637 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/09/18(月) 15:43:42.25 ID:zeC3qqZR0
( 'A`)「……お前ってさぁ」

目の前に転がる黒い黒い団子虫。
生意気にも体を丸めて外敵に備えているその姿――

( 'A`)「気持ち悪ぃよなぁ……」

蹴り上げる。
団子虫は口元から空気を吐き出しながら音を立てて転がっていく。
その様が面白かったので、もう一度蹴り上げる。

「やめ……」
( 'A`)「虫が喋ってんじゃねぇよ」

638 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/09/18(月) 15:44:42.70 ID:zeC3qqZR0
さっきより強く蹴る。
虫は壁にぶつかり、小さく呻く。
丸めて体のその内から、恨むような視線でオレを射る。

気に食わない――

足の甲が痺れるように痛む。
オレだって痛いんだ。お前も少しくらいは我慢してくれたっていいじゃないか。

川д川「お願いだから……」
( 'A`)「喋るなって言ってんだろうが」

生意気な奴にはお仕置きしなければならない。
オレは女に馬乗りになり、顔面目掛けて全力で拳を振り下ろす。
何度も。何度も。何度も。何度も。

女は意味不明な喘ぎを漏らし、濡れた瞳でこちらを見る。
ぞっとするほどに美しい顔がオレだけを見ている。助けて欲しいとオレだけを。
その仕草、その美貌、その命。全部オレだけの物だ。

オレは怒張した自分を取り出し、女の上で果てた――――

639 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/09/18(月) 15:46:15.11 ID:zeC3qqZR0
(;'A`)「やめ……」
( ゚д゚ )「“やめて”だぁ? 誰に向かって口聞いてんだよてめぇは!」

団子虫のように丸まっているおれに対して、男は容赦なく蹴りを入れてくる。
おれの腕など紙くずのように吹き飛ばされ、直接脳を揺さぶられるような錯覚に陥る。

(;'A`)「うぁ……ふはっ……」
( ゚д゚ )「気持ち悪ぃんだよ! てめぇが教室に――いいや、学校にいるだけで臭くてしょうがねぇんだよ!」

男はもう一度蹴りを入れてくる。
男の周りにいる者たちが、この光景をにやにやと笑って傍観している。
遠巻きに覗いている女子も嘲笑と侮蔑の眼差しを向けている。
その口元はやはりにやにやとしたそれだ。

640 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/09/18(月) 15:47:21.70 ID:zeC3qqZR0
(;'A`)「ゴメンなさ……あぐぅ!」
( ゚д゚ )「るせぇんだよ! 日本語喋くってんじゃねぇぞ、この害虫が!」

痛い。どこが痛いのかわからなくなるくらいに、体中が痛くてしょうがない。
男は尚もおれに対して罵声を浴びせ続けているようだが、何を言っているのかわからない。

つばが汚いな……。

そんな事を思いながらぼんやり男を見ていたら、唐突に殴られた。

( ゚д゚ )「生意気な目で見てんじゃねぇよ!」

生意気な目? おれはただぼーっとしていただけだ。
結局こいつはおれが気に入らないだけなんだ。
理由なんてなんだっていいんだ。
どうにもならないものをはどうにもならない。
誰も助けてなんかくれない。

おれを見ているにやにや笑い。
同じ顔したクラスメートたちが印象的だった――――

641 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/09/18(月) 15:48:23.74 ID:zeC3qqZR0
川д川「気はすみましたか?」
( 'A`)「……るせぇ……」

ぼろぼろになった衣服を纏いながら、女はオレに話しかける。

艶やかで一点の濁りも許さなかった夜の帳のような黒髪は、ほこりと液体が付着し、無残にもその規則性を失った。
衣服の陰からちらちらと覗く滑らかな曲線。そこには紅と藍の装飾が無数に施され、凹凸のできた体は統一性を破壊された。
そして、透けてみえるのではないかと思うほどに白く穢れのなかったその顔は最早見る影もなく、おたふくのように膨れ上がっていた。

どれもこれも、全部みんな。
オレがやったことだ。オレだけでやったことだ。
オレの物を、オレが好きなように、オレが壊して、オレが壊した。
嗜虐の喜び。めちゃめちゃ壊す喜びを噛みしめる。

しかし、しかし――

それでも女は美しかった。どんなに殴っても、どんなに蹴っても、どんなに壊しても。
変らず女は美しかった。

気に喰わなかった。
自分でも分からないくらい苛立った。

川д川「気はすみましたか?」
(#'A`)「るせぇ!」

反射的に女の顔目掛けて蹴りを入れていた。
予想外のことだったのだろう。女は何の防御反応も取らなかった。

642 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/09/18(月) 15:49:26.05 ID:zeC3qqZR0
川д川「うぁあう!」

女は口や鼻から血を噴出し、白い肌を朱に染める。
醜く蠢きながら悶絶しているその姿は、それでもなお美しく。
恨みがましくオレを刺すその視線は、それだけで力があるかのように神聖だった。

その光景はオレの中の黒い怒りを湧き上がらせる。
壊して破壊してめちゃめちゃにしたい。破壊の衝動がオレの中を駆け巡る。
――だが少し待て。壊すのは今じゃなくていい。今は壊してはいけない。

( 'A`)「……待ってろ」

女は流れる血液を拭くこともせず、あの瞳でオレのことを凝視する。
オレは今すぐ壊したい気持ちを必死に抑え、ある物を取り出す。
こいつに食わせるために取っておいた年代物の一品だ。

643 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/09/18(月) 15:50:27.14 ID:zeC3qqZR0
( 'A`)「……食えよ」
川д川「これをですか?」

オレはキツク縛ったビニールの封を切り、それを円皿に移す。
悪臭が辺りに充満する。粘度を持った臭いが至る所に付着していく。
生ゴミの詰め合わせ。いつの物かもわからないゴミすら混じっている。

( 'A`)「食えよ」
川д川「……」
(#'A`)「食えよ!」

女は手錠で拘束された両手両足を使い、芋虫のように這いながら餌に近づく。
四つん這いにすらなれない犬以下の格好で、女は躊躇いもせずに餌に食いつく。
汚らしい租借音をたてながら餌に喰らいつくその姿は確かに醜かった。
しかし、それでも女は美しかった。

オレは我慢できずにまた女に襲い掛かった――――

644 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/09/18(月) 15:51:27.64 ID:zeC3qqZR0
( 'A`)「あの……おれの机は……」
( ゚д゚ )「あぁ? 誰だてめぇ? 知らない人は教室に入ってこないでくださ〜い」

ぎゃはははとつばを飛ばしながら男が笑う。
クラスメート――いや、元クラスメートたちは予想どうりににやにやとした嘲笑をおれに投げかける。
トイレに行っている一瞬の間に、おれはこのクラスの一員から除外されてしまったようだ。
どうしたらいいか分からず、何もせずに突っ立っていると――

( ゚д゚ )「帰れって言ってんのがわかんねぇのか? あぁ!?」

相撲取りのよう男はおれの胸を突く。
押された分だけ口から空気が漏れるが、男はそんなことなど意にかえさず、更に続ける。
( ゚д゚ )「ほれ、かっえっれ! かっえっれ!」

掛け声にあわせて張り手を繰り返す。
男の掛け声に合わせて周りにいた連中も叫びだす。

かっえっれ! かっえっれ!

掛け声は男の周りの連中だけでなく、奥のほうでいつもは無関心を装っている奴らも合わせ始める。

かっえっれ! かっえっれ!

掛け声の輪は更に広がり、遂には教室中の全ての人間が言い始める。

かっえっれ! かっえっれ!

おれは、ただただ怖さでいっぱいになり、逃げるようにその輪から遠ざかった。
いくら逃げてもその声は追いかけて離してくれなかった――――


646 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/09/18(月) 15:52:28.91 ID:zeC3qqZR0
川д川「食べました」

小高い山のように盛られていた生ゴミの餌は、全て女の胃の中に収まった。
外からは分からなくとも、オレは分かる。
今この女の腹の中には汚く腐った物が詰まっている。
間違いなくこの女の中をこのオレが、このオレが汚して、壊してやったのだ。

だのに、まだオレの心は埋まらない。まだオレの怒りは癒されない。
なぜこの女はこんなに普通にしているんだ。なぜこの女は怖がらないんだ。
――なぜ美しさを保っていられんだ。

川д川「どうかしましたか?」
( 'A`)「……」

オレは女を無視して、テレビの電源をつける。
女は床を這いながらオレの傍まで近づき、置物のように隣にすわる。
むき出しの膝が擦れて赤く染まり、その赤さが扇情的にオレの感情を逆撫でした。

オレは一本のビデオを安物のデッキに差し込む。
がちゃがちゃ音を立ててビデオは吸い込まれていき、不鮮明な映像がブラウン管に映し出される。
画面の中央には古びた井戸。
今オレの隣に座っている女はここから出てきた。
奇妙なことだが、画面の奥からこちら側に這いずり、分厚いガラスを越えてその体が現実へと乗り出してきたのだ――――

647 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/09/18(月) 15:53:30.30 ID:zeC3qqZR0
手段は何でもよかった――

一昔前に流行った呪いのビデオ。
当時は怖くて見ることが出来なかった。
けれど――

痛いのは嫌いだ。
辛いのも嫌だ。
苦しいのなんてもってのほか。
けれど――

死にたかった。
全部ぶっ壊れればいいのにとも思った。
けれど、おれには何も壊せない。おれには何も切り開けない。

だからおれは自分を壊すことで終わりにしようと思った。
自分を壊せば世界も壊れる。本気でそう思って――

ただ目に付いただけ。本当にそれだけだった。
物置の中で眠っていた呪いのビデオ。
見れば死んでしまうという恐怖のビデオ。

おれの代わりに引き金を引いてくれる、優しき処刑人。

一瞬の躊躇の後、おれはデッキの中の悪魔と手を繋いだ――――

649 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/09/18(月) 15:54:29.85 ID:zeC3qqZR0
( 'A`)「……帰れよ」
川゚д川「……」

オレは画面の中の井戸を見つめ、隣に座る女に話しかける。

( 'A`)「意味ねぇんだよ」
川゚д川「……」
( 'A`)「意味ねぇんだよ……結局」

結局……オレは何も壊せなかった。
こいつはオレを壊してはくれなかった。
残ったものは空虚な満足と、何も出来ない自分に対しての怒り。
そして、オレと同じ境遇になっても壊れない
オレと同じ事をされてもなお美しい、この女にたいしての嫉妬。

( 'A`)「何のためにここにいんだよ」
川゚д川「……」
( 'A`)「何のためにオレの前にあらわれたんだよ」
川゚д川「……」
( 'A`)「オレを殺すためじゃねぇのかよ」
川゚д川「……」
( 'A`)「オレを殺してくれんじゃねぇのかよ」
川゚д川「……」

女は無言のまま、オレに覆いかぶさるように抱きついてきた。
柔らかな感触がオレを包みこむ。漏れ出すと息が耳元をくすぐる。

川゚д川「私はあなたを殺せません」

甘美なる声が耳孔を通り、オレの脳を大きく揺さぶった――――

651 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/09/18(月) 15:55:30.53 ID:zeC3qqZR0
川д川「私が怖くはないのですか?」

ブラウン管を通り抜けてこちら側に出てきた少女は、開口一番に先のセリフを吐いた。
死への恐怖など元よりなかったし、正直な話――おれはこの少女に見惚れていた。

全身白の薄布を纏い、その下にある曲線は過剰な主張をすることなく、かといってけして発達してないわけではない。
新雪を思い起こさせる柔肌に、やや垂れがちな黒い瞳。
唇の紅は怪しく光を湛え、エロティックな空気を醸し出す。
そして顔の輪郭を覆い、滝のように流れる美しく整った黒髪。
美というモノを追求した姿が今、目の前に体現された。そんな錯覚を覚えた。

川д川「死ぬのが怖くはないのですか?」
( 'A`)「怖くない」

こんな死神に壊されるなら悪くはない。
おれの人生の最後としてみればこれ以上ない、最上の死に方だろう。
だが――

川д川「私はあなたを殺せません」

吐き出された言葉はおれの予想を裏切るものだった。

川д川「私は死にたい人間は殺せません」

少女は訥々語り出す。
殺せないことを。おれを殺すまで帰れないことを。
自分は殺す以外なにも出来ない女であることを。

それから、オレの破壊衝動は全てこの女に向けられるようになった――――

653 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/09/18(月) 15:56:31.51 ID:zeC3qqZR0
川゚д川「私にはこれしかできません」

女は一糸纏わぬ姿を惜し気もなく晒し、オレの暴力の痕を擦りつけるように密着してくる。
手錠はすでに解かれ、自由となった腕を首に絡めて甘えるように呟く。

川゚д川「元気をだしてください。苦しんでいる人を見るのは……辛いのです」

あんなに酷いことをしたのに……あんなに暴力を振るったのに……
なおも女は恐れなかった。なおも女は壊れなかった。

自分にも、こんな風な生き方が出来るのだろうか?
自分にも、恐れずに自己を壊さず生きれるのだろうか?

川゚д川「力を解いてください。あなたは自由に生きられます」
( 'A`)「オレは……生きられる……」
川゚д川「生きられます」

655 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/09/18(月) 15:57:32.76 ID:zeC3qqZR0
女は断言した。
オレのことなのにオレよりも確かに強く。

何度も重ね合わせた肌と肌。
初めて触れ合った肌と肌。
女の体は暖かかった。君の身体は思ったより暖かかった。

おれは初めて、女と心が通い合ったような気がした――――




――――生きる気が……湧きましたね?




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