353 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします sage New! 2006/09/13(水) 00:56:19.49 ID:b/YXHImb0
時は明治2年。
ここは箱館五稜郭。

土方ドクオは一人、禍々しい何かを目の前にして悩んでいた。
('A`)「……これ、食べてしまうべきか?」
目の前にあるのは鏡餅の欠片。正月を象徴する食い物である。
それはいい。問題は今が5月10日であるという点だ。
('A`)「5ヶ月前の遺物……」

('A`)(あー、どうしようか。5ヶ月だろ? 明らかに腐ってるよな)

('A`)(……)

('A`)(……よし、食べよう。誰もいないし)

心の中で決着をつけてから、ドクオはその、最早白くない物体に手を伸ばす。

('A`)(どーせ、そろそろ終わりだろ……?)

357 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします sage New! 2006/09/13(水) 00:58:07.90 ID:b/YXHImb0
('A`)「ウボァー」
ドクオは腹をおさえながら廊下を、足を引きずるようにして歩いていた。
(´・ω・`)「……ん? どうかしたのかい、ドクオ君」
('A`)「あ、しょぼんさん」
彼の名前は榎本しょぼん。五稜郭を本陣とする、蝦夷共和国の総裁である。
このごろ、総裁の顔は常に暗い。それもそのはずだ。ここ最近、悪い話しか耳に入ってこないのだから。
一ヶ月前に蝦夷に上陸した新政府軍は怒涛の如く各地を制し、残すところはこの箱館のみとなっている。
明日にも、総攻撃が始まるともっぱらのうわさでもあるのだ。
先の戦ではドクオも出陣し、刀を振るった。しかし新政府軍の発達した武器、そして何より兵力で圧倒されていた。
元新撰組の一員である彼にも、できないことは当然、ある

('A`)「いやぁ……餅食ったんですよ、うぇ」
(´・ω・`)「餅……? この時期にか」
('A`)「ええ。正月に食い損ねた奴です」
(´・ω・`)「……君は実に馬鹿だな」
心なしか、しょぼんの顔が和らいだ。
('A`)「ええ、馬鹿ですよ。あらゆる意味においてね」
対するように、ドクオの表情が沈む。
(´・ω・`)「……自虐に走るのはよくないな。仮にも、鬼の副長の名で恐れられていたのだから」

361 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします sage New! 2006/09/13(水) 00:59:13.51 ID:b/YXHImb0
('A`)「……新撰組はもう解散しました。今はなんの肩書きもない、ただの郎党です」
(´・ω・`)「ふん……たしか、近藤君は」
('A`)「死にました。隊長だけじゃない、沖田も、山南も、井上も……」
(´・ω・`)「隊長、か。それを聞く限り、君の心は未だ新撰組に在りそうだが」
('A`)「……」
(´・ω・`)「君を慕っている者もいると聞く。彼らのためにも、君は奮わなければならないよ」
('A`)「……命令ですか」
(´・ω・`)「ああ」


('A`)「……心得ました」
ドクオはそう呟き、一礼した。そしてまた、腹をおさえて歩き始めた。
(´・ω・`)「……」


(´・ω・`)「新撰組……今となっては、不要な存在だ」

362 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします sage New! 2006/09/13(水) 01:02:24.68 ID:b/YXHImb0
('A`)「うぇぇぇえぇえ……腐っても餅ってわけにはいかなかったか」
(・∀ ・)「ドクオさんドクオさん」
('A`)「……またんきか」
斉藤またんき。ドクオを慕い、付き従う者の一人だ。
(・∀ ・)「新政府軍の動きが気になります。明日か、明後日にはここに攻め込んでくるだろうと」
('A`)「らしいな」
(・∀ ・)「……ドクオさん、言ってはいけないことかもしれませんが、我々が勝つ可能性は皆無といえませんか?」
('A`)「……言ってはいけないな」
(・∀ ・)「申し訳ありません」
('A`)「いや……しかし、勝てないからといって、戦う以外の手段があるか?」
(・∀ ・)「降伏……と考えている味方も多いようです」
('A`)「へえ……」
降伏。昔なら考えなかった言葉だ。だが最近、この単語が妙な現実感を匂わせているから困る。
年老いたのか、ドクオは自嘲する。
(・∀ ・)「連戦連敗のこの状況です。そんなことを考えてしまうのも仕方のないことかと」
('A`)「ふうん」
(・∀ ・)「それで、その、ドクオさんの意見を聞かせて欲しいのですが」
('A`)「俺の?」
(・∀ ・)「はい」
近藤隊長ならばどう考えただろう。ドクオは思いを馳せる。
間違いなく、こんなことで迷っている自分を一喝してくれるだろう。
退かずに戦う。これが、全てのはずだ。
('A`)「……戦う」
(・∀ ・)「そうですか!」
またんきの顔が少し輝いた。
('A`)「うれしそうだな」
(・∀ ・)「はい。気負いあってこそのドクオさんだと思ってますから」
('A`)「……はっ」
腐っても新撰組。
そんな言葉が頭に浮かんだ。

363 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします sage New! 2006/09/13(水) 01:03:30.94 ID:b/YXHImb0
翌日のことである。

( ・∀・)「伝令ー! 伝令ー!」
('A`)「あ?」
( ・∀・)「新政府軍、弁天台場を包囲したとの情報が!」
('A`)「……弁天台場……?」

ドクオの心が揺らぐ。
弁天台場。そこは、ドクオの旧友、新撰組の男が護っている場所である。

('A`)「……ッ」
(・∀ ・)「ドクオさん?」
('A`)「……出るぞ」
(・∀ ・)「は、はい?」
('A`)「出陣する。しょぼんさんに伝えろ」

そういって、ドクオは陣屋へと走っていく。

(・∀ ・)「………」

364 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします sage New! 2006/09/13(水) 01:04:40.80 ID:b/YXHImb0
ところ変わって、五稜郭本陣。

(´・ω・`)「ドクオ君が……?」

報告を聞いたしょぼんの顔色が変化する。
それは呆れにも似た表情だった。

(´・ω・`)「……わかった。寡兵だが、援軍を向かわせよう」

(´・ω・`)(……申し訳ないな、ドクオ君。華々しく散ってくれ)

(´・ω・`)「……あぁ、交渉は続ける」

365 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします sage New! 2006/09/13(水) 01:05:51.28 ID:b/YXHImb0
それから、半時もしない頃。

ドクオは馬上にいた。

('A`)「……最期か」

( ,'3 )「ドクオさん!」

ドクオの後から追ってきた隊列。
その先頭の男が片手をあげた。

('A`)「バルケン……」

( ,'3 )「中嶋バルケン以下数百、加勢に参りました!」

('A`)「……」

ドクオはその顔ぶれを眺めた。
不満が窺える。当然かもしれない。先にあるのは死地だ。



366 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします sage New! 2006/09/13(水) 01:06:58.59 ID:b/YXHImb0
背を向け、馬を歩かせるドクオ。

( ,'3 )「ドクオさん……?」
('A`)「バルケン、兵たちに伝えろ」

一度、深く息を吸い込む。



('A`)「退く意思が微塵でもある奴は即刻戻れ。命を賭する覚悟がある奴だけついてこい。戦場で退こうとした奴は」

するり、と抜刀の音がした。

('A`)「俺が……斬る」

367 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします sage New! 2006/09/13(水) 01:08:47.20 ID:b/YXHImb0
結局、その場から立ち去る者は一人としていなかった。
ドクオが怖かったからでも、奮い立ったからでもない。
ただ、無用な誇りが彼らを邪魔したのだ。

<ヽ`∀´>「……面倒ニダ」

隊列の最後尾周辺。
一人の歩兵が声をあげた。

(-_-)「どうしたの?」

他の兵が彼に応じる。

<ヽ`∀´>「大体この戦は敗北確定ニダ。それもわからないニダ? あの先頭にいる奴は」
(-_-)「お、おい。あの人は元新撰組の御方だぞ。雑言を吐いていい相手じゃないよ」
<ヽ`∀´>「新撰組? あんな内部分裂おこしたような団体、知ったこっちゃないニダ」
(-_-)「……」

<ヽ`∀´>「ああぁ、ウリは不幸ニダ。それもこれも全部あの男のせいニダ」
(-_-)「どうでもいいけど、変な気だけは起こすなよ。大体、そんなに嫌なら戻ればよかったじゃないか」
<ヽ`∀´>「ウ、ウリだけ戻るなんてことはできないニダ!」
(-_-)「……お前の思考回路が理解できないよ」
<ヽ`∀´>「あいつ……ウリは絶対生きて帰るニダ」

368 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします sage New! 2006/09/13(水) 01:09:57.30 ID:b/YXHImb0
ドクオ達旧幕軍は新政府軍に、兵力だけでなく武器の性能でも劣っている。敗北は時間の問題だった。

「死ぬ、死んじまうぞ!」「逃げろ、ここはもうダメだ!」

絶望的な悲鳴ばかりが聞こえてくる。ドクオは舌打ちした。

('A`)「……おい、そこの奴!」

敗残兵に向かって叫ぶ。

武士A「は、あ、あなたは」
('A`)「逃げるな」
武士A「は……し、しかし」
('A`)「武士たるもの、敵に背中を見せるのは死して地に伏した時のみだ。ここを護りきれば、まだ勝機はある!」
武士A「……」
('A`)「行くぞ、ついてこい」
武士A「は…は!」

戦場に赴くまでの間に、ドクオ達の軍はわずかに、しかし確実に数を増していた。

369 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします sage New! 2006/09/13(水) 01:11:19.43 ID:b/YXHImb0
( ><)「今回の戦も楽勝なんです!」

弁天台場を囲む敵陣営。
本陣にふんぞり返っているのはわかんないんです。

( <●><●>)「あなたが知りたいことがあるのはわかってます」

そこに入ってきたのは、少しばかり顔が特徴的な男だった。

( ><)「どうしたんですか!」

( <●><●>)「敵の加勢がこちらに向かってきていることはわかってます」

( ><)「ええ! ま、まあいいんです。迎撃してやるんです」

わかんないんですは、余裕の表情を浮かべていた。
所詮、少数だろう、と。

370 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします sage New! 2006/09/13(水) 01:12:18.00 ID:b/YXHImb0
('A`)「かかれ!」

蟻の群れのような敵勢に、ドクオは刀の切っ先を向けた。

それを合図として、またんきやバルケンなどといった武士たちが一斉に攻め寄せる。
敵も銃弾で応戦する。
一瞬にして、その場は

('A`)「……よし」

味方が突っ込んでいくのを確認するとドクオも馬を走らせる。

('A`)「俺の名は土方ドクオ! 腕に覚えのある奴は、俺を討ち取り手柄とせよ!」

空気を震わせるような大音声。
そして、敵味方入り乱れる戦場へと、斬りこんでいった。

371 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします sage New! 2006/09/13(水) 01:13:58.45 ID:b/YXHImb0
敵A「なんだ、あいつ……」

新政府軍の、一人の兵士が泣きそうな声をだした。

敵B「窮鼠猫を噛むってやつか? 冗談じゃねえ、撃て! 撃てぇ!」

降り注ぐ銃弾の雨。状況は完全に新政府軍有利のはずだった。
だが、一人。まさに火のような勢いで兵を切り伏せ、進んでくる男がいた。
土方ドクオである。

敵A「な、なんだよ……あいつは人間じゃねえ、鬼……鬼だ……!」

('A`)「うぉぉおおおおおおおおぁあああああ!」

敵B「ヒ……き、来たぞ!」

('A`)「お前らに足りないもの、それは!
    情熱、理想、思想、思考、気品、優雅さ、勤勉さ!
    そして何よりも!」

刀が、風と兵士の身体を切り裂く。
赤色が宙を舞った。

('A`)「速さが足りない――!」

今のドクオの姿は、あの、幕府御用達の精鋭集団、新撰組の副長そのものだった。

372 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします sage New! 2006/09/13(水) 01:15:17.00 ID:b/YXHImb0
( ><)「な、なんなんですか大体そいつはなんですかなんで銃弾が当たらないんですか魔物ですか!」

報告を聞いて焦るわかんないんです。
それほどに勇猛な武士が存在するとは思ってもいなかったのだ。

( <●><●>)「……かの、真田の猛者のようです」
( ><)「どどどどうすればいいかわかんないんです!」
( <●><●>)「とりあえず、持久戦に持ち込みましょう」

( <●><●>)「……先に疲弊するのが敵方であることはわかってます」

374 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします sage New! 2006/09/13(水) 01:16:13.98 ID:b/YXHImb0
そのとおりだった。
猛々しくも所詮は寡兵。勝ち目などない。
徐々に味方が減っていく。

ドクオも、刀が使えなくなると屍と化した敵や味方の刀でなおも敵と戦っていた。

それにも、限界がある。

('A`)「……はぁ……はぁ」

迫り来た敵を斬り捨てる。これで何人目だろうか。

('A`)「……チッ……」

すでに馬は捨てた。
頬からは赤黒い血が流れ出ている。
気付けば、周囲に味方の姿がほとんどない。

('A`)「やはり無茶なのか……いや……」

('A`)(無茶なことぐらいわかってた……ここには命と誇りを置いていけばそれでいい……だよな、隊長)

('A`)(まだ……まだだ……!)

戦場で果てること。
それは全ての武士の総意であり、願望だと思っていた。

375 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします sage New! 2006/09/13(水) 01:17:18.18 ID:b/YXHImb0
<ヽ`∀´>「ぎゃ、ぎゃあ 敵、敵が」
完全に腰の引けているエラの張った男。無気力を顔で表しているような男が辛うじて彼を守っている状態だ。
(-_-)「ちょ、逃げるなよニダー! 今更逃げられるわけないでしょ! 味方に殺される」
<ヽ`∀´>「……う、だ、だからウリは嫌だったニダ!」
(-_-)「でももうしょうがないじゃん!」
<ヽ`∀´>「……! いいこと思いついたニダ」
(-_-)「え・・・? あ、おい、ニダー!」


あらぬ方向へ駆け出していくニダーというらしい男。
真意は定かでない。

376 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします sage New! 2006/09/13(水) 01:18:12.79 ID:b/YXHImb0
('A`)「終わりかおい!?」

ドクオが吼える。
敵兵は恐れおののいているといった状況だ。

('A`)「……ふう」

周囲を見回す……と、一人の男がこちらに向かってくる。

身構えたが、それはどうやら味方のようだった。

('A`)「ん……何かあったか……?」

<ヽ`∀´>「隊長!」

377 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします sage New! 2006/09/13(水) 01:18:55.70 ID:b/YXHImb0
周囲に敵はいない。
ほとんどドクオが蹴散らした。
一度退却しているのかもしれない。

('A`)「……どうした」

<ヽ`∀´>「は、いえ、その、隊長は無事かと思って」

('A`)「あぁ、大丈夫だ」

<ヽ`∀´>「そ、それはよかったニダ」

('A`)「だが、まだだ。まだ終われない。せめて旧友の力になり、この命尽きるまで刀を振るわねば」

身を翻し、彼方の砲台……弁天台場に目をやるドクオ。

その時だった。

<ヽ`∀´>「お命頂戴!」

('A`)「!」

瞬間。
ドクオのわき腹に、深々と刀が突き刺さった。

379 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします sage New! 2006/09/13(水) 01:19:39.88 ID:b/YXHImb0
崩れ落ちるドクオ。意識が揺らぐ。

<ヽ`∀´>「お前の友人どうこうごときでウリたちまで巻き添えにしてもらっちゃ困るニダ」

吐き捨てるようなセリフ。

<ヽ`∀´>「それにお前は知らないだろうが、旧幕軍は降伏に向けて準備を進めてるニダ。弁天台場も、今やただの捨て駒ニダ」

('A`)(冗談だろ……しょぼんさん……!)

<ヽ`∀´>「ウリたちは逃げさせてもらうニダ」

不敵な笑みを浮かべる男に、ドクオは最期に大きく目を見開いて
そして、ゆっくりと閉じた。

直後、男は狡猾に叫んだ。

<ヽ`∀´>「た、隊長がやられたニダーーーーー!!!」

380 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします sage New! 2006/09/13(水) 01:20:40.19 ID:b/YXHImb0
( ,'3 )(・∀ ・)「ドクオさん!」

すぐさま、声のした方へ駆けつけるまたんきとバルケン。
そこには、すでに息絶えたドクオの姿があった。他には、もう誰もいない。
皆、逃げたのだろうか。

( ,'3 )「ドクオさん……」
(・∀ ・)「くっ……」

本望だったのだろうか。
そんな疑問が二人の脳裏によぎる。
このような死に様が、彼にとって……本望だったのだろうか。

( ,'3 )「またんき」
(・∀ ・)「……あぁ」

二人は涙を捨てた。そして、刀を握った。

( ,'3 )「俺たちも、行こう」
(・∀ ・)「わかった!」

そして二人は駆け出した。
死地へと。

381 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします sage New! 2006/09/13(水) 01:21:33.64 ID:b/YXHImb0
――――――――――


(´・ω・`)「……そう、か。ドクオ君が」

(´・ω・`)「……」

(´・ω・`)「……あぁ、わかっている。弁天台場が落ちることで、こちらの意思もはっきりさせられるというものだ」

(´・ω・`)「降伏……降伏だ」

(´・ω・`)「新撰組のような、好戦的な思想はもう、古びた遺物だ……」

彼はずいぶん前から決心していたのだ。降伏することを。
しかしそれには、未だに旧幕府の思想を掲げる新撰組の連中が邪魔で仕方なかったのだ。
特に、人望と権力のある元副長、土方ドクオが。
戦場で散ったとなれば、誰も文句は言わないだろう。

(´・ω・`)「……ふふ……」

後に、榎本しょぼんは新政府の海軍中将を務めることとなる。



終。
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