204 す き ま New! 2006/07/17(月) 23:16:07.31 ID:8psJC2ql0

世の中にはどうしようもないほど怖いというものが存在する。
それは人によって様々だ。

虫が怖い人。
蛇が怖い人。
カラスが怖い人。


動物だけが対象ではない。

救急車のサイレン。
遮断機の警告音。
深夜放送が終わったあとのテレビ画面の砂嵐。

僕にいたっては動物や音ではなかった。


206 す き ま New! 2006/07/17(月) 23:17:47.84 ID:8psJC2ql0

一人暮らしの狭いアパートに帰ってくる。
生活必需品を除けば閑散とした部屋。
無駄な空間は一切なく、全てがぴったりと整頓されている。

後ろ手に閉めたドアをもう一度確認する。
きっちりと閉じられたドアに安堵の息を漏らし、部屋の中央に位置する布団に横になった。


この布団は隅には置けない。
寝相でずれてしまうかもしれない。
ずれた先には「アレ」ができる。


ベッドなんてもってのほかだ。
床とぴったり合わさるものを買えばいいのかもしれないが、
四本足で自重を支えるあの構造をどうしても思い出してしまう。

209 す き ま New! 2006/07/17(月) 23:18:54.06 ID:8psJC2ql0

四本の足で自重を支える。

ベッドと床の間に空間ができる。

……そう。





僕はすきまが怖い。







210 す き ま New! 2006/07/17(月) 23:20:13.14 ID:8psJC2ql0

私は彼を許さない。
人間はかくも醜いものだと思い知った。
彼は無断で人の一生を奪っていった。

その代償を彼は何も払わない。
誰も彼を罰しようとしない。

ならば私がやるだけだ。

代償を彼に払わせる。
誰も罰しないなら私が裁く。


私は彼を許さない。



211 す き ま New! 2006/07/17(月) 23:20:52.87 ID:8psJC2ql0

( ^ω^)「今日は……見ませんように……」

男は疲れた足取りで帰路をとぼとぼ歩いていた。
肉体的疲労はない。
精神的に彼は追い詰められていた。

なるべく下を向いて歩く。
途中何度か見てしまいそうになったが、すぐに目を逸らし、雑多なことで思考を満たした。

( ^ω^)「早く部屋に帰りたいお……」


213 す き ま New! 2006/07/17(月) 23:24:16.31 ID:8psJC2ql0

アパートの階段を上る。
おんぼろの階段はビルの非常階段のような作りで、一段ごとにすきまだらけだった。

ここではなるべく上を見る。
絶対に下を見てはいけない。
強く心に念じても、つまずいた衝撃から来る本能には逆らえなかった。

(;^ω^)「いてて……?」

鼻面を強く打ちつけ、片手を顔に片手を階段につけた。

丁度自分の視線の先、階段と階段のすきまから覗く髪の長い女と目が合った。


215 す き ま New! 2006/07/17(月) 23:25:21.18 ID:8psJC2ql0

(lli゚ω゚)「うわっ!! うわあああああああああ!!」

急いで階段を駆け上る。
今度は転んでも立ち止まらない。
乱暴にドアを閉めて一息ついた。

(;^ω^)「こ、ここまで来ればもうすきまはないお……!?」

再び感じる違和感。
そんなはずはない。
ここにはすきまはないはず。
大丈夫、大丈夫……。
男はは無理して笑みを作って、寝室のドアを開けた。

(;^ω^)「!?」

窓が開いている。
ほんの少しのすきまを残して。

男は急いで駆け寄った。
窓に手をかけ、思い切り閉めようとした。

しかしすきまから横向きに自分を覗く女と目が合って、男は意識を失った。


216 す き ま New! 2006/07/17(月) 23:26:23.99 ID:8psJC2ql0

翌日、男は警察に出頭した。
真夏日だというのにガタガタ震えているその男は、女を殺して壁に塗りこんだと供述した。
男の言う現場を調べてみたところ、廃墟となったビルの壁から白骨死体が発見されたという。

(*゚ー゚)「(やっと自首したか。手間ひまかけて幽霊の真似した甲斐があったわ)」

(*゚ー゚)「(最初はツンさんを殺した復讐で脅かすつもりだったけど……まさかあんなノイローゼ状態になるとはね)」

217 す き ま New! 2006/07/17(月) 23:30:03.69 ID:8psJC2ql0

('A`)「おはよう。しぃ、聞いたか?」

(*゚ー゚)「あ、ドクオさんおはようございます。内藤さんのことですよね」

(*゚ー゚)「まさかびっくりですよ。行方不明のツンさん、実は彼氏の内藤さんに殺されていたなんて……」

('A`)「あ〜……俺も聞いたときは死ぬほどびっくりしたよ」

(*゚ー゚)「でも刑務所で罪をつぐなうのは当然ですよねぇ」

('A`)「あれ? まだ聞いてないのか?」

(*゚ー゚)「?」

('A`)「内藤、拘置所で死んだんだぞ」


(*゚ー゚)「……え?」

218 す き ま New! 2006/07/17(月) 23:30:54.99 ID:8psJC2ql0

('A`)「いや、俺の友達に警官のジョルジュっているだろ? そいつの話によると発狂死?らしいぞ」

('A`)「どうも変な死に方らしくてな。ベッドの下に引きずりこまれるようにして死んでたって」

(;゚ー゚)「ベッドの下?」

('A`)「必死に這い出そうとしたかのように、床をかきむしった後があって、内藤の爪が全部はがれてたらしい」

('A`)「皆こう言ってるよ。『ツンが復讐したんじゃないか』ってね。阿保くさ。ただの自殺だろ」

(;゚ー゚)「ツンさんが……」

('A`)「出頭したときも精神状態おかしかったらしいしな」

(;゚ー゚)「……」

私には分かった。
自殺なんかじゃ……ない。

219 す き ま New! 2006/07/17(月) 23:31:23.29 ID:8psJC2ql0

私は彼を許さない。
人間はかくも醜いものだと思い知った。
彼は無断で私の一生を奪っていった。

その代償を彼は何も払わない。
誰も彼を罰しようとしない。

だから私がやっただけだ。

代償を彼に払わせた。
誰も罰しないなら私が裁いた。



私は彼を許さない。


inserted by FC2 system