17 1/7 New! 2006/08/14(月) 13:05:33.23 ID:Q4F6IrRh0
 私は、薄暗い路地を一人で走っていた。既に時刻は深夜×時を回っており、空に星はなく、
煌々と満月だけが輝いている。何だか不気味な夜だったのを覚えている。

 私は行き止まりになった路地の壁にもたれて、近寄ってくるそいつを睨んでいた。私は既に
息が上がっており、最早これ以上過激な運動は出来そうもなかった。

 「はぁ……はぁ……」

 逃げられるとは思えなかった。向こうの得物は私より早いし、連中は私より疾い。

(@Σ@#)「手間ァ取らせたな……これで終わりだ、女ァ」

(´・ω・`)「人間のくせによく走るね。追いつくのが大変だったよ」

 私の前に現れた二人の男。サラリーマン風のしょぼくれた男と、趣味の悪いアロハに坊主頭
のチンピラという異色の組み合わせだが、この二人には共通点がある。

 一、死人のように青白い膚。

 二、人間では在り得ない紅い瞳。

 つまり彼等は、人間などではない。生きている訳でもない。
 生きていながら死んでいる、矛盾存在。


 ――――吸血鬼。


 極限まで非現実的な存在である。もっとも私にとっては、別段非日常でもなかったが。

18 2/7 New! 2006/08/14(月) 13:06:19.84 ID:Q4F6IrRh0
(´・ω・`)「キミのせいで仲間が十人も死んだよ。ごめんなさいしないといけないよね」

 しょぼくれたサラリーマンが穏やかだが物騒な台詞で云えば、

(@Σ@#)「必要ねェよ。謝ったって赦してやるもんか。その命で償え、ってな」

 チンピラ風の男がそれを上回る凶暴な答えを吐き出す。

 もっとも、彼等の中には同属に対する哀れみの気持ちなど微塵もない。

 吸血鬼というのは、他人に対する共感や暴力に対する禁忌感というのが非常に薄い。理性
を持ちながらも人間を圧倒的な暴力の下に破壊出来るのはそのせいだ。
 だから、死んでしまった仲間を惜しむなんて事はない。戦力が減っただとかいう風な事は感
じるだろうが、連中が感情で哀しむところを、私は見た事がない。

(@Σ@#)「よくみりゃあいい女じゃねえか。唯殺すのは勿体ないと思わねえ?」

(´・ω・`)「そうでもないよ。ボクはキミの方が良く見えるけど」

(@Σ@;)「勘弁汁」

 漫才を繰り広げている二人は隙だらけだったが、多分、私が連中の頸を落とすより、連中が
私の頸を落とす方が速い。瞬間的な速度では彼等に敵わないのだから。

 吸血鬼というのは鍛錬なしでも充分に強い。百メートルを五秒で走り抜ける脚力と、四百キロ
のバーベルを持ち上げる腕力が、そう"なった"瞬間から備わっているのだ。
 連中を殺すのだって、結局は奇襲に頼らなければならなかったのだ。それで殺せたのは二
百人中の十人だけともなれば、私の不甲斐なさと連中の強さが判ってもらえるだろう。

 もっとも……ここで死ぬ人間には関係のない事だが。

19 3/7 New! 2006/08/14(月) 13:09:11.35 ID:Q4F6IrRh0
 既に私は死を覚悟していた。
 この状況で生き残れると考えるほど、私は楽観的な人間ではない。

 元よりこの仕事を始めた時から、"そう"なる事は承知の上だったし、

 ……何より私自身、こうして生きている事にそろそろ飽きていた。

 私の上司は、吸血鬼を殺さなければならない、と云っていた。
 何故なら、彼等は人間に寄生し、滅ぼすモノだから、と。

 だが、それ以前に人間は人間に寄生しなければ生きられないのだ。世の中に人間を食い物
にする奴なんて五万といるし、そうじゃなくても自分一人では生きられない。

 人間は弱い。群れなければ何も出来ない。
 そして私も、その下らない人間の一人だった。

 とはいえ、私には頸を括るような勇気も度胸もない。そういう意味では、このような状況が来
るのを、今か今かと待ち望んでいた節さえあったのだ。
 まぁ、想像していたのと違って不満なのは、私を殺してくれるのが、こんな下衆二人だった事
だけだ。そしてそれだけは、どうしても許容する事が出来ない。

 私は連中に気付かれないよう、ポケットの中に手を入れた。そこには"上役"から渡されてい
た破砕手榴弾が入っている。自決に使うためのものではないが、上手くすれば目の前にいる
吸血鬼を二匹とも道連れにしてやる事が出来るかもしれない――――


(@Σ@#)「犯して殺してもう一回屍体をレイプしてやんよ」


 「じゃあ私は、殺して解して並べて揃えて晒してやんよ」

20 4/7 New! 2006/08/14(月) 13:10:00.76 ID:Q4F6IrRh0
(@Σ@#)(´・ω・`)「「誰だ!?」」

 反応は二匹の吸血鬼の方が早かった。自身で頸を折るような勢いを伴って振り向いた二人
(或いは二匹)の視線は、路地の向こう側に向けられている。
 逆光になっていて顔すらも判らなかったが、ソレはどうやら人間の形をしているらしい。

 かつん、という硬い音が響く。その人影が靴を鳴らしたらしい。

(@Σ@#)「くっくっくっくっ……何だ、迷い込んだおのぼりさんかい?」

 「ん、いや――――ちょいとばかし、道に迷っちまってねぇ……つっても別に、アンタらに人生
を説いて貰おうとか、そういう事じゃないけれど」

 かつん、かつん、と人影が靴を鳴らして近寄ってくる。否、靴にしては随分硬質な……

(´・ω・`)「そうなんだ。じゃあ死ね」

 問答を面倒と取ったのか、サラリーマンの手元が立て続けに光った。ぱぱぱぱっ、という拍
子抜けするほど小さな銃声と共に、真鍮の空薬莢が飛び散る。
 何時の間に取り出していたのか、男の手には消音器付きの短機関銃が握られていた。拳銃
並に小さいもので、あれなら懐に隠しておくのも容易かっただろう。

(@Σ@#)「……って、おいおい、これで終わりかよ。面白くねえなぁ」

 チンピラが呆れたように肩を竦める。それに関しては私も同意見――――

 「ねーよ」

 瞬間、チンピラの頭が"文字通り"吹き飛んだ。

21 5/7 New! 2006/08/14(月) 13:10:56.71 ID:Q4F6IrRh0
 頭の右半分から大量の血と脳漿と骨とその他諸々の混ざり合ったモノが飛び散り、私の足
元までを汚す。人間ならば、どう贔屓目に見ても即死である。

(@Σ::..「……あ、あ、れ?」

 それでも尚、男は生きていた。消えてしまった頭の右半分を探るように指で触れ、

(:::...・;'∴

 続けて響いた消音器を介さない生の銃声によって、今度は頸から上を全て失っていた。

(;´・ω・)「なっ――――」

 サラリーマンは仲間の死に一瞬動揺した。そしてその一瞬は致命的な隙を生み出す。

 「シイィ――――ァア――――ッ、ハ――――アアァ!」

 瞬き一つ、空気を鳴らして距離を詰めた相手が、サラリーマンの懐に潜り込んだ。その両手
にはそれぞれ形の異なる得物が握られ、その片方が男に突き出される。

 男の背中、確実に心臓を通る位置から、紅い斑模様のついた鈍色の鉄が突き出した。

(;´・ω・)「――――――――?」

 自分に何が起こったのか判らないような顔で、男は自分の胸と、背中を見比べる。

 「Good-bye. I will meet in the Hell sooner or later.」

 狩人が異国の言葉――――恐らく英語――――を呟くや否や、何かが横切ったとしか知覚
出来ない速度で振り切られた銀色の"何か"が、男の頸を刈り取っていた。

22 6/7 New! 2006/08/14(月) 13:12:25.84 ID:Q4F6IrRh0
 倒れ込んだ二つの屍体が、錆の臭いのする液体を垂れ流している。
 その眼前に佇んでいるのが、多分に私を助けた狩人である事は理解している。

 だが……


 腕と脚が長い典型的外人体型なのに、抱けば折れそうなほど華奢な身体。

 黒いロングコート、学生服とは違う形の詰襟、頑丈そうな軍用ブーツ。

 装飾品は頸から提げた無骨な十字架と、前髪に付けられたクリップだけ。

 銀と黒が絶妙な割合で入り混じって輝くのは、腰ほどまである長髪。

 マネキン並に整った顔は、多分、私が今まで見た誰よりも綺麗だった。


 彼(或いは彼女)がこの惨劇の主役だと云われて、信じられる筈がない。

 だというのに、そうして血塗れで立ち尽くす彼の姿は、どんな絵画よりも美しい――――


 「それで? おまいさん、この血袋共に何かされなかった?」

 ぎゅぱっ、という効果音(錯覚?)と共に、彼女(としておこう)の頸がこちらに向く。

 「え……あ、の……特に、何も……」

 「んー、ならいいや。マジでなんかされてたら寝覚め悪いじゃん?」

23 7/7 New! 2006/08/14(月) 13:13:33.26 ID:Q4F6IrRh0
 彼女が近付いてくる。私は恐怖というより一種の感動から、動く事が出来ない。

 「あ、悪いんだけど、道に迷ったのはマジでさァ」

 「は、はぁ……」

 「こいつらの"巣"を探してるんだけど、何処にあるか知らんかね?」

 無論、私はそこから逃げて来たのだから、知らない筈がない。

 「この路地を出て……右に往けば……」

 「あー、そっちかぁ! いやー、右往くトコを左に往ったのは間違いだったワァ」

 彼女は非道く朗らかな、釣られて笑ってしまいそうなほど綺麗な笑顔を浮かべた。

 口の端からは鋭く太い八重歯というか牙が覗き、前髪から覗く瞳は赤く染まっている。
 一瞬、吸血鬼だろうか、と思ったが、彼にはあの死人じみた禍々しさが感じられない。

 不可解な存在だった。或いはとても神秘的な――――

 「おk。じゃあ、私はお仕事しなくちゃいけないから、往くけれど」

 彼女はにこにこと笑いながら、私の顔に指を突きつけた。

从 ゚∀从「ちゃんとおうちに帰れよ? 怖いおじさん達に捕まらないように、ね」

川 ゚ -゚)「あ、う、うん……」

 彼女はじゃあな、と言い残し、漆黒の暗黒の向こう側へと、その姿を溶け込ませていった。

24 タイトルコール New! 2006/08/14(月) 13:14:06.66 ID:Q4F6IrRh0








 川 ゚ -゚)クーデレが从 ゚∀从血塗られた天使に出会うようです











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