398 ◆dOKfgIN.m6 タイトル未定 New! 2006/08/29(火) 23:20:58.97 ID:52+VtKvzO
――カーンカーン

鉄を打つ音が絶え間なく響く。
屋根から突き出した大きな煙突からは、大量の煙が立ち上っていた。
この町の名はksk。剣を造る事を生業としている者が多く住んでいる。
その町の一角に、こじんまりとした家があった。

(#^ω^)「師匠のわからずや!」

(,,゚Д゚)「ブーン!どこ行くんだゴルァ!」

ブーンと呼ばれた少年は勢い良く扉を開け、家を飛び出す。
そして、まるで鳥のように腕を広げ、町の外れにある川まで走って行った。

(#^ω^)「なんで師匠は剣を研がないんだお!
     あんな綺麗な剣に仕上げられるのに、もったいないお!」

大声を上げ、傍にあった石を川へ放り投げる。
石は数度水面を跳ね、やがて沈んでゆく。
彼は師匠のやり方に憤りを感じていた。
師匠の腕は町一番の研ぎ師だと有名だったが、自分の認めた人にしか仕事をしない。
何か信念があるのだろうが、その理由を話さない。
彼は考えていた。

( ^ω^)「おっ?」

一人川辺で悪態をついていると、ひらひらと1枚の紙切れが、風に乗って飛んできた。
それはどんどんと高度を下げ、やがてブーンの傍へと落ちてきた。
彼はきまぐれにそれを拾い上げ、読んでみる。

400 ◆dOKfgIN.m6 タイトル未定 New! 2006/08/29(火) 23:21:54.39 ID:52+VtKvzO
【剣術大会開催のお知らせ】

VIP国民剣士達に告ぐ。
今年で我がVIP国も建国500年になる。
その記念として、来たる9月13日に、剣術大会を開催することとなった。

優勝者には『金剛石』と金一封を与える。
奮って参加してほしい。
なお、この紙は30秒後に自動消滅する。






・・・というのはガセ。

開催場所:VIP城内
開催時間:9月13日 正午
参加資格:剣を所有していること


最後の部分は国王の冗談だろうか。それとも、ウケると思った馬鹿な作者のジョークだろうか。
どちらにせよ、つまらないことには変わりはなかった。
そんな所は無視して、賞品の部分に注目する。

( ^ω^)「金剛石かお!・・・欲しいけど、僕には無理だお」

ブーンは自分の腰にぶら下げた剣に目を向ける。

401 ◆dOKfgIN.m6 タイトル未定 New! 2006/08/29(火) 23:22:52.68 ID:52+VtKvzO
この国では、生まれた時から剣を与えられている。
剣の柄には印が刻んであり、柄の中心には、VIP国でしか採れない小さな赤い宝石が埋め込まれていた。
それがVIP国民である証である。

( ^ω^)「・・・あと3日しかないお。でも、金剛石が・・・」

ぶつぶつと独り言を呟きながら、グルグルとその場で歩き回る。
変な癖だが、考える時はこれば一番いいらしい。

彼が欲しがる金剛石とは、VIP国でも稀にしか採れないとても珍しい鉱石である。
それは、王家かよほどの資産家でないと手に入らないほど高価なもので、刀身に加工すると切れ味が格段に増すという。
ブーンはそれを手に入れたかったが、剣を研ぐ事はできても、振るう事ができない為落胆した。
自分の分身である剣を、使わないにしろ、強化したいと思うのは至極当然だった。

( ^ω^)「うーん・・・そうだお!」

ぴたりと歩き回るのを止め、何か思いついたのか急に町へと走る。
走ると言っても、町までの距離はほんの数十メートルだが。
やがて一軒のボロい家が見えてきた。ブーンはその家の前に立ち止まり、ノックもせずドアノブを回す。
カチャリという音がして、苦もなくドアは開いた。

「またお前か。入る時はノックしろって毎回言ってるだろーが」

部屋の奥から、細身の男が出てくる。

( ^ω^)「そんなことよりコレを見るお!」

文句を垂れる男に、ぶしつけに紙切れを押し付けた。
どうやらブーンは、人の話をよく聞かない空気詠み人知らずのようである。
一方男は、怒る事無く紙切れを受け取り、椅子に座るよう促した。

402 ◆dOKfgIN.m6 タイトル未定 New! 2006/08/29(火) 23:23:43.59 ID:52+VtKvzO
('A`)「あぁ、コレのことか。もう一月も前に発表されたぜ?」

(;^ω^)「そ、そうなのかお?」

('A`)「あぁ。みんな剣を鍛える為に躍起になってやがる。俺は恐いからいかねぇけどな」

( ^ω^)「そうかお・・・。ドクオならイケると思ったけど」

ドクオと呼ばれた男は、人呼吸置いて話しだす。

('A`)「多分参加者は数千人はくだらない。
    正直勝てる見込みはないだろうな。ギコさん――お前の師匠が剣を鍛えてくれるってんなら話は別だけどよ」

ブーンは「やっぱりか」という表情を見せ、肩を落とした。
研ぎ師とは、刀身を磨くだけでなく、剣の加工・彩飾・強化も行っている。
それほどまでに、ギコの研ぐ剣は素晴らしいものだった。

('A`)「そういやギコさんが人を選ぶようになったのって、いつからだっけ」

( ^ω^)「僕が弟子入りした時には、もうああだったお」

ブーンが弟子入りしたのは半年前。ギコの手掛けた剣を見て、憧れていたのだ。
もちろん憧れだけではどうにもならない。
なんとか頼み込み、半ば無理矢理転がり込んだブーンは、研ぎ師としての腕をメキメキと上げていた。

( ^ω^)「そういえば、一月くらい前に、貴族が来たんだお」

('A`)「あの冴えない顔した野郎か。俺も町を出ていく所を見たぜ」

なんとか手掛かりにならないかと、2人はその来訪者のことを思い出す。

406 ◆dOKfgIN.m6 タイトル未定 New! 2006/08/29(火) 23:24:53.34 ID:52+VtKvzO
( ^ω^)「師匠は、その人の顔を見るなり追い返していたお。
    あの時は相当気に入らなかったんだと思ったけど、今思えばあの追い返し方は異常だったお」

('A`)「なるほどな。確かにソイツは怪しい。だが、確かめる術がねぇ」

ブーンは一度、落胆の表情を見せる。
しかし、何か良い案を思いついたか、すぐにいつもの笑顔に戻った。

( ^ω^)「そこで剣術大会だお!きっとその男も金剛石を欲しがるはず。
     それに、この謎を解けば師匠も剣を研ぎ始めるかもしれないお!」

その言葉に確証はなかったが、行動を起こすきっかけとしては十分過ぎるほどだった。

('A`)「ちっ。なら、否応でも行かなきゃな・・・ギコさんには借りがある」

ギュッと拳を堅く握り締め、立ち上がった。
手早く身仕度を整え、壁に立て掛けてある自分の相棒を掴む。

( ^ω^)「僕も準備してくるお!」

('A`)「わかった。1時間後に町外れの川原で落ち合おう」

409 ◆dOKfgIN.m6 タイトル未定 New! 2006/08/29(火) 23:26:30.77 ID:52+VtKvzO
( ^ω^)「把握した」

そう言って、ブーンは自宅へと戻っていった。
ドクオはそれを目で追い、見えなくなって一息つく。

('A`)「・・・あの剣の持ち主も参加するだろうか」

色々と思考を巡らせるが、如何せん一人で考えても仕方がない。
ブンブンと顔を振り、思考をリセットする。

('A`)「カーチャン、行ってくる」

棚に立て掛けられた写真に向かって別れを告げる。
そこには、幸せそうに笑っている女性と、その女性に抱かれている赤ん坊が映し出されていた。
その写真を見つめながら、彼は家を出た。

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