それでいて大切なものを感じる事が出来る。
この『何か』は恐らく一人になってはじめて感じる事が出来たものだろう。

646 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/06/11(日) 13:38:52.10 ID:PxjTWkxc0
一人になるということ、それはいずれ誰もが通る道。
そしてその孤独を知るからこそ、人といる時の暖かさを痛感できる。

それにブーンは一人ではない。
彼を信頼してくれる人がいる。
もし一人でいる事が淋しくなったら、その人と時間を共有すればいいのだ。



彼は受話器を手にとった。


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