89 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/07/22(土) 05:49:12.26 ID:leHscg010

5:00 am

この時間のコンビニは好きだ。
自分以外の人間に出くわす事がほとんどない。注:店員除く。
いや、己がそこまで対人恐怖症だとは思ってないけど、
この空間の中に存在する人間は俺ひとりだけ、って、案外気分いいもんじゃね?

('A`)「……誰に聞いてんだ?」

一応、自分でつっこんでおく。

貸し切り気分を満喫した後、コンビニを出る。
小雨の中、あたりはすでに薄明るい。
来た時はまだ暗かったんだけどな。
立ち読みもしてないし、それほど長居してないはずなんだが。

雨ってことは、空は曇ってる。
曇ってるってことは、太陽は見えない。
いつ陽が昇ったのかもわからない、夜と朝の曖昧な境界線の上を、
コンビニ袋さげて、ビニール傘さして、雨音聴きながら歩いていく。


90 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/07/22(土) 05:49:45.39 ID:leHscg010

5:05 am

高架沿いの道、歩いているのは俺ひとり。
とはいえ、田舎ってわけでもないこの街で、さすがに起きてる人間が俺だけって事はないか。
遠くで車の音がする。仕事か行楽か、どっちにしろ朝早くからごくろうさん。
始発でも来ればもう少し賑やかにもなるんだろうが、
高架の上は、まだ電車が通りそうな気配はなく、静寂を保っている。

朝早くの散歩も、なかなか悪くない。

ビニール傘、コンビニ袋、後ポケットに小銭入れ。
鳴りもしない携帯を、わざわざ持ってくるほど馬鹿じゃない。
どうせ友人達はまだ皆寝てるだろう。
ツンも、もう寝ついた頃だろうか。

ショボンはどういうわけか、俺とツンを引き合わせたがるから困る。
『似た者同士じゃないか』って奴は言うけど、
一匹狼が二匹つるんだら、一匹狼じゃなくなるじゃねえか。
ま、そんな格好いいもんでもないけど。
しょせんは、ただの人づきあいの苦手な引きこもり。


91 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/07/22(土) 05:50:11.92 ID:leHscg010

インソムニアとかなんとか、
小洒落た言葉で、ショボンは俺とツンとをまとめてくれたけど。

不勉強だぜ、ショボン。
不眠症ったって色々あるんだ。
彼女のは寝つけないやつ。俺のは目が覚めるやつ。

眠らなきゃ、と思ってるのに、全然眠れない。
いたずらに時だけが、二時間、三時間と過ぎていく焦燥。
真っ暗な部屋の中、時計の音を聴きながら、
世界で自分ひとりだけが、眠りの園からはじき出された孤独感。

そんな感じだろうか、と想像してみる。
ツンの夜を。


92 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/07/22(土) 05:50:45.24 ID:leHscg010

('A`)「あいつのツンデレっぷりを禁止してもいいなら、考えるけど」

そう言ったら、ショボンはちょっと困った顔をした。

四六時中デレデレしててくれ、っていう元彼の言い分には、おおいに共感する。
が、ツンツンの部分も受け入れてやってこそ男だろうが、という思いも大いにある。
俺? 俺にはそんな甲斐性はねぇよ。
だから、争奪戦のステージに上るつもりもない。

ツンに必要なのは、共に眠れない夜を過ごしながら、傷をなめ合う相手じゃない。
眠れない夜の絶望からすくい上げて、受け入れてくれる相手だ。
たとえば、内藤みたいな。


93 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/07/22(土) 05:51:12.71 ID:leHscg010

雨がやんできた。
が、傘をたたむのも面倒なので、そのまま。
どっかで雀が鳴いてる。
雨上がりの薄もやに包まれた早朝の街を、ひとり歩いて帰る。

眠れない苦しみを、想像でしか理解できない俺は、
夜中にすぐ目が覚める自分に、それほど悲愴なものを感じてなかったりする。
むしろ、こんな散歩を楽しむのも悪くないな、と。

彼女が眠れない時間を過ごす頃、俺は何の苦もなく夢の中。
彼女がようやく眠りにつく頃、俺は目が冴えてベッドから這い出す。
重ならない覚醒。
俺に彼女の苦しみがわからないのと同じように、
彼女にも、俺の楽しみはわからないだろう。

5:10 am
少しずつ明るさを増していく街。
さて、そろそろアパートが見えてきた。


おしまい

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