864 幸福が訪れると言われる花 New! 2006/07/16(日) 22:09:16.87 ID:baYGHg7O0
暖かい春が来て、暑い夏が来る。
そして、涼しい秋が来て、寒い冬が来る。
寒い冬が終われば、また、暖かい春が来る。
そんなように、世界は変わっていく。
まるで、昨日を押しつぶすかのように。

でも、そんな変化に取り残された私とこの街。
錆び付いた看板の懐かしい駄菓子屋。
日に晒されて、色が落ちたポスター。
割れた線に沿って、張られたガムテープ。
エノコログサ。荒れ果てた空き地。
私の手には、幸福が訪れると言われる花。

そんな太陽の下の古惚けた景色を見ている私。

865 幸福が訪れると言われる花 New! 2006/07/16(日) 22:09:56.18 ID:baYGHg7O0
ξ゚听)ξ「・・・ねぇ、この街を出て行くって、本当?」
何も知らない、あの日の私。
( ^ω^)「ああ、もう決心は固まってるお。・・・止めても無駄だお。」
目を合わさずに、あなたは寂しそうに言う。
ξ゚听)ξ「昔から、決めた事は・・・ちゃんとやる人だもんね・・・。」
私もいつの間にか、うつむいていた。
あなたは、黄ばんだ太陽の光に照らされた、古惚けた街を見ていた。
( ^ω^)「・・・でも、僕はツンのことを忘れないお・・・。」
目を合わさないのは、照れているのから?それとも、悲しいから?
ξ゚听)ξ「ううん、私だけじゃなくて・・・。この、古惚けた街も、忘れないでね・・・。」
いつの間にか、涙声になってたみたい。
・・・いきなり、あなたは私の顔を撫でた。
( ^ω^)「わかってるお。でも、どれだけ月日が経っても・・・僕ら、一緒だお。」
顔を上げるのが恥ずかしいから、目だけ動かした。
ξ゚听)ξ「終わりなんか・・・無いよね・・・。」
泣いてしまうのが、少し怖かったから、また、うつむく。
いきなり、あなたは私を人形のように抱きしめた。
強く、強く、抱きしめた。
背中に跡が、残ると思うほど、強く、抱きしめてくれた。
気づけば、私も泣いていた・・・。
あなたも、泣いていた・・・。
抱き合ったまま、私たち、泣いていた・・・。
ぐすん、ぐすん。
鼻をすする音が、耳元で聞こえる。

866 幸福が訪れると言われる花 New! 2006/07/16(日) 22:10:18.17 ID:baYGHg7O0
少々錆び付いた看板の駄菓子屋を通り過ぎて、右へ曲がれば、単線の無人駅。
春風舞う、外の景色は、まるであなたを輝かせるかのように、美しかった。
時刻表見れば、次の電車まで30分。
あなたは、笑うように語りかけてきた。
( ^ω^)「・・・都会に行けば、4分おきぐらいに電車が来るらしいお。」
ξ゚听)ξ「1本の線路じゃ、衝突しちゃうじゃん・・・。」
( ^ω^)「いや、もう、4本ぐらいあるらしいお。」
ξ゚听)ξ「多いね・・・。」
( ^ω^)「しかも、大きい駅は、ホームが23番線ぐらいまであるらしいお。」
ξ゚听)ξ「そうなんだ・・・。」
都会は、あなたに似合ってるようね。
私には、似合わないようね。
夢や、希望をあなたが、身振り手振りで話し続けるから、
この街の事、忘れるんじゃないかな、って疑ってしまった。
こんな、私を許して欲しいな。

867 幸福が訪れると言われる花 New! 2006/07/16(日) 22:10:42.89 ID:baYGHg7O0
30分経って、電車が駅へ到着する。
あなたは、いきなり立ち上がり。
( ^ω^)「さよなら・・・だお。」
と、本当に寂しそうに言った。
私は、あなたの顔を見ることも出来なかった・・・。
そして、1両編成の電車に乗ったあなたは、笑顔で私に手を振った。
私は、泣きたかった。
けど、あなたが最後に見る私が、泣き顔だなんて嫌だから、精一杯強がって微笑んだ。

電車が風景に消えた。
そして、涙が溢れた。

868 幸福が訪れると言われる花 New! 2006/07/16(日) 22:11:08.01 ID:baYGHg7O0
あれから、手紙のやり取りは頻繁にできないけど、きまって誕生日にはあなたからの小包が届く。
私も、同じのを持っている物もあったけれど、素直に嬉しかった・・・。
私への手紙も、同封されていた。
読むたびに、あなたを思い出す。
不器用なあなた。
可愛いあなた。
綺麗なあなた。
強いあなた。
弱いあなた。
いい面も、悪い面も、今でも鮮明に蘇る。

869 幸福が訪れると言われる花 New! 2006/07/16(日) 22:11:35.43 ID:baYGHg7O0
そして、あの日のままの錆び付いた看板の懐かしい駄菓子屋を通り過ぎ、角を右へ。
そこは、あなたが旅立った場所。
あの日のままのこの街に、あなたが居た。

全てが、変わっていた。
けど、
全て、あの日のままだった。

あの日のままの私とこの街。
黄ばんだ太陽の下で、風に揺れる草木をただ、眺めていた。
いつもは、それだけ。
けれど、今日は、あの日のままの私とこの街と、あなた。
この、ふたりと1つで、風に揺れる草木をただ、眺めていた。


あの日のままの私とこの街から、あなたへ。
幸福が訪れるようなこの、花を・・・。

-END-

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