611 天使の背中 New! 2006/08/05(土) 01:01:27.90 ID:2W6yYudSO
(#'A`)「おい!ババァ!!
金よこせよ!!
ほらっ、そこどけ!」

J(;'ー`)し「あうっ!」

母親を足蹴にしている少年は、ドクオ。
彼は、自分の力を誇示する対象を母親しか知らない。
タンスから乱暴に封筒を取り出すと、彼はその中からお札を数枚取り出した。

J(;'ー`)し「そ、それは今月分の生活費よ……」

(;'A`)「るっせーよ!死ねやババァ!!」

――生活費。
ドクオの胸をチクリと刺す言葉。
ドクオの父は彼が幼い時に死んだ。
それから母は死に物狂いで働き、ドクオの教育費を捻出していたのだ。
彼はそれを一番近くで見ていた筈なのに。


612 天使の背中 New! 2006/08/05(土) 01:02:31.87 ID:2W6yYudSO
――ドクオは思う。

なぜこんな事になってしまったのか、と。
口には出さないが、もちろん母には感謝している。

事実、彼は中学卒業まで、大変な母親想いだった。
母の内職を手伝ったり、肩を揉んだり。
いつか母が言ってくれた。
『ドクオは私の天使だよ』

赤面を促す母の台詞に、彼はぎこちなく笑う。
高校に入るまでは、幸せだった。

('A`)「チッ……何を思い出してんだ俺は」

高校に入ってから、彼は自然に一つのグループに入った。
小学校、中学校と、おしゃれもせずに地味だった自分には不釣り合いなグループ。その事を疑問に思わなかった。
ただ純粋に友人が出来た事が、彼には嬉しかったのだ。その裏に潜む悪意には気付かず。

('A`)「……うぜぇ」


613 天使の背中 New! 2006/08/05(土) 01:03:20.74 ID:2W6yYudSO
我気付かず、ドクオはポケットに入れた手を握り締めていた。
ドクオに苛立ちが募る。

――何故だろう。何故今日はこんな事を思い出す。
もう、考えるのは止めよう。考えれば、自分が惨めになるから。

('A`)「惨め……なんで?」

認めたくないのだ。
自分の置かれた境遇を。
自分を取り巻く事実を。
自分の友人達の正体を。

('A`)「……なるほど」

ドクオは踵を返し、元来た道を歩き出した。
携帯電話がけたたましく鳴っていたが、直ぐに切り、友人達の電話番号を消去する。

――どうせ俺の金が目当てだ。問題ない。

友人達の電話番号が消えるとドクオの携帯電話には残り一つのメモリーしか残らなかった。母だ。
それでも、ドクオの心は軽くなっている。
今までは友人がいなくなる事は恐怖だったのに。
彼は電源を切り、ポケットに携帯電話を突っ込む。

614 天使の背中 New! 2006/08/05(土) 01:03:55.98 ID:2W6yYudSO
('A`)「……ババ、いや、カーチャンにケーキでも買っていくか」

今日は母の誕生日。
決して忘れていたわけじゃない。
不器用なドクオにおめでとうなんて言えないけれど、ぎこちない笑顔を見せる事と、謝罪くらいは、出来る。

(*'A`)「すんません。ショートケーキと、チーズケーキ」

自分の財布から、金を出すドクオ。彼は大事そうにそれを抱え、早足で家に戻った。

615 天使の背中 New! 2006/08/05(土) 01:04:57.12 ID:2W6yYudSO
( ^ω^)「ふひひ、上手くいったお」

塀の縁に腰掛けて、ドクオの後ろ姿を見送っている二つの小さな光り。
身長は五cmくらいだろう。背中には翼と頭の上には輪。
誰がどう見ても天使だ。

「内藤!内藤!さっさと内藤!!しばくぞっ!!」

内藤と呼ばれた天使を、ミニチュアサイズの布団叩きでパシパシと叩いているのは同じく天使のmiyoco。
……容姿は控えよう。

二人にはS夫婦を攻撃するという、別の任務があったのだが、現地に向かう途中でドクオの醜態を見たのだ。

616 天使の背中 New! 2006/08/05(土) 01:06:48.22 ID:2W6yYudSO
そもそも天使は気紛れである。
彼らは任務を放り出し、ドクオに取り付いて耳元でずっと囁いていたのだ。
これでいいのか、と。
そして、結果は大成功だった。

――自分が自分の過ちに気付いた時。

――ふと仕事上でいいアイディアが浮かんだ時。

――喧嘩した友人、もしくは恋人に謝りたくなった時。

そういう時は是非首を思い切り振ってみてほしい。
慌てて逃げて行くおせっかいな天使の背中が、見えるかもしれない――。

終わり

inserted by FC2 system