246 Two too CRAZY !! New! 2006/08/21(月) 11:59:47.72 ID:I2lwvnUK0
――同属嫌悪という言葉がある。

自分とよく似た性質のものを認識すると、それを煩わしく感じるという、生物特有の感情だ。
だが、それは単に表面的に気に入らないということだけではない。
その似ているものから自分自身を連想し、自分の悪い部分を見ている――という一種のコンプレックスを感じるというものである。

これは主に動物などに見られる感情だが、それだけに限られることではない。もちろん人間にもこのような感情は存在する。
しかし、人間の場合その多くは理性で抑えつけられるもので、むしろそれが向上心に繋がる場合さえある。
それは自らを省みることができる人間だからこその、美徳とも呼べる行為と言えよう。


……だが、それを全く抑えられない、理性の欠片も持っていないような者も、世の中には存在していたりするのである。




今にも折れてしまいそうな柱に、強く踏みつければ崩れてしまいそうな床。
もはや、人がいたという形跡すら無い、後は解体業者が工事をしに来るのを待つだけのような、正しく廃墟と呼ぶに相応しいビル。
その中に、一人のAAの姿があった。

从゚∀从「……」

歩く度に揺れる赤い髪が、まるで燃え上がっているような印象を作る。彼女(仮称)の名は、ハインリッヒ高岡。

インターネット上に存在するアンダーグラウンドな巨大掲示板サイト、2ちゃんねる。
そして、その中でも最下層の掲示板と呼ばれる、ニュース速報(VIP)。
そこに立てられた一つのスレ、( ^ω^)ブーン系読み物+小説練習&総合案内所――そこで、彼女は産声を上げた。

247 Two too CRAZY !! New! 2006/08/21(月) 12:00:43.76 ID:I2lwvnUK0
初めは単に顔と名前しか与えられなかったため、彼女を使う者は少なかった。
だが、次第に彼女の性格、口癖などが決められていき、徐々にではあるが彼女のアイデンティティが確立していったのである。
性別が曖昧など、完全とは言えない存在の彼女だが、今では彼女を起用した作品もちらほらと確認されている。
彼女の主な性格は、とにかくハイテンション。
狂っているとまで言える強烈な個性――それが、彼女に与えられたものだった。

从゚∀从「アンタか? アタシを呼び出したのは……」

高岡が立ち止まり、光が差し込まない暗闇の空間に声をかける。
すると、聞こえてきたのは甲高い笑い声だった。

「アヒャヒャヒャ……そうだよ」

暗闇の中から、ゆっくりと姿が浮かび上がる。
それは、赤い体毛に包まれた、人型の姿をした雌猫――

(*゚∀゚)「よく来たね」

“つー”と呼ばれる、古参のAAの一人であった。

从゚∀从「……で? 何か用ですかぁ?」

つーの姿を目の当たりにしても、高岡は全く動じようとはしなかった。
呆けるような、ともすれば馬鹿にしているような表情をつーへと向ける。
自分よりも遥かに先輩のAAに向かって、なんとも不遜な言い草。
だが、彼女にとってはこれが自然で、今後変わりようもない態度なのである。

対して、つーもそのにやけた口元を崩そうとはしなかった。

248 Two too CRAZY !! New! 2006/08/21(月) 12:02:22.43 ID:I2lwvnUK0
(*゚∀゚)「あのさあ、お前ちょっとアタシとかぶってるよなぁ」
从゚∀从「……はぁ?」

突然のそのつーの言葉に、高岡も思わず首をかしげる。
その表情から、「何を言ってるんだ、コイツは」という思いがにじみ出ているようだ。
だが、つーは気にせず言葉を続けた。

(*゚∀゚)「思うんだけどさ、同じようなキャラが二人いても、仕方ないと思うんだよ」
从゚∀从「……」
(*゚∀゚)「だからさぁ、お前消えてくんない?」

言い終えて、つーの口元が一層にやりと吊り上がる。
まるで、「今の言葉に嘘偽りは無い。これがアタシの気持ち♪」などと付け加えるかの表情だ。

確かに、対峙しているこの二人には似通っている部分が多く存在する。
つーも高岡に同じくハイテンションで狂人とも思える性格で、その個性もかなり強い。
むしろ、誕生した早さから言うならば、高岡がつーに似ていると言った方が正しいだろう。

だが、今の言い分はあまりにも我侭で、とてつもなく理不尽なものだ。普通なら、口にするのはためらうようなものである。
しかし、それをなんとも無邪気に言い放つのが彼女なのだ。言った時の彼女に、悪気のようなものは一切存在しない。
それこそが彼女の「普通」であり、彼女の持ち味――

(*゚∀゚)「アヒャ♪」

――誕生してから今までの間に培われた、確固とした彼女のアイデンティティなのである。

从゚∀从「……へぇー」

言われた方である高岡と言えば、特に反論も無く、ただ「終わり?」と聞き返すような表情を保っている。
自分に対して理不尽な理由から「消えろ」と言った相手に、それそれはなんとも気の抜けた対応の仕方であった。

249 Two too CRAZY !! New! 2006/08/21(月) 12:03:16.11 ID:I2lwvnUK0
(*゚∀゚)「で、返事は?」

まるで期待でもするような、わくわくするような表情でつーが高岡に問う。
その質問を聞いた高岡は、少しだけ「んー」と唸った後、

从゚∀从「イ・ヤ♪」

と、満面の笑顔と共に拒否した。

(*゚∀゚)「そうかぁ、じゃあ力尽くだな」
从゚∀从「ん?」

その瞬間、つーが高岡に向けて飛び込む。それはまるでスキップでもするように軽やかで、無駄の無い跳躍だった。
そして、続けざまにつーの右拳が差し出される。
突然のことで反応できなかった高岡は、その一撃をまともに顔面へと受けて吹っ飛んだ。

ごしゃっ、という音の着地の後、高岡はごろごろと床の上を転がっていく。
その勢いは止まらず、行き着く先は壁との衝突であった。
高岡はしこたま壁に背中を打ちつけたが、次の瞬間には何事も無かったかのようにむくりと起き上がっていた。

从゚∀从「あいたた……いきなりだなぁ」

高岡は自分の衣服に付いた埃を払うと、二度ほど首の骨をごきごきと鳴らした。
凄まじい衝撃だったにも関わらず、傍目には全く支障は無いように見える。むしろ、自分が反応できなかったことを喜んでいるかのような表情だ。

そして、高岡はつーに向かってゆっくりと歩き出したかと思うと、徐々にその速度を上げていった。
加速によって勢いを付け、十分に距離を縮めたところで高岡がその右腕を振り下ろす。
片腕による、ハンマーパンチのような一撃。だが、つーは身を翻すようにしてそれをかわす。
次の瞬間、その一撃によってつーのいた床板が跡形も無く粉砕された。

251 Two too CRAZY !! New! 2006/08/21(月) 12:04:37.88 ID:I2lwvnUK0
高岡の一撃を避けた後、つーは回り込むようにして高岡の背後へと移動する。
再び右腕を振りかぶり、打ち下ろされる後頭部を狙った一撃。
だが、それより先に高岡の左腕が唸りを上げた。高岡は独楽のようにその場で体を回転させ、その勢いのまま背後へと裏拳を放つ。
対するつーは上半身は動かさずにしゃがみ込み、その野球選手のフルスイングのような一撃を受け流す。
そうして、立ち上がる勢いを利用して蛙飛びのようにアッパーを繰り出した。

その凄まじい勢いに、高岡は咄嗟に体を後方に反らせて対処する。正しく無意識の内の、彼女の本能による防衛反応。
それでも完全にはかわし切れず、高岡は顎の先端に小さなかすり傷を負った。
だが、これくらいでダメージを受けるようなことも無く、高岡はすぐさま体勢を元に戻す。
そして、飛び上がって無防備になった一瞬を狙い、つーの両足をがっちりと掴んだ。

从゚∀从「ヒャーハッハッハァ!!」

高岡はつーの両足を脇に抱えたまま、そのままぐるぐると回り出す。所謂ジャイアントスイングという大技だ。
そもそもこのような技はプロレスのリング上のように相手の協力も無ければできないような技なのだが、高岡の途方も無い膂力がそれを現実にしていた。
両足を掴まれたつーは為す術も無くぶんぶんと高岡によって回転させられ、そのまま遠心力によって放り出される。
高岡が行った回転の余韻で空中でもつーの体は回り続け、そのまま柱の一つに激突した。

つーはそのままずるずると柱から滑り落ち、床の上にうつ伏せの状態で大の字になる。
だが、あろうことかその肩はわなわなと震え、次に聞こえてきたのも高らかな笑い声だった。

(*゚∀゚)「アヒャヒャヒャ……こりゃ退屈しなさそうだなぁ」

先ほどの高岡のように、つーも痛がる仕草も無いままワンアクションで立ち上がる。
そして、すっと右足を前に出したかと思うと、正しく一瞬の内に高岡の目前にまで接近した。
すると、先読みしていたのか、長岡は迎え撃つようにして右のストレートを繰り出す。
体重の乗った一撃だったが、つーはあっさりとそれをかわし、お返しにと高岡へ右拳が突き出される。

だが、それは単なる突きでは無かった。握った拳から伸びた、二本の指。
俊敏且つ冷酷に放たれたその指は、確実に高岡の両目を捉えていた。

252 Two too CRAZY !! New! 2006/08/21(月) 12:05:27.63 ID:I2lwvnUK0
高岡はつーの狙いが目潰しであることを察知すると、避けようとはせずにすぐさま顎を引いた。
これにより、つーの指は目ではなく額へと向かうことになる。
だが、このままの勢いで衝突すれば、折れるのは仕掛けた方のつーの指だ。
なので、つーは指を引っ込めると、そのまま渾身の力で高岡の額を殴りつけた。

(*゚∀゚)「っ!」

顔面の、特に硬い部分である額を殴ったのだ。ほんの少しのくぐもった声と、つーの右腕に激しい痺れが走る。
つーは弾かれるようにして右腕を引っ込めるが、すぐさま高岡の追撃が襲い掛かった。
高岡は左腕を斜め上から振り下ろすような一撃――所謂ロシアンフックと呼ばれる殴り方で、つーの側頭部を狙う。
ごつっ、と石がぶつかったような音の後、つーの体が押し倒されるようにして床にめり込んだ。

だが、そのような一撃を受けた後も、つーの意識は健在であった。
倒れたところからつーはブレイクダンスのように足を回転させて高岡の足を払うと、そのまま仰向けになった体の腹部へと右の踵をめり込ませる。
高岡は床ごと体が沈んで“くの字”になり、口からも大量の空気を吐き出した。
つーはもう一撃加えようと再び右脚を持ち上げるが、振り下ろされる前にその足首を高岡の右手が掴む。
高岡はそのまま片腕一本でつーの体を釣り上げ、そのまま床に叩き落した。

互いに強烈な一撃をくらっても尚、二人はやはりけろっとした様子で立ち上がる。
それどころか、その表情はさらに喜びを増しているようで、正に喜色満面と言った感じである。

(*゚∀゚)「アーヒャッヒャッヒャ!!」
从゚∀从「ヒャハハハハ!!」

輪唱するように笑い声を上げながら、二人は同時に空中へと飛び上がる。
そして、空中で向かい合った瞬間、壮絶な乱打戦が幕を上げた。
つーが右の回し蹴りを繰り出すと、高岡が左のフックを放つ。つーが左右のワンツーを打ち込むと、高岡がお返しに強烈なボディブローをお見舞いする。
その一撃の一つ一つが渾身の力で行われ、そしてその全てがお互いにクリーンヒットしている。
その上、あろうことか二人は落ちながら戦っているのだ。終始、その表情は笑顔のままで。

254 Two too CRAZY !! New! 2006/08/21(月) 12:07:16.16 ID:I2lwvnUK0
やがて、空中から地上へと降り立った時、既に二人の顔は腫れ上がり、顔面の至るところから出血が見られていた。
もはや二人の攻撃はただ単純に殴り合うだけになり、殴る度にお互いの顔からは真っ赤な鮮血が迸る。

ぼこ、めしゃ、ごきっ。鈍い音がビルの中を支配し、彼女らの笑い声とのアンサンブルとなる。
埃のみだった床にはいくつもの丸い斑点が描かれ、二人の周りだけが赤く染められたように霧散した血液で彩りが加わる。
その空間はまるで二人にだけ用意されたかのように閉鎖的で、二人の表情も歪んだ顔面でもわかるほどに笑顔だった。

実際、二人の脳内ではアドレナリンが常人の何倍も分泌されており、ほとんど痛みは無いに等しい。
言うなれば、完全天然トランス状態。
アドレナリンが脳内麻薬とも言われるように、彼女らはこの「殴り合う」という行為に心から陶酔しているのだ。

だが、そうは言っても何事にも限界というものはある。
頭でそう思っていなくても、二人の動きは段々と緩慢になり、その威力も衰えていった。

そして、無意識にその限界を察知したのか、二人の瞳に力が宿る。
残された全ての力を込めて、二人は左右の拳を交錯させた。

(メ゚∀С「……アヒャ……ヒャッハ……」つ∀゚メ从

やがて、二人は全く同じタイミングでずしゃりと地面に倒れ込む。
WBC世界フライ級暫定チャンピオンも裸足で逃げ出すような激戦の最後は、潔いまでの両者ノックアウト。
だが、その一撃も全く同じものというわけではない。
つーの拳はきりもみ状に回転され、しかも高岡よりも繰り出されるのが速かったのだ。
これによって高岡の一撃は威力が半減されたのだが、それでも彼女の尋常ではない膂力は凄まじい一撃を生み出している。

正しく、それは技と力がぶつかり合った結果であった。

(メメ゚∀メ)(…体、が……)
从メ゚∀从(動か、ない……)

255 Two too CRAZY !! New! 2006/08/21(月) 12:07:57.17 ID:I2lwvnUK0
(メメ゚∀メ)「な、なあ…おい……」
从メ゚∀从「ん…ん…?」

つーは指先一つ動かせなくも、なんとか言葉を発する。
高岡もやっとのことで返事をするが、お互いにごぼっと口から血を吐き出した。

(メメ゚∀メ)「た…楽しかった、ぜ……」
从メ゚∀从「お…お…俺様も、だ……」

二人は大の字になったまま、口の端をぷるぷると吊り上げる。
そして、ようやくアドレナリンも収まってきたのか、笑う度に二人の体には激痛が走っていた。

(メメ゚∀メ)「ア…アヒャ、アヒャヒャヒャ…ゴホッ! アーッヒャッヒャッヒャ……」
从メ゚∀从「ヒャハ…ヒャーッハッ…ガハッ! ヒャー、ハッハッハッ…ハイン、リッヒィィィィ……」

まるでお互いを讃え合うかのように、二人は力の無い高笑いを繰り返す。
だが、その表情は今までで最高に嬉々としたものである。
同属嫌悪とは、裏を返せば似たもの同士ということなのだ。
そして、似たもの同士が意気投合してしまえば、それは何よりも強い絆が生まれることになる。


――そうして、この瞬間至上稀に見る最強……いや、最狂のコンビが誕生した。


終わり

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