49 ( ^ω^)高校球児ブーン sage New! 2006/08/29(火) 00:19:14.28 ID:Ynn9pvve0
ジリジリと太陽が照り付ける。今日は今夏の最高気温を記録したそうだ
通りで、僕はこんなにも汗をかいているんだな、とブーンは思った
ユニフォームは今日も汗臭い。昨日も入念にファブリーズをしておいたはずなんだけどな

( ^ω^)「ちくしょう…暑いお………」

彼の守る外野のど真ん中では、容赦のない日差しが彼の体を焼くように降りかかっていた

50 ( ^ω^)高校球児ブーン sage New! 2006/08/29(火) 00:20:32.72 ID:Ynn9pvve0
今日は高校野球県大会準決勝、VIP高校 対 ラウンジ高校
あと二つで彼らが夢にまで見た甲子園への切符が手に入る
三年のブーンにとっては最後のチャンスなのだ
球場はブラスバンドと応援団の大声援に包まれて、さらに温度を上げていた
私は彼が一番近くに見える外野席のバックスクリーンの日陰で、静かに彼の後ろ姿を眺めていた

ξ゚听)ξ「ブーン………」

いつもふざけてばかりいるアイツは、野球帽を被ると妙にりりしく見える
まあおちゃらけてるブーンもけっkk…ってなに言わすのよ!!!別にあんなヤツのことなんt(ry


試合はVIP高校、つまりブーンや私の学校が一点差でリード
エースのギコ君はちょっと前に「大会中は俺の独り舞台にできるくらい調子がいいぞギコハハハ!!」
となんとも頼もしいことを言っていた
今日も球は走っているみたいで、県内最強打線とか言われてるラウンジ高校を八回までわずか三安打の無四球に抑えている

51 ( ^ω^)高校球児ブーン sage New! 2006/08/29(火) 00:23:26.88 ID:Ynn9pvve0
九回表、VIP高校の最後の攻撃となってほしい、攻撃は先頭打者のブーンがショートへの内野安打
ブーンの守備範囲の広さと盗塁率の良さは県内でも有名なんだそうだ。長打力のなさや肩の悪さも
みんな足の速さで補っている。そういえば、中学の陸上大会では県大会でもいい所まで行ったんだっけ


次の打者はセオリー通りの送りバント、相手ピッチャーの牽制の多さにブーンは盗塁する機会を失ってしまった
一死二塁、バッターにはギコ君。準々決勝ではレフトスタンドに大きなホームランを放っていた
どちらにせよ外野に抜ければブーンの足なら本塁に到達できるだろう
ここまで来ての追加点は一点でも欲しいものだ
だがラウンジ高の内外野はおのずと守備位置を下げていった

ボール、ボールと続いた三球目、ストライクを取りにいった甘いストレート、ギコ君は見逃さなかった


―――快音が響く。打球は左中間に高く舞い上がる、誰もがいった!と思ったはずの当たりだった

(,,゚Д゚)「もらった!!」

( ^ω^)「これは、いったお!」

しかしレフトがフェンス際、なんとか追いつきキャッチ。スタンドは歓声に包まれた
あわててブーンは二塁に戻る。二死二塁、次の打者は、いともあっさりと三球三振に倒れてしまった

チェンジ。ゆっくりとギコ君はマウンドへ向かう。ブーンはこの回の走塁に自分の守備位置までの全力疾走、
相変わらずアイツは単純だな、と私は思った

53 ( ^ω^)高校球児ブーン sage New! 2006/08/29(火) 00:24:59.18 ID:Ynn9pvve0
九回裏の守備、珍しくギコは先頭打者に四球を与えた。フルカウントからのストレート、
球審は少し間を置き、右手は上がらなかった。それほどきわどかったのだろう

(,,゚Д゚)「ちくしょう、狙ったところにしっかり投げられたんだがな」

(´・ω・`)「仕方ないさ。あのコースはさすがに厳しかったかもね」

キャプテンでギコの女房役をつとめるショボンは、いつも通りの落ち着いた口調で返答した
涼しい顔をしているが結構な量の汗をかいている。やはりこの暑い日にマスクはきついようだ


(,,゚Д゚)「それにしても暑いなゴルァ。まったく倒れそうだ」

(´・ω・`)「倒れるなら試合が終わってからにして欲しいな。僕がしっかり介抱してあげるからさ…」

(;゚Д゚)「…ゴメンなさい遠慮させてください…」

(´・ω・`)「チッ…。まあ最後は冗談だから。調子はいいみたいだし、あと一回だ。頑張ろう」

ショボンはゆっくりと本塁の方へと帰っていった

(;゚Д゚)「本当かよ……」

確かに今の自分の調子のよさには実感があった。しかし、
ラウンジ高相手にこれだけ投げれるとは思ってもみなかった

(,,゚Д゚)「…あと三人だけだ。…ゴルァ」

55 ( ^ω^)高校球児ブーン sage New! 2006/08/29(火) 00:26:51.26 ID:Ynn9pvve0
無死一塁、ギコはランナーを警戒しつつ一球目、すかさずバッターは送りバント
一塁際、強めに転がった打球はギコと一塁手の間に狙ったかのように転がった
ギコと一塁手は見合ってしまい、無死一塁二塁。アルプスからの声援はますます大きくなったように聞こえた

(,,゚Д゚)「すまんかった…」

(´・ω・`)「謝ることじゃないだろう。うまく転がりすぎだよあのバントは」

内野陣がマウンドに集まる。こういったピンチ時のショボンの励ましほど強みになるものはない、と内野全員が思っていた

(´・ω・`)「それならば…レッツくそみs」

(;゚Д゚)「それ以上はやめろゴルァ」

…彼(ショボン)はエスパーなのだろうか…?

(´・ω・`)「ふぅ…、とりあえずだ、こっちがリードしているんだ。みんなも気負いなどは感じないで欲しい」

そういい残すとあっさりショボンは戻っていった

(,,゚Д゚)「相変わらず落ち着いてるなアイツは…」

ギコも周りに一声かけてプレートを踏みつけた

56 ( ^ω^)高校球児ブーン sage New! 2006/08/29(火) 00:30:13.45 ID:Ynn9pvve0
そこから少し離れたブーンはあたふたしつつマウンドを見守っていた

(;^ω^)「なんだか怪しい雲行きになってきたお…。ギコ、頑張ってくれだお」

ξ;゚听)ξ「大丈夫かしら…。逆転のランナーまで出ちゃったわ」

私は気づいたらセンターのフェンス手前の席まで前にまで来ていた。手には汗が握られている
ブーンは時々あたしの方を見て、少し疲れているような、それでもいつもの柔らかい笑顔を見せてくれた

ξ///)ξ「(な、なによ!ちょっとときめいちゃったじゃないの!!)」


さて、試合は無死一二塁、バッターは上位打線の一番からだ
ラウンジ高の一番から六番は今大会で一人二本以上本塁打を打っているというおっかなさだ

(;゚Д゚)「(正直甘い球なんて一球も投げられないなゴルァ)」

しかも相手は一番、足も速い、正直今一番相手にしたくないバッターである
ショボンは右打者の相手に外角攻めのサイン。なにか策があるのか

ボール、ストライク、ボールとバッティングカウントの四球目
――――ここでバッターは、     すかさずバント
ギコの威力のある球の威力が抑えられ、一塁にうまく転がった…
と思いきや一塁手が投球モーション中に大きく前進、すぐさま捕球
すぐさまサードへ送球、ランナーの決死のヘッドスライディングもむなしく、塁審は高々と右手を上げた

58 ( ^ω^)高校球児ブーン sage New! 2006/08/29(火) 00:31:50.07 ID:Ynn9pvve0
どっとVIP高側のスタンドが沸き溢れる。応援団のテンションも今が最高潮なことだろう

(´・ω・`)「(このアウトは大きい…っ。今の流れは離したくないな)」

(,,゚Д゚)「あと…二人」

(;^ω^)「あと二人だお………」

ξ゚听)ξ「あと二人…頑張って…!」


一死一二塁、バッターは二番、この打者も去年まで三番を任されていた強打者である

(;゚Д゚)「(まったく…嫌なバッターばかりでてくるなゴルァ)」

(´・ω・`)「(このバッターはどうも曲者だ。これといったウィークポイントがないとどうもやりにくい)」

ショボンは迷った末に変化球主体で狙い球を絞らせない作戦に出た
安易な考えだったかもしれないがこういった万能なバッターにはこれぐらいしか策が思いつかなかったのだ

スライダー、カーブ、内角へのストレートなどで球を散らす
相手もストライク、ボールをきっちり見分けファールで粘る
確か粘りに粘られたカウント2、2の八球目だった

59 ( ^ω^)高校球児ブーン sage New! 2006/08/29(火) 00:33:55.90 ID:Ynn9pvve0
――――表に続いて快音が響いた。打球はギコの頭を越えセンター、ブーンの守る所に飛んできた
二塁ランナーはすでに三塁を回りかけていた

(,,゚Д゚)「っつ!!」

(´・ω・`)「 センター!!! 」

彼、ブーンは快音が響いた瞬間に走り出していた。すぐさま白球を掴みその勢いで本塁へ返球

(#^ω^)「おおおおおおおおおおおお!!!」

練習ではいつも明後日の方向に飛んでいくブーンの送球は、しっかりと、本塁上に返球された
ボールを掴んだショボンとランナーとが交錯する。ホームは砂埃が舞い上がった

62 ( ^ω^)高校球児ブーン sage New! 2006/08/29(火) 00:35:26.26 ID:Ynn9pvve0
「……アウトオオオオッ!!!」

球審は大きく叫んだ

(,,゚Д゚)「しゃああああああ!!」

(´・ω・`)「よし!」

内外野におもわず笑みがこぼれる。アルプスはもう祭りのようだ

( ^ω^)「…やったお…………!!」

ξ*゚听)ξ「すごいブーン…やるじゃない!」

私も一人で喜んでしまった。しかしまだ二死。次はクリーンナップである


状況は二死二塁三塁、ブーンの返球の隙に二者とも進塁していたのだ
バッターは三番、この男、本来なら四番を任されているのだが前の試合、その前と無安打であり
様子見の三番と格下げされたのであった

(´・ω・`)「(しかしラウンジの四番を任されてるんだ、油断はできまい)」

(,,゚Д゚)「まったく、手が抜けないな…フォルァ」

ギコも流石に疲れていた。これだけの晴天、炎天下では体力もいつもの倍は消費されてるのではないか、
と思ってしまうほどであった

プレートをしっかり踏み、第一球、ギコには球場の大声援はなぜか聞こえなかった

65 ( ^ω^)高校球児ブーン sage>>63何気なくありがとう(´;ω;`) New! 2006/08/29(火) 00:38:36.29 ID:Ynn9pvve0
――――いきなりの快音。わっとわきあがるスタンド、だが三塁フェンス際に鋭く切れていった

(;゚Д゚)「これはやばいなゴルァ…」

(;´・ω・`)「(さすがに辛くなってきたな。もう少しボール球を先行させるか…)」

(;^ω^)「あうあう…大丈夫かお?」

ブーンは妙に汗をかき始めた。なにか嫌な予感がした


二、三、四球目、ときわどいボール球が続く。カウントは1、3
ラウンジ側スタンドからは少しブーイングが漏れつつある

(#゚Д゚)「(うるせえなゴルァ。こっちだって取れるならストライク投げたいんだよ)」

五球目、徹底した外角攻めから一転して内角に早いストレート。これにはバッターも思わず手が出たが
完全にタイミングが遅れた。カウントは2、3

VIP側から「あと一球」コールが叫ばれる。ラウンジも負けじと声を出す

(´・ω・`)「(よし、これなら…。)」

69 ( ^ω^)高校球児ブーン sage >>64d(´;ω;`) New! 2006/08/29(火) 00:40:16.37 ID:Ynn9pvve0
ショボンはサインを出す。ギコはゆっくりとうなずく。ランナーに一瞥をくれ、
ゆっくりと投球。サインは、外角へ逃げるカーブ







のはずだった


(;゚Д゚)「しまった!!!」

(;´・ω・`)「なにっ!??」

汗でボールが滑ったのか、ボールに勢いはなく、やんわりとした軌道でキャッチャーミットへ…は吸い込まれず
快音を残してまたしてもセンター方向へと飛んでいった

70 ( ^ω^)高校球児ブーン sage みんなd New! 2006/08/29(火) 00:41:58.83 ID:Ynn9pvve0
(;^ω^)「これは大きいお!!」

ブーンは高々く舞い上がった打球を、ひたすら追いかけた。少しレフト寄り、スタンドにはなんとか届かないか
しかしこれは長打コース、落としてしまったらその瞬間に負けが決まってしまうようなものである
自慢の足でも追いつくことができるのか、そんな考えすら気にせずブーンは走った

(;゚Д゚)「頼んだブーン!!!」

(´・ω・`)「頑張るんだ!!」

ξ;゚听)ξ「ブーン…頑張ってー!!!」

⊂ニニ(#^ω^)ニ⊃「おおおおおおお!!!!」

――――あと少しで地面に落ちる、そんな瞬間、ブーンは打球に向かって思いっきり飛び込んだ

72 ( ^ω^)高校球児ブーン sage New! 2006/08/29(火) 00:43:33.46 ID:Ynn9pvve0











しばらくして、ラウンジ側で歓声が、VIP高側スタンドは悲鳴が上がった




左中間には倒れ転げているブーン、その後ろにはフェンスまで転がろうとしている白球が
左翼手は呆然とボールを見つめている。内野手の何人か、はその場で泣き崩れた

75 ( ^ω^)高校球児ブーン sage New! 2006/08/29(火) 00:45:04.17 ID:Ynn9pvve0




(;゚Д゚)「………………」

ギコは何が起きたかわからなかったようで、ベンチ前で抱き合うラウンジ高の選手をみて、



マウンドで、帽子を目深に被りなおした



(´・ω・`)「(…負けたのか。あと、少しだった…」

ショボンはクールな表情は崩さず、静かに選手の皆を整列に呼び集めようとしていた

79 ( ^ω^)高校球児ブーン sage New! 2006/08/29(火) 00:46:54.79 ID:Ynn9pvve0
―――ブーンはまだ起き上がれないでいた。起きなければ、という意思はあるのだが、どうにも体が動かない
試合が終わったことがわかると、疲れが一気にでた気がした

( 'ω`)「……僕はボールを取れなかったのかお…?」

左翼手が整列に呼びに来た。彼の目には涙がたまっていた

( 'ω`)「そうか…負けたのかお…」

起き上がる気力が沸かなかった。起き上がったら自分の夏が、終わってしまう気がした

( ;ω;)「ううっ…。うわあああああああああああん!!」

突然、彼は泣き出した。理由はなんだろう。悔しさか、悲しさか、ブーンにはそれすらわからないだろう
ただ泣きたくなった。それだけなのだ

83 ( ^ω^)高校球児ブーン sage New! 2006/08/29(火) 00:48:32.38 ID:Ynn9pvve0
ξ゚听)ξ「ブーン…」

私は倒れこんでいるブーンを見ていた。なかなか起き上がらないのを心配したけど、
特にケガとかそういうものではないみたいだ
突然彼が泣き出した。観衆の目など気にせず、大声でわんわんと

なにやってんのよ男の癖に…

ξ;凵G)ξ「馬鹿じゃないのまったく…グスッ」

気づいたら私も泣いていた。とめどなく出てくる涙をふき取りもせずに


( ;ω;)「あと…あと少しだったんだお…あと少し手が伸ばせれば、うっ…」

未だに転がったままのブーンの鼻に、汗の臭いと芝生の青臭い臭いが入ってきた
遠くでは、彼らの夏が終わる合図のサイレンが鳴り始めていた

                                              
                                             おしまい

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