366 ホラー New! 2006/07/15(土) 00:47:34.28 ID:70/JgUf00
○○県××市立、VIP女子高等学校。
地元の人なら誰しもが知っている名門校で、他県からの入学者も多い。
だが、その「名門校」などというイメージなど、たかが外見を包んでいるだけのものに過ぎない。
いくら成績優秀であろうとも、その人間性は学業とは関係なく決まる。
実際に学校の中で行われていることは、他の学校となんら変わりはしないのだ。

川;゚ -<)「あうっ!」
ξ ゚听)ξ「うっとうしいんだよっ!」

一人の女生徒が、一人の女生徒を突き飛ばす。
突き飛ばされた女生徒はそのまま背中を壁にぶつけ、低く呻きながらしゃがみこんだ。ぶつけた背中に回された手が、ひどく弱々しい。
だが、その苦しそうな表情は、突き飛ばした方の女生徒にとって最高の嗜好品である。
その姿を上から見下ろす彼女は、にやにやと口元に下卑た笑いを浮かべていた。

川;゚ -゚)「うう…」

突き飛ばされた女生徒の名は、素直空子。長い黒髪が特徴的で、どこにでもいるような大人しい性格の娘だった。
いや、大人しいからこそ、彼女は目をつけられたのかもしれない。
彼女は人に気分を害されたからとて、すぐにカッとなるようなことはしない。
目を逸らしながら、小さく「気にしないでくれ」と言うのが彼女の「普通」なのである。

ξ ゚听)ξ「なに、なんか文句があるわけ」

突き飛ばした女生徒の名は、津出玲子。金髪のツインテールが特徴的で、とにかく強気な性格の娘だった。
彼女が素直を突き飛ばしたのは、ただ「態度が気に入らない」、ただそれだけだった。
だが、彼女にはそれで十分なのだ。いや、本当は彼女に素直を突き飛ばすことに理由などいらなかった。
気に入らないから、むかついたから、彼女が素直を貶める時には、大体そんな理由がまとわりつく。

――そう。名門だろうと有名だろうと、人間の根本にはなんら関係ない。そこで行われていたのは、まさしく“いじめ”であった。

367 ホラー New! 2006/07/15(土) 00:48:39.65 ID:70/JgUf00
きっかけは、本当に些細なことだった。
ある時、少し急いでいた素直が、津出の肩にぶつかったのである。
素直はその時も、ただ静かに「すまなかった」と自分の非を詫びた。だが、津出はそれだけでは収まらなかったのである。

津出は、彼女らが所属するクラスの中でもリーダー的な存在だった。
いや、リーダーというよりは、彼女には誰も逆らおうとしなかったというのが正しい。
元々高圧的な性格である彼女は、あっという間にクラスの女王の座に君臨していたのである。
クラスの中に彼女に進言するような者はいなく、彼女が何をしようと他の生徒は皆知らん振り。
だが、それがそのクラスの「日常」であり、また「常識」でもあった。

だから、素直がいくら津出にいじめられたところで、決して助ける者はいなかった。
いじめに加わることもしなかったが、皆が皆、自分の保身のために見て見ぬふりを続けたのだ。
そのクラスには、女王に対抗する“勇者”など、存在してはいなかった。

ξ ゚听)ξ「邪魔なんだよ!」
川;> -<)「うっ!」

ただおもむろに自分の前に立っていただけの素直の背を、津出が強い力で押し飛ばす。
素直はそれによって床に倒れ、運悪くささくれ立っていた木の板で腕を傷つけた。
一筋の赤い雫が、素直の腕を色付ける。それほど大きな怪我ではないが、素直の腕はじんじんとする痛みを訴えていた。

川;゚ -゚)「……」

素直はふらふらと立ち上がり、保健室へと向かうために教室を出ようとする。
しかし、それを遮るように、津出が素直の足元へと爪先を差し出した。そうして、バタンという音と共に素直が床へと倒れ込む。
床には腕から流れた鮮血が飛び散り、素直はその痛みに表情を歪めた。
津出はわざと聞こえるように笑い声を上げるが、素直は押し黙ったまま何も言おうとはしない。
何か言ったところで、ただその行為がエスカレートするだけだからだ。

だが、それでも津出の素直に対するいじめは日に日にひどくなっていった。

368 ホラー New! 2006/07/15(土) 00:49:16.80 ID:70/JgUf00
ある時は、素直の教科書が全てゴミ箱へと捨てられ、またある時は、トイレで上から水を被せられた。
机の中に虫を入れられたり、美術の授業で無理矢理ヌードモデルにされたりと、中にはいじめの範疇を超えるようなものさえあった。

だが、素直はただじっと押し黙り、津出がひたすら自分に飽きることを待ち続けた。
津出がいじめを行ったのは、何も素直一人ということではない。今までに何人かの経歴を経て、素直にまで至っているのだ。
だから、素直はいつか自分も解放される日が来ると信じていた。

だが、そんな彼女の思惑は、決して叶うことはなかったのである……。

ξ ゚听)ξ「おらっ!」
川;> -<)「あぐっ!」

津出の振り上げた爪先が、素直の腹部にめり込む。
素直はその場にしゃがみ込み、ぜえぜえと苦しみを吐き出す。
その様子に津出は嘲り、素直もいつものように押し黙るだけだった。

だが――

ξ ゚听)ξ「…あ?」

その時、素直は反射的にちらりと津出へその視線を向けてしまった。
特に大きな意味は無かったであろう、その視線。
ただ、早くこんなことは終わって欲しいと、そんないつもの願いが込められていたその視線。

――それを、津出は反抗の証として受け取った。

ξ#゚听)ξ「立てっ!」

津出は素直の腕を持ち上げ、無理矢理にその場に彼女を立たせる。
そして、次に津出が手にしたのは、裁縫用に使う長いハサミだった。

369 ホラー New! 2006/07/15(土) 00:50:19.60 ID:70/JgUf00
川;゚д゚)「い、いやっ!」

これからされることを予想し、必死に素直は逃げようとする。しかし、その腕を決して津出が離すことはなかった。

ξ#゚听)ξ「暴れんじゃないっ!」

津出はハサミを持っていた手で拳を作り、素直の腹にめり込ませる。ぐふっと素直は鈍い声を上げ、その場にぺたりと座り込んだ。
そうして、津出はハサミを持ち替え――

ジョキン――と、素直の髪を乱暴に切り裂いた。

川 ;д;)「いやああああああああっ!!」

素直の悲痛な声が教室中に響き渡る。
切られた髪の毛ははらりと素直の目の前にこぼれ落ちるが、それでも津出のハサミは止まろうとしない。
ジョキン、ジョキンとハサミは狂った獣のように忙しなく動き、素直の美しい黒髪を侵食していく。
素直にとって自慢だった長い髪は、抵抗もむなしく津出のハサミによって無残な形に変えられていった。

川 ;д;)「あ…あ…」

ようやくハサミの動きが止まった後、素直は糸の切れた人形のようにその場に尻餅を着く。
そして、なんとも悲痛な表情で床に落ちた髪の毛を拾い上げていった。それはまるで、失った自分の欠片を取り戻そうとするかのように。

ξ(゚ヮ゚ ξ「いいザマね…」

津出はハサミに残っていた髪の毛を手に持つと、素直の目の前で見せ付けるかのようにぱらぱらと床に落としていく。
素直は涙でぐしゃぐしゃになりながらも、その落ちた髪の毛を必死で拾い上げ、それを見て津出は大きく高笑いを上げた。


――素直が学校の屋上から飛び降りたのは、それからまもなくのことである。

370 ホラー New! 2006/07/15(土) 00:50:41.50 ID:70/JgUf00
学校での自殺だったため、素直の葬式には学校関係者を含めた多くの人が集まった。
クラスの全員が参列したため、その中には津出の姿もあったのである。

そして、その日の夜――

川 ゚听)「ふう…」

既に夜も更け、津出は自宅にて入浴を行っていた。
両親は残業により帰りが遅く、家には彼女が一人だけ。就寝の前の、ただの日常の行為に過ぎなかった。

彼女にとっては。

川 --)「ん…」

津出は髪を洗うため、おろした髪をシャワーで濡らす。水滴は彼女の体のラインをなぞり、タイルの上に落ちていく。
湯気によるほんのりとした温かさと、シャワーが体に当たる心地よさによって彼女は少しだけ眠気を帯びていた。

川 --)「あ…?」

その時、津出は口の中に何か違和感を感じた。何か、細長いものが入り込んだような感じ。
何のことはない。シャワーによって濡れた髪が、口元に入り込んだのである。
津出は指でもってそれをどかし、再びシャワーの快感へと酔いしれる。

だが、少しすると、彼女は再び口元に同じ違和感を感じた。いや、全く同じというわけではない。
今度は先ほどよりも少し多く髪の毛が口の中に入り込んだような感じだった。
津出は同じように指でそれを払いのけ、特に気にすることなくシャワーを続ける。

シャワーを浴びているというのもあるが、彼女はその瞳を開けることもしなかった。

371 ホラー New! 2006/07/15(土) 00:52:05.44 ID:70/JgUf00
川;゚-)「う…?」

今度感じた違和感は、今までとは明らかに違うものだった。
髪の毛は先ほどよりも深く口の中に入り込み、もはや息苦しさを伴うほどである。
こればっかりは彼女も口の中に指を差込み、髪の毛を掻き出していく。

……そうして、彼女はそこで初めて自分の口に入り込んだ髪の毛を目の当たりにした。

川;゚听)「え…?!」

津出は自分の口元に入り込んだ髪の毛を目にし、驚愕の表情を浮かべる。

彼女の指には、まるで絡みつくように――長い黒髪が、存在していた。

川;゚д゚)「うぐっ!」

突如、津出は呻き声を上げる。苦しそうに両手で喉を押さえ、眼を見開き、そして口を大きく開いていた。

川; д )「ぐ、ぐえええ…!」

津出の表情はどんどん青ざめていき、かきむしるかのように必死で喉に指を動かす。
形がわかるほどに額の血管が浮き出て、彼女はさらに苦しげに呻き声を上げる。
だが、その声はいずれもシャワーの水音によってかき消されていった。

川; д )「あ…が…」

呼吸を失った津出は、その場にどしゃりと倒れ込む。
じたばたと四肢を動かすが、それも……やがて動かなくなった。

傍らでその様子を見つめていた――少女の笑い声と共に。

372 ホラー New! 2006/07/15(土) 00:52:23.33 ID:70/JgUf00
――その後、両親によって発見された津出の死体の喉からは、大量の黒い髪の毛が検出された。

終わり

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