147 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/09/12(火) 19:18:54.88 ID:gsiH8fxH0
じゃあ俺がその間に投下


 秋も終わりに差し掛かり上着無しでは買い物に行くにも凍えてしまうこの季節。
夜中静まり返る公園に、一人ただベンチに座り俯いている男がいた。

( ^ω^)「……」

時折吹き付ける北風は男を早く家に返そうとしているようであったが、その冷たい風とは対照的に、
男の中では食道が焼ききれるような高温の憎悪が存在していた。
溢れ出る憎悪のままにナイフが取り出された。

( ^ω^)「あとはこのまま……殺すだけ……」

 ――男にはかつて愛する人がいた。
数え切れないほどの日々を共に過ごし、また数えきれないほど愛を分かち合った。
余りにも甘美な時の中で、男はその終わりに待つ恐怖におびえる事無く毎日を過ごしていた。
しかし終わりは余りにも唐突だった。
ある晩彼女は、冷え冷えとしたフローリングに血を吐いて倒れていた。

( ^ω^)「……ツン?」
ξ )ξ「……」

発見した時には既に脈が無かった。死因は毒、恐らく自殺であろうと後に言われた。
どこまでも落ちていくような感覚に、男は絶望した。
まるで四肢をもがれた様な痛み、悲しみ、絶望が頭の中で暴れだす。
このまま彼女が消えてしまうのだろうか。男にはそれが耐え難かった。

148 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/09/12(火) 19:19:27.96 ID:gsiH8fxH0
( ^ω^)「まだ間に合うお……」

男はただ夢中に這いつくばって床に溜まる彼女の血液を口に含み、嚥下した。
そしてキッチンで胸を十字に切りつけると、彼女の血液を手で掬い取り傷口に擦りつけた。
彼女の細胞1つですら彼にとっては惜しかった。
彼女が死んでも、まだ生きている細胞があるかもしれない。

(;^ω^)「ツンを僕に、僕に、僕に――」

男が冷静になって救急車を呼んだのはしばらく後だった。

冷静になってみれば、彼女は毒を服用したのだからそんなことはするべきではない。
しかし男はあのまま平静を取り戻さなければ、もしや彼女を食していたのではないかとも思った。
体自体に刃物傷以外別状は無いものの、心は依然不安定であった。
けれども男にはすがる物があった。
彼女は僕の中に生きている、と。
男はそれを疑う事無く信じていた。彼女の生を感じることが男にとって生きるすべてだったのだから。
ふと、ぐらぐらと視界が揺れたのを感じ、男は軽く頭を押さえるとポケットから小さなケースを
取り出し、中から薬をつまみ出すと水も無しにそれを飲み下した。
男は重度の頭痛持ちで、常に薬を携帯していた。思い返せば彼女も頭痛を訴えてきたことがあった。
やはり何か悩み事があったのだろうか。それなら何故相談してくれなかったのだろう。
男の頭痛は止むことが無かった。

 頭痛を訴えてきたのは彼女が亡くなる1ヶ月くらい前だった。
彼女は男が頭痛薬を常備していることを知っていたため、男に薬を分けてもらえないかと尋ねてきた。
男は多少渋ったものの彼女の辛そうな表情を目の前に、薬の保管場所を教えて携帯できるように
おそろいのケースをあげた。
それから彼女は男と共に食事の後、薬を飲むようになった。

149 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/09/12(火) 19:20:02.65 ID:gsiH8fxH0
ξ゚听)ξ「あれ? ブーン今日の分はもう飲んだ?」
(;^ω^)「お? の、飲んだお」
ξ゚听)ξ「嘘ばっかり! はい、ダメよサボッちゃ」

この薬が継続して飲まないと効果が無いということを知ると、服用をサボりがちな男に
彼女が食後一緒に飲むことを提案したのだ。
それからというもの薬の管理は専ら彼女がしてくれるようになり、男は正直助かっていた。

 ある時、男は自分の事ばかり気にかけている彼女が本当に薬を飲んでいるのかと心配になって
確かめようとしたことがあった。

( ^ω^)(どれどれ……ツンのピルケースの中身は、と)
ξ゚听)ξ「ねぇブーン?」
(;^ω^)「は、はひ!?」

彼女のピルケースを手に取った瞬間にキッチンからいきなり声を掛けられ、驚いた拍子に彼女の
薬を床にばら撒いてしまった。
とりあえずその場は自分のものを落としたことにして、彼女に自分のものを渡し取り繕った。
後からゆっくり拾いながら彼女の薬の数を数えたが、予想通り数が予定より数が多かった。
しばらく置いて男は彼女にちゃんと薬を飲むように伝えたのだが、それも重荷になっていたのだろうか――

最早溢れ出す憎悪は止まらない。ナイフを持つ手も止まらない。
煮えたぎる思いはとめどなく溢れ、ただその行為を助長するだけである。
そして逆手に握られたナイフは月光を冷ややかに反射すると、ずぶり、と男の胸を突き刺した。
一人地面に横たわる男の口から出た最後の言葉。

      「私じゃなくてあんたが死ぬはずだった」

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