664 お題:墨 sage New! 2006/10/04(水) 23:07:41.62 ID:mYAF2RQG0
川 ゚ -゚)「ふ、ふひ、ふひはは、ふひはぁ……」

女は屍を前に笑っていた。
懐から小刀を取り出す。

川 ゚ -゚)「参りましょう、参りましょう、いつの日か、貴方の元へ、参りましょう」

川 ゚ -゚)「あの世で、などとは申しませぬ。私は地獄で苦行を受けてまいります」

川 ゚ -゚)「いつの日か、またこの現世で、めぐり合えることを」

川 ゚ -゚)「参りましょう、参りましょう……」

刃先を自らののど元に突きつける。

そして一気に貫いた。
混濁する意識の中で彼女が最期に見たものは自分の血。
どす黒く、まるで墨汁のようだった。

今から、数百年前の話である。

665 お題:墨 sage New! 2006/10/04(水) 23:08:49.26 ID:mYAF2RQG0
少女は今朝、小さな壺を見つけた。
ポケットに入るくらいのサイズだ。これほど小さいものは見たことがない。
着色されたうえ、フタまでされているために、中身を見ることは出来ない。
普段ならそんなものはほうっておく。
だが、その日はそうすることができなかった。
なぜか、惹かれたのだ。
その小瓶を。
少女は、学校まで持っていくことにした。




ξ゚听)ξ「あはははは、あはははははははは」

少女は笑っていた。
いや。
無表情のままで、笑い声を出していた。
素人俳優でも出せないような棒読み口調。
気味が悪い。

そこは大通りの片隅。
朝の通学時刻。その、ある種滑稽で、ある種不気味な、セーラー服姿の少女を、誰もが避けて通っている。

ξ゚听)ξ「あは、あはははは……けほっけほっ……ははっけほっ」

笑いすぎた少女が咳き込む。
それでもなお笑う。笑い続ける。
やがて、その瞳から雫が滴った。
それでも笑う。苦しくてもなお笑う。
彼女は壊れていた。

666 お題:墨 sage New! 2006/10/04(水) 23:09:43.04 ID:mYAF2RQG0
( ^ω^)「……お?」

さっさとしないと遅刻する。
そんなことを考えつつ、早歩きで学校に向かうブーンの目に、その奇怪な光景は前兆なく飛び込んできた。
馴染みの少女が狂っている。

( ^ω^)「ちょ、ツン!」

ある者は立ち止まり、ある者は通りすがりに彼女を眺める。
その大半が、苦笑しているか、あるいは汚物を見るような目つきをしている。
そんな中、ブーンが少女、ツンに駆け寄った。

( ^ω^)「ツン、ツン! どうしたんだお!」

ツンの肩に手をかける。彼女の平坦な笑い声は止まらない。
身体を激しく揺さぶってみる。彼女の首は赤ん坊のようにぐらんぐらんと安定感なく揺れ動く。その口からは未だ笑い声が漏れ出ている。
妖怪か、化け物か。

ξ゚听)ξ「あはははははははははははは……」


しかしそれは。
唐突に、止まった。
彼女が笑うのをやめたのだ。

669 お題:墨 sage New! 2006/10/04(水) 23:12:06.05 ID:mYAF2RQG0
( ^ω^)「ツン……?」

正気に戻ったのだと理解し、安堵したブーンが呼びかける。
だが、彼女の気は狂ったままだった。
限界まで見開かれた目はまっすぐにブーンをとらえている。
不意に、ツンは口を開いた。

ξ゚听)ξ「あ……っぁぁ……貴方様……」
( ^ω^)「お……お?」
ξ゚听)ξ「わたくしの想い人……やっと巡り会えました」
( ^ω^)「わたくしって……ちょ、ツン。何言ってるんだお?」
ξ゚听)ξ「数百年、数百年間わたくしはどのような苦しみにも耐えて参りました。地獄の業火に焼かれてもなお、貴方様の影を夢見るおかげで正気を保つことが出来ました」

ξ゚听)ξ「今日、この日をどれほど待ち望んだことか……」
( ^ω^)「……」
ξ゚听)ξ「……」
( ^ω^)「あの、何を言ってるんだお?」

時間が止まったような感覚。
涙を流し、ブーンにすがりつくツンは、どう見ても正常ではない。
言葉遣いは妙に古めかしく、表情には狂気の色が含まれていた。

ξ゚听)ξ「わたくしを、お忘れですか?」
( ^ω^)「いやいや、だから何を言ってるのかわからないお」
ξ゚听)ξ「え……」

ツンがその場に崩れ落ちる。
いや、こうなると。
この少女が、ブーンの知るツンであるかどうかもわからない。

670 お題:墨 sage New! 2006/10/04(水) 23:13:48.99 ID:mYAF2RQG0
ξ゚听)ξ「そ、そんなはずは、ええ、ございませんとも。貴方様がわたくしをお忘れになるなどありえません」

そういいながらツンはポケットを探る。
そして、密閉された壺のようなものを取り出した。

ξ゚听)ξ「これを……」

木製の、黒いフタをとり、中身を自らの手に垂らす。
どす黒い液体がぽたり、とツンの手のひらに落ちた。

( ^ω^)「……なんだお、墨?」
ξ゚听)ξ「血でございます。わたくしの、血でございます」
( ^ω^)「!」

驚くブーン。彼女はしばらく黙っていたが、やがて朗々と語り始めた。

ξ゚听)ξ「遠い昔。貴方様は物の怪だったわたくしを愛してくださりました。しかしそれは報われぬ恋……ある夜、貴方様はわたくしを置いて御自害なさいました。わたくしのせいです。あなたをかどわかしてしまった、わたくしの」
( ^ω^)「……」

やっとわかったことがある。
今のツンは、何かに憑かれているのだ。

ξ゚听)ξ「わたくしは貴方様の後を追い、そして貴方様とは違って地獄におちました。そこで、数多の苦行を受け、ようやくこの世に還ることができたのです。そして、貴方様に出会うことが出来たのです……」
( ^ω^)「……」

勘違い、と。
単語で片付けるのは容易いが、それをどう説明すればいいのだろう。

673 お題:墨 sage New! 2006/10/04(水) 23:16:31.52 ID:mYAF2RQG0
ξ゚听)ξ「どうでしょうか。わたくしを、思い出してくださりましたか?」
( ^ω^)「あの、申し訳ないんだけど」

( ^ω^)「人違いですお」
ξ゚听)ξ「え……」
( ^ω^)「僕はキミを知らないお。それに、人間は死んじゃったら終わりなんだお……たぶん」
ξ゚听)ξ「そんな……うそです」
( ^ω^)「嘘じゃないお」
ξ゚听)ξ「……」

黙するツン、いや、ツンに憑いた物の怪。
今まで以上にあふれ出した涙が頬を濡らしている。

ξ゚听)ξ「……」
( ^ω^)「それに、キミが今使っている身体は僕の知っている人なんだお。返して欲しいお」
ξ゚听)ξ「…………」

ξ゚听)ξ「そう、ですか。私はあの方に……」
( ^ω^)「……」
ξ゚听)ξ「申し訳ございません。わたくしの、勘違いでございました……何卒……」
( ^ω^)「どうするんだお?」
ξ゚听)ξ「このお身体はお返し致します。そしてわたくしは……」
( ^ω^)「……」
ξ゚听)ξ「あの方を、探したいと思います。恨みがましいと思われるやも知れません。それでも、わたくしは」
( ^ω^)「たぶん、会えるお」
ξ゚听)ξ「……」

ξ゚听)ξ「ありがとう、ございます」

それが最後の言葉だった。

674 お題:墨 sage New! 2006/10/04(水) 23:17:49.95 ID:mYAF2RQG0
ふっと、彼女の身体から力が抜けた。
ゆっくり路上に横たわるツン。

( ^ω^)「……ツン?」
ξ゚听)ξ「……ふぇ?」

眠たそうに目をこすって、本当のツンが起き上がる。

ξ゚听)ξ「あれ、ブーン……ってここどこよ!」

哀れむような視線を感じてツンがあたりを見回す。
もう、すっかり正気だ。

( ^ω^)「……あ、もう9時半だお」
ξ゚听)ξ「わ、私ったら何してたんだろ……ああもう、遅刻じゃない!」
( ^ω^)「でも、よかったお。ツンが無事で」
ξ゚听)ξ「は? 何の話?」
( ^ω^)「なんでもないおー」


終。


なんか、うん、ごめんなさい。

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