297 ( ^ω^)ブーンはDV夫のようです。 New! 2006/06/02(金) 20:50:22.78 ID:4yxeSCnOO
「キャーーーーっ!!!!」

 VIPマンションの一室。ここ数日、隣室からは女性の悲痛な叫び声が毎晩聞こえてくる。
 耳が痛い。正直うんざりだ。奇声?頭がおかしい女性でも住んでいるのだろうか。

('A`)「はぁ…もっと静かで小ぢんまりしたアパートとかが良かったな…」

 喪男でニートである毒男は、親から買い与えられたマンションの一室で、この春から一人暮らしをしていた。
 彼の父は釜aロスの社長であり、まったく働かない彼を見兼ね「せめて自炊くらいは出来るように」と、実家から離れたこのマンションの部屋を息子に用意したのである。

298 ( ^ω^)ブーンはDV夫のようです。 New! 2006/06/02(金) 20:55:45.02 ID:4yxeSCnOO
('A`)「まったく自炊なんか…メイド雇えばいいんだよ…」

 毒男はブツブツと独り言をつぶやきながら、隣室から聞こえる奇声を避ける為にヘッドフォンをする。これは彼にとって既に日課になってしまっていた。
 しかし、今日はいつもとか違う事が。

('A`)「あれ、冷蔵庫空っぽだ」

 足下にヘッドフォンの延長コードをずるずるとひきずりながら辿り着いた冷蔵庫の前で、彼は呟き肩を落とした。

('A`)「マンドクセーけど…またコンビニで買い溜めてくるか…」

 余談だが、彼は出来合いの弁当を買い溜めており、自炊などまったくしていなかった。

301 ( ^ω^)ブーンはDV夫のようです。 New! 2006/06/02(金) 21:02:04.53 ID:4yxeSCnOO
 ヘッドフォンを外すとたちまち女の奇声が耳に入った。
 住民同士のふれあいが無く殺伐としたVIPマンションでは、隣人の顔を見た事が無いのは当然だ。ましてや引き籠もりがちな毒男である。だから彼は、奇声を発する顔も知らない女を心の中でひたすらけなした。

('A`)「はぁーあ…死ねばいいのに」

 財布をポケットに突っ込みサンダルを履くと、玄関のドアをガチャリと開ける。
 外から鍵を閉めている間も、絶えず女性の叫び声が聞こえた。

 その時だった。

303 ( ^ω^)ブーンはDV夫のようです。 New! 2006/06/02(金) 21:08:20.26 ID:4yxeSCnOO
ξ;><)ξ「きゃああああ!!!」

「ぎゃーぎゃーうるせぇ!!お前なんか死ねお!!」

 女の叫び声と男の怒号がしたかと思うと、隣室の玄関が開け放たれ、突き飛ばされたかのような体制で女性が出て来、ドスンと尻餅をついた。
 そして無情にも、ドアは激しい音を立てて閉められる。

('A`)「……………」

 その何か心が痛くなるドラマのような一部始終を見てしまった毒男は、鍵を鍵穴に突っ込んだままポカーン(゚д゚)としていた。

304 ( ^ω^)ブーンはDV夫のようです。 New! 2006/06/02(金) 21:12:51.27 ID:4yxeSCnOO
('A`)「あ、あの…」

ξ゚听)ξ「ーっ!…あ、あら…こんばんは…」

 一言ずつ言葉を発すると、お互いに黙り込む。
 気まずい、気まず過ぎる。

 玄関に鍵をかけると、毒男は足早にコンビニへ向かった。
 その心臓はバクバクと激しく脈打ち、顔は熱くて手にはじっとり汗が浮かんでいた。

 正直、怖かったのだ。

306 ( ^ω^)ブーンはDV夫のようです。 New! 2006/06/02(金) 21:20:09.59 ID:4yxeSCnOO
('A`)「…あれ、怒鳴ってたのってあの人の旦那かな…」

 コンビニでサンドウィッチやおにぎりをかごに放り込みながら、毒男はまたブツブツと呟き始めた。



 ハッと気がつくと、既にマンションのエレベーターのボタンを押していた。ぼーっとしているうちに買い物を終えて帰路についていたようだ。
 あの女性…さっき顔を見てしまった、それに人に暴力を振われているという事情を知ってしまった手前、もうただの頭のおかしい女とは思い込めない。
 今まで自分は男に殴られている女の叫び声を聞いていたのかと思うと、急に背筋がゾッとした。

307 ( ^ω^)ブーンはDV夫のようです New! 2006/06/02(金) 21:25:14.28 ID:4yxeSCnOO
 エレベーターに乗り込み、そんな事を少し考えているとすぐに彼の部屋がある六階に着いた。

 エレベーターが開き、足を踏み出す。と、

「きゃああああああああ!!!!!!」

('A`)「!?」

 さっきの女性の叫び声。しかも今度は何故かさっきとは段違いの声量だ…。
 飛び出そうな心臓を飲み込み、そしておそるおそる角を曲がると、彼の目にとんでもない光景が飛び込んだ。

312 ( ^ω^)ブーンはDV夫のようです New! 2006/06/02(金) 21:32:01.33 ID:4yxeSCnOO
ξ゚听)ξ「やめて!!あなったっ!お願っい!!やめてっえっえええ!!!!」

 なんと玄関の前の廊下で、男が女性の頭を両手で掴み、腹に膝を何度も打ち込んでいるではないか。
 毒男は全身から冷や汗が吹き出すのを感じ、角に身を隠した。それにしてもこれだけ女性が大声を出しているというのに、他の住民は誰一人として助けに来ない…。

(;゚A゚)「どどどどうしようどうしようどうしよいどさたさあたたたた」

震える膝と震える手指を必死で堪え、彼は警察に電話をかけた。

316 ( ^ω^)ブーンはDV夫のようです New! 2006/06/02(金) 21:39:28.86 ID:4yxeSCnOO
( ^ω^)「あははははは死ねお!!お前みたいな糞女死ねお!!肉便器がああああっひゃひゃひゃひゃ!!!」

ξ゚听)ξ「ひぎい!ひあっ!!げっ!うぶっ!げほっ!!」

 警察に電話が通じる、しかし毒男は上手く喋る事が出来なかった。

(;;゚A`)「もももsもs…けっさつでか…オトッ…人なぐっままままンソ…」

『もしもし!?どうされました!?落ち着いて下さい!』

(;;゚A`)「びっ!!!!」

『び!?』

(;;゚A`)「びびびっぷ…マンソ、ん」

『VIPマンションですね!?すぐ行きますのでそこを離れないでください』

 毒男は気付いたら目から涙がこぼれていた。

317 ( ^ω^)ブーンはDV夫のようです New! 2006/06/02(金) 21:43:54.92 ID:4yxeSCnOO
(;;'A゚)「ひっ…ひいぃい…」

 既に地面にへたりこんでしまっている状態で、彼はぼろぼろと涙を零した。

「いやあああああああああ」

 グダグダな彼に追い討ちをかけるかのように、女性が甲高い叫びをあげた。
 毒男は這って角から顔を出し覗きこむ。

( ^ω^)「死 ね !!」

 男が女性を手すりから突き落とそうとしている…。

318 ( ^ω^)ブーンはDV夫のようです New! 2006/06/02(金) 21:49:22.66 ID:4yxeSCnOO
 女性は必死に手すりを掴み落ちまいと抵抗をするが、男が女性の体を持ち上げぐいぐいと押しやっている。

( ^ω^)「ひゃはははははは」

 このままじゃ彼女が本当に殺される。
 遠くからパトカーのサイレンが聞こえてくるが、この辺りは入り組んだ細道なので到着にはもう少し時間がかかってしまう。

ξ゚听)ξ「うっ…ああああああ!!!!」

 女性の手が滑っ…


(;;゚A゚)「アッー!?」

319 ( ^ω^)ブーンはDV夫のようです New! 2006/06/02(金) 21:54:25.70 ID:4yxeSCnOO
 毒男は駆け出した。

 突然立ち上がったので目眩がしたが、そんなのは気にしていられなかった。

 男におもいきりタックルをくらわすと、身を乗り出して女性の足をつかまえようと試みる。

 こんなに心臓がバクバクして汗まみれで頭が真っ白な事は、今までもこれからももう体験する事は無いだろう。

 全てがスローモーションに見えた。

 しかし、

手に女性の足は掴めていなかった

322 ( ^ω^)ブーンはDV夫のようです New! 2006/06/02(金) 21:59:53.95 ID:4yxeSCnOO
(;;゚A゚)「うわああああああああああああああ!!!!!!!!」

 毒男はとっさに目を瞑る。…だが数秒たっても何も変わった音などはしない。

 彼はおそるおそる目を開けた。






(´・ω・`)「やぁ。ようこそバーボンハウスへ」

ξ゚听)ξ「…………」


 『あれ?なんだあれは。中学の同級生のショボじゃないか。なんでこんなところに。下の階の住民?あれ?ショボが彼女をだっこしてる。キャッチしたのか?あれ?あれれ?』

 毒男は気を失った。

325 ( ^ω^)ブーンはDV夫のようです New! 2006/06/02(金) 22:07:46.89 ID:4yxeSCnOO
 …………それから数週間。


 あの男は彼女の旦那で、どうやら薬物をやっていたらしい。薬とか暴行とか殺人未遂とか、いろんな刑が課せられるそうだ。
 あれから目が覚めた俺は警察に事情聴取されたり、まぁ通報したことと男にタックルをくらわせて気絶させたのはちょっとお手柄だったらしい。

 だが俺はショックでたまらない。


 今、隣室にはあの女性とショボが同棲している。

 そして俺は毎晩ギシアン声に鬱になりながら、一人でヘッドフォンをしてコンビニ弁当を食べているのだ。



fin
inserted by FC2 system