833 共謀の果て New! 2006/08/28(月) 21:08:31.54 ID:OgVgyaeGO
郵便受けに入っていた、名前も何もないまっさらな封筒。
伊藤は首を傾げつつ、表にしたり裏にしたり、透かしてみたり。
重量、手触りからするとCDケースのようだ。

('、`*川「何?……気持ち悪い」

中にはやっぱりCDが入っていた。
歌手は175R。懐かしい。

伊藤の脳裏に旧友の姿が浮かぶ。
陰欝で、人見知りで、でもやさしい彼女。

――そういえば、貞子がよく聞いてたっけ。コレ。

ケースを開くと、一枚の紙が入っていた。
ノートを破っただけの粗末なメモ。

『今夜 バーボンハウス』

時間も何も書いてない。
ただ、これだけ。
今夜、というのは今日の事だろう。
かなり怪しいが、バーボンハウスにはショボンもいる。行かない理由は無い。

('、`*川「……ま、タダ酒も飲めるしね」

伊藤はCDを弄びながら、外出の準備を始める。
机の上のメモが床に落ちた。

834 共謀の果て New! 2006/08/28(月) 21:09:30.29 ID:OgVgyaeGO
小気味よいベルの音が店内に鳴り、ショボンがグラスを磨く手を止める。
ドアに向き、恭しく一礼。

(´・ω・`)「やぁ、ようこそバーボンハウスへ。
このテキーラは……なんだ、伊藤じゃないか」

現われた姿を確認し、出したテキーラを一息に飲み干すショボン。
伊藤はテキーラを飲まないのだ。

('、`;川「仕事中に……」

(´・ω・`)「どうせ客も居ないからね……どうぞ」

カウンターに座り、出されたカクテルを飲みつつ、店内をしみじみと眺める伊藤。
唐突にショボンが口を開いた。

(´・ω・`)「……自慢じゃないけど、この店は酒が旨い。
内装もかなり気を使っている。
……なんで客が来ないのかな」

確かにショボンの言う通りだ。
喉を潤すカクテルは、柔らかく胃を満たすし、店内のインテリアだってショボンの細やかな配慮が行き届いている。
BGMはベッシー・スミスのギターブルース。
まさしく都会のオアシスと言っても過言じゃない。

――店長のうなだれた顔が最大の原因なんじゃ……。

836 共謀の果て New! 2006/08/28(月) 21:10:26.51 ID:OgVgyaeGO
('、`*川「……上辺しか見ない人間が多すぎるわね」

そうか、とだけショボンは言い、空いた伊藤のカクテルグラスを下げる。
ピックで氷を砕くショボンの疲れた背中を伊藤はぼんやりと見つめていた。

('、`*川「――もしも」

ショボンが振り向く。

('、`;川「あ、いや、その……なんでもない」

疑問府を表情に張り付かせながらも、ショボンは再び作業に戻る。
砕きたての氷を、二つのグラスに入れて、ウィスキーを薄めずに。
マスターショボンのオン・ザ・ロック。

(´・ω・`)「乾杯」

ウィスキーが波を起こし、氷が踊る。
二人は同時にグラスに口を付けた。

――もしも、私がこの店にいれば、貴方の疲れを癒す事が出来るかもしれない。

――言える訳が無いか。私はツン以上に素直じゃないから。

伊藤は目を伏せ、グラスに力を込めた。

837 共謀の果て New! 2006/08/28(月) 21:11:57.61 ID:OgVgyaeGO
从'ー'从「あぁ〜、何をやっているんですか〜」

川;゚д川「……ちょ、渡辺さん!」

カウンターの奥からドタバタと二人の女がもつれ出てくる。
貞子と渡辺だ。伊藤の親友でもある。
本来ならば店のドアから入って来るのが正しい。

('、`;川「……どういう事?」

伊藤は戸惑いながら立ち上がり、渡辺に尋ねた。
彼女の足は震えている。それは羞恥の為だろうか。

从'ー'从「あのですね〜、伊藤さんはショボンさんが好きでしょ〜?
ショボンさんも伊藤さんが好きなんですよぉ〜」

川;゚д川「渡辺さんっ!」

あまりにも明け透けに言い放つ渡辺の口を、貞子が押さえた。
藻掻く渡辺を気にせず、恐る恐る伊藤を伺う。
貞子にとっては、伊藤は頼れる先輩であり、恐怖だったのだ。

839 共謀の果て New! 2006/08/28(月) 21:15:06.10 ID:OgVgyaeGO
(;´・ω・`)「すまなかった、伊藤。でも……ゥブッ!」

ショボンの顔にウィスキーがぶちまけられた。

(;、;#川「馬鹿にしないでよ!
人の事面白がって観察なんかして楽しい!?
……サイッテー!!」

伊藤はバッグからCDを取出し、カウンターに叩きつけ、店を飛び出した。
175RのCD。貞子に返す為のモノ。
伊藤にとって、友人達との決別を意味していた。

川;゚д川「ショボンさんっ!!」

貞子が慌てて叫ぶ。
渡辺の拘束は解かない。
付いていってしまうからだ。

(;´・ω・`)「ああっ!」

タオルで顔を拭き終えたショボンが、カウンターを乗り越え店を飛び出す。
普段の彼からは、想像も出来ない粗暴な行いだった。

840 共謀の果て New! 2006/08/28(月) 21:15:49.29 ID:OgVgyaeGO
静寂が戻った店に取り残された二人。
貞子が渡辺に問い掛ける。

川д川「……二人が上手くいけばいいですね。」

渡辺からの返事はない。
彼女は今、綺麗なお花畑を走り回っている。
ずっと貞子に口を塞がれていて――彼女は、風邪を引いていたのだった。

从 ー 从「……」

川;゚д川「……嘘?」

842 共謀の果て New! 2006/08/28(月) 21:17:00.00 ID:OgVgyaeGO
(;´・ω・`)「待って!伊藤っ!!」

酒の匂いと汗を振り撒き、街を駆けるショボン。
眼前には伊藤の背中が見えている。
走るショボンの顔に水滴が当たった。
雨、ではない。

(;´・ω・`)「これは、涙?」

ショボンは自分を責める。
自分の言葉を使わず、伊藤に言わせようとした事を。
彼女を傷つけてしまった事を。

だから、どうしても追い付かなければいけない。

――追い付いて――。

(;´・ω・`)「え?」

瞳を襲う光に、思わず足を止め、光の正体を確かめる。
クラクションと、叫び声と、ブレーキ音。
宙を舞う身体。
迫る地面。

「ゔ……あ゙……。
い゙……ど……」

ショボンは何かを捕まえようと、手を伸ばす。
その願いは、――叶わなかった。

843 共謀の果て New! 2006/08/28(月) 21:18:05.74 ID:OgVgyaeGO
(;、;*川「何よ……みんなして……」

立ち止まり、肩で息をしながら伊藤はバッグから携帯を取り出した。
ショボン、貞子、渡辺。
ディスプレイに映し出される番号と名前を、次々と消去してゆく。

消去せずとも、彼らと連絡をする事は二度と無いという事を、伊藤は知らない。
ショボン、渡辺は死に、貞子は警察に捕まってしまう事も知らない。

これから襲う更なる悲しみに気付かず、伊藤はふらふらと帰り路を辿る。

パトカーと救急車が、伊藤の脇をすりぬけて行った。

終わり

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