548 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします sage New! 2006/09/10(日) 00:25:56.36 ID:tw2JKafE0
取り合えず即興で短編が一つ出来たから投下

夕暮れの中に蜩の鳴き声が響いている。
色彩豊かな世界も、今は紅一色に染まる。
夏の凶悪な暑さは既に薄れ、
秋の空気がすぐそこまで漂ってきている様だ。

俺はその中に立っている。
いや、立ち尽くしていると言っても良い。
目の前には女の子が立っている。
初恋のあの子ではない。

彼女は俺に手紙を渡した。
差出人はあの子だった。

――家に帰ってから読んで欲しいだってよ。

そう言い残すと、紅の中に彼女は去っていく。
その背中を追いかける事は、俺にはできなかった。


549 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします sage New! 2006/09/10(日) 00:26:37.10 ID:tw2JKafE0
気が付くと辺りは暗くなっていて、星は空に瞬いている。
なんか無性に馬鹿馬鹿しくなり、俺は暗闇の中を黙々と歩いた。
秋の気配はより一層高まり、虫の音が満ちている。
遠くで祭囃子が聞こえる。
街に古くから伝わる伝統の実りを願う祭り。

――そういえば、もうそんな時期か

目の前の視界が突然開けた。
そこからは、街の全てが見える。
大通りは祭りで賑わい、そこだけ輝いている様に見えた。

空と陸にそれぞれ光の川が流れている。
その雄大な流れは、過去からずっと続いてきているのだろう。
そして、これから先もずっと。

550 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします sage New! 2006/09/10(日) 00:27:36.21 ID:tw2JKafE0
俺は、手紙を開いてみた。
中に小さな文字で、来なかった理由を書き連ねてあった。
暗さで良く内容は把握できないが、
どうやら俺の事が嫌いな訳ではなく、突然の引越しらしい。
他にも色々書いてあるが、今はその事が判れば十分だった。

俺はその場に腰を下ろし、これからの事を思う。
不思議と、もう悲しみや寂しさは無かった。
彼女に会える時が来るかどうかはわからないが、
それでも俺は彼女を忘れる事は無いだろう。

祭囃子は、子供たちの声と供に街の中に響き渡る。
町の中央の広場から尾を引きながら何かが飛び上がった。
そして天の川にパッと花が開く。

空の花が咲いた少し後に、音が続く。
そしてまた、それに続くように花が咲く。

華々しくも儚く散る花火は夏の終わりを告げているようだ。
そんな事を考えていたら、

秋の風が俺の頬をかすめるのを感じた。


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