29 狂気の山 New! 2006/06/01(木) 21:53:37.86 ID:lFtL33/QO
富士山麓に広がる樹海。
その奥に存在する寂れた神社があった。
うっそうと繁った原生林は日の光すら通らない。
樹海の奥は方向感覚が狂い、生きて森を出られる事は不可能だという。
だが、その神社の住職、内藤は一人境内にて瞑想をしていた。

( ^ω^)「よっこい庄一っと」

懐かしい掛け声と共に彼はおもむろに立ち上がり、本堂の仏壇の裏に隠されていた大きな鉄の扉の前に立った。
それは歪な鉄辺を組み合わせただけの武骨な扉。
内藤がノブを回すと音も無く扉が開いた。
かなり頻繁に油を差しているようだ。

扉の中はほのかな蒼い光を放つ洞窟。
重厚な扉が開け放たれると、驚く程冷たい冷気が内部からあふれ出てきた。
壁にはうっすらと霜。
そこは天然自然の冷凍庫なのだった。

( ^ω^)「御子様は今日も無事かお……」


30 狂気の山 sage New! 2006/06/01(木) 21:55:49.45 ID:lFtL33/QO
内藤は扉の内部に体を滑り込ませ、慎重に洞窟の奥へと進んでゆく。
冷気に体を震わせている様子も、息が白くなっている様子もない。

( ;ω;)「お、お……」
川 ー -ー)

光源も無いのに光り輝く裸体。
きめ細かい絹のような肌。
涼しげに瞑った目蓋。
微笑みを浮かべる口元。

毎日御子の様子を見にくる内藤だが、その美しさに毎度涙を流していた。

( ;ω;)「御子様、どうかこの国をお守り下さい……」


31 狂気の山 sage New! 2006/06/01(木) 21:57:38.96 ID:lFtL33/QO
内藤は御子の前に膝を付き、両手を組み合わせた。
住職はクリスチャンでもあったのだ。
胸元のシルバークロスがその証明でもある。
内藤は思うのだ。

神に縋る気持ちがあれば、形式などにこだわる必要はないではないか。
神もしくは仏だとて、他宗教を禁じている訳ではない。
他宗教を禁じているのは、金に目が眩んでいる信者なのだ。
私欲を捨て祈れば、神と仏はお二方共に見ていてくださる。


32 狂気の山 sage New! 2006/06/01(木) 21:59:23.31 ID:lFtL33/QO
『イカしたコレクションね』
(;^ω^)「誰だお!?」

この場所は神聖な地。
内藤家は代々この地を守り続けて来ていた。
それが汚される事は許されない。

振り向いた内藤の前には銃を構えた男女。
銃口は内藤の胸辺りを捉えている。
二人の吐く息も内藤と同じく白くない。
悪魔の使いだろう。

(;^ω^)「待つお!
御子様を動かしてはいけないお!
この国が大変な事になってしまうお!」

内藤は御子を庇う為に細い御子の身体を強く抱き締めた。


33 狂気の山 sage New! 2006/06/01(木) 22:00:18.94 ID:lFtL33/QO
……グチャリ。

異音と共に内藤の鼻腔を強烈に襲う腐敗臭。

( ;ω;)「おおっ!?
……うぇええっ!」

慌てて御子を放り出し、吐瀉物を蒼い洞窟にぶちまける内藤。

――蒼い洞窟?
いや、ここは……僕の家、だお……。

――御子様は?
……僕の、つ、ま……。

ξ゚听)ξ「内藤ホライゾン、殺人容疑で逮捕します」

腐敗した死体の前で茫然とする内藤に、女刑事は警察手帳を突き付けた。


34 狂気の山 sage New! 2006/06/01(木) 22:01:06.08 ID:lFtL33/QO
――嫌な事件でしたね、ツン警部補。
死体は鑑識の結果、二ヵ月前に行方不明になっていた彼の妻、内藤クーデレでした。
――巫女みこ神社の住職でしたっけ。
狂ってしまった頭は、現実を受け止め切れなかったんでしょうな。
――ラジオでも点けましょうか。

『……富士山の噴火の被害は甚大なものとなり、戦後最大の死傷者が出ている模様。
尚、山火事は未だ収まらず……』

――消しますよ。
――はは、偶然ですよね?
はは、は……

終わり


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