85 超能力者、内藤ホライゾン最大の挑戦 sage New! 2006/08/21(月) 00:03:34.76 ID:FUNITji5O
ξ゚听)ξ「本日は世紀の超能力者、内藤ホライゾン氏をお招きしております!
ホライゾンさん、どうぞ!!」

華やかなスポットライトと爆発音の音響、それに、大げさすぎる拍手が、カメラ中央の男を彩る。
名前を紹介された男は、手を上に大きく広げ、用意された歓声に応えた。
内藤は余裕の笑顔で、ゆったりと観客の顔を見渡すと、内心で溜息を吐いた。

――僕には分かっている。
観客達は自分の失敗を望んでいるんだ。
僕の隣のすました顔をしているアナウンサーだって……。

内藤の読心にアナウンサー、ツンは気付かない。
ツンはスタジオセット脇に手を挙げ、言葉を続けた。

ξ゚听)ξ「スプーン曲げ、透視、物質移動、自然発火。
ありとあらゆる超能力をテレビの前の皆様にお届けして来たホライゾンさん。
本日挑戦していただく超能力は、こちらです!!」

86 超能力者、内藤ホライゾン最大の挑戦 sage New! 2006/08/21(月) 00:05:16.28 ID:FUNITji5O
スタジオセット脇から紫のシートを被せられた何かが運び込まれた。
かなりの重量があるのだろうか。鉄で出来た大仰な台車に載っている。
観客席が息を呑んだ。
ツンが無造作にシートを剥ぎ取ると、どよめきの歓声が上がる

ξ゚听)ξ「御覧ください、この鉄柱!
ホライゾンさんは、『この鉄柱を手を触れずに曲げる』と豪語しております!!」

アシスタントディレクターの合図でスタジオに大きな拍手が吹き荒れる。
確かに、この鉄柱を曲げるとなれば超能力だって信じないわけにはいかない。
観客にそう信じ込ませるだけの迫力が鉄柱にはあった。

87 超能力者、内藤ホライゾン最大の挑戦 sage New! 2006/08/21(月) 00:06:21.75 ID:FUNITji5O
ξ゚听)ξ「それでは、ホライゾンさんにはこちらに座って頂きましょう。
尚、このガラスケースは外より鍵を掛け、ホライゾンさんは一切鉄柱に触れる事はできません」

セットのガラスケース中央には中世の玉座を模した椅子。
内藤はそこに座り、静かに目を閉じる。
耳が、鍵の掛かる音を捉えた。

ξ゚听)ξ「えー、本日はゲストとして、日本技科大学大学助教授、荒巻 スカチノフ先生にお越し頂いています。
荒巻先生。ホライゾンさんの挑戦はどう思われますか?」

ツンは内藤の反対側に座る男に向かい、鍵を手渡した。
荒巻は鍵をポケットに入れて立ち上がり、不敵な笑顔を観客に向け、中央の鉄柱を指差し言い放つ。

/ ,' 3「私も確認しましたが、あの鉄柱は完全です。
一ミリの歪みもありません。
――ですが、内藤さんなら目に見える形で鉄柱を曲げる事でしょう」

痛烈な荒巻の皮肉に、観客達が失笑を洩らす。
荒巻は侮蔑の表情を内藤に向けるが、内藤は俯き、手、足を組んだまま動かない。

89 超能力者、内藤ホライゾン最大の挑戦 sage New! 2006/08/21(月) 00:09:47.34 ID:FUNITji5O
(´・ω・`)「いいんですかねぇ、こんな事言っちゃって」

会場内のカメラを網羅した部屋に二人の男。ショボンとドクオ。
今回の企画を構成した二人のだ。

('A`)「俺達にゃ関係ねぇよ。大体、辞表を提出しても受理されなきゃ意味が無い。
――茶番さ」

ドクオは紙コップに入ったコーヒーを一口啜り、背もたれに全体重を乗せる。
ぼんやりとモニターを見つめ、つまんね。と、一言。

(´・ω・`)「ドクオさんは超能力を信じますか?」

ショボンの問い掛けにドクオはどう答えるのか。

('A`)「どうでもいいよ。
内藤が成功すりゃ新たな挑戦企画。失敗すりゃバッシング企画。
どう転んでもおいしい事にゃ変わらん」

ショボンは沈黙し、モニターの先の哀れな道化師に目を向ける。
鉄製の定規が僅かに震えた事には気付かない。

モニターには俯く男が映っている。

90 超能力者、内藤ホライゾン最大の挑戦 sage New! 2006/08/21(月) 00:10:53.27 ID:FUNITji5O
とある町、とある家にて。

キッチンで夕食の準備をしていた母親の下に少女が駆け寄る。
少女の表情には怯えがこもっていた。

川д川「……おかーさん、スプーンまがっちゃった!」

少女が手に持つスプーンは確かにぐんにゃりと曲がっていた。
母親はすごいわね、と言い、頭を撫でる。

('、`*川「でも、物は大切にしなきゃ」

川*д川「うん!」

優しく諭す母親に少女は抱きついた。

親子より離れたテレビには、震えながら俯く男が映っている。

91 超能力者、内藤ホライゾン最大の挑戦 sage New! 2006/08/21(月) 00:12:54.56 ID:FUNITji5O
新宿。アルタ前、巨大ビジョン。

人々は各々好き勝手に電話やメールをしていた。
それだけならば普段通りだが、異常なのはその内容が皆、似通っていることだ。

『テレビ見てみて!?』

『マジヤバいって!』

(;゚ー゚)「もしもしギコ君!? 超能力のテレビ見てないでしょうね!?
見ちゃだめだよ!?」

『何言ってんだゴルァ!!この男わらえ』

扱っていた携帯が一斉にへし折れ、人々は一点を見つめた。

新宿アルタ前の巨大モニターには汗を大量に流し、震えながら俯く男が映っている。

92 超能力者、内藤ホライゾン最大の挑戦 sage New! 2006/08/21(月) 00:13:57.01 ID:FUNITji5O
(; ゚ω ゚)「――ぶはぁっ!!
ハァッ……ハァッ……!!」

勢い良く内藤が顔を上げ、その反動で汗が舞う。
無残にひしゃげたスタジオには、動くモノはない。
人、カメラ、パネル、マイク。
全てが破壊されて――いや。
ただ一つ静寂を保つ物。
神々しくそびえる鉄柱。
それだけが内藤を嘲笑うかのように。

(; ゚ω ゚)「ゔ……ぢぐじょ゙お゙……」

内藤は粉々になったガラスケースから這いずり出て、ゆっくりと鉄柱に向かう。

能力を酷使したせいで喉は潰れ、内臓がメチャクチャになっているのが自分でも分かった。
これはもう助からない。

93 超能力者、内藤ホライゾン最大の挑戦 sage New! 2006/08/21(月) 00:18:39.47 ID:FUNITji5O
――それでも、僕は。

内藤は最後の力を振り絞り、鉄柱に腕を伸ばし、『念』を送る。

(; ゚ ω゚)「あ」

最期の瞬間、内藤を貫いたのは絶望。

指が一本一本折れてゆく。
腕が砕け、骨が飛び出す。
あばら骨が肺に突き刺さる。

両足がまとめて折れ、立つことも叶わない。

(; ゚ ω゚)「あ、あ、あ」

『念』の逆流。
それを理解し、内藤は激痛に呑み込まれた。



107 超能力者、内藤ホライゾン最大の挑戦 sage New! 2006/08/21(月) 00:37:01.32 ID:FUNITji5O
『内藤ホライゾン最大の挑戦』

平均視聴率32パーセント。
瞬間最高視聴率62・8パーセント。

死傷者、不明。

行方不明者、不明。

日本という国が消える原因となる。
尚、番組で使用された鉄柱粉々の状態で内藤ホライゾンと共に発見された。

報告終了

('A`)「――っと、まさかこんな事になるとは」

ドクオはいち早く異変を察知し、崩れる局から脱出したのだ。
パソコンから離れ、コーヒーを一口啜る。

('A`)「さて、超能力ブームが来るな」

時代の波を読みつつ、再び超能力特集を組もうとするドクオ。
彼が全身骨折した死体で見つかるのは翌日の事だった。

終わり

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