676 ブーンと怪奇現象 New! 2006/07/21(金) 19:03:53.18 ID:paOmp4rz0
その日、いつよりやや遅めに登校した僕は、おかしなことに気づいた。
すれ違う女性が皆、僕に色目を使ってくるのだ。
あれだけ僕を嫌っていたDQN陣まで、僕にこんな態度をとるのはどう考えても理解できない。
とはいえ、まんざらでもないのでそのまま高揚した気分で教室に入ると、いきなりショボンに腕を引っ張られた。
そのまま廊下を教室と反対側の方向に進み、トイレに入ったところでやっと腕を離してくれた。

(´・ω・`)「・・・ここまでくれば、あいつらもこないよね。
いきなりこんなことをしてすまない。ただ、君も気づいたはずだ、学校中の女性が、不可解な行動をとっていることを。
学校の敷地外では異常がないようなんだが・・・何か心当たりはある?」

いきなりトイレに連れてこられて、一方的に喋られても困るんだが。
ただ、僕自身も奇妙に感じているのは確かだ。
どうやら僕一人に対するものではなかったようだ。残念。

( ^ω^)「いや、僕も今来たところだから、何がなんだかさっぱり・・・」

(´・ω・`)「そうか。それでは僕は他の人をあたってみるから、君も誰かに聞いてみてくれ。」

そう言ったショボンはすぐにトイレを出て行ってしまった。
まったく、朝から何なんだ。迷惑なことこの上ない。
ただ、ツンやクーまでもが他の奴らに色目を使っているかもしれないことを想像したら胸糞悪くなってきたので、しぶしぶ自分も情報収集をすることにした。
とりあえず、身近な人から聞いてまわってみることにしようか。
ショボンとツンは僕と同じB組。クーはA組、ドクオとジョルジュはC組。どちらも隣の教室だ。

朝から面倒なことに巻き込まれたと暗澹たる気分になりつつ、僕はA組から聞いていくことにした。


680 ブーンと怪奇現象 New! 2006/07/21(金) 19:09:19.66 ID:paOmp4rz0
すまん、投下していきなりだが、飯くってくる。

708 ブーンと怪奇現象 New! 2006/07/21(金) 19:48:25.38 ID:paOmp4rz0
A組にいくと、朝から異様な光景が広がっていた。
女性が男性にやたら接近し、恍惚とした表情で話しかけている。
対する男性は、嬉々として言葉を交わしている者もいれば、普段女性と話さないからかおどおどしつつも言葉絵オ返している者もいる。
わずかにだが、完全に無視している奴らもいた。何とも勿体無いことを。
そんなちょっと羨ましい光景の中に、クーの姿もあった。
残念なことに、クーも近くにいた男に話しかけている。
ワイシャツのボタンを2つもあけているため、胸の谷間が見えていた。
・・・正直、話しかけられている奴が羨ましい。

しかし意外なことに、クーは僕が教室に入ってきたことに気づくと、こちらにゆっくり歩み寄ってきた。
この色っぽい表情は、是非とも写真におさめておきたいものだったが、ギリギリのところで我慢し、本来の目的を果たすことにする。

( ^ω^)「あの・・・クー」

川 ゚ -゚)「やあブーン。今日の放課後暇かな?いや、放課後と言わず、休み時間でもいい。
ちょっと二人だけの時間がほしいんだ。二人だけのね・・・」

全然こちらの話を聞いちゃいない。いや、これはこれで最高にいいんだが。

( ^ω^)「あー、いや、嬉しい誘いだけどちょっと用事があってね。悪いけど」

川 ゚ -゚)「何なら今でも構わないよ?」

そういってクーは、僕に更に一歩近付いてくる。
ただでさえ近距離で話していたのに、更に一歩接近されたことにより、僕らの間隔は数cmというところまで縮まる。
流石にここらで引き上げないと不味そうだ。捨てるには惜しい場面ではあったが、これも本来の目的のため。

( ^ω^)「ごめんお、やっぱり今度。」

そう言い、クーの返事が返ってくる前に僕は教室を出た。

710 ブーンと怪奇現象 3行目「言葉絵オ」→「言葉を」 New! 2006/07/21(金) 20:00:53.86 ID:paOmp4rz0
続いてC組に入ると、やはりA組と似たような感じだった。
目的の二人は、正直何を言っても無駄なような気がした。
ドクオは普段ツンやクー以外と話さない所為か、数人の女子と話している。
彼の今の様子を表すと、「最高にハイ」って感じだろうか。
流石にこめかみを指でグリグリしたりはしてないが、興奮しすぎていて正直イタい。
ジョルジュはと言うと、なんと教員である若い女性と話していた。
やたら目戦がチラチラと胸へと移っていて、教員の方も他の女子生徒と同じように恍惚とした表情を浮かべている。
このままだと、そのまま倉庫か何処かで始めそうなまでの様子だったので、ジョルジュに話しかけてみる。

( ^ω^)「ジョルジュ、ちょっと話があるんだけど。」

( ゚∀゚)「んぁ?何だよ、俺は今忙しいんだ。後にしてくれ後に。」

そういうわけにもいかず、半ば強引にジョルジュをトイレまで連行することに成功。
かなり不機嫌そうなジョルジュに、これまでの流れを説明する。

( ゚∀゚)「そういうことなら・・・仕方がないな。
てかあの教員、HR始める気なさそうだったし。このままじゃ学校側としても不味いだろうしな。」

了承してくれて良かった。正直、あの教員から無理矢理引き剥がしたことに怒り、殴られでもしたらどうしようとまで思っていた。
ドクオは結局放置することにし、二人でB組へ行ってみることにした。
今まで遭遇しなかったことから、ショボンもそこにいる可能性が高いし、何よりツンがいる。
ツンが何もしていなければいいのだが。
そんな不安を抱きつつ、僕らはトイレを出た。

712 ブーンと怪奇現象 New! 2006/07/21(金) 20:15:19.90 ID:paOmp4rz0
B組に入るとすぐにツンを見つけられた。
しかし他の女子とは違い、ツンは唯一まともな状態のようだった。
他の女子とは違い、男子に言い寄ることもなければ恍惚とした表情もしていない。
唇を噛み締め、眉間に皺を寄せ、席に一人座っている。
当たり前のようだが、この空間ではそれが異様に見えてきた。
ツンが僕らに気づき、安堵したような表情を浮かべこちらに小走りで近付いてくる。
不安げなツンを階段の踊り場まで呼び、これまでの流れを説明する。

ξ゚听)ξ「ふーん、それでこんなことになっていたのね。ところで、ショボンは何処なの?」

そう言われてみれば、ショボンはB組の教室にもいなかった。
他の人に聞くとは言っていたが、まさか他の学年の人間にまで聞き込みは行わないはず。
ではショボンは一体何処に?

(´・ω・`)「やあ、ようこそ」

突然後ろから声をかけられ、僕は振り返る。
上の階から、ショボンがこちらを見下ろしていた。しかし、様子がおかしい。
いつもはやや無表情気味のショボンが、何故かこちらを見下ろしながらにやついている。
こんなショボンを見たのは初めてだった。

( ゚∀゚)「あれ?おまえそんなところで何してんだ?聞き込みしてるんじゃなかったのかよ」

(´・ω・`)「そのことも含めて君達に説明したいことがあるから、ちょっと来てほしい」

そういうとショボンは顔をひっこめてしまった。
僕達も階段を上って上の階にいくと、ショボンはさらに上から僕らを手招きしていた。

このフロアより上にあるのは一つ。
屋上だった。

729 ブーンと怪奇現象 New! 2006/07/21(金) 20:30:59.47 ID:paOmp4rz0
ショボンは屋上の、柵の向こう側に立っていた。何であんな場所に立っているんだろうか。
隣を見ると、ジョルジュは疑問符をそのまま顔に貼り付けたかのような表情をし、ショボンを見ていた。
一方、ツンは相変わらずの険しい表情でショボンを見据えている。

ξ゚听)ξ「これは一体どういうことなのかしら?」

(´・ω・`)「ブーン、わざわざ各クラスまで出向いてもらって悪いね。
だけど、皆の様子を見ただろう?皆、とても楽しそうじゃないか。
何のいざこざもなく、皆とても楽しそうだ。」

何を言っているんだこいつは?最初に僕に協力を要請したのは、ショボンのはずだ。

(´・ω・`)「醜い争いもない。醜い負の感情が生まれることもない。醜いものが全て消えた、そんな世界。
そんなものだけが欲しかった。それ以上もそれ以下も。
今、この学校は僕の目指した【理想郷】なんだよ。全てが、僕の志によるものだ。」

どうやら、今回の件はショボンが関係しているようだ。しかし、まだ話の全貌がつかめない。

( ^ω^)「どういうことか説明してもらうお。この異常事態は、ショボンによるものなのかお?」

(´・ω・`)「其の通り。僕の研究の成果だ。
僕は幼い頃から、両親や友人同士の険悪な仲を目の当たりにしてきてね。絶望していた。
どうして人間は皆仲良くなれないのか。どうして争いを続ける?どうして人を殺す?
・・・やがて僕は歴史を学び、人の性というものを知った。それはあまりにも醜かった。
僕は一つの理想をもった。全ての人間が愛し合い、争いは絶え、誰もが苦しまない世界。
それを理想で終わらせるつもりはなかった。僕は学び、追究し、学び続けた。
やがて、ある薬品が完成した。簡単に言えば、超強力な媚薬といったところだ。」

ここまで一気に喋り、ショボンはより歓喜極まるような表情をした。


734 ブーンと怪奇現象 New! 2006/07/21(金) 20:45:35.57 ID:paOmp4rz0
(`・ω・´)「僕はまずそれを小動物で試してみた。
・・・するとどうだろう。実験体は皆、雄と雌同士でのみだが、素晴らしい効果が出た!
僕は嬉しさのあまり震え上がったよ・・・これを世界中の人間に使用したらどうなる?
僕は、こうして理想郷の完成に一歩近付いた。」

吐き気を催すような、狂いっぷりだった。

(`・ω・´)「まずはこの学校の人間に試してみることにした。
こっそり全校女子生徒と女性教員の給食に薬を混入させ、効果を見ることにした。
・・・ああ、そういえばツンは昨日欠席してたね。だから普通のままなんだよ。
勿体無い、君も薬の効果を受けるべきだったんだ・・・」

そこまで言うと、ショボンは遠くを見るような寂しげな表情をした。

「そう、実際にこんな大規模な実験をして、僕は幾つかの大きなミスに気づいた。
まず一つ、薬を使用する対象が増えれば増えるほど、コストも大きくなる。
費用はどうなる?副作用は今はなくとも、何年、何十年と使ったらどうなる?
・・・・二つ目。これだけでは争いは絶えない。同姓同士に効果を及ぼす薬は、まだ作ることができていない。
そして三つ目」

ショボンは呆けたような表情になった。
それは、長年の努力が全て無駄となり、廃人となったかのような、顔。

(´゚ω゚`)「愛は人間の手で作り出してはいけなかった。これは禁忌だったんだ。
結局僕の作り出した愛は、歪で偏ったものでしかなかった。これでは、何の解決にもならない。
・・・結局僕は失敗した。人間という大きな存在を変えるのは、あまりに無謀だったんだ。」

(´・ω・`)「君達だけには真相を話しておこうと思ってね。ドクオ君にも聞かせたかったんだが・・・こればかりは仕方がないか。
彼は、僕がかつて目指した通りの結果となったわけだからね。一時的なものとはいえ、彼も幸せだろう・・・。」

735 ブーンと怪奇現象 New! 2006/07/21(金) 20:56:45.11 ID:paOmp4rz0
全てを語り終えたショボンは、何処か誇らしげで、尚且つ哀愁を漂わせていた。

( ゚∀゚)「それで・・・終わりか・・・・」

ジョルジュは怒りに震えているようで、何処か憐みの色を眼に浮かべていた。

(´・ω・`)「ああ・・・・真相を誰かに語るかどうかは、君達に任せるよ・・・
僕はもう、絶望の淵から這い上がれそうにないよ。でも、これはこれで満足だ。
やっと、答えを出せたのだから。

いや、君は本当は満足していないんだろ?
絶望の中に、絶対に届かない希望を見出し、やっとのところでそこに手をかけたところで、また堕ちた。
憐れで、正直で、何処か壊れてしまっていた男の、魂の叫び。
それは絶叫でも憤怒の雄叫びでもなく、泣き叫ぶ声だった。

(´・ω・`)「それじゃあ、僕はもう逝くよ」

ショボンが後退し始める。
ジョルジュが叫びながら走り始める。ツンが僕に何か言う。
でも僕は、動けなかった。

ショボンの体が傾く。ジョルジュは柵から5,6m程の場所を走る。
間に合わないのは明白だった。
最期に、ショボンが呟いた。

「やっぱり、僕達には愛が足りない」

そういって、彼は落下した。全てを飲み込む、無の空間へ。
ジョルジュが柵に辿り着き、手を伸ばす。
その手は、空を掴むだけだった。

738 ブーンと怪奇現象 New! 2006/07/21(金) 21:09:37.06 ID:paOmp4rz0
結局、校内中に蔓延した淫乱騒ぎは、救急車やら警察やらが学校に到着する頃には収まりかけていた。
僕達ははドクオとクーにだけ真相を語ることにした。
強制はしなかったが、彼らは誰にも真相を話すつもりはないようだった。
急遽全校生徒が下校することになり、謎の怪奇現象は幕を閉じた。




数日後。
僕はてっきり、皆がいつもの素っ気無く、冷たい、それでいて何処か愛を渇望しているような人間に戻るかと思っていたのだが、
何故か皆、事件の前より少し──ほんの少しだけ、優しげになっているようだった。
彼の実験の成果なのか、気のせいなのかは判りかねるが、それでも何となく実験の成果のような気がした。
今後は元の日常に戻る一方なのかもしれないが、それでも彼らの胸の中にはあるのだろう。
尊く、美しく。それでいて、とても遠い場所にある、愛を。人間が持つことのできる、最も優しい感情を。
なあショボン。現実に絶望していたのは、君だけじゃないんだ。
きっと誰もが、愛を渇望しているんだろうさ。
ただ、多くの人間はそれを、忘れてしまっているだけさ──

声をかけられ、ふと後ろを振り返ると、ツンとドクオが、こちらに走り寄って来るところだった。

そう、愛情は創造するものじゃない。
誰もが最初に持っていて、それを自分の手で育み、手にする。
そうすることで、温かさを伴い、幸福の種となるのだ。
ショボン、僕は忘れない。そして君が挫折してしまった道を、諦めないよ。
僕の隣に、彼らがいる限り。


【ブーンと怪奇現象】 完
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