616 狂った小さな歯車 New! 2006/08/13(日) 02:51:18.64 ID:6j0ZyhQaO
朝の行動で、一日の全てが狂う。
貴方にそんな経験はないだろうか。

たとえば。

靴下が見つからない。
ネクタイが決まらない。
やけに目が重たい。

などなど。

そういう時は気を付けた方がいい。
運命の歯車が狂い始めている兆候なのだから……。

これは、ごく小さな歯車から、人生の全てが狂った男の物語。

617 狂った小さな歯車 New! 2006/08/13(日) 02:54:12.85 ID:6j0ZyhQaO
(;^ω^)「……ぅえ!?
かーちゃん、ヨーグルトがないお!?」

この男の名は内藤ホライゾン。
朝にヨーグルトを食べる習慣を持つ、ごく普通の引き籠もり。

J('ー`)し「あらら、すまないね。
悪いけど買ってきてくれないかい?」

( ^ω^)「めんどくさいけど把握した」

引き籠もりとはいえ、彼は自分で買い物などに行く。
それが彼なりの親孝行。
母親は何も言わず彼の引き籠もりを認めてくれていたのだ。

母親から小銭を受け取り、近所のコンビニに迎う内藤。
思えば彼はここで人生の転機を迎えたのだ。


619 狂った小さな歯車 New! 2006/08/13(日) 02:54:57.75 ID:6j0ZyhQaO
朝とはいえ、夏の日差しは容赦無く皮膚を焼く。
早くも内藤の額に汗が光りだした。
運動不足も疲労に拍車をかけている。

(;^ω^)「こりゃもうダメかもわからんね」

出発してから数分。
早くも内藤は弱音を吐き、しゃがみこんだ。
帰ろうかと思ったが、今帰れば朝食べるモノが無い。
朝はどうしてもヨーグルトが食べたい内藤だった。

(;^ω^)「行くしか……無い……か。
それが、世界の選択だお……」

やや大袈裟に自分を鼓舞し、再び立ち上がる内藤。
コンビニまではもうすぐだ。

620 狂った小さな歯車 New! 2006/08/13(日) 02:55:46.67 ID:6j0ZyhQaO
気力と汗とを振り絞り、馴染みの看板に突撃。
一気に内藤の汗が引き、心地よい冷気が彼を包んだ。

(*^ω^)「おぉ〜幸せだおぉ」

いきなりヨーグルトを買うような愚は犯さない。
一直線に弁当コーナーに行き、体全体で冷風を浴びる。
内藤の背後で舌打ちが鳴った。

ξ#゚听)ξ「……(さっさと買えよ)」

(;^ω^)「ガラの悪い店員だお。
くわばらくわばら」

冷風を諦め、すごすごとヨーグルトを置いてある棚に向かう内藤。
店員に目を付けられたくない。
そんな彼は対人恐怖症だった。

621 狂った小さな歯車 New! 2006/08/13(日) 02:56:30.93 ID:6j0ZyhQaO
( ^ω^)「お、あったお」

内藤がヨーグルトを手にした瞬間、店内に破裂音が響き、彼の身体は驚きに震えた。
それは、ビデオやドラマでよく耳にする破裂音。

すなわち――。

(;^ω^)「……じ、銃声?まさか……お」

物音を立てないように棚の影に隠れ、頭だけを出し、様子を伺う。
カウンターに先刻までの店員の姿はなく、代わりに、一人の男がいた。
内藤は慌てて頭を引っ込め、指を噛んだ。
そうしないと叫んでしまいそうだったから。
だが、そうした瞬間に手からヨーグルトが落ち、床に転がった。

(;^ω^)「……!?」

622 狂った小さな歯車 New! 2006/08/13(日) 02:57:11.05 ID:6j0ZyhQaO
鼓動がやけに耳につく。
指先が痺れる。
目の前が涙で霞む。
身体の震えが止まらない。

( ;ω;)「(お願いだお……。
気付かずに行ってくれお……っ!?)」

足音が――近づいてくる。
一歩一歩、確実に、ゆっくりと。
破滅の足音が。

逃げなければ、と、理性は告げている。
だが、身体は動かない。

――ああ、腰が抜けたのか。こんなの初めてだ。

脳の一部がやけに冷静に状況を分析していた。

623 狂った小さな歯車 New! 2006/08/13(日) 02:57:55.27 ID:6j0ZyhQaO
コツ、コツ、コツ……。

内藤の真横で足音が止まる。
嫌でも感じる頭部への視線に内藤は、本能で頭を上げた。

(´・ω・`)「……ひどい顔だよ」

( ;ω;)「……お?」

その男は殺人を犯すような顔じゃなかった。
くたびれた顔に力の抜けた身体は、手に拳銃を持っていなければ只の青年にしか見えない。

(´・ω・`)「ほら。……顔、拭きなよ」

売り物のタオルを破り、内藤に差し出す男。
内藤はあっけにとられながらもタオルを受け取り、顔を拭いた。

(´・ω・`)「あの店員、ムカつかなかったかい?」

確かに。

(;^ω^)「……はぁ」

624 狂った小さな歯車 New! 2006/08/13(日) 02:58:34.91 ID:6j0ZyhQaO
曖昧に返す内藤。
男の飄々とした態度に恐怖は薄れてしまった。
人を一人殺しておいて、なぜこの男はこんなにものんびりとしているのだろう。

(´・ω・`)「うん、朝はやっぱりヨーグルトだよね。仲間だ」

内藤の足元に転がるヨーグルトを見た男は、自分もヨーグルトを手に取った。

内藤は動けない。
尻に根が張ってしまっているようだ。

(´・ω・`)「さて、と……」

625 狂った小さな歯車 New! 2006/08/13(日) 03:00:38.92 ID:6j0ZyhQaO
内藤に銃口を向け、男がゆっくりと口を開いた。
再び内藤の額に汗が滲み、身体が震えだす。
構わず言葉を続けた。

(´・ω・`)「……目撃者を生かす訳には行かないんだ。ごめんね?
君も汚い顔じゃ死にたくないだろう」

――嫌だ。まだ死にたくない。僕にはまだ未来があるんだ。対人恐怖症を克服して、かーちゃんに親孝行して。そもそもなんでぼくはきょうよーぐるとをヨーグルトをようぐるヨーぐル。

破裂音後――静寂。

狂った小さな歯車はいずれ時計を狂わせる。

終わり

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