389 仮面ライダーショボン New! 2006/10/04(水) 05:58:56.71 ID:G0mtWFUCO
(´・ω・`)「シャキン兄さん、平和だねぇ」

ショボンはバーボンハウスのカウンターに突っ伏し、
束の間の平和を味わっていた。
普段ならカウンターに対しての無礼を怒るシャキンも、この時は怒らない。
今は昼間、営業時間外だからだ。

(`・ω・´)「あぁ、平和はいいな……バーボンでも飲むか?」

ショボンは顔をあげ、苦笑いを兄に見せる。
彼はまだ学生だ。

(`・ω・´)「全く。そんな事で、俺になにかあったらどうすんだ」

――なにかあるのは兄さんじゃなくて僕だろうね。

その言葉をショボンは飲み込んだ。
シャキンに無用な心配を掛けたくはない。
それでなくても、明日をも知れぬ命だ。

氷を砕く小気味よい音がバーボンハウスを満たす。

酒は嫌いだが、この音は好きだ。兄の鮮やかな手捌きも好きだ。

(`・ω・´)「水道水でいいよな」

ショボンは兄の広い背中をぼんやりと見つめていたが、
兄が水道の蛇口を捻った時、異変が起きた。

390 仮面ライダーショボン New! 2006/10/04(水) 06:00:52.58 ID:G0mtWFUCO
(;`・ω・´)「く、黒い水っ!?」

グラスに満たされたソレは、水と形容するにはあまりに醜い。
緩やかな気泡を放ち、その気泡からは異臭が漂う。
氷がその中を泳ぐ様は、生理的な嫌悪感を催す。

(;´・ω・`)「兄さん! バイクの用意は出来てるよね!?
行ってきます!!」

愚問だと言いたげに首を縦に振るシャキン。
皮のジャンパーを羽織り、ショボンは店を飛び出した。
行き先は、――下水処理施設。

(`・ω・´)「……『行ってきます』か。『お帰り』って言わせてくれよ?」

シャキンはカウンターに毒々しいグラスを起き、力なく椅子に腰掛けた。
無力感に襲われ、眉間に手をやる。
くそったれ、という呟きは、虚しく店内に波紋となり広がった。

391 仮面ライダーショボン New! 2006/10/04(水) 06:02:17.80 ID:G0mtWFUCO
「ハーハッハッ!! さぁ、もっと水を汚せぇえっ!!!!」

下水処理施設にて高笑いを放つ怪人。
女か男かは定かではない。
身体の表面はヘドロに覆われ、絶えず指先から黒い水が滴り落ちている。

怪人の廻りには先程から黒い全身タイツを着、
覆面を被った戦闘員が忙しなく走り回っていた。
怪人の手下の様だ。バケツを持ち、巨大な水槽に、ヘドロを混入していく。

『そこまで。ショッカーの怪人』

自分達の侵入して来たドアを一斉に見つめる怪人と戦闘員。
そこには。

昆虫をイメージしたと思われる仮面。
筋肉を浮き彫りにした黒い装甲。
鈍い輝きを放つ銀色のベルト中央には紅い風車。
そして、どうやってここまで来たか、黒い不気味なバイク。

その名は仮面ライダー。最強の怪人――。

「来たかショッカーの裏切り者め! 逃がさんぞ!!」

――になるはずだった。

392 仮面ライダーショボン New! 2006/10/04(水) 06:03:44.69 ID:G0mtWFUCO
ライダーはドアを塞ぐ形でバイクから降りた。
仮面の中で、誰にも聞こえない呟きを以て。

逃がさないのはこっちの方だよ。
――全員、ぶち殺す。

無言で戦闘員がライダーに突っ込む。
そこにカウンターの形を取ると、戦闘員の首の骨が折れた。
フラフラと水槽に落下する戦闘員を、ヘドロが飲み込む。

特殊装甲に覆われた身体は、常人を遥かに凌駕し、それに伴い骨格も強化する。

「おら、お前ら行けぇっ!!」

感情を操作された戦闘員は、常人より僅かに強化された程度。
格闘も訓練されてはいない。
束になってもライダーに勝てる理は無いのだ。

ライダーの手刀が無造作に胸を突き破る。
背中に出たその手には未だ脈打つ心臓。
心臓を握り潰し、横合いから来る戦闘員に投げる。
フェンスを突き破り、二人纏めてヘドロの海に落ちた。

393 仮面ライダーショボン New! 2006/10/04(水) 06:05:18.28 ID:G0mtWFUCO
パンチを掌で受け止め、もう片方の手を使い、回す。
一回りしないうちに、肩から腕が神経を散らしつつ、千切れた。
その手を使い、背後の戦闘員に一撃。首が百八十度廻る。
戦闘員の両腕を掴み、そのまま力任せに引っ張る。
両腕が根元から抜け、血の滝が出来た。

倒れた戦闘員の頭を踏み潰すと、眼球が視神経を付けて飛ぶ。
頭を蹴ると、灰色の脳髄をまき散らかし、爆ぜる。
首を蹴るとサッカーボールの出来上がり。
そのままボレーシュート。脛で四散してしまった。ボール失格。

下段蹴りで両足をへし折る。
首を掴み、握り千切る。
袈裟掛けに手刀を振るえば、大腸小腸十二指腸。


痛みに対する絶叫もなく、巻き起こるは血の嵐。
潰す音、切り裂く音、千切れる音のシンフォニー。
表すならば、グチャッ、ズヂャッ、ブヂブヂ。

それは、ライダーの一方的な虐殺だった。

394 仮面ライダーショボン New! 2006/10/04(水) 06:06:54.15 ID:G0mtWFUCO
(´0ω0)「さ、後は君だけだ」

ライダーが怪人に向き直る。
人間の形をしたモノはもはやない。

黒い怪人と紅い怪人。

ライダーの身体には血と無数の肉片、内臓が付着している。

「クッ……クククッ」

怪人が笑いを洩らすとヘドロが口から零れた。
その口を、ライダーの拳が砕く。
砕く、という表現は正しくない。
正確に言えば“散らした”だ。

(´0ω0)「汚い口を見せないでくれないか?
もっとも、もう嗤う事も無い。――ッッ!?」

仮面の中が驚愕に歪み、その場から跳び下がる。
ライダーの破壊した顔面には大きな穴が。
その隣に、新たな顔が出現し、下品な笑い声を立てている。

「“水”は殺せないだろ?」

395 仮面ライダーショボン New! 2006/10/04(水) 06:08:01.96 ID:G0mtWFUCO
怪人の手が伸び、ライダーの首に絡み付く。
先程の拳の手応えに比べると、鉄のようだ。

(´0ω0)「クッ……グァ……」

無表情の苦悶。
脳への酸素供給が追い付かない。
頭がバットで殴られているかのような激しい頭痛。

「ハハッ! 死ねよ」

【死】。
青春を謳歌する若者には無縁の言葉。
だが、ライダーにとっては常に隣合わせだ。

だからだろうか。
この言葉を聞くと足掻きたくなるのは。
ライダーは猛然と怪人に突っ込み、体当たりを食らわせた。
手応えあり。
硬質化した怪人は吹っ飛び、自らの作り出したヘドロの水槽に落下していく。

396 仮面ライダーショボン New! 2006/10/04(水) 06:09:14.61 ID:G0mtWFUCO
(;´・ω・`)「げほっごほっ」

仮面を脱ぎ、激しく咳き込むショボン。喉が焼けそうだった。
そして、胸も。
紅く染まった自分あらざる身体。
辺りに散らばる手足臓物。
――一体、いつまでこんな事をしなければ。

戦っている時の興奮は消え、自責が彼を圧し潰す。

突如辺りに響く大音量。

(;´・ω・`)「な、なんだ!?」

ショボンの目に映ったのは、十メートルに及ぶ巨大なヘドロの塊だった。
未だ膨張は収まり切らず、天井にぶつかりそうだ。

「ハーハッハッハインリッヒィィ!! もうちょい遊んで行けぇっ!!!!」

大人の身体程ある拳骨が、ショボンの身体を弾きとばす。
コンクリート半ばまでめりこみ、特殊装甲に彼自身の血が注ぐ。

(;´・ω・`)「げぼっ……くっそおぉ……」

力の入らない身体を動かそうとするショボン。
その努力を嘲笑うかのように再び唸る巨拳。
今度こそ彼は瓦礫に埋もれた。

397 仮面ライダーショボン New! 2006/10/04(水) 06:10:25.13 ID:G0mtWFUCO
「ざまあねえな、オイ!!!!
さて、死体はどんなかなぁ?」

指先で突き、瓦礫をどかす怪人。
――もしも怪人に眉があったならば、眉間に寄せているだろう。

「いないっ!?」

唸るバイクの音。
再び装着した昆虫の仮面。
黒い筋肉のような特殊装甲。

仮面ライダー。それは、ショッカー最強の怪人になるはずだった。

「ハーハッハッハインリッヒィィ!!!! 来いよぉっ!!!!」

タイヤを鳴らし、限界までアクセルを開く。
シャキン特製のタイヤは、地面に食い付き、速度を一気に上げる。

(´0ω0)「行くよ!!」

バイクは死体を跳び台にして、真っすぐ怪人に突っ込んだ。
大量のヘドロの飛沫が舞い、バイクがゆっくり飲み込まれていく。
だが、それだけだ。怪人にダメージはない。

「ハハッ!!ハハハハッ!!!!」

398 仮面ライダーショボン New! 2006/10/04(水) 06:12:23.80 ID:G0mtWFUCO
勝利の高笑いは施設全体を揺るがし、怪人は自らの強大さに酔い痴れる。
身体の至る所からヘドロが吹き出して、ライダーを倒した喜びを――。

『汚い笑いを見せないでくれないか。
――もっとも、もう嗤う事も無いが』

半壊した仮面、ところどころ裂けた特殊装甲。
ショボンは天井近くの巨大タンクにもたれかかっていた。
怪人が恐怖に歪む。
タンクには【塩素】と書かれているのだ。
ライダーはおぼつかない足取りでタンクから離れる。

「よせえぇぇぇぇっ!!」

怪人の叫びと共に、ショボンは一気に走る。
ベルトの風車が激しく廻り、一層の加速、邪魔するヘドロを弾く。
黒い閃光は跳び、片足を前に突き出した。一本の槍。

(´0ω・`)「ライダァァァアア!! キィィッックッッ!!!!」

399 仮面ライダーショボン New! 2006/10/04(水) 06:14:20.70 ID:G0mtWFUCO
ライダーの足が触れた刹那、タンクが衝撃に爆砕する。
薄められていない塩素は、怪人にとって死のシャワーだ。

「あ゙ぁ゙が゙ぁ゙がががあ゙ががぁ゙――!!」

壮絶な断末魔と、見る間に小さくなる怪人。
そして、残った人影は、全裸の少女。すでに息絶えていた。

この少女は知っている。同級だ。

いつも笑っていて、周りを楽しませてて。
時にはしゃぎ過ぎ、周囲が引いてしまう時もあったっけ。

ハインリッヒ高岡。
ショッカーに改造された、この哀れな少女の名前だ。
仇を取る、とは言うまい。ただ、安らかに眠って欲しい。

少女の悶絶した死顔が、ショボンの胸を締め付けたが、
いずれヘドロの海に飲み込まれていった。

402 仮面ライダーショボン New! 2006/10/04(水) 07:08:14.48 ID:G0mtWFUCO
(´・ω・`)「ただいま、兄さん」

帰ってきた弟を出迎える言葉は笑顔で『お帰り』。
ショボンはカウンターに座った。心の中で溜息を吐く。
バイクの破損を言わなければならない。
兄にこれ以上の負担を掛けたくはなかったが。

(`・ω・´)「ショボン、新しいカクテルが完成した。
名付けて【ヘド・ロー】。ヘドロがモチーフなんだ」

カウンターに置かれたグラスの中身は、不吉な黒。
全く、忌々しい。
ショボンはグラスを一気に飲み干し、席を立った。

(´・ω・`)「兄さん、バイクぶっ壊しちゃった。新しいのお願いね」

(`・ω・´)「……ぶち殺すぞ」

あっさり言う弟。
自分にも出来る事があると内心喜ぶ兄。

改造された忌まわしい身体、戦い続ける宿命。
いいだろう。
どんな過酷な運命だって、飲み干してみせる。
僕の名前はショボン。

またの名を、仮面ライダー。

終わり

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