813 ( ^ω^)は(題名が入力されていません) New! 2006/05/30(火) 22:39:48.41 ID:nWE8Izl90
気が付くとぼくは扉の前に立っていた。
その扉以外は何も見えない。
後ろも上も下も右も左も真っ暗だ。
なぜこんな所にいるのだろうかはわからない。
でも、ぼくはその扉を開けなければならないことはわかっていた。

扉を開けると、白い部屋だった。
何の家具もない。
男が一人、部屋の真ん中にうずくまっているだけだ。
近づいてみると、男は右手に持ったカナヅチで、しきりに左手を叩いている。

( ^ω^)「なんでそんなことをしてるんだお?」

不思議に思ったぼくは尋ねた。
すると、男はぼくを見もせずに言った。

('A`)「決まってるだろ、叩くのを止めたときに気持ちいいからさ」

ぼくは黙っていると、男が言った。

('A`)「そこの扉から次の部屋に行けるぞ」

いつの間にか白い壁に扉が現れていた。

816 ( ^ω^)は(題名が入力されていません) New! 2006/05/30(火) 22:45:54.05 ID:nWE8Izl90
次の部屋は淡い水色の部屋だった。
いくつかの木箱が床に散乱している。
部屋の中央では、先程とは違う男が腕を組み、目を瞑って立っていた。
ぼくが近づくと、その男は薄目を開けて、こちらを見た。

( ^ω^)「何してるんだお?」

/ ,' 3  `ヽーっ「あの鍵を取りたいのさ」

男が指し示した天井には、糸で吊された鍵があった。
随分と高い。

( ^ω^)「この箱を積み重ねて取ったらどうだお?」

/ ,' 3  `ヽーっ「バカだな、登っているときに箱が壊れてしまったら落ちるじゃないか」

そう言ったきり男はまた黙ってしまった。
ぼくは次の部屋への扉を開けた。

817 ( ^ω^)は(題名が入力されていません) New! 2006/05/30(火) 22:51:14.18 ID:nWE8Izl90
次の部屋は、シックな内装の部屋だった。
女性がブツブツと呟きながら、部屋の中を掃除している。

ξ゚听)ξ「めんどくさい、めんどくさい、めんどくさい…」

( ^ω^)「何がそんなにめんどくさいんだお?」

ξ゚听)ξ「この掃除に決まってるじゃない」

( ^ω^)「じゃあちょっと休憩したらどうだお?」

ξ゚听)ξ「バカね、そんなことできるわけないでしょ」

( ^ω^)「なんでだお?だれかに命令されているのかお?」

ξ゚听)ξ「違うわ、私が嫌だからよ」

( ^ω^)「…」

ξ゚听)ξ「用事がないなら、さっさと出て行ってくれる?掃除の邪魔よ」

ぼくは追い立てられる様にして部屋を出た。

820 ( ^ω^)は(題名が入力されていません) New! 2006/05/30(火) 22:58:53.96 ID:nWE8Izl90
次の部屋は木造の和室だった。
部屋の真ん中に置かれたちゃぶ台に電話が乗っている。
一人の男が、それを真剣に見つめていた。

( ^ω^)「なにをしてるんだお?」

(´・ω・`)「大切な人からの電話を待っているんだ」

( ^ω^)「大切な人?恋人かお?」

(´・ω・`)「わからない。恋人なのか親なのか友人なのか…」

( ^ω^)「わからない?電話をかける約束をしたなら相手はわかってるはずだお?」

(´・ω・`)「いや、約束はしていない。ただ電話をしてくれるだろうと思って待ってるんだ」

( ^ω^)「どれくらい?」

(´・ω・`)「もう6年と3ヶ月と21日目かな」

( ^ω^)「…」

(´・ω・`)「次の部屋は向こうだよ」

ぼくは和室に不釣り合いな洋風の扉を開けた。

823 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/05/30(火) 23:07:44.18 ID:nWE8Izl90
ぼくの目に飛び込んできたのは階段だった。
石造りの螺旋階段。
ぼくはそれをゆっくりと降りていった。

しばらく降りていくと、唐突に広々とした部屋に出た。
湿った空気の地下室で、何本かの蝋燭が部屋を照らしている。

部屋の向こう端にローブを着た男が立っていた。
フードを被っており、地下室の暗さも相まって顔は見えない。

男が言った。

「やあ、おかえりなさい。捜し物は見つかりましたか?」

( ^ω^)「捜し物?ぼくは何かを探しに行っていたのかお?」

「ええ、そうです。そう言って出かけていったのはあなたでしょう?」

( ^ω^)「ぼくは何を探していたんだお?」

「さあ、私にはわかりかねます」

( ^ω^)「…」

「…」

ぼくは沈黙し、男もそれに倣って沈黙した。

828 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/05/30(火) 23:16:03.17 ID:nWE8Izl90
沈黙を破ったのは、ぼくでも男でもなかった。

「あら、帰ってきてたの」

声に振り向くと、翁の面を被った女がいつのまにか立っていた。
女が言う。

「捜し物は見つかったの?」

( ^ω^)「君もそれを言うのかお?」

「どういうこと?」

「彼は記憶がなくしてしまっているようです」

ぼくの代わりに、ローブの男が答えた。
女は少し考えるような仕草をしてから言った。

「へえ、そうなの。じゃあ、あなたは自由なのね」

( ^ω^)「自由?」

「自由。あなたは自分が行きたいところに行って、見たいものを見て、感じたいことを感じられるのよ」

( ^ω^)「ぼくに、ぼくにそんなことができるのかお?」

「もちろんよ」「もちろんです」

ローブの男と、翁の面の女が同時に答えた。

829 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/05/30(火) 23:23:44.18 ID:nWE8Izl90
「まあ、あなたがそれを望まなければならないけどね」

( ^ω^)「ぼくが望む…?」

「そうです、あなたはあの階段を降りてきたのですから」

「あなたは望むのか望まないのか選ぶことができるのよ」

二人が淡々と言った。

( ^ω^)「…」

「ここに来るまでに何を見たかは知らないけど、選べるのはあなただけよ」

女が言う。

( ^ω^)「…」

「望むもよし、望まぬもよし。全てはあなた次第ですよ」

男が言う。

( ^ω^)「…」

二人はそれきり口を開かなかった。
どれくらい経っただろうか。一分間だったような、一年間だったような。
よくわからない時間だった。

( ^ω^)「決めたお…」

831 ( ^ω^)は(題名が入力されていません) New! 2006/05/30(火) 23:31:01.23 ID:nWE8Izl90
ぼくがそう言うと、二人は無言で先を促してきた。

( ^ω^)「ぼくは…ぼくは行くお」

「そう」

女はそれだけ言った。

「では、どうぞここから」

男がそう言って移動すると、男が今までいた場所に
人が一人通れるほどの穴が開いていた。

( ^ω^)「ここから降りるのかお?」

「そうです。大丈夫ですか?」

( ^ω^)「もちろんだお、決心はついたお」

「ではお気を付けて」

「またいつか会えることを願ってるわ」

ローブの男と、翁の面の女は並んで手を振っていた。
ぼくは二人に背を向けて、暗い穴の中へと飛び込んだ。

839 ( ^ω^)は(題名が入力されていません) New! 2006/05/30(火) 23:40:40.96 ID:nWE8Izl90
自分が落ちているのかどうかもわからなかった。
最初と同じように、どこもかしこも黒かった。
ただ移動しているらしいことだけは感覚でわかった。

なにも見えない状態がしばらく続き、段々と不安になってきた頃。
突然、目の前に扉が現れた。

( ^ω^)「これは…」

いままでの扉とは違った。
白い塗装の両開き扉で、金色のドアノブが付いている。
あたりが黒一色なせいで、白い扉がより一層白く見えた。

( ^ω^)「この扉を開ければ…」

ぼくが探していたものが見つかるのだろうか。
それとも、探していたものを思い出すのだろうか。
それとも、違うなにかが起こるのだろうか。


ぼくはゆっくりと、金色のドアノブに手を伸ばした。



「おめでとう」

扉を開く瞬間に、そう聞こえた気がした。


―fin

inserted by FC2 system