562 ( ^ω^)は死神のようです。 New! 2006/06/11(日) 07:59:54.00 ID:DEscNYa8O
その存在に最初気付いた者は、電車のシートに膝立ちで座り、流れる風景を眺めていた少女だった。

「ママ、おうまさんがいるー」

母親がその言葉に電車の外を覗いたが、見えたのは田園風景だけ。
母親は少女の頭を撫で、ちゃんと座るように諭した。
「ほんとだよ!
あかいおうまさんがはしってたもん!」

母親は少女の頭をまた撫でた。
その手には慈しみと、優しさが込められている。
少女はそれきり黙って足をブラブラさせていたが、履いていたサンダルが飛んでいってしまい、慌てて立ち上がった。
母親が少女に声を掛けようとした時、電車が轟音とともに倒れた。


564 ( ^ω^)は死神のようです。 New! 2006/06/11(日) 08:21:59.58 ID:DEscNYa8O
空き地にけたたましく鳴り響く携帯電話。

本日二つ目の魂を送り、休憩中だった死神の内藤は、ため息を吐きながら電話に出た。
この人はいつも面倒事を持ってくるのだ。

(;゚ω゚)「電車が転覆!?」
内藤の電話相手は上司であるツン。

『……ええ、そうよ。
予測不能型突発事故。
きっと、迷う魂も沢山出て来るわ』

電話越しでもわかるツンの緊張した声。
無理はない。
内藤の記憶が確かならば、霊界で開発された『突発事故予想』が初めて当てられなかった事故になる。

『それで、あんたに現地に向かって欲しいの。
ドクオとショボンにも伝えてあるから』

了解して電話を切ろうとした時ツンが気を付けて、と言った。
その言葉が胸に引っ掛かりながらも、内藤は現地に向かう。

嫌な雲が出ていた。


565 ( ^ω^)は死神のようです。 New! 2006/06/11(日) 08:34:48.86 ID:DEscNYa8O
(´・ω・`)「……あ、内藤先輩」
('A`)「……よぉ、ブーン」

黒いマントを羽織った同僚のドクオとショボンの二人が揃っている。
それに、辺りに魂が無い。

これは、遅刻したかお。

(;^ω^)「遅れてごめんだお……もう、終わったのかお?」

――沈黙。

嫌な予感が内藤の頭を過った。
二人の暗い顔が、内藤の予感を確信に変える。

(;^ω^)「何があったお?」

('A`)「……悪いニュースと、もっと悪いニュースがある。
どっちが聞きたい?」


どうやら良いニュースは無いらしい。
内藤の本音を言えばどちらも聞きたくないが、そういう訳にもいかないだろう。

566 ( ^ω^)は死神のようです。 New! 2006/06/11(日) 08:43:25.84 ID:DEscNYa8O
('A`)「……事故で死んだ魂は、『消滅』した」

魂の消滅。
霊界の中でもっとも起こってはならない事。
なぜならば。

(´・ω・`)「消滅した魂は生まれ変わる事ができなくなるんですよね?」

――新米のショボンが教科書通りの事を述べた。
正解だ。
だがしかし、彼は事の重大さが判っていない。
やはり新米だという事か。

('A`)「‥…もう一つのニュースは」

言い掛けたドクオが口を止めた。
彼の耳は声を捉えたのだ。
人ならぬ、魂の泣き声を。
二人を促し、声の持ち主の元へ。
横転し、無残な姿を晒す電車の側に、その少女はいた。
身体はあちこち擦り切れ、片方のサンダルは無くなっている。

「あかいおうまさんにのったおとこのひとが。
……みんなを」

少女が泣きながら語った話の内容はこうだ。


567 ( ^ω^)は死神のようです。 New! 2006/06/11(日) 08:57:18.95 ID:DEscNYa8O
電車の転覆した直後、死んだ乗客の魂の大半は、何が起こったのかわからず茫然としていたらしい。
しばらくして状況が掴めてくると、魂は思い思いに動だした。

自分の死体に寄り添う者。
生者に必死で話し掛ける者。
ただ泣き叫ぶ者。


少女は微かな呼吸をする母親にすがりついていた。

「おかぁさん!おかぁさん!!」

――いやだいやだ、おきてよおかぁさん。
いつもみたいにやさしくあたまをなでて。

少女の願いが通じたか否か。
少女の母親の呼吸が止まり、やがて魂が上体を起こした。
母親の魂は泣いている少女を認め、優しく頭を撫でる。
少女が母親にしがみつき大声で泣き、母親も少女に聞こえないように嗚咽を洩らした。
母親はいち早く状況を把握したのだ。


570 ( ^ω^)は死神のようです。 New! 2006/06/11(日) 09:09:33.12 ID:DEscNYa8O
いきなり母子の乗っている車両に大音声が響き渡った。

その声には無限の怨恨が含まれ、限りない憎しみが伝わってくる。
絶望。
その場に居合わせた者は、自身の死。いや。
――完全なる『死』を予感した。

燃えるように赤く巨大な馬にまたがる男。
手には大きい槍。
散乱した車両に転がっては消える首。
少女を庇う母親。

そして。


571 ( ^ω^)は死神のようです。 New! 2006/06/11(日) 09:10:17.64 ID:DEscNYa8O
('A`)「……もう、いいよ。
ありがとうな、お嬢ちゃん」

少女の頭に優しく手を乗せるドクオ。
魂を霊界に送るのだ。

(´;ω;`)「……一体誰がこんなひどい事を」

涙を流し怒りに身体を震わせるショボン。

犯人に内藤は心当たりがあった。
赤い馬に乗り、大きい槍。
そして、地獄を脱走出来る程の強さといえば――二人。

その一人は、関 雲長。
美髯公と称され、武神としても崇められている。
だが、彼は闇雲に人を切ったりはしない。

だとすれば。


572 ( ^ω^)は死神のようです。 New! 2006/06/11(日) 09:11:10.12 ID:DEscNYa8O
(;'A`)「がっ!?」

ドクオが不意に倒れた。
それを見てショボンが慌てて駆け寄る。
ドクオの背中には矢が深々と刺さっていた。

矢の犠牲者はもう一人。

――少女は自分の胸から生えている矢を、ぼんやりと、哀しげに見つめ消えた。
これが、魂の消滅だ。

(;^ω^)「――呂布」

遥か遠方ながら圧倒的な存在感を以てたたずむその姿。

金糸、銀糸で編まれた鎧。
手に持つは槍に非ず、方天画戟。

またがる赤い巨馬は、名馬赤兎。

『人中に呂布あり、馬中に赤兎あり』
と、人は言う。


573 ( ^ω^)は死神のようです。 New! 2006/06/11(日) 09:11:57.11 ID:DEscNYa8O
(;^ω^)「ショボンっ!!
ドクオは大丈夫だから、構えるお!
奴が来る!!」

自らに向かう無数の霊体で出来た矢を大鎌で打ち落としながら内藤が叫ぶ。
死神である内藤達には霊体で出来た武器も現世の武器も通用しない。
だが、当たれば痛いし、再生するまでは動きも止まる。

内藤はショボンを無事かどうか横目で確認した。
なんとか矢を避けている。内藤が胸を撫で下ろした刹那。
彼は自分を覆う影に気付いた。


574 ( ^ω^)は死神のようです。 New! 2006/06/11(日) 09:12:54.94 ID:DEscNYa8O
(;゚ω゚)「しまっ……!」
方天画戟が横薙に振られ、破砕音と共に身体半ば電車にめりこむ内藤。

一瞬、呂布から目を逸らした事が内藤の明暗を分けた。
魔なる巨馬は標的までの距離を瞬時に詰めたのである。

(;´・ω・`)「内藤先輩っ!
――クソがっ!ぶち殺す!!」

ショボンの大鎌が狙うは赤兎の足。
巨馬が跳ね、ショボンとの距離を離す。

(`・ω・´)「逃がすかっ!!」

呂布が弓を構え、無防備に突っ込んでくるショボンに無数の矢。
為す術もなく彼は倒れた。

575 ( ^ω^)は死神のようです。 New! 2006/06/11(日) 09:13:58.90 ID:DEscNYa8O
('A`)「……死神、なめんな」

大鎌を盾に、再生を完了したドクオが呂布に近づく。
矢の嵐を捌き切り、今度こそ大鎌を――。
その大鎌が触れる前に、ドクオの身体が上半身と下半身に分かれ宙を舞った。
呂布に降り注ぐ臓物と血の雨。
天を仰ぎそれを旨そうに飲み下す魔人、呂布。

(;^ω^)「……こいつ、強すぎだお」

一体どうすればいいのか。
いくら再生してもこれでは埒が開かない。
敵は疲れを知らないのだ。
増援を、と思ったが携帯は破損していた。

戦闘中に壊れた携帯をいじくっていた愚か者の首が飛ぶ。


576 ( ^ω^)は死神のようです。 New! 2006/06/11(日) 09:16:34.93 ID:DEscNYa8O
「貂蝉……」

呂布の口から呟きが漏れた。
呟きには寂寥が滲み出ている

――なるほど、そういう事かお。

貂蝉。
絶世の美女にして呂布の伴侶。
貂蝉も呂布と共に地獄に堕ちたが、素行が良かった為にすぐに魂が浄化され、再び人間に生まれ変わった。
一方の呂布はたびたび問題を起こしていた為に、今まで浄化されず地獄に幽閉されていた。

――遂に、耐えきれなくなったわけかお。

だが、地獄からの脱走の原因が分かったところで、事態が好転する訳じゃない。

577 ( ^ω^)は死神のようです。 New! 2006/06/11(日) 09:20:57.79 ID:DEscNYa8O
(;´・ω・`)「行くぞぉ!」

刺さっていた矢を抜き、背後からショボンが呂布に迫る。

('A`)「……これはもうだめかもわからんね」

弱音を吐きつつドクオが呂布の前方に走る。

(#`ω´)「どう止めるお!呂布!!」

内藤は横からだ。

迫る三人の死神。
呂布の方天画戟が吠えた。
横の内藤を貫き、そのままドクオも貫く。
二人の死神の串刺しが出来上がった。
地面に方天画戟を突き刺すと、死神の昆虫標本の出来上がり。
背後のショボンは、赤兎が後ろ足で蹴り飛ばすと顔面が砕け、脳漿が散った。


578 ( ^ω^)は死神のようです。 New! 2006/06/11(日) 09:21:44.46 ID:DEscNYa8O
「……無様だな、内藤」

虫の如く蠢く内藤とドクオの頭上から呂布の言葉が降り注ぐ。
流暢な日本語だが、それよりも。

('A`)「知り合いかよ……」

ドクオは完全密着している同僚に畏怖の念を送った。
――こいつ、一体何歳なんだ?

呂布が赤兎から降り、内藤の手から大鎌を奪い取った。
戦慄が走る。

「これなら貴様等を屠る事が出来るだろう」

その通りだ。
死神を殺す時は、死神の武器で。


579 ( ^ω^)は死神のようです。 New! 2006/06/11(日) 09:26:21.11 ID:DEscNYa8O
「貴様は俺が斬首される時にやにや笑っていたな」

内藤は普段から笑顔なのだが、そんな事はいまや問題ではない。
死を司る神が死に至ろうとしているのだ。

大鎌が降り上げられる。

(;^ω^)「あー……。
ちょ、ちょっと待つお!
なんで女の子を生かしておいたお!?」

魂に『生かしておいた』は少し妙だが、所謂時間稼ぎだ。
大鎌が止まった。

「貴様等に俺の事を伝えて貰おうと思ってな。
死ね」

再び大鎌が……。

(;'A`)「あ、と。
あ、どうやって電車を転覆させたんだ?
何でこんな事を?」

止まった。


580 ( ^ω^)は死神のようです。 New! 2006/06/11(日) 09:31:34.68 ID:DEscNYa8O
「赤兎で前から突っ込み運転手を死なせた。
俺には容易い事だ。
理由なんて無い。
まだまだ死人は増えるぞ。内藤。」

憎しみで歪んだ顔。
狂気に満ちた目。
もはや呂布は一介の亡霊を遥かに凌駕している。

今ここでなんとかしなければならない事を、内藤は分かっていたが串刺しではどうしようもならない。

(;^ω^)「あのー、えーと。
あ、そうだお!」

「黙れ」

もはや時間稼ぎは効かない。
頼みのショボンは今だ再生が終わっていなかった。
頭部が破壊されると時間が掛かるのだ。

今度こそ大鎌が内藤とドクオに振り下ろされた。

(;>ω<)「……っ!」

(;^ω^)「……ん?」


581 ( ^ω^)は死神のようです。 New! 2006/06/11(日) 09:36:56.09 ID:DEscNYa8O
大鎌は大鎌に止められていた。

ξ゚听)ξ「ヒーローは遅れて現れる!
……なんてね」

死神課長、ツンは片手で呂布の大鎌を弾き飛ばした。
なんたる腕力か。
呂布も愕然としている。

「……貂、蝉?」

呂布が愕然としたのは別の理由だった。
愛しい人。
何百年も想い続けた人。

ξ゚听)ξ「……呂布様」
ツンも大鎌を捨てた。
ゆっくりと呂布に近付き、鎧に頭を預ける。

「もう、離さない。
俺達はずっと一緒だ」

そう言った呂布の首が落ちた。
背後には大鎌を携えた死神、ショボンが立っている。
呂布の魂は消滅。

――全てが終わった。


583 ( ^ω^)は死神のようです。 New! 2006/06/11(日) 09:40:36.28 ID:DEscNYa8O
ξ゚听)ξ「私が来ればあっけないものね」

美しい巻髪を掻き上げつつ、ツンは情けない部下達を睥睨した。
三人は揃って頭を下げている。
言い辛そうにショボンが口を開いた。

(´・ω・`)「……あれでよかったんですか?」

ツンはショボンに目で合図をしたのだ。
呂布の動きが止まった時に切れ、と。
愛しい人ではなかったのか。

ξ゚听)ξ「私達が付き合ってたのは何百年も前よ。
しつこい男は嫌い。」


584 ( ^ω^)は死神のようです。 New! 2006/06/11(日) 09:45:31.17 ID:DEscNYa8O
貂蝉、いや、ツンはあっさりと言い放った。
女は恐ろしい。

('A`)「……ま、いいや。
俺はもう行くぜ。
仕事が待ってる」

ショボンも、僕も、と言いドクオと供に去り、後には内藤とツンが残された。

内藤が何かを言い掛けたが、結局何も言わず、消えた。

ξ;;)ξ「……さようなら、呂布様」

死神課長は、電車の転覆事故の処理の喧騒の中、いつまでも嗚咽を洩らす。

夕日が残酷に美しく事故の現場を照らしていた。

終わり

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