693 闇キッチンルールによる料理対決 New! 2006/09/13(水) 19:31:11.59 ID:VcpxFM/r0
「レディースアンドジェントルメーーーンッ!」

叫び声と共に薄暗いステージにスポットライトが当たる。
――同時に、興奮に満ちた観衆の声がうなりを上げた。

「さて、今回の料理人は――独自の料理スタイル、熟練された技を持つ伝説の料理人――内藤!」

紹介と共により大きな歓声がホールにこだまする。
パァン、という音と共に自分にスポットライトが当てられる。
――この場所に立つと、無意識のうちに料理人としての血が騒ぐ。

俺は表での料理人という地位を捨てこの世界に入った。
表の世界ではどこか俺に足りなかった物がここにはある。
決して表にはでない、ひっそりと大富豪達が楽しんでいる闇の料理対決。
俺はそこの料理人として調理場に立っていた。

694 闇キッチンルールによる料理対決 New! 2006/09/13(水) 19:35:23.47 ID:VcpxFM/r0
「さぁ、本日の内藤料理人の対戦相手は――鍋の使い手、錬金術と呼ばれた見事な味付け……ドクオ!」

('A`)「あー、ども」

再び歓声が上がる。向かいの調理台に立っている男は…見たことが無い。
正直、期待はずれだと思った。

(  ^ω^)(つまんなそうだお…さっさとやって終わらせるお)

「さぁ、今回のお題は…オムライス! 制限時間は30分!」

(  ^ω^)「オムライスか、楽な仕事だな…」

この料理対決のルールは表の料理対決とは少し異なる。
制限時間内に相手よりもより派手に、インパクトを与え、
なおかつうまい料理を作ることが勝敗の分け目となる。
そして、富豪達はそれらの総合ポイントを踏まえてよいと思ったほうに投票する。



698 闇キッチンルールによる料理対決 New! 2006/09/13(水) 19:42:51.14 ID:VcpxFM/r0
('A`)「よう、あんた」

(  ^ω^)「…ん?」

('A`)「あまりオムライスを舐めないほうがいいぜ? まぁせいぜい楽しませてくれよ」

(  ^ω^)「はっ、負けて泣き喚くのはてめえだお…」

('A`)「ふーん…楽しみにしてるぜ」

多少、頭にきた。
どんな道を通ってきたか知らないが、ここは表世界ほど甘くない。
俺は包丁を舌で舐め、クルクルと手で器用に回した。

(二度と調理台に立てないようにしてやるお…)

「それでは…始め!」

司会者は手元にあったゴングをおもいっきり鳴らした。
ゴングの鈍い金属音と共に、調理対決の幕が切って落とされた。


702 闇キッチンルールによる料理対決 New! 2006/09/13(水) 19:47:01.22 ID:VcpxFM/r0
素早く卵を冷蔵庫から出し、容器の上に思い切り投げる。
卵が容器に落ちる直前に高速の突きを放った。

(  ^ω^)「…はっ!」

卵の殻のみを拳で砕き、殻が落ちる前に素早く集め捨てた。
ちょっとした開始直後のデモンストレーションだ。

「おおーっと! 早速出ました! 内藤料理人の真空卵割り!!」

観客から軽く歓声や口笛が飛ぶ。
反応は上々だ。俺は卵を素早く混ぜながら相手の方をちらりと見た。

('A`)「ほっほっほっと」

ドクオは地味に冷水を入れながら卵をかき混ぜているだけだった。
この勝負決まったな。俺は余裕の笑みを浮かべ、卵に牛乳を入れ混ぜ始める。


703 闇キッチンルールによる料理対決 New! 2006/09/13(水) 19:56:20.23 ID:VcpxFM/r0
(  ^ω^)「ほっほ。サービスですお」

内藤は包丁をクルクルと回し宙に投げ、背中側でキャッチする。
再び観衆からおおー、という声が漏れる。

「さぁぁ余裕の内藤選手! 包丁を回しながら材料を切っているぞ! ドクオ選手はまだ卵をかき混ぜている!」

(  ^ω^)「遅い遅い。そんなスピードじゃこっちじゃやってけませんお」
('A`)「…」

混ぜた卵を素早くフライパンに入れ、左右に転がし膜をつくる。
そしてケチャップを持った手を高く上げ、上空からのクルクルと回すようにケチャップを投下する。

(  ^ω^)「回転ケチャップですおー」

まるで意思を持ったかのように天からクネクネとそそぐケチャップ。
ここ一番の見せ所に観客は総立ちになり、ステージは興奮のるつぼと化した。


705 闇キッチンルールによる料理対決 New! 2006/09/13(水) 20:04:25.29 ID:VcpxFM/r0
「す、すごい! これはもはや芸術のようだ! 内藤選手、ドクオ選手を大きく引き離したー!」

('A`)「…」

ドクオはパフォーマンスに何の反応も起こさず、淡々と通常の手順でオムライスを作る。
観客はすでに内藤だけしか見えていないようであった。

(  ^ω^)「完成しましたお!」

内藤はドン、と湯気を上げているオムライスを皿に乗せ、皿を審査台のほうへ放り投げた。
皿は回転しながら飛んでいき、審査台の上で止まった。
観客は完成と共に内藤へ拍手を送った。

「さぁー内藤選手の調理が終わりました! さ、さて。ドクオ選手のほうはー」

ドクオは無言でオムライスを丁寧に焼き、皿に盛っていた。
観客はドクオに冷たい視線を送り、早く終われ――などと罵倒もどこからか飛んでいた。

('A`)「出来ました」

ドクオはゆっくりと料理を審査台へ運び、自分の調理台に戻った。


710 闇のルールの料理対決 New! 2006/09/13(水) 20:13:54.65 ID:VcpxFM/r0
「調理、終了ーー!!!」

巨大な太鼓が2回叩かれ、観客達にそれぞれ小皿が配られる。
内藤は勝利を確信し、余裕の笑みで自分の調理場へ戻った。

(  ^ω^)「やはり口だけだったお。100年後に出直して来いや」

('A`)「…お前はやっぱりわかってねえな」

(  ^ω^)「負け惜しみ乙www」

('A`)「そういうのは審査が出てから言わないと恥かくぞ」

そんなことを言い合っている間に、審査は行われていった。
俺のオムライスのうまさに、褒め言葉が出ているようだ。


711 闇のルールの料理対決 New! 2006/09/13(水) 20:19:06.84 ID:VcpxFM/r0
「さあ、審査の結果が出たようです!! では、前方のモニターにご注目ください!」

そう言うやいなや巨大なスクリーンがステージ中央に下ろされ、
画面に審査結果がゆっくりと現れてくる。
バーン…という音と共にその結果が完全に表示された。

内藤は、自分の目を疑った。
そこに出ていた結果は自分の予想をまったく裏切る数字が記されていたのだ。


(  ^ω^)「そ、そんな…!?」

内藤 総合ポイント32
ドクオ 総合ポイント 78

714 闇のルールの料理対決 New! 2006/09/13(水) 20:25:28.42 ID:VcpxFM/r0
司会の声が会場に鳴り響く。
まだ現状を認められない内藤はその声すら耳にはいっていなかった。

(  ^ω^)「嘘だお…! こんなのおかしすぎだお!!」

内藤はがっくりとうなだれ、拳で地面を殴り続けた。

「では、勝利者インタビューです!」

司会者がドクオの元に駆け寄り、マイクをドクオに渡した。
ドクオは咳払いをすると、内藤のほうを向いてしゃべり始めた。

('A`)「派手なパフォーマンスをしたお前が負けて、普通に作った俺が勝った…。何故だかわかるか?」

( ;^ω^)「買収だお…畜生…おかしいお!! 謝罪と賠償を求めるお!」

('A`)「やれやれ…自分の下で確かめるんだな」

そう言うとドクオは自分のと、内藤のオムライスを差し出した。

717 闇のルールの料理対決 New! 2006/09/13(水) 20:26:04.56 ID:VcpxFM/r0
訂正 下→舌

726 闇のルールの料理対決 New! 2006/09/13(水) 20:32:42.66 ID:VcpxFM/r0
内藤は取り上げるようにオムライスを取り、食べ比べる。
ドクオの料理を口にした瞬間、内藤はスプーンをその場に落とした。

(  ;ω:)「う、うまいぃぃ!!」

内藤は泣きながらオムライスにがっつき、食べ始めた。
観客は静かにその光景を見つ続けている。
ステージはしん…と静まり返り、内藤のスプーンの音だけが響いていた。

('A`)「お前はパフォーマンスを意識するあまり、おいしいものを作る、という一番大切なことを忘れていた」

('A`)「味見、高温による卵の劣化を防ぐための冷水…全部料理人の基本だ」

ドクオはす…っと息を吸い、会場の天井が壊れるほどの大声を上げた

('A`)「料理は遊びじゃねえんだよ!!!!」

736 闇のルールの料理対決 New! 2006/09/13(水) 20:48:28.19 ID:VcpxFM/r0
(  ;ω:)「う、うわぁぁぁぁああ!!!」

内藤はその場に泣き崩れた。
今、やっとわかったのだ、自分の愚かさに。
たいして努力もせず、言い訳ばかりしてい逃げた料理の世界。
パフォーマンスを磨いてこんな料理対決で生計を立てていた情けなさ。
内藤のプライドは崩れ、ただ泣くことしかできなかった。


会場が静粛に包まれた中、ドクオは泣き崩れた内藤に言う。

('A`)「お前よ…くだらねえことはもうやめにして、もう一度、やりなおさないか?」

(  ;ω:)「僕、僕なんかやとってくれるとこないお…! 僕は料理人失格だお!」

('A`)「だったら、また1からやり直せばいい。…俺の店で?」

(  ;ω:)「え…!?」

ドクオはゆっくりと内藤に手を差し伸べた。

('A`)「俺は、おめぇみたいなおちこぼれをほっておけないんだよな。昔からおせっかいっていうか…な?」

(  ;ω:)「うっうっ…こんな僕でも、やり直せるかお?」

('A`)「やり直せるさ…きっと」

738 闇のルールの料理対決 New! 2006/09/13(水) 20:50:09.52 ID:VcpxFM/r0
ドクオは内藤を引っ張りあげる。
それまで静まっていた観客の一人が拍手をすると、会場は瞬く間に拍手の嵐がおきた。
照れくさそうにドクオは観客の方へ親指を立てた。

('A`)「うちの店は3丁目の郵便局裏、ドクオ定食といいます! 電話番号は0〜3で、出前もお伺いいたしております」

('A`)「ぜひ、ごひいきにしてくださいね」



――こうして、闇料理対決は二度と行われなくなり、
代わりにとある店が大繁盛しましたとさ。



(  ^ω^)
おしまい

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