79 59 sage New! 2006/10/03(火) 13:39:09.88 ID:8D10MnTa0
>>60-61を投下する

   (´・ω・`)は王のようです


(*゚∀゚)「おかあさん、おなかすいた……」
(´∀`#)「あいよ。まったく、お上はどうなってるのかね!?」
(#・∀・)「不景気だってのに対策も立てず、自分だけ遊んでるんだからな!」


 きらびやかな謁見の間で、小柄な老人が跪いている。

/ ,' 3「王よ、どうにも商いがふるいません。どうか景気が良くなるよう、お考えくださいませ」
(´・ω・`)「そうだね、じゃあ資料を……」
川 ゚ -゚)「わかった。詳しい陳情の内容は官僚に回しておいてくれ」
/ ,' 3「ははーっ」

 玉座に座る男は若く、王と呼ぶには威厳に欠けた。ゆえに老人は王ではなく、その側に立つ麗人に頭を下げた。
 艶やかな髪と美しい体は、青い軍服に身を包んで尚、女性らしさを損ねてはいない。
 ただ顔に浮かんだ厳しい表情が、まるで王のような威厳を放っている。
 老人は自分の娘ほどの相手に、何度も頭を下げてから退出していった。

 入り口の扉が閉まると、王は頼りない表情で彼女に話しかけた。

(´・ω・`)「相変わらず不況だね、クー。何とかしたほうが良くないかな?」
川 ゚ -゚)「いえ、これは一朝一夕で解決できる問題ではありません。他の問題を優先させるべきです」
(´・ω・`)「しかし……」
川 ゚ー゚)「ふ――……お気になりますか?」

80 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/10/03(火) 13:40:58.30 ID:8D10MnTa0
 彼女は一つ、大きく息を吐く。その途端、顔から先刻までの険しさが、残らず消えた。
 そこには信じがたいほどの美しい笑みがあった。礼拝堂に飾られる聖母の絵のような、見る者全てを魅了する笑みが。

(・ω・`*)「え? う、うん、まあ……」
川 ゚ー゚)「わかりました、では次回の会議で話し合いましょう」

 まるで子供のように頬を染める王。そんな彼の手に、彼女はそっと口づけた。
 それだけで、ただ臣下の礼だけで、王は半身をのけぞらせる。
 その様子をおかしそうに笑うと、彼女は深々と礼をした。

川 ゚ー゚)「では、私はこれで。また夜に、お部屋のほうへお伺いします」
Σ(・ω・`*)「!? あ、ああ、うん。じゃ、よろしく」


 謁見の間を離れるなり、彼女の笑みは消えてなくなる。口の中で小さく呟く。

川 ゚ -゚)(――くだらない男)

 彼女の目的は、ただ一つ。すべての責任を王に着せ、自らが支配者となって、一族の繁栄を確保すること。
 当初は官僚たちを味方につけるべく根回しを試みた。同時に、王の夜伽を勤め、あわよくば王妃にならんとした。
 しかし最初の夜伽の日から、王は彼女の言いなりであった。
 自ら官僚と彼女との折衝役を行い、かえって彼女の根回しを助けることすらした。

(´・ω・`)「君、そろそろ責任ある地位に就かない?」
川 ゚ -゚)「とんでもない、私ごときが勿体無いお話です」
(´・ω・`)「そう……いいと思うんだけどなぁ……」

 ことあるごとに王は言ったが、彼女は全て断った。
 肩書きなど重いだけだ。王が言いなりである以上、そんなものは無いほうが動きやすい。
 全ては彼女の目論見通り。いまやショボン独立国は、クーが支配しているといっても過言ではなかった。

81 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/10/03(火) 13:41:49.20 ID:8D10MnTa0
(´∀`#)「王宮を乗っ取れ! 革命よ!」
(#・∀・)「こんな政治、認めないからな!」

 ある日、貧しい民衆たちが王宮に押しかけた。彼女はそれを窓越しに、冷めた目で眺めていた。
 さあ来い、愚かな民衆ども。
 脱出の算段はできている。王が責任者となっている書類も準備した。
 王が生贄になったとて、私は一生遊んで暮らせる――!

(´∀`#)「クーだ! クーって女を探しな!」
(#・∀・)「あの女を追放してショボン王を復権させるんだからな!」

川;゚ -゚)「……え?」

 暴徒の声が聞こえたとき、彼女は世界が止まったかのような衝撃を受けた。
 なんだ今のは。聞き間違いか?

(´・ω・`)「バレないと思ったのかい?」
川;゚ -゚)「!?」

 ギョッとして振り返る。いつの間にか、王が立っていた。
 彼はショボくれた普段の表情で、淡々と告げる。

(´・ω・`)「たとえ言葉を謹んでも、行動までは抑えられない。
      君の振る舞いは支配者だった。とても素直な支配者だったよ」
川 ゚ -゚)「バカな! なにを言っている!?」

 王が一歩近づく。彼女は背中を窓に押し付けたまま、横へと逃れる。

(´・ω・`)「言ったはずだよ。責任ある地位に就きなさい、と。
      しかるべき手順や調整があれば、きっと違ったんだけどね。民衆の怒りは君に向いた」

83 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/10/03(火) 13:42:57.50 ID:8D10MnTa0
川 ゚ -゚)「貴様……なぜ言わなかった!?」

 王はマントの裾を握り締め、伏目がちに呟いた。

(´・ω・`)「言えば信じたかい? 僕を暗愚と蔑む君が?」
川;゚ -゚)「!?」
(´・ω・`)「提案自体は何度もしたよ。断ったのは君の意思だ」

 彼女は言葉を失う。信じられなかった。まさか私は、私は最初から失敗していたというのか?

川;゚ -゚)「くっ、来るな! 来るんじゃない!」

 とっさに腰の軍刀を引き抜いて――衝撃。爆音。硝煙。
 王の手には、細やかな装飾が施された拳銃があった。
 クーの胸から鮮血がこぼれ、青い軍服をどす黒く染める。体が自由を失い、倒れる。

川 ゚ -゚)「貴様! ちくしょう、貴様……!」
(´・ω・`)「さっきドクオに軍の指揮権を委譲してきた。後はアイツが上手くやるさ」

 彼女は血を吐いて、もがいた。王は、その背を出来る限りの優しさで抱きしめる。

川;゚ -゚)「放せ! こんなところで! こんなところで死にたくない!」
(´・ω・`)「ごめんね、クー。王としては失格でも……君に焦がれる資格だけは、失いたくなかったんだ」

 その日、民衆は王宮を制圧した。
 そこで彼らが見たものは、大理石の床を朱で染めて、眠り続ける王と想い人の姿だった。

(完)
inserted by FC2 system