898 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/08/08(火) 14:22:53.48 ID:2DK8Uy9a0
とおいとおい、くものうえのもっとうえ。
かみさまがすむ、たかいばしょに、ちじょうをのぞくてんしがいました。

「にんげんって、なんておもしろいんだろう」

てんしはちじょうをのぞくのがだいすきでした。
ちじょうには、いろんなにんげんたちがいます。
おとこのひと、おんなのひと、ふとったひと、やせたひと、せのたかいひと、ひくいひと……

てんしはにんげんがすることをみるのが、とてもとてもだいすきでした。
かみさまのいいつけをまもるのもわすれて、ちじょうをずっとのぞいています。

「あっ!」

そのとき、てんしのぽけっとから、しかくいちいさなものがちじょうにころがりおちました。

しかくいちいさなものは、どんどんちじょうにおちていきます――

899 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/08/08(火) 14:23:46.03 ID:2DK8Uy9a0
(;'A`)「――いたっ!?」

突然何かが頭にぶつかり、俺は空を見上げる。
青く、どこまでも広い空が見えるだけ。当然のように、何も無い。

だったら今のはなんだろう。その原因はすぐにわかった。
足元に、何か四角い小さなものが転がっている。

('A`)「……これが、降って来たのか?」

俺は、四角いものを手に取ってみる。白い台みたいなものの上に、赤くて丸い柱。
裏をひっくり返して見てみると、文字で「自殺スイッチ」と書いてあった。


……まるで、漫画で見るようにあからさまなデザイン。

900 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/08/08(火) 14:24:54.42 ID:2DK8Uy9a0
ただ普通に道を歩いていただけなのに、なんなんだ一体。
しかも、さっきの感触からするとこのスイッチ、真上から降って来たはずだ。
誰かのイタズラだろうか。俺は周りに視線を巡らす。

はっきりとはわからないけど、周りにはそれらしい人物……というか人影すらない。
なんだろう、鳥が落っことしたんだろうか。

……まあ、気にしても仕方ないか。どうせ、俺の運が悪かったんだろう。

('A`)「行かなきゃ…逃げたら…また殴られるんだろうし…」

俺はなんとなくスイッチをズボンの後ろのポケットに入れ、あいつらが待っている空き地へと向かった。

901 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/08/08(火) 14:27:27.73 ID:2DK8Uy9a0
(’e’)「あ! おせーんだよドクオ!! ブーンはもう来てんぞ!」
(;'A`)「あ…」

空き地には既にセントジョーンズとその取り巻き、そして俺の幼馴染のブーンの姿があった。
俺は慌ててセントジョーンズの元へ走る。もしとぼとぼ歩いてなんか行ったら、蹴り飛ばされるに決まっているんだ。

(;'A`)「ご、ごめん…」
(’e’)「謝るんだったら俺より早く来いよ! このグズ!」

セントジョーンズが俺に問答無用と言った感じで罵声を投げ付ける。いつものことだ。慣れている、ことだ。
ちらっとブーンの方に目をやると、ブーンは終始俯いて黙っていた。

(’e’)「まあいいや。おい! 今日はいいもの持って来たんだよ!」

そう言って、セントジョーンズは新品のサッカーボールを取り出した。

902 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/08/08(火) 14:29:11.50 ID:2DK8Uy9a0
(’e’)「これでサッカーやろうぜ!」

俺はその言葉を聞いて少し胸を撫で下ろした。
少なくともサッカーなら、セントジョーンズに殴られることはないはずだ。
俺はセントジョーンズに気付かれないようにブーンに視線を向けると、ブーンも同じことを考えていたのか、視線は俺の方を見ていた。

(’e’)「おっし! じゃあ組み分けは俺とまたんきと……」

セントジョーンズはどんどん一人でメンバーを分けていき、やがてそれぞれ三人の二つのチームができた。
残ったのは俺とブーンだけ。どうやら俺達は違うチームになるようだ。

(’e’)「おっし、じゃあドクオとブーン、お前らゴールな」
('A`)「…? キーパーってこと?」
(’e’)「は? ちげーよ、“ゴール”だよ」

903 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/08/08(火) 14:30:08.90 ID:2DK8Uy9a0
……そうして、俺たちにとって最悪のサッカーが始まった。

「おら! 行け! 行け!」
「なにやってんだよ! ボール渡すんじゃねーよ!」

セントジョーンズ達が空き地の真ん中でボールを取り合う。
俺とブーンは空き地の端と端でぽつんと立ち尽くし、“ゴール”の役割を果たす。

……当然、これから起こることもわかりきっていた。

(’e’)「おら! シュート!」

俺のすぐ近くまで来ていたセントジョーンズが、思い切り右脚を後方に振り上げる。
ボールは、俺の右肩に当たった。

(;'A`)「ぐっ!」
(’e’)「よっしゃあ! 一点!」

904 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/08/08(火) 14:31:27.51 ID:2DK8Uy9a0
「よっしゃ!」
――痛い。
「おりゃ!」
――痛い。
「くらえ!」
――痛い。

痛い。痛いよ。体のあちこちが熱い。
当たったところをさすろうとしたら、「ゴールが動くんじゃねえよ!」と言われた。

見れば、俺の向こう側でブーンも心配そうにこちらを見ている。
でも、ブーンだってさっきから何度もボールをぶつけられている。痛いのはきっと同じはずだ。

ブーンは昔から優しい奴だった。何も言わないけど、きっと俺のことを心配してくれている。
でも、結局俺は何もできない。こうやってじっと我慢して、セントジョーンズ達の気が済むのを待つしかない……。

(’e’)「うりゃあっ!!」
(;'A`)「うああっ!!」

セントジョーンズの渾身のシュートが放たれる。ボールは俺の顔面を直撃。
たまらず、俺は地面に倒れ込んだ。

905 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/08/08(火) 14:33:15.98 ID:2DK8Uy9a0
(;'A`)「うう…」
(’e’)「んだよ。根性ねーなあ……そうだ! 次はフリーキック大会にしようぜ!」

セントジョーンズが皆にそう言うと、一斉に皆はブーンの前に並び始めた。

(’e’)「俺からいくぞ! おりゃ!」
(;^ω^)「うあっ!」

セントジョーンズを先頭に、次々とブーンにボールが蹴り込まれていく。
ブーンはボールがぶつかる度に苦痛の声を上げ、体が大きく揺さぶられる。
どうやら、セントジョーンズの言ったフリーキック大会とはこのことのようだ。

(;'A`)「ブ、ブーン……」

俺は這いずったまま、ブーンに視線を向ける。ブーンは眼を瞑り、下唇を噛んで必死に耐えているようだった。
何度もブーンはよろけるが、その度に姿勢を戻す。
どうしてそこまで意地になるのかと思ったが、俺はその時気付いてしまった。

ブーンが少しだけ眼を開けた時、その視線が明らかに俺を捉えていたのだ。


ブーンは――俺のために耐えているのだ。

906 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/08/08(火) 14:35:13.90 ID:2DK8Uy9a0
ブーンは、すぐにまた眼を瞑ってしまった。
でも、その気持ちは痛いほど伝わってくる。

――自分が倒れれば、次はドクオがやられる――

長い付き合いだから、俺はブーンの性格を知っているから、俺にはそれがわかってしまった。
ブーンは拳をぎゅっと握り、ただ意固地に俺のために耐えている。

俺は、セントジョーンズ達の対象が自分から外れたので、わずかに安心してしまっていた自分がとんでもなく嫌になった。
ブーンが身を挺して俺を守ってくれているのに、俺は――

('A`)「もう……死んでしまいたい」


――その時、俺は自分のポケットに入っているものの存在に気が付いた。

907 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/08/08(火) 14:37:41.96 ID:2DK8Uy9a0
ポケットから、自殺スイッチを取り出す。

持ってみたら、スイッチは思いの他軽く感じた。
所詮、俺の命なんてそのくらいの重さだということだろうか。

俺は、スイッチを押す前に視線をブーンの方に向けた。

相変わらず、ブーンはただ黙ってセントジョーンズ達のイジメに耐えている。こんな、俺なんかのために――

('A`)「ごめんな、ブーン……」

俺は一度だけブーンに謝ると、親指で自殺スイッチを押し込んだ。




――結果は、何も起きなかった。

908 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/08/08(火) 14:38:52.33 ID:2DK8Uy9a0
('∀`) 「…はは」

俺なんて……死ぬ価値もないってことか。
友達が目の前でイジメられているっていうのに、何にもできない俺なんか、死ぬのはおこがましいってことか。

(;A;)「……ちくしょう」

涙が溢れてくる。
言い様のない情けなさが、全身に染み渡っていく。
頭の中の脳みそが、どんどん熱くなっていくのを感じた。

(;A;)「…ちくしょう……ちくしょう…ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう……」

俺は、いつの間にか立ち上がっていた。

(`A')「ちいっくしょおおおおおおおおっ!!!!」

――そうして、俺はブーンの元へと駆け出した。

909 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/08/08(火) 14:41:53.04 ID:2DK8Uy9a0
(`A')「うわあああああああっ!!!!」
(;’e’)「な、なんだコイツ!?」

なりふり構わず、セントジョーンズへ体ごとぶつかる。セントジョーンズは丁度シュートの途中だったため、呆気なく体勢を崩した。

(`A')「やめろおおおっ!! ブーンに手を出すなあああっ!!」

俺は一心不乱にセントジョーンズの体を殴りつける。
取り巻き達は突然のことだったので最初は呆気に取られていたが、事態に気付くと、数人で俺の体を引き剥がそうとした。

(`A')「うあああっ!! 離せっ!! この野郎ぉぉぉぉっ!!」

俺は両腕を背中からはがいじめにされながら、力の限り暴れる。
セントジョーンズは呆然とした表情で俺を見つめ、ブーンも驚いた表情で僕を見ていた。

(`A')「ブーンにぃ…っ! ブーンに、手を、出すなぁ…っ!」

体は満身創痍だったが、渾身の力でセントジョーンズを睨みつける。
牧村はよろよろと立ち上がると、僕から距離を置くように移動した。

(;’e’)「ふっ、ふん…おい、お前ら、飽きたからもう帰ろーぜ…」

取り巻きはセントジョーンズのその一言に最初は反応が遅れていたが、そのうちセントジョーンズが本当に空き地を後にしてしまったので、全員慌ててその後を付いて行った。

(;'A`)「はあっ…はあっ…はあっ…」

俺は肺から大量の空気を吐き出し、その場にぺたんと座り込んだ。

――どうやら、俺は勝ったようだ。

910 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/08/08(火) 14:44:33.74 ID:2DK8Uy9a0
しまった、見逃していた

×:牧村はよろよろと立ち上がると、僕から距離を置くように移動した。
○:セントジョーンズはよろよろと立ち上がると、俺から距離を置くように移動した。

911 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/08/08(火) 14:46:00.06 ID:2DK8Uy9a0
(;^ω^)「ドクオ…」

気付くと、すぐ傍にはブーンの心配そうな顔があった。
近くで見ると、体中が赤くなっているところばかりだ。
俺はそれを見て、また泣きそうになってしまった。

(;'∀`)「はは…勝ったよ、ブーン…」

涙なんか見せたくないので、思いっきり笑顔を作る。
右手の指でピースを作り、ブーンに向けて力強く……とはいかなかったが、なんとかよろよろと差し出した。

( ^ω^)「…やったお!」

ブーンも俺に向けてピースを向ける。
あんなに痛かった体も、今ではすっかり忘れてしまったみたいだ。

('∀`)「ふふ…」
( ^ω^)「あはは…」

俺達はぼろぼろの姿のまま、そのまま大いに笑い合った。

912 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/08/08(火) 14:46:59.32 ID:2DK8Uy9a0
とおいとおい、くものうえのもっとうえ。
かみさまがすむ、たかいばしょに、ちじょうをみつめるふたりのてんしのすがたがありました。

「それで、おとしちゃったんだって? あのスイッチを」
「そうなんだよ。かみさまにみつかったら、きっとしかられるなあ」

どうやら、ひとりはスイッチをおとした、あのてんしのようです。
ふたりともこまったかおで、くものうえからちじょうをのぞいていました。

「もし、にんげんがまちがってあのスイッチをおしてしまったら、たいへんなことになるね」
「ああ、それならだいじょうぶ」
「ええ? だって、あのスイッチをおしたら、にんげんはしんでしまうんだろう?」

――すると、てんしはこういいました。

「だいじょうぶ。あのスイッチがころすのは、いままでのじぶんさ。だから、ほんとうにしんだりすることはないんだよ」

とおいとおい、くものうえのもっとうえ。
かみさまがすむ、たかいばしょに、ちじょうをみつめるふたりのてんしのすがたがありました。


終わり
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