872 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/09/07(木) 02:31:33.82 ID:0JdFpBav0

 夏休みも終わりに近づいた、ある日の昼下がり。
「…_…暇だお」
 暇だった。 
 絶望的に暇だった。
 たまらぬ暇であった。
 いや、正確には暇ではないが。  机の上には手付かずの課題が山積みだし。
 しかしやる気が起きなかった。 いや、この表現も正鵠からは程遠い。
 そもそもやる気なんか無かったのだ。
 きっとこれは鬱病のせいだ。
 診断された事は無いが、きっとそうだ。
 この間ネットで見つけた『うつ病診断サイト』なる所で高得点だったし。
 病気ならしょうがないよね、うん。
 などと自分に言い訳をしながら、暇つぶしもとい現実逃避の手段に考えを巡らせる。
「……あいつんチでもいくかお」

873 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします sage New! 2006/09/07(木) 02:32:43.20 ID:0JdFpBav0
 あいつこと、友人のドクオ宅に行く事にした。
 面倒なのでアポは取らない。
 彼女無しバイト無し部活無し趣味も無しで、友人が少々なドクオの事だ。  どうせ家でごろごろしているに決まってる。
 悲しいのは、それらが僕にも当てはまるという事だった。
 ――さて、僕の家から歩いて十秒。
 向かいに建つドクオ邸のチャイムを押す。
 『邸』などと言えば聞こえがいいが、実際のところは普通の一軒家だ。
 しかし出るの遅いな、あいつ。
 まだ寝てるんだろうか。
「おーす……」
 などと考えていた所へ、ドアの向こうからダウナーな挨拶が。
「来たお」
 言わなくても来たのはわかるが、なんとなく言ってみた。
 かちゃりとドアが開き、
「来たなツインビー」
 某名前を書いた人が死ぬノートに登場したLを『不細工にして丸坊主にした』ような、不健康そうな青年が出てきた。

書くの遅くてごめ><

877 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/09/07(木) 03:00:11.49 ID:0JdFpBav0
「山」
「川」
「よし、入れ」
 そんな無意味極まるやり取りを交わし、ドクオ宅へ進入。
 ちなみに今のはアドリブで、問答の内容は毎回変わる。
 ピタリと合う答えが出るまで出題は続き、僕はその度に普段使っていない頭を働かせるのだ。
 正直、こんな事してるから彼女出来ないんだと思う。
「なあ」
 二階にあるドクオの部屋へと階段を上っていると、前を歩くドクオが話しかけてきた。
「なんだお」
「や、なんでもないわ」
「死ねばいいと思うお」
 いや、本当に。
 そうこうしている間に、ドクオの部屋に到着。
 畳敷きの六畳半、中央に鎮座まします怠惰の象徴・万年床。
 以前捲ってみたら、見たことも無いファンタスティックな色合いの黴が生えていた。
 あの光景は僕の脳内で、バイオハザードマーク付きの第一級封印指定と化している。
 ちなみにこの事はドクオに伝えていない。
「なにするよ、ゲームでもやるか? 」
「なんか新しいゲームでも買ったかお? 」
「いや、なんも 」
 人を失望させるのが得意な奴だと、つくづく思う。
「じゃあいいお」

 

883 gdgdだわwwwww New! 2006/09/07(木) 03:26:41.00 ID:0JdFpBav0
 適当に本棚から漫画なんぞを取り出し、読み耽る。
 ドクオも同じ様に、週刊誌やエロ本を退屈そうな表情で眺めていた。
 実にアンニュイ。
「テレビ付けるか」
「どっちでもいいお」
 どうせこの時間帯なんて、ろくな番組やってないし。
「ポチっとな」
 そう言ってテレビの電源を付けるドクオ。
 自爆したら面白いのに。
「ぎゃああああああああっ」
 ――次の瞬間、テレビが爆発した。
 何故か爆風はドクオにのみ指向性を持って襲い掛かり、そのなまっ白い肉体を吹き飛ばした。
 血液と肉片が雨となって降り注ぎ、僕の全身を血肉色に染め上げる。
 右半分が吹き飛んだドクオの生首が僕の膝にどすんと落ちた。
 首は偶然にも、僕を見上げる形で膝に乗った。
 首だけと成り果てたドクオが、僕の目を見て――
「何見てんだよ」
 ドクオの声に、僕は妄想から強制離脱させられる。
 目の前には変わらない現実として、テレビの前で団扇片手に僕を見つめるドクオが居た。
 どうやら無意識にドクオを凝視していたらしい。 
 その間、僕はさぞ呆けた面を晒していた事だろう。
 恥ずかしい。

891 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/09/07(木) 03:53:24.02 ID:0JdFpBav0
「なんか、うぉ、面白い番組やってないのかお?」
 噛んだ。
「噛んだぞ」
 言うな。
 とっさに話題を逸らそうとしてこの様だ。 僕も修行が足りないな。
 何の修行かは知らないが。 
「面白い番組ねえ」
 かったるさを前面に押し出した顔で、ドクオが次々とチャンネルを切り替えていく。
 予想通り、ろくなものがなかった。
 ある番組では、なんたら様ご出産だとレポーターがニコニコ顔してたり。
 またある番組では、地獄が溢れて死者がなんたらかんたらと胡散臭い黒人神父がご高説してたり。
 テポドンが2000発飛んできたが全て迎撃したとか報じてたり。
 E・平八郎とかいう業界最大手の進学塾経営者が、生身での単独宇宙遊泳から帰還したとか。
 まあとにかく、つまらないニュースの全軍突撃オンパレードマーチだった。
「暇だな」
「口に出すなお」
 実感させられるから。
「夏も終わりだな」
 だから口にするなと。 
「なあ」
 話しかけんな、漫画読んでんのに。
「生きてるってなんだろうな」
 こいつまた中二病発症したのか。

895 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/09/07(木) 04:14:30.75 ID:0JdFpBav0
 こうなった時のドクオはめんどくさい。
 下手に取り合うと数時間単位の長丁場に突入する。
 僕は、それをドクオタイムと名付けた。
 それにしても――こういう事考えて鬱々とする俺カッコイイとか思っているのだろうか。
 こういう所がちょっとうざい。
「死ってなんだろうな」
「死ねばわかると思うお」
「その理屈はおかしい、俺は生きてるのに生がわからない」
 失敗した。 まさかさっきのに当てはめてくるとは。
 このままではスーパードクオタイム突入も有り得る。 危険だ、実に危険だ。
「希望ってなんだ? 」
「辞書かwikipediaに載ってると思うお」
「や、言葉の意味を聞いてんじゃなくて」
 わかってるよ、そのくらい。 空気嫁よ。
「何を持って希望とするかは人それぞれだと思うお」
「普遍的な希望は存在しないのか? 」
 ほんとうぜえ。
 帰ろうかな。
 でも帰ったって暇だしなあ。
「愛ってなんだ? 」
 友達に真顔でこういう事言うから彼女できないんだよ、ドクオ。  

904 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/09/07(木) 04:50:09.23 ID:0JdFpBav0
 ドクオがほんとうざいので、僕は切り札を使う事にした。
 僕はすっくと立ち上がり、ドクオへ近づいていく。
 ドクオのまん前で膝を折って、
「こういう事だお」
 キスをした。
「…………ちょ、ちょっ、おま」
 あたふたするドクオ。
 ステレオタイプにも程がある反応だと思う。
「今のが愛と勇気だお……わかったかお?」
 暫くの間、ポカンとしていたドクオは、顔を真っ赤にして、
「あ、はい」
 と頷いた。
 それっきり黙りこむ。
 よし、これでドクオの悩みも一部だけど解決したし、僕はゆっくり漫画が読める。
 流石は切り札だ。
「なあ」
 なんだこいつ、まだ質問があるのか。
「前から思ってたんだけどさ」
 宇宙ってなんだとか言い出したら、即帰ろうと思う。
「なんでお前、女なのに一人称が僕なの? 」
 ほっといてくれ。
「それにしても」
 ドクオは唇をさすりながら、弛緩しきった笑みで言った。
「これが、希望って奴か……」

 
  
 
 
 
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