219 ◆dOKfgIN.m6 New! 2006/08/03(木) 21:22:50.40 ID:tqOlQSAnO
 ある朝のこと。
 のほほんとベッドで寝ていると、下から私を呼ぶ声が聞こえてきた。
 さてさて、今日は日曜だというのに何の用だろうか。

「起きろ!朝だぞ!」

承知した、と一言返事をする。こう何度も大声を出されては堪らない。
転倒しないよう、恐る恐る階段を降りる。
結構急な為、毎日が一苦労だ。

「ってか、今日は日曜だっけ?」

てんで悪怯れた様子もなく、ケラケラと笑っている。
難儀な母だと思いつつ、食卓についた。
しかし、この朝食はなんだろうか。食パンとコーヒー。ただそれだけ。

「いやぁ、私も寝坊したものだから。」

ようやく私を起こした理由を知った。・・・本当に難儀な親だ。
ねぐせを直しつつ、とりあえず出された朝食を済ませた。

川 ゜-゚)「昨日あれだけ酒を飲むからだ。ビールっ腹になるぞ。」

220 ◆dOKfgIN.m6 New! 2006/08/03(木) 21:24:04.39 ID:tqOlQSAnO
「しっかし、あんたも綺麗になったもんだねぇ。」

からかっているのだろうか。母は突然こんなことを言う人ではない。
もちろんそんな思いを顔には出さず、「ありがとう」と答える。
縦・横・ナナメ、色んな角度から私を見つめる母に内心照れていた。
読心術でも使えるのだろうか。ニヤニヤしながらこちらを見ている。
みられているのが恥ずかしかったので、わざとガタンと音をたてて立ち上がった。
入口のドアを開け、台所へと向かう。なんだか今日の母に違和感があった。
『れもんうぉーたー』とかいう飲料水があったので、喉を鳴らしながら一気に飲み干した。
てぬぐいで、額の汗を拭き取り、洗濯機に放り込む。
みかけによらず、私は大雑把なのだ。
たまたま近くにあったカバンを拾い上げ、玄関へと向かう。

「んー?どっか行くの?」

だらだらと転がる母が、ドアの隙間から見える。
けだるいので、ぶっきらぼうに「どこか」とだけ答えた。
どこだって構わないのだ。そう考えながら玄関のドアを開ける。

221 ◆dOKfgIN.m6 New! 2006/08/03(木) 21:24:48.24 ID:tqOlQSAnO
マフラーを首に巻きながら、外へ出た。
ジャケットを羽織っていても凍えるように寒い。私は寒いのは苦手だったが、家にいるよりマシ。
死にそうになったら、どこか店に入ればいいだろう。そう考えた。
「ん?もしかしてクーかお?」
じぃっとこっちを見つめながら声を掛けてくる、馴々しい男がいた。
まんまるのるり色の眼に大きな体。私の学校のクラスメイトだ。名前はブーンといったか。
いつもなら挨拶の一つでもするのだが、今の私には無理な話。
そう考えている私に、彼はどんどん近づいてくる。
うーん。これ以上無視したら、流石に悪いか。
川 ゜-゚)「君はブーン君・・・だったかな?」

222 ◆dOKfgIN.m6 New! 2006/08/03(木) 21:26:15.52 ID:tqOlQSAnO
( ^ω^)「ブーン君だなんて、よそよそしいお?」

( ^ω^)「昔みたいにブーンって呼んでくれお」

川 ゜-゚)「いきなり何だい?私は君と親しいわけじゃないし、君のことはよく知らない。」

顔がみるみる引きつり、私を睨み付けてきた。
文具入れから何かを取り出し、こっちに走ってくる。
字で表すと、猪突猛進といったところか。躱すのは簡単かな・・・
でも、そう考えているうちに、彼は目前まで到達していた。
笑える話だな。家では母親から逃げ、外では変質者に出会う。
っ痛。・・・あれ?私、刺された?お腹ら辺が熱い・・・な・・・
てくてくと、まるで何事もなく歩いていくブーンを目で追った。
みる限りでは、やはり昔の知人にはいない。
ただの人違いだとしたら、本当に笑い話だ。人生なんて、あっけない。
けど、まだ死にたくはないな。・・・と、なぜ私はこんなに冷静なのだろうか。
どうせなら、昔の思い出が走馬灯みたいに巡るくらいしてくれてもいいのに。

223 ◆dOKfgIN.m6 New! 2006/08/03(木) 21:28:14.15 ID:tqOlQSAnO
もうそろそろ意識が・・・あ。思い出した。あの眼・・・
うじうじと部屋の隅にいた彼だ――



「だーかーらー、なんでいじけるかなぁ。」

めらめらと燃えるように暑い教室の中、小さな男の子に話し掛けた。
ぽつんと一人、教室の隅に座っている、彼の名前はブーン。

( ;ω;)「だって、みんなが僕を小さくてキモいって・・・」

224 ◆dOKfgIN.m6 New! 2006/08/03(木) 21:29:26.70 ID:tqOlQSAnO
「そんな事で泣くな。大きくなって見返してやればいいじゃない。」

うるさい奴だ。これ以上泣いているのを見るのは嫌だったので、適当に声をかける。
 いいさ、どうせ上辺だけしかわからないだろうから。
 うざい位の暑さに耐えながら、ブーンが泣きやむのを待つ。
 事態は少しづつ良くなってきたようだ。立ち上がる彼に問い掛ける。

「できそう?」

225 ◆dOKfgIN.m6 New! 2006/08/03(木) 21:30:13.09 ID:tqOlQSAnO
 みくびるな、と言いたげな眼で私に返事をした。
 なんと力強い眼だろうか。るり色の瞳。
 さっきまであれだけ暗く沈んでいたのが嘘のようだった。

「ん、頑張って大きくなってね」



ぬぅ、すっかり忘れていた。今日の私はことごとくツイていないようだ・・・。

「るり色の・・・君だったか・・・」

ぽつんと呟いて、私の意識は遠ざかっていった。

( ^ω^)「OK、思い出したかお?
     ずっと昔に知り合ってたんだお」

( ^ω^)「僕は優しい君をずっと見ていたお。
君を好きだったから、頑張って大きくなったのに・・・僕を忘れるから悪いんだお。
さよならだお」

END

inserted by FC2 system