358 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/05/22(月) 06:11:13.94 ID:Xk7e81W00
日は当に姿を隠し、音さえ消え去った暗い廊下に革靴の小気味良い音が響いている。
内藤は荒い呼吸を気にもせず、目的の場所にただ走っていた。
その顔には緊張と、戸惑いと、焦りの色がありありと浮かんでいる。

(;^ω^)「はぁ……はぁ……」

目的の場所……安置室に辿り着いた内藤は壁に背を預け、息を整える。
何度も吐き出される白い息は、宙を漂いやがて消えていく。
それを何度か繰り返し、何とか気を落ち着けた内藤は意を決しドアノブに手をかけた。

( ゚∀゚)「……内藤…」

中に入ると長岡が静かに声をかけた。
その顔を見つめる内藤に、長岡は申し訳なさそうに首を振った。
愕然とする内藤の視界に、白い布を被された遺体とそれに顔を埋めた擬古の姿が見えた。

( ^ω^)「………」

信じられなかった。信じたくなかった。その事実を認めてしまったら二度と自分は立ち上がれないだろう。
そう分かっていながら内藤は静かに遺体に歩み寄った。
真実を目にするために。
内藤は無言のまま、顔に被された布を取った。

360 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/05/22(月) 06:12:02.31 ID:Xk7e81W00
(*゚-゚)「………」

それは見慣れた肉親の顔。
いつもと違うのは顔が青白く、生気を感じられないだけだった。
内藤の唯一の肉親である、妹の椎(シィ)の顔だった。

( ^ω^)「………ハハ」

内藤は知らない内に笑い出していた。

( ゚∀゚)「………」

狂ったように笑い出す内藤を、長岡は静かに見守った。
ただその拳は強く握り締められ、食い込んだ爪が皮膚を破り、血を滴らせている。

( ^ω^)「アハハハハハハハハハハハハハ………」

内藤はただ笑い続けた。ただその瞳からは、とめどなく涙が零れ落ちている。
静かな安置室に内藤の笑い声だけが響き渡っていた。
その声はいつまでも続いた。
やがて日が再び姿を現す頃、笑い終えた内藤は潰れた喉で呟いた。

( ^ω^)「終わったよ……俺の人生もうオワタ」

内藤にとってコレが全ての終わりだった。
生きる意味も、糧も、全てを失った。
だが、コノ物語はココから始まる。

361 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/05/22(月) 06:15:56.59 ID:Xk7e81W00
遮光のカーテンに塞がれた薄暗い部屋に無機質な機械音が響き渡った。
黄ばんだシーツの上に転がっている携帯電話のサブディスプレイには『長岡』の文字が輝いている。
ベッドの主はボサボサの髪をかきながら手探りに携帯電話を手に取り、その文字を見ると唸り声を上げた。

(;^ω^)「またか……」

内藤はベッドから立ち上がると、ゴミだらけの部屋を横切り写真たてを手に取った。
埃だらけの部屋の中、唯一綺麗なその写真たてには内藤の妹である椎の写真が飾られている。

(;^ω^)「なぁ、椎……兄ちゃんそろそろ死ぬんじゃないかお??」

内藤の問いに写真の椎は笑顔のまま、内藤に微笑みかけ続けていた。
写真たてを元の位置に戻す頃には、ヒステリックに泣き続けていた携帯電話は既に黙り込んでいた。
内藤はため息をつくと、そこらに放置された服に着替えるとフラフラと部屋を出た。
途中何度も躓きそうになりながらも階段を下りると、愛車に乗り込む。
外の寒さに霜が浮かんだフロントガラスをいまだに焦点の定まらない目で睨みつけながら、内藤は助手席に置かれたコンビニの袋から栄養ドリンクを取り出し一気に飲み干す。

( ^ω^)「ふぅ……」

何とか人心地がついた内藤は煙草をくわえ、窓の外に映る風景に焦点を合わせた。
気は枯れ、水溜りは凍り、行き交う人々の息は白く染まっている。
内藤の気付かぬ内に、世界は灰色の冬の世界に染まっていた。
ふと携帯電話を見ると日付は12月24日とあった。

( ^ω^)(もう八年になるか……また一年が終わっちまったなぁ)


363 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/05/22(月) 06:19:13.54 ID:Xk7e81W00
ため息と共に紫煙を吐き出した内藤は、見つめたままだった携帯電話を開き長岡に電話をかけなおす。
2コールもせぬ内に長岡は電話を取った。

(#゚∀゚)「おせぇよヴォケ!!」

すぐさま狭い車内に長岡の怒号が電話越しに響き渡った。
(;^ω^)「うるせぇ!!こっちだって仕事明けで寝てねぇんだよ!!」

(;゚∀゚)「ソレはこっちも一緒だっての!!テメェ、さっきまで一緒にいただろうが!!」

内藤は再度ため息をついた。
そうなのだ。この季節は春を待てないせっかちな馬鹿達が聖夜というイベントを理由に事件を起こしまくる。
他の町は知らないが、少なくともこのVIPはそういう所だった。
おかげで、内藤と長岡は連日連夜せっかちな馬鹿達の相手をさせられている。
この一週間に二人が寝た時間は指で数えられる程しかなかった。

(;^ω^)「で、今回の馬鹿はどんな奴だお??またカップルに嫉妬して街中で『びっくりするほどユートピアテロ』とかだったらいい加減怒るお」

( ゚∀゚)「アレは酷かったな……安心しろ、今回のはかなりヤヴァイ」

(;^ω^)「一体何を安心しろって言うんだお……」

( ゚∀゚)「まぁ、来てみろ。場所は駅前のVIPデパートだ。じゃあな」



364 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/05/22(月) 06:21:07.73 ID:Xk7e81W00
長岡は一方的に話を終えると、電話を切った。

( ^ω^)「やれやれ……だお」

内藤は煙草を灰皿に押し付けると、キーを回した。
憂鬱な内藤の気も知らずに、愛車は軽快なエンジン音で内藤に応えた。


365 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/05/22(月) 06:22:47.19 ID:Xk7e81W00
電話を切った長岡は、苦い顔で空を仰いだ。

( ゚∀゚)(適当にヤヴァイ何て言っちまったが……さて、どう説明したもんかな)

今更ながらに自分の軽率な発言に長岡は後悔していた。
長岡はまだ制服警官が降りる最中であるVIPデパートを睨んだ。
クリスマス色に装飾されたVIPデパートは一見すると派手で、このイベントに浮かれるVIPPER達の心の象徴のようになっていた。
ついさっきまで遺体がぶら下がっていたなど一体誰が想像できるだろう??

(´∀`)「いいのかモナ??あんな簡単に説明終わらせて……いくら図太い内藤でも心の準備ってものがあるモナ」

長岡の背後から突然な長岡の心を読んだように、同僚の茂名が声をかけた。
8年前共に戦い抜いた貴重な生き残りであり、内藤も長岡も心を許している数少ない人物である。

( ゚∀゚)「いやアイツなら大丈夫さ……茂名、今日が何の日か分かるか??」


366 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/05/22(月) 06:23:28.09 ID:Xk7e81W00
そうあってほしいという希望を込めて長岡は言った。
言葉には力があると長岡は信じていた。
どんな絶望的な状況であっても自分があってほしい希望を口にし続ければ、ソレをいつしか自分は無心に信じてしまう。
そう思い込めば、人間出来ない事等何もない。
ソレが8年前の戦いを生き抜いた長岡の一つの結論であった。

(´∀`)「忘れる訳ないモナ。内藤の妹さんが亡くなった……いや、殺された日モナ」

茂名は昔を懐かしむように遠くをみつめた。
ただその顔は悲痛で、出来れば思い出したくないように見える。

( ゚∀゚)「あぁ……コレは運命なんだろうな。奴等が狙ったのかもしれないが」

(;´∀`)「奴等って……まさか、奴等はもう壊滅したモナ」

( ゚∀゚)「アイツのいないまま再び馬鹿やりたい奴がいたんだろ……気長な馬鹿が。パイロットいなくたってエヴァが動くようなもんだ」

「ソレはちょっと違うモナ」と聞きながらも長岡はまったく別の事を考えていた。

( ゚∀゚)(毒男……お前なのか??お前はまだ答えを見つけられないのか??)

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