293 プロトタイプケンプファー New! 2006/06/01(木) 01:47:02.74 ID:tpPZ3JUS0
宇宙世紀0079年、十二月。
後に一年戦争と呼ばれる戦いは激化の一途を辿り、今も宇宙のあちこちでは様々な戦いが繰り広げられている。
最終防衛ラインの一つであるソロモンが陥落し、連邦軍にとってあとはジオン最大の宇宙要塞であるア・バオア・クーを残すのみだ。
連邦お得意の物量による戦略、また「白い悪魔」と称されるガンダムを有した第13独立部隊――通称ホワイトベース隊も輝かしい戦果を挙げ、はっきり言ってジオンの状況は芳しくない。
だが、それでもこの戦いに勝利するため、ア・バオア・クーでは日夜モビルスーツの研究開発が行われている。
俺がテストパイロットを務める、機体番号YMS-18、プロトタイプケンプファーもそんな中で開発された一つだった。

(;'A`)「ぐうおおおお…!」
( ^ω^)「加速度落ちてるお! 立て直すんだお!」

宇宙空間では目立つであろうライトグリーンの機体色。全体的に角ばったデザイン。
スラスターから巨大な炎を放ち、「闘士」を意味する名を冠したモビルスーツは漆黒の宇宙を駆け抜ける。
重武装且つ、大推力――それが、このケンプファーの設計思想だ。個人的には、少々子供じみた発想だとは思うがな。

だが、あくまでも機体としてなら、このケンプファーはプロトタイプながら実に優秀なものだと言える。
全身にくまなく配置された大出力スラスターは優にザクのほぼ四倍という数値を叩き出し、同じく全身に配置された姿勢制御用のバーニアのおかげで機動性にも問題は無い。
推進剤の消費が激しく、あまり長時間の運用ができないという欠点もあるが、このモビルスーツは元々強襲用に造られたものだ。
それならば、この大推力を活かした一撃離脱戦法……やってやれないことはないと思っている。

問題は、それ故にこのケンプファーは扱いが特に難しく、言ってみればとんでもないじゃじゃ馬なのである。
今回は何の障害も無いだだっ広い空域にて運用試験を行っているが、これが小惑星帯になど入ったものなら、命がいくつあっても足りないほどだ。
ゲルググやドムとか、俺もそれなりに高出力のモビルスーツには乗ってきたつもりだった。
だが、このケンプファーはそんな俺の高慢をぶち壊すような反応で、最初の頃は何度昼飯を戻したかわからない。

( ^ω^)「……よし、今日はこれくらいにしときますお」
(;'A`)「はああ…やっと終わりか……」

ヘルメットに待ち望んでいた声が流れてくる。
俺は炎を吐き続けていたスラスターを落ち着かせると、機体の進路をア・バオア・クーへと向けた。

294 プロトタイプケンプファー New! 2006/06/01(木) 01:47:23.92 ID:tpPZ3JUS0
('A`)「うーんん…」

コクピットのハッチを開け、シートに座ったままで一度だけぐぐ、と胸を張るように体を動かす。
降りるためのウインチを手に取り、床に降り立ったところでヘルメットを外した。
首筋や額が作られた外気に触れ、頭を左右に動かしてみると首からゴキゴキという音が鳴り響く。

( ^ω^)「中尉! ドクソン中尉!」

向こうから何かのファイルを持ってばたばたと走ってくる人影。このケンプファーの開発者の一人である、ナイトウ技術仕官殿だ。
仕官殿は少々小太りな体を大振りに、わき目も振らず近付いてくる。
一仕事終えてゆっくりしたい俺としては、あまり歓迎できない光景だ。

('A`)「お疲れ様です…いいデータ、取れましたか」
( ^ω^)「お疲れ様ですお! 途中でちょっと出力が落ちたけど…とりあえずオーケーですお」

仕官殿が目の前で持っているファイルをペラペラとめくる。
相変わらず、ひどいジオン訛りだ。故郷を思い出すという奴もいるが、毎回聞かされるのはあまり心地の良いものではない。
だが、テストパイロットという立場上、担当の技術士官には従わなきゃならないのが普通だ。
今だって、普段使わないようなへつらう言い方でご機嫌を取っている。
モビルスーツに乗ること自体、それほど嫌いではないのだが。

( ^ω^)「出力が落ちたのは、やっぱり脚部ですお?」

俺はその質問に、こくりと頷く。
ケンプファーだが、どうも脚部のスラスターだけ調整が上手くいっていないようだ。
その他は特に問題なく稼動するのだが、ある程度の速度に達すると脚部だけ出力が低減する。
推力はケンプファーの命とも言えるので、この問題を解決しないことには正式運用が通るはずもない。
戦争が局面を迎えている今でも、ケンプファーがプロトタイプと呼ばれる理由の一つであった。

295 プロトタイプケンプファー New! 2006/06/01(木) 01:47:46.36 ID:tpPZ3JUS0
仕官殿の話が終わって、俺は早々にドックを後にする。
自慢じゃないが、パイロットとしての俺の腕には何の問題も無いので、あとは技術部の仕事というわけである。
話の途中に聞かされたが、なんでももう一つの問題である武装面に関しても、未だ検討中のようだ。
今はとりあえずマシンガンとビームサーベルが二つ装備されているが、実装には様々な追加武器が決定されている。
しかも、ナイトウ技術仕官殿がやけに張り切っていたが、ゆくゆくはビーム兵器をも取り付けるつもりらしい。
確か、「これからはビーム兵器の時代ですよ!」なんて言っていたはずだ。
俺もゲルググで何度か使ったことがあるが、あれはやけにエネルギーを消費した印象がある。
強襲用であるはずのケンプファーに果たして必要なのか……まあ、それは俺が決めることじゃない。なるようになるはずだ。

そんなことを考えていると、通路で見知った顔の人物に出会った。

从゚∀从「よう、ドクソン。お互い生き残ったみたいだな」
('A`)「ハインリッヒ……」

皮肉を言って現れたのは、ハインリッヒ=タカオカ。階級は俺と同じく中尉で、今も女だてらに現役で戦場を飛び回っている。
男勝りな奴で、確かモビルスーツはリック=ドムUに乗っていたはずだ。未だ試験的運用の割合が高い少数機だが、それに見合う戦果も挙げている。
二つ名を持っているわけではないが、いい腕のパイロットだ。

('A`)「あのな、何度も言うが、テストパイロットなんだぞ俺は」
从゚∀从「ひゃっひゃっひゃっ、あんな機体に乗り続けるなんて、お前もいい趣味してるよ」

女に似合わない、下品な声で笑う。
そういえば、俺がケンプファーに乗る前にタカオカも一度乗ったことがあったはずだ。
今はケンプファーには俺が乗っているということはそういうことだが……変に女性らしさが出たということか。

随分と慣れたもので、今じゃア・バオア・クーでケンプファーをまともに扱えるのは俺だけだ。
操作のことを言っているんじゃない、乗っている最中に嘔吐するモビルスーツなんて、誰も乗りたがらないってことだ。
だが、一旦あの速度に馴染んでしまうと、他のモビルスーツでは少々物足りなくなったりする。
テストが終わればまたゲルググに乗るが、また慣れるまでには時間がかかるのだろうな。

296 プロトタイプケンプファー New! 2006/06/01(木) 01:48:05.98 ID:tpPZ3JUS0
从゚∀从「ところでドクソン、あの話を聞いたか」
('A`)「ん…? 何の話だ」

タカオカが、玩具を見つけた子供のように笑う。
彼女がこうやって笑うとき、それは大抵悪いニュースに決まっている。
気分が悪くなるのは嫌だったが、つい条件反射で聞き返してしまった。

从゚∀从「連邦のな…生きた救命ポッドが流れ着いたらしいぞ」

それを言うタカオカの表情は、実に面白そうにしていた。だが、俺がその話を初耳だったのも事実だ。
救命ポッド自体が流れ着くのは、それほど珍しいことではない。問題は、それが“ジオン”ではなく“連邦”のものであることだ。
条約上、そのような者はこちら側の捕虜として扱われる。
そうして、戦争が終結するまでは虜囚として過ごすのだろうが、捕虜とて人間なのだ。呼吸もするし、飯も食う。
わざわざ敵側の人間に、こちらは飯と空気を提供しなければならない。人道的だが、厄介な条約だ。

なので、逼迫した戦時中では、しばしば“そういうこと”が起きる。
正直言ってその方が我慢ならないことではあるが、起きてしまうのはどうすることもできない。
俺はタカオカのようにはしゃぐことはできないが、事実を知っている人間としては、それを真摯な態度で受け止めてきたつもりだ。

('A`)「…その救命ポッドは、いつ流れ着いたんだ」
从゚∀从「確か、昨日か一昨日だったな」

それならば、その連邦の兵士は飯を与えられて、ひとまず身体の方は潤っていることだろう。
重要なのは、むしろ精神――志の方だが。

('A`)「じゃあ、普通なら…」
从゚∀从「ああ……そろそろだ」

彼女がそう言うや否や、要塞内にけたたましい警報音が鳴り響いた。

298 プロトタイプケンプファー New! 2006/06/01(木) 01:48:23.27 ID:tpPZ3JUS0
俺と彼女は互いに並ぶようにして、元来た道を走っていく。
途中でばたばたと急ぐ連中を見たが、肌で感じるふいんきはそう焦ったものではない。
慣れたものなのだ。戦争のせいで、皆おかしくなってしまっている。

……俺も含めて、な。

急ぎ足でドックに着くと、ナイトウ技術仕官殿がおろおろと頭を抱えていた。
そうか、この人はここに来てまだ間もないのだ。こういうケースに出くわしたのは初めてなんだろう。技術屋だものな。

('A`)「どっちだ!」
(;^ω^)「あっ……う、奪われたのはリ、リック=ドムUですお! ドクソン中尉、すぐに発進を!」
从゚∀从「ちっ、当たりを引いたか…」

横でタカオカが悔しそうな表情を作る。
それは、自機を失ったためか。それとも、獲物を失ったためか。

('A`)「弾薬と燃料の補給は済んでいるな!」
(;^ω^)「は、はい! いつでも発進できますお!」

ヘルメットを被り、垂れ下がったウインチに足をかけつつ、俺は下で慌てふためく仕官殿に声をかける。
その横に立つタカオカの不敵な表情と相まって、なかなか滑稽に見える光景だ。

从゚∀从「ドクソン! 逃がすんじゃないぞ!」
('A`)「いいのか! 壊してしまうかもしれんぞ!」
从゚∀从「私がいいと言っているんだ! 思いっきりやれ!」

それだけ聞くと、俺はコクピットのハッチを閉じる。
タカオカの声は、どこか悔しそうにするものだった。恐らく、自分ができないことを俺にやらせて発奮させようという企みか。
戦いを楽しむなんて考えは持ちたくないものだが、とりあえず今は任務を全うせねばなるまい。

299 プロトタイプケンプファー >>297 New! 2006/06/01(木) 01:49:00.83 ID:tpPZ3JUS0
('A`)「タカオカ…当たりを引いたというのは間違いだな……」

俺は動作チェックをしつつ、誰に聞かれるでもなくそう呟く。
だが、俺の言うことは事実だ。
逃げた捕虜は恐らく、面識が高い分でリック=ドムUを選んだんだろうが、それでも生き延びるためならこのケンプファーを選ぶべきだった。

('A`)「追いつけるモビルスーツはいないよ…このケンプファーにな」

俺の指がケンプファーに息吹を与え、機体の足をカタパルトへと向けさせる。
追いつけるモビルスーツがいないということは、こちらは確実に追いつけるということだ。
カタパルトに乗せた足がロックされるので少し機体が揺れた後、管制室からの秒読みが始まった。

('A`)「ケンプファー、出るぞ!」

電磁カタパルトが炸裂し、俺の体に圧力がかかる。
この心地悪さにも慣れたものだ。いや、ケンプファーのトップスピードで受ける重力は、これの比では無い。

目の前が、真っ暗な空間で敷き詰められていく。この瞬間、頭がクリアーになっていくような気がして、好きでもある。
これが、宇宙に慣れるということか。俺の故郷はサイド3だが、コロニーに居たとていつも宇宙に触れているわけではない。
実際、ジオンの兵士になるまで宇宙には出なかったのだ。初めて出た時、ひどく怯えたのを憶えている。

('A`)「あれか…」

レーダーに味方の信号を示す点が映る。現在は周りで戦闘が起きていないのが幸いだ。
俺はその識別を敵を示すものに変えると、ペダルを思い切り踏み込んだ。

(;'A`)「ぐうっ!」

凄まじい加速度に、俺は思わず呻き声を漏らす。何度やっても、慣れないものだ。
腹部を思い切り押さえつけられているような感じがして、食事を済ませていないことが幸運に思える。

300 プロトタイプケンプファー >>297 それはどうにもできない New! 2006/06/01(木) 01:49:33.41 ID:tpPZ3JUS0
('A`)「止まれっ!」

俺は威嚇の意味で、マシンガンの引き金をドムに向かって絞る。
相手もその意思を悟ったのか、避けようとはせず、ゆっくりとした旋回で機体の向きをこちらに向けた。
正しくない選択だ。捕虜が逃げようとするのを止めるなんて。
余程の自信家か、あるいはこのケンプファーを討ち取れると判断したのか。もし、それが後者なら、それこそ誤った判断というものだ。

ドムはバズーカを構え、ためらいもなくこちらに撃ち放つ。距離を詰める途中だったので、こちらとしては砲弾と向かい合う形になる。
だが、それでもまだ距離があり過ぎた。俺は加速を緩め、同時に機体側面のバーニアを噴かす。
余裕を持ってやったつもりだったが、結構な重力が体にかかった。放たれた砲弾は俺がさっきまでいた地点を通り過ぎ、どこへでもなく消えていく。

('A`)「今度はこっちの番だな!」

俺は相手との距離を詰めつつ、今度は直撃させるつもりでマシンガンを撃ち放つ。
ドムは距離が近付いたためにもう意味はないとして、バズーカを乱暴に投げ捨てる。丁度それが盾となり、マシンガンの弾丸はバズーカに残っていた砲弾を炸裂させた。

(;'A`)「っ! 捕虜がビームを使うのか!」

ドムの左胸から、拡散されたビームが網のように放たれる。俺はそれを回避するため、少し大きめに回避運動をとった。
惜しむらくは、そのせいでまた少し距離が離れたことだ。こちらの射撃武装がマシンガンのみのため、使うにはある程度距離を詰めなければならない。
確か正式な兵装には改良型のバズーカもあったはずだから、それさえあればもっと楽に戦えるのだろうが。

次にドムはこちらに向け、俺の方と同じくマシンガンを乱射する。
よくもまあ、次から次へと武器が出てくるものだ。連邦の兵士が新型の扱い方を知っているということは、こちらの情報が漏れているんだろうか。
現在の情勢が良くないと、ジオンから連邦へ寝返る者もいるようだが……それ相応の手土産が必要というわけか。

('A`)「おっと…考えていたら負けるな」

俺は銃弾を回避しつつ再びマシンガンの銃口をドムへと向ける。
さっきは外したが、今度は少し相手の動きに合わせるように狙いをつけた。

301 プロトタイプケンプファー New! 2006/06/01(木) 01:50:01.15 ID:tpPZ3JUS0
果たして、銃弾はドム――ではなく、ドムの持っていたマシンガンに直撃する。
すぐさま熱を持ったマシンガンをドムは捨てるが、これで都合武器を二つ失ったことになる。
未だ厄介なビーム兵装は残っているが、重要なのは攻めているのがこちら側だということだ。
流れを変えるには、多少思い切った行動で示さなければならない。精神的に不利であろうあちらにとって、それは難しいことと言える。
気を抜くなんて迂闊な真似はしないが、これならそれほど時間はかからな――

(;'A`)「…っ!?」

その時、突如として計器に明らかな異変が起こった。
スラスターの出力を表すゲージ。そのうち、脚部のゲージが著しい減少を始めたのだ。

(;'A`)「こんな時にか! くそっ!」

脚部に込められた熱量が急速に衰えていく。
メインであるところの背部スラスターがやられるよりはマシだが、それでも危機的状況であるのには変わりない。
脚部スラスターが使えない今、もはや戦力は半減したと言っていいだろう。傍目には、突然動きが鈍くなったように見えるはずだ。
当然ながら相手がそれを見逃してくれるはずもなく、ドムは残された武器の一つであるシュツルムファウストを構える。
それを確認すると、俺は炸裂弾が発射されると同時に思い切りペダルを踏み込んだ。

(;'A`)「ぐっ!」

機体を大きく揺らす衝撃。どうやら炸裂弾が右脚に着弾したらしい。
どうせ使えなくなっていたものだが、やはり影響で全体の出力も落ちているようだ。プロトタイプはどこまでいってもプロトタイプということか。

俺は残されたビームサーベルを取り出し、そのまま機体の空いている左手に構えさせる。
相手にはまだシュツルムファウスト、それにあの拡散ビームが残っている。
だが、シュツルムファウストは次弾装着に時間がかかるため、もはやほぼ使えないものと考えていいだろう。
こちらのマシンガンも、残弾があまり多くは無い。上手く使えれば良いが、あんまり出し惜しみしたら相手にバレてしまうかもしれない。

状況は五分――いや、どちらかといえば五体満足なあちらの方が有利だと言えるだろう。

302 プロトタイプケンプファー New! 2006/06/01(木) 01:50:18.23 ID:tpPZ3JUS0
(;'A`)「なんとか…相手に一瞬で近づけるような加速を得られれば……」

共に遠距離兵装が無い今、鍵になるのはやはりスピードだ。それならば、大推力がモットーのケンプファーのが有利だと言える。
だが、それは全身のスラスターが使えればの話だ。
今の推力でもそれなりの速度は出せるだろうが、中途半端な加速では確実にあのビームに防がれる。
何か、元々の推力と同等の、いやできるならばそれ以上の加速が必要だ。

(;'A`)(…!)

頭を働かせる中、俺はある一つの方法を思いつく。
だが、それはあまりにも突飛な方法で、成功するかは考え付いた俺にも全く自信が無い。
しかも、もし失敗すれば確実に悪い結果が待っている代物だ。たかが逃げた捕虜の追撃に、あまりにリスクが大き過ぎる。

……だが、成功すれば一気に事は終わるはずだ。

俺はごくりと唾を飲み込んだ後、少しだけバーニアで機体の相手との位置を調整する。
相手がそれほど警戒しなかったのが幸いだ。そうして、機体は丁度ドムを真正面に捉えた位置に移動する。

俺はサーベルの出力を全開にし、持った手を機体の腹に近づける。見た目には、腹からサーベルが生えているような印象だろう。
そうして、俺はいざゆっくりとマシンガンの銃口を向ける。

ドムではなく――機体の残った左脚へと。

(;'A`)「運否天賦ッ!!」

マシンガンから放たれた銃弾は根こそぎ左脚へと直撃し、込められた熱量は一気に膨れ上がる。
当然それに装甲が耐えられるはずもなく、間もなくして機体の左脚は真っ赤になって爆発した。

303 プロトタイプケンプファー New! 2006/06/01(木) 01:50:33.60 ID:tpPZ3JUS0
爆発と同時に、俺は蹴り壊すほどの勢いでペダルを踏み込む。背部のスラスターが熱を吐き、機体は愚直なまでに真っ直ぐドムへと向かう。
スラスターと爆発の勢いを一緒くたにして生み出す大規模な加速――それが、俺の編み出した考えだった。

(;'A`)「うおおおおおおっ!!!!」

今までに一度も味わったことのない圧力。気を抜けば一瞬でブラックアウトしてしまいそうな、凄まじい加速だった。
マシンガンは撃った瞬間に投げ捨て、両手で突き出すようにしてサーベルを構える機体は、さながら特攻する兵士のようだ。
相手のドムも気付いてビームを放つが、この驚異的な加速を得た時点で、それは無為な行為と言っていい。
無数のビームはどれも機体の脇や横を掠めていき、まさに一瞬にしてドムの体が目前に迫る。

そうして、サーベルは機体の胸元――コクピットを貫いた。

(;'A`)「はあ…はあ…」

コクピットにサーベルが突き立てられたのと同時に、放出されていたビームの勢いも収まる。
ドムはがっくりとうなだれるように手足を降ろし、そのまま串刺しになった形で活動を止めた。

俺は乱れる呼吸を整え、とりあえず全開にしていたサーベルの出力を無くす。背中に突き抜けたビームが消え、ドムは離れるようにして後方へと浮遊していく。
そのままだとふよふよとどこかへ行ってしまうため、機体の両手でドムの両肩をしっかりと掴ませる。
そうして、俺はア・バオア・クーへと向けて通信を行った。

(;'A`)「あー、聞こえるか…ドクソン中尉だ。相手は仕留めたが、こちらも自由に動けない。回収艇を送ってくれ」

「ドクソン中尉! わかりましたお! 回収艇が来るまでその場で待機してくださいお!」

声ですぐに相手がナイトウ技術仕官殿だとわかった。信号も出し続けているため、待っていれば程無くして回収艇がやってくるだろう。
全くもってとんだ事になってしまったが、きっと表向きは実戦テストとして扱うのだろうな。戦争の暗部、というやつだ。
ドムもこれなら修理は可能だろうし、タカオカにも借りができるというものだ。

……しかし、久々の実戦で、思ったよりも疲れているようだ。回収艇が来るまでの間、少し眠ることにしよう――

304 プロトタイプケンプファー New! 2006/06/01(木) 01:51:03.42 ID:tpPZ3JUS0
                         ―報告書―

                                 作成者:ホライゾン=ナイトウ


・十二月、ケンプファーの運用テストは概ね良好。パイロットのドクソン=ストルフ中尉もよくやってくれている。
 脚部スラスターに依然として問題が見られるが、調整を繰り返せば解決できるものと判断する。


・初の実戦テストを慣行。ケンプファーはマシントラブルによって両脚の制御を失うも、結果は成功。
 また、主武装はビーム兵器を予定していたが、パイロットの意見によってショットガンにすることを検討。


・ケンプファーの運用テスト、ほぼ終了。脚部スラスターの調整、及び武装面の問題も解決する。
 主武装はパイロットの意見を尊重し、やはりショットガンに落ち着くこととなった。
 その他、チェーンマインやジャイアントバズーカなどの追加武装も決定。強襲用モビルスーツとして完成に近付きつつある。


・十二月末、ケンプファー完成。機体番号は「MS-18E」となる。
 

・サイド6にて、連邦が秘密裏に新型ガンダムを開発しているという情報を入手。
 ケンプファーはそれを破壊する任務に運用される可能性が高い。
 以前に北極にてその撃墜任務に当たっていたサイクロプス隊が扱うようである。良い結果が来ることを待つ。




――その後、大戦は終了し、ケンプファーにまつわる報告は一切存在していない。

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