112 電影少女 New! 2006/05/29(月) 00:42:50.63 ID:SRcIDeU7O
('A`)「あー、彼女ほしぃ……」

いつも通り、何も変わらない呟き。
だが、本当は分かっている。
俺には彼女などいらない。
要するにこの呟きは、単に世間体だけのモノ。
彼女なんて、面倒臭い。

('A`)「……あれ?
こんな所にビデオ屋なんてあったっけ?」

会社からの帰り道、まるで昔からあったかの様にそのビデオ屋は存在していた。
何故か俺にはそのビデオ屋が気になる。
普段ならネットでエロ動画を漁るから、AVなんて興味はないのだが、俺は吸い込まれるようにビデオ屋に入ってしまった。


114 電影少女 New! 2006/05/29(月) 00:43:56.99 ID:SRcIDeU7O
('A`)「なんだこりゃ……見た事ねぇ」

品揃えはあんまりないし、タイトルも女の子の名前だけ。

『ツンデレ』
『クーデレ』
『ペニサス伊藤』
『しぃ、つー』
『ハインリッヒ高岡』
『山村 貞子』

『山村 貞子』。
まさかこれは。
俺は鼓動の高まりを感じてた。
平静を装い、パッケージを手に取ってみるが、タイトル以外、何も書いてはいない。
俺は迷わず、ビデオをカウンターに置いた。

(´・ω・`)「一週間レンタルで三百五十円だよ」

('A`)「……会員証とかは作らないんですか」

(´・ω・`)「君はビデオを持ち逃げするような男じゃないだろう?」

――やっぱり変な店だ。
まぁいい。

今の俺の興味の対象はこのビデオだけ。
俺は久しぶりに、軽やかな足取りで家に向かった。


115 電影少女 New! 2006/05/29(月) 00:44:54.82 ID:SRcIDeU7O
散らかり放題の部屋を足で適当に片付け、いざ、ビデオセット。

少しの砂嵐の後、画面には古びた井戸だけがぽつんと映っている。

――思考回路はショート寸前、今すぐ、会いたいよ。
何故か某美少女戦士の歌が俺の頭をエンドレス。

遂に、画面内の井戸の淵に手が見えた。
白いブラウスと黒い長髪が徐々にその姿を現わせて……また消えた。
少し遅れて水音。

('A`)「……?」

三度目ほどその行動を繰り返して、ようやく女が井戸から脱出した。

川;д川「……うぅ、痛い……。
あの……私、貞子と申します。
……遅れてすいません」

――予想と違う。
確かにどこからどうみても貞子だけど、なんか違う。

116 電影少女 New! 2006/05/29(月) 00:47:31.14 ID:SRcIDeU7O
('A`)「……これ、呪いのビデオじゃないの?」

俺の疑問に、貞子はおろおろしてしまった。

川;゚д川「……あ、あの、……そうです。
……すいません」

ぺこぺこと頭を下げる彼女に、俺は思わず笑ってしまった。
不思議そうに顔を傾げる彼女。

川;゚д川「ど、どうしたんですか?
……あの、私に何か出来る事があれば……」

一週間、か。
丁度いい。
ビデオの中なら手間もかからないだろう。


117 電影少女 New! 2006/05/29(月) 00:48:51.65 ID:SRcIDeU7O
(*'A`)「……俺の、彼女になってくれないか?」

川//川「……はいっ!?
……一週間、だけなんですよ?」

それでもいい。
……俺が死んでも、誰も悲しまないから。

そう言うと、貞子は顔を伏せた。

川;д川「……そんな悲しい事、言わないで下さい……」

こうして、俺とビデオの中だけの恋人との一週間が始まった。


119 電影少女 New! 2006/05/29(月) 00:49:44.79 ID:SRcIDeU7O
ξ゚听)ξ「ドクオ君、変わったわね」

(*'A`)「へへ、そうっスか!?」

そう。俺は変わった。
自分でも分かる。

部屋も綺麗にした。
エロゲもやめた。
服に気を使うようにもなった。

( ^ω^)「彼女でもできたかお?」

(*'A`)「まぁ、そんな所っス」

(*^ω^)「マジかお!?
おめでとうだお!!」

自分の事のように喜んでくれる内藤先輩。

――でも、俺の命は、後三日なんですよ。


120 電影少女 New! 2006/05/29(月) 00:53:20.55 ID:SRcIDeU7O
('A`)「ねぇ、貞子はいつもどこで寝てるの?」

川д川「……私は、井戸の中で寝ています」

井戸の中。
そこは、どういう所なんだろう。
寒くて、冷たいイメージしか浮かんでこない。

('A`)「……俺の家で寝たら?
狭いけど」

貞子は手を伸ばし、向こう側からブラウン管に触れ、悲しそうに言った。


121 電影少女 New! 2006/05/29(月) 00:54:59.44 ID:SRcIDeU7O

川д川「……まだ、そっちには行けません」

俺も手を伸ばし、ブラウン管越しに、手の平を合わせた。

('A`)「……感じるよ、貞子のぬくもり」

ブラウン管に遮られていても、確かに貞子の手の感触が分かる。

川//川「……私も、感じます」

('A`)「……唇は、どうかな?」

川//川「……ドクオさんとなら、私は」

テレビにキスをする男。
明らかに異常者だ。
でも、後二日で俺達は実際に会える。


122 電影少女 New! 2006/05/29(月) 00:55:47.62 ID:SRcIDeU7O
川д川「……ドクオさん、私を返却して下さい」

(;'A`)「……は?」

いきなりの貞子の言葉に、俺の頭は真っ白になる。

川;д川「私、ドクオさんを殺したくありません……」

俺の死。
今までの日々が楽しすぎてすっかり忘れていた。

('A`)「なぁ、貞子」

川;д川「……はい」

('A`)「俺、お前と会えてよかったよ」


123 電影少女 New! 2006/05/29(月) 00:57:02.07 ID:SRcIDeU7O
この六日間は俺の生涯の中で一番楽しかった。
朝、目覚めればお早ようの挨拶。
会社に出かけるときは、いってらっしゃい。
家に帰れば、貞子の控えめな笑顔。
寝る時はお休みのキス。

(;A;)「それが無くなるなんて。……俺には……耐えられ……ない」

最後は涙で言葉にならなかった。

川;д川「……ダメです!
ドクオさんは生きなきゃダメです!!」

貞子は頭を抱え、首を振った。

なんて言われようと、俺にはビデオを返す事は出来ない。
俺達は、泣きながら夜を明かした。


124 電影少女 New! 2006/05/29(月) 00:57:48.98 ID:SRcIDeU7O
ビデオを借りてから一週間目。
俺は会社を休む事にした。
貞子は、井戸から出て来ない。

(゚A゚)「……」

俺は、ずっと画面を見続けた。
貞子が、俺を迎えに来るんだ。
待ってなきゃ、いけない。

('Aー)「……ん」

いつのまにか、俺は眠っていたらしい。
部屋には、砂嵐の音が鳴り響いていた。
時計の針は一時を指している。
俺は、死んでいない。

(;'A`)「……貞子っ!?」

ビデオデッキには、ビデオなど入っていない。
俺は部屋を飛び出し、すぐにビデオ屋に走ったが、ビデオ屋は影も形もなかった。


125 電影少女 New! 2006/05/29(月) 01:00:59.73 ID:SRcIDeU7O
(;A;)「うぅ……貞子……」

幽鬼のような足取りで部屋もどり、画面を再び見つめる俺。

少しの砂嵐の後、画面には古びた井戸だけがぽつんと映った。
画面内の井戸の淵に手が見える。
白いブラウスと黒い長髪が徐々にその姿を現わせて……また消えた。
少し遅れて水音。
三度目ほどその行動を繰り返して、ようやく貞子が井戸から脱出した。

川//川「ドクオさんが恐がらないから……大丈夫みたいです」

もう、俺達を遮るブラウン管は無い。

終わり


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