179 131 New! 2006/09/12(火) 20:01:54.93 ID:7cGOfIhS0
時も黄昏れる夕暮れ
視界をオレンジ色が支配していた。
朝日にも似ていて眩しい。しかしそれは、夜へと向かう物悲しさも秘めていた。
ドクオの眼下には、一人の美しい女性が静かに胸を上下させていた。

(‘A`)「先生…」

ドクオが彼女に初めて出会ったのはちょうど半年ほど前。
桜舞う春のことだった


182 131 New! 2006/09/12(火) 20:03:33.27 ID:7cGOfIhS0
(*゚ー゚)「こんにちは」

かわいらしい笑顔で挨拶をする。
しぃです、と自己紹介をする彼女にドクオは見とれるばかりだった。

(‘A`)「あああ、どどどどどどどドクオですっ!おおお願いしますっ!」

この春に高校3年生になったドクオは来たる大学受験へと向けて、家庭教師を雇ったのだった。
そしてドクオの担任となったのがしぃ。年齢は二十歳前後といったところか。
さして年は変わらない。
が、ドクオからすれば彼女は充分「大人の女性」であり、ネクラな彼には眩しいほどの魅力に溢れていた。

(*゚ー゚)「ふふっ。じゃあ始めようか!一緒にがんばろうね」


185 131 New! 2006/09/12(火) 20:05:01.78 ID:7cGOfIhS0
楽しかった。
今までまともに女性と会話もしたことのないドクオにとって彼女はまぎれもなく天使だった。
週に3時間を2日。それがしぃといられる時間。

楽しかった。
勉強なんてまるでダメだったドクオに学ぶことの楽しさ、喜びを教えてくれた。
何かきっかけがあれば頑張れるもんだ、そう素直に思えた。

しぃはその日の授業が終わると次に会うまでの課題を残す。
ドクオは会えない時間の唯一の彼女と自分をつなぎ止める課題を必死でやった。
課題をきちっとこなした日は、しぃが喜んでくれる。褒めてくれる。
それだけでドクオは充分だった。

(*゚ー゚)「ドクオくんは偉いね。わたしも課題を出すのが楽しみになっちゃう」


まさしく彼女のおかげで、ドクオの成績はみるみる上昇していった。
嬉しかった。
成績が上がったのももちろん、しぃが自分のことのように喜んでくれるのが嬉しかった。
夏期の模擬試験も好成績を残し、ドクオは志望校に楽々届くほどの実力をつけていた。


187 131 New! 2006/09/12(火) 20:06:13.58 ID:7cGOfIhS0
そんな時だった。
彼女が交通事故にあったのは。

ドクオの家に向かう途中、暴走する集団バイクにはねられたらしい。
幸い、一命は取り留めたものの脳へのダメージが大きく、
『二度と』目は覚まさないだろうと急いで病院に向かったドクオに医者は告げた。
医者は静かに退室し、しぃの親族の到着までドクオはしぃと二人きりになる。


(‘A`)「先生…」



192 131 New! 2006/09/12(火) 20:07:12.36 ID:7cGOfIhS0
(‘A`)「先生…?俺、課題やったんだぜ?」

(‘A`)「見てくれよ、俺の課題」

(‘A`)「苦手だった英文和訳も頑張ったんだぜ?」

(‘A`)「なぁ先生…また褒めてくれよ…」

(‘A`)「こんなんじゃ甘いって?厳しいなぁ先生」

(‘A`)「先生…」

(‘A`)「もう褒めてくれないのかよ先生…」

(‘A`)「もう話せないのかよ」

(‘A`)「もう笑えないのかよ」

(‘A`)「どうやったらまた笑って話せるんだよ先生」

(‘A`)「こんな課題、俺には難しすぎるよ先生」



(‘A`)「先生…先生…」


194 131 New! 2006/09/12(火) 20:08:41.95 ID:7cGOfIhS0
初めて舐めた、淡い恋の味。
すごく甘くて、でも今はなぜかしょっぱくて。
それはあまりにも早く溶けていきそうで少し恐い。



…先生。
俺にたくさん勉強を教えてくれて、ありがとう先生。
たくさん課題をくれてありがとう先生。
俺、先生がいたから頑張れたよ。
うん。今もしっかり生きてる。
大変だけど俺なりに働いてるよ。
でもさ、先生。
先生の与えた最後の課題はまだ解けないよ。
俺の初恋の課題。
まだ答えはわからないよ。
ある意味、究極だよな。
先生。
最後の課題はまだ解けないよ。


                       おわり。

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