104 前スレ940 New! 2006/09/27(水) 23:04:30.86 ID:E8S37JWn0
お題【ξ///)ξ「あ、ありがと…///」】+【昨日の晩飯】

 台所の引き出しを開ける。出てきたのは小麦粉と塩だけだった。
 とりあえず舐めてみる。……しょっぱい。味が無い。美味いマズイ以前の問題だ。

ξi||听)ξ「うう……ひもじいよお……」

 好きなユニットの全国ツアーを制覇したら、所持金が尽きた。(オリキ、ダメ。絶対)
 絶望的な気分でカレンダーを見やる。親の仕送りも、内職の給料が入る日も、まだまだ先だった。
 どうしよう。単発バイトでその場をしのぐか?
 それにしたって、鳴り続ける腹の虫が、厄介で仕方ない。

ξi||听)ξ「そうだ、銀行に行こう……千円ぐらい預金があるはず……」

 フード付きトレーナーのポケットに財布を押し込む。
 マンションの自室を出て、階段まで来たところで足がよろけた。

ξi||听)ξ「ぎゃあ!」

 景色が一回転する。もう駄目だ、と思ったとき、何かが肩を支えてくれた。

(`・ω・´)「おい、どうした?」
ξi||听)ξ「……?」

 のろのろ顔をあげると、そこに光があった。じゃない、スーツ姿の青年がいた。

(`・ω・´)「あんた隣に住んでる人だろう? なにか手助けしようか?」
ξ゚听)ξ(び……び……)

ξ*゚听)ξ(美形キタ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(゚∀゚)゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!!)

106 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/09/27(水) 23:06:16.36 ID:E8S37JWn0
ξo゚听)ξ「うーふーふー、あーはー♪」

 浅葱色のブラウスの袖を、薄手のカーディガンに通す。
 夕べのことを思い返したびに顔がにやけた。

 彼に連れられて行ったのは、小洒落たフレンチの店。職場の近くでよく来るのだという。
 そこで、おいしいステーキやエビを、たっぷり御馳走になった。
 それは正に、食うや食わずだった私への天佑。おかげで今朝はちょっぴり肌のツヤがいい。

 念のために言っておくと、食後はまっすぐ帰宅した。
 これだけのことをしてくれて、送り狼になろうともしない。
 あまりの紳士っぷりに、私はド肝を抜かれていた。

ξ*゚听)ξ(ああ……あとでお礼を言いに行かなきゃ……)

 そ、そうよ。ただお隣にお礼を言うだけなんだから。
 そう思いながら私がドアを開けたときだった。

('A`)「ぎゃ!?」
ξ゚听)ξ「わ!?」

 外開きのドアが、たまたま廊下を歩いてきた人の腕にぶつかった。
 私が謝ると、彼はいいからと仕草で答え――隣室のチャイムを押した。

ξ゚听)ξ「え」

 思考が追いつくよりも早く、普段着の彼が部屋から顔を出した。

107 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/09/27(水) 23:07:35.89 ID:E8S37JWn0
('A`)「よ」
ξ゚听)ξ「おはようございます」
(・ω・´;)「お、おはよう……」

 彼は、だるそうな男の顔を見、次に私に気づいて、なぜかギョッとした。
 用件有りと見たのか、だるそうな人は一歩どいて、待ってくれている。
 素早く切り出すことにした。

ξ*゚听)ξ「昨日のことなんですけど、ええと……」

 彼の緑色のセーターから覗く、白いシャツの襟元。それを見ながら必死に言葉を探す。

ξ///)ξ「あ、ありがと…///」

 私がお礼を言うと、彼は目をしばたたかせた。

(・ω・´;)「何だっけ?」
ξ゚听)ξ「え。ほら、昨日の……」

 そこまで言われて、ようやく『あーあー』と頷く。

(`・ω・´)「昨日の晩飯ね。忘れてたわ」
ξ;゚听)ξ「嘘?」

 それっきり二の句がつげなかった。隣室の女に飯をおごって、忘れただって?
 容姿には自信があった。ラブレターはもらう側、告白はされる側。
 だから、きっと彼もそうだと思ったのに。ありえない。

(`・ω・´)「俺さ、女に興味が無いんだよね。性的な意味で」
ξ゚听)ξ「……」

109 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/09/27(水) 23:10:20.83 ID:E8S37JWn0
 黙っていると、ごめんと謝られた。
 違う、謝るのは私のほうで、傷つけたのも私のほうで、言葉がうまくまとまらない。
 だるそうな人が部屋に入るのを、黙って見守った。

 翌日。

ξ゚听)ξ「あの、昨日の('A`)←この人って……」
(`・ω・´)「そうだよ。俺の好きな人」

 彼は何気ない世間話のように教えてくれた。
 信じられない。この際、性別は置いとくとして……あんな駄目オーラを出した人の、どこがいいんだろう。

(`・ω・´)「しいて言えば……目かな?」
ξ゚听)ξ「細くて見えなかったわよ?」
(`・ω・´)「それは営業スマイルだからさ。たまに少しだけ目を開いて、燃えるような視線を送ってくれるんだ」

 な、なるほど、営業スマイルの下から……。

 そうして意識の上ずみの部分で会話をする一方で、納得しているもう一人の自分がいた。
 私は、まだ誰かを好きになったことがない。正確には好きという気持ちがよく分からない。
 だから彼と会ったとき、少し期待したのだ。すごい美形だったから。これが初恋になってくれはしないか、と。

 なのに、そんなわけが無いという確信だけがあった。

(・ω・´;)「おい、なにぼーっとしてる?」
ξ゚听)ξ「あ」

 気が付くと単語の暗記みたいに「営業スマイル、営業スマイル」と呟いていた。
 無理。やっぱショック。

111 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/09/27(水) 23:12:56.62 ID:E8S37JWn0
 それから私と彼は友人として、転勤までを過ごした。彼は性癖以外はごく普通の人間だった。
 私が引っ越すときも見送りに来てくれたが、最近はもう会ってはいない。
 でも、あの不思議な友人のことは今も覚えている。



【時間が遡る】
(ツンとシャキンが食事をした三日後、オフィスにて)

113 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/09/27(水) 23:14:25.70 ID:E8S37JWn0
('A`)「おい、なんだ、あれは?」
(`・ω・´)「なにが」

 勤務時間が終わるなり、上司のドクオは青いネクタイをゆるめた。

('A`)「たしかに俺はお前が好きだ。でもお前ソノ気は無いんだろう?」
(`・ω・´)「……」
('A`)「飯をおごったの忘れたなんて、なんで嘘ついた?」

 シャキンの方も飄々と答える。

(`・ω・´)「お腹がすくのが人間だ」
('A`)「は?」
(`・ω・´)「嫌なんだよ、当然のことを恩に着られるのは」
('A`)「……本当にそれだけか?」
(`・ω・´)「ああ」
('A`)「俺が見てたから、俺が傷つくと思ったんじゃないのか?」
(`・ω・´)「……」

 ドクオは苛々と煙草を投げ捨てた。何度も、何度も踏みにじっては炎を消す。

('A`)「あーあ、やめだ、やめ! こんなやつ好きでいても仕方が無い!」
(`・ω・´)「……その通りだ。さっさと諦めろ」

 わかった、イイ男でも捜しにいくよ。そう告げてドクオは部屋を出た。
 ショボンは一人、オフィスで書類を作り続ける。
 窓の下には、ツンと食事をした繁華街。少し早めの街灯が、思い思いに歩く人々の姿を浮かび上がらせていた。
(了)
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