706 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします sage New! 2006/07/09(日) 15:07:20.82 ID:I4pdoPyx0
(*゚ー゚)「ふんふんふ〜ん♪おにこに〜♪」

鼻歌を口ずさみながら、しぃの手がリズミカルに動く。
彼女の目の前にあるのは、造りかけの石膏像。
裸の少女の姿をしたその像は、美術室の窓から差し込む夕陽を浴びて、淡いオレンジ色に輝いている。
……今度こそ、良い作品が出来そうだわ。
しぃは上機嫌で、手にしたコテで石膏を塗っていく。
その彼女の鼻歌に混じって、

「……やめて……。」

小さな声がした。
放課後の美術室には、美術教師であるしぃ以外に人の姿はない。
だが、しぃは気にとめる様子もなく、手を動かし続ける。
その手に、ぽたりと水滴が落ちた。

ξ;;)ξ「やめてください……しぃ先生……。」

声の主は、石膏像の少女だった。
いや、厳密には、完全な石膏像ではない。
細い足首。すんなりと伸びた脚。丸く綺麗な形の尻。柔らかそうな陰毛。くびれたウエスト。
色や質感こそ生きた人間とは異なるものの、血が通っていないとはとても思えない出来ばえだ。

しかし、さらに上へ目を移すと。
日に焼けていないとはいえ、明らかに石膏とは違う種類の白さの、人間の肌。
小ぶりだが形の良い乳房の頂には、桃色の乳首。
震える唇は、恐怖からか、完全に色を失っている。
大きく見開かれた瞳から、また涙が頬を伝ってこぼれ落ちた。

石膏像の少女は、生きていた。

707 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします sage New! 2006/07/09(日) 15:09:48.47 ID:I4pdoPyx0
(*゚ー゚)「やめる? とんでもない。」

美術部員・ツンの涙ながらの訴えにも、顧問のしぃは耳を貸さない。
コテを置き、手術などで使われるような極薄の手袋をはめる。
その様子を見ていたツンの頬が引きつるのに気づいて、しぃは妖艶に微笑んだ。

(*゚ー゚)「……期待してるの?」

ξ;;)ξ「!!」

違う、と首を小刻みに横に振って否定するツンから視線を外さず。
しぃは手袋に覆われた指先で石膏を少しすくって、ツンに歩み寄った。

(*゚ー゚)「恥ずかしがらなくてもいいのよ。
    せっかく女に生まれたんじゃない。
    ちゃんと、女の喜びを最大限に表現した状態で、あなたの美しさを留めてあげるわ。」

ξ;;)ξ「……あぁっ……!」

しぃの指先が、ツンの乳首を摘む。
まだ凝固していない石膏でぬめる指に挟まれ、こするように刺激される。
下半身と肩から先を石膏像に変えられたツンに、抵抗する術はない。
恐怖にさらされている時であっても、性的快感は得られるものなのだろうか。
青ざめていたツンの頬が紅潮し、呼吸が荒くなった。

ξ////)ξ「……あっ、はぁ、はぁ……あんっ!」

(*゚ー゚)「うふふ、勃ってきた♪」

708 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします sage New! 2006/07/09(日) 15:10:40.26 ID:I4pdoPyx0
ξ////)ξ「んっ……あぁ……!」

(*゚ー゚)「さぁ、そろそろ固まってきたわよ。
    さっきよりは簡単だったわね。あんなに濡らされちゃ、固まりにくくなるもの。
    でも、あなたはあっちの方が気持ち良かったかしら?」

ξ////)ξ「そんなこと、あっ、あ、はぁん……!」

しぃの手で与えられる快感と同時に、じわじわと、石膏が肌に染み込んでいく感覚を、ツンは嫌でも感じていた。
散々なぶられ、勃起したまま固まったクリトリス。あるいは指で執拗に掻き回され、充血したまま内から固まったヴァギナと同じように、彼女の乳首は勃ち上がった状態のまま、石膏像の一部になりつつあった。
快感によって一度は赤みを増した乳首が、少しずつ石膏の白色に支配され、色を失っていく。

(*゚ー゚)「綺麗だわ……。
    人は誰でも年を取る。美しさだって衰える。けれど、」

石膏を、今度はやや多めに手に取る。

(*゚ー゚)「こうすれば、一番輝いている瞬間を、ずっと閉じ込めておけるわ。」

ξ;;)ξ「や、いや、もうやめ……、」

胸に。背筋に。鎖骨に。
ゆるゆると、だが確実に、石膏が塗り込められていく。
優しく慈しむような、そして快感を導き出すような手つきとは裏腹に、それは死への緩慢なカウントダウン。

(*゚ー゚)「心配しなくてもいいのよ。
    この石膏は、ある町でのみ生産される特別製なの。
    髪だって、元のしなやかな質感を殺さずに固める事ができるわ。」

709 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします sage New! 2006/07/09(日) 15:11:29.21 ID:I4pdoPyx0
うっとりした表情で囁きながら、しぃはツンの髪を撫でる。
そのまま側頭部に手を当て、ゆっくりとツンの頭を横に倒した。

ξ;;)ξ「……?」

頭を傾けた状態にさせ、しぃは石膏のついた指で、首筋から耳許へ向かって撫で上げた。
恐怖か、それとも快感を感じているのか、思わず息を飲むツンの耳に、わざと吐息がかかるようにささやく。

(*゚ー゚)「この方が可愛いわ。」

生きた人としての姿が保たれているのは、すでに顔と首のみ。
可愛らしく首をかしげた状態で首筋を固めたら、後は絶望と快感に彩られた表情を丁寧に型取るだけ。
さあ、いよいよ仕上げだ。
しぃの表情が言い知れぬ喜びに輝く。

次の瞬間。
不意に、しぃは目を細めた。

(*゚ー゚)「……そこっ!」

机の上のコテを手に取るが早いか、流れるような動きで身体を半転させ、背後に向かって投じる。
狙いは完璧なはずだった。
が、しぃが見たのは、予想していた血飛沫ではなく、黒板に突き刺さって震えるコテだった。

(*゚ー゚)「かわした?!」

しぃが目を見張る先には、男が立っていた。

( ,,゚Д゚)「……。」

710 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします sage New! 2006/07/09(日) 15:12:15.39 ID:I4pdoPyx0
ξ;;)ξ「ギコ先生!」

(*゚ー゚)「どうやって入ってきたの? この教室には結界が張ってあるはず……。」

( ,,゚Д゚)「……。」

忽然と現れた社会科教師に、しぃが疑問を投げかける。
しぃの問いに、沈黙で返すギコ。
二人の間に流れる空気は、どう見ても職場仲間の友好的なそれとは程遠いものだった。

ξ;゚听)ξ(ギコ先生……なんだか雰囲気が違う?
     いつもは口やかましくゴルァゴルァ言ってるのに……。)

(*゚ー゚)「なるほどね、そういう事……。
    道理でいつもより口数が少ないわけか。
    ねぇ、ギコ先生に憑依した『ナナメギコ』さん?」

々 ゚( ,,゚Д゚)「!」

しぃが聞き慣れない名前を口にした瞬間。
ギコの背後に、別の男の姿が現れた。
しぃが結界の強度を上げた事により、通常は見えないはずの『憑依者』の姿が露わになったのだ。
それでも、その姿を肉眼で確認できるのは『NANAME CITY』の住人に限られるのだが、住人ではないツンでもその気配を感じられるほど、しぃの結界操作能力は強力だった。

゚、 。 (*゚ー゚)「NANAME CITYの住人でなければ、結界を破るのは不可能だものね?」

々 ゚( ,,゚Д゚)「……6号さん……。」

711 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします sage New! 2006/07/09(日) 15:13:19.20 ID:I4pdoPyx0
ギコ……いや、ナナメギコが、初めて口を開いた。
しぃに向かってではない。
その背後にいる憑依者、『北極6号』に向かって。

゚、 。 (*゚ー゚)「いかにも、北極6号よ。お久しぶりね、ナナメギコさん。」

々 ゚( ,,゚Д゚)「……それはどうでしょうか。」

゚、 。 (*゚ー゚)「あら、どういう意味かしら?」

々 ゚( ,,゚Д゚)「あなたが本物の6号さんだという証拠はどこですか?」

淡々としたナナメギコの問いを受けた途端、北極6号の表情が一瞬凍る。
そして、少し悲しそうに目を伏せた。

゚、 。 (*゚ー゚)「……この姿を見ても、信じてくれないの……?
      NANAME CITYに居た頃の私とあなたは、」

々 ゚( ,,゚Д゚)「『憑依者は姿形を偽ることはできない』と言われています。
       けれど実際は、別人の姿を借りる事は不可能ではありません。」

北極6号の言葉を途中でさえぎり、無表情のまま、ナナメギコは言葉を紡ぐ。
話の腰を折られた北極6号は、わずかに頬をこわばらせたものの、やがて笑みを浮かべた。
それは狂気に満ちた、それでいてどこか寂しそうな笑顔だった。

゚、 。 (*゚ー゚)「……いいわ。あなたがそういう態度なら、かえって好都合。
      昔がどうあれ、今の私の使命は……。」

北極6号は腰を落とし、タメをつくる。ナナメギコは微動だにしない。
ぴんと張りつめた一瞬の静寂が、結界内に満ちた。

712 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします sage New! 2006/07/09(日) 15:14:15.14 ID:I4pdoPyx0

゚、 。 (*゚ー゚)「……脱走者のあなたを消す事よ!」

ダン!と床を蹴り、北極6号が突進する。
ナナメギコはあくまで冷静に、ぎりぎりまで北極6号の攻撃を見極めようとしていた。

々 ゚( ,,゚Д゚)(……刃か。)

北極6号の右手に、光るものの存在を認める。
岩をも砕かんばかりの斬撃が振り下ろされるのと同時に、ナナメギコは己の右腕を無造作に振り上げた。
刃と刃が交錯する、まさにその瞬間。

々 ゚( ,,゚Д゚)「っ?!」

右に気配。
迎撃すべき己の右腕は、既に振り上げかけている。
いまさら方向転換などできない。
それ以前に、頭上からの攻撃を放置した日には、自分の……いや、ギコの脳髄が飛び散る羽目になる。
左腕、武器も防具もない。そもそもこの体勢では、逆側からの攻撃への対処は不可能。
迷っている暇はない。
ゼロコンマ一秒以下の時間で、ナナメギコは腹を決めた。

ほとんど一撃に聴こえるほど、近接したふたつの剣戟音。
真っ向から受けるつもりだった頭上からの斬撃を、振り上げた刀身で斜めに受けて流す。
そのまま、勘だけを頼りに、右方向を見もしないで翻した刀を叩きつける。
果たして、右から襲ってきた刃はナナメギコの剣に叩き落とされた。
だが、さすがに回避行動までとっている暇はない。
逸らされた一撃目が、それでも殺しきれなかった威力でもって、ナナメギコの左肩を襲う。

々 ゚( ,,゚Д゚)「くっ……!」

713 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします sage New! 2006/07/09(日) 15:15:02.30 ID:I4pdoPyx0

゚、 。 (*゚ー゚)「あらあら、借り物の身体に傷をつけちゃダメじゃない。」

々 ゚( ,,゚Д゚)「……。」

思いきり傷つける気まんまんだった者の台詞とは、とうてい思えない言葉をしれっと吐いて、北極6号が可憐な微笑を浮かべる。
彼女の手首から先は、拳のかわりに、鈍く光る巨大な刃がそれぞれ二本ずつ生えていた。
右の刃が血で濡れている。

々 ゚( ,,゚Д゚)「……巨蟹宮属性でしたか。」

蟹のハサミのようにも見えるその凶器を見ながら、ナナメギコはつぶやいた。
左腕のシャツは切り裂かれ、だらりと力なく落ちた指先を伝って、血が床に滴っている。
そして右手には、やや反り返った刀身をもつ長剣を握っていた。

゚、 。 (*゚ー゚)「左腕、使いものにならなくなっちゃったわね。
      どうする? 投降するなら今のうちよ?」

々 ゚( ,,゚Д゚)「生憎ですが、この獲物は片手でも扱えます。」

゚、 。 (*゚ー゚)「やせ我慢はよした方がいいわ。
      ボディバランスを制御できない戦士など、」

北極6号が、二対の刃を構える。

゚、 。 (*゚ー゚)「……素人も同然!」

714 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします sage New! 2006/07/09(日) 15:15:47.63 ID:I4pdoPyx0
先刻よりも遥かに速い斬撃。
しかし、その光速の連続攻撃を、ナナメギコは剣一本ですべて撃ち払った。

゚、 。 (*゚ー゚)「なっ?!」

たとえ武器を持っていなくとも、腕の存在は重要である。
とりわけ、接近戦においては、空いた腕は身のこなしを助けるバランサーの役目を果たす。
その腕が使えない。まして固定もされていないとなると、本来ならば振り回されて余計に体勢が崩れるもとになる。
そんなハンデをものともしない、ナナメギコの巧みな立ち回りだった。

々 ゚( ,,゚Д゚)「一撃目は油断しました。
       でも、二度はありません。」

゚、 。 (*゚ー゚)「あら、そう。だったら……。」

ナナメギコの人を食ったような台詞に、北極6号は眉を寄せ、怒りの混じった壮絶な笑みを浮かべた。

゚、 。 (*゚ー゚)「三度目の正直! 死になさい!」

さらにスピードを増した攻撃。
の、はずだった。

715 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします sage New! 2006/07/09(日) 15:16:48.04 ID:I4pdoPyx0

゚、 。 (*゚ー゚)「くっ……。」

々 ゚( ,,゚Д゚)「……。」

北極6号の首筋に、ナナメギコの剣が、ひたりと押し当てられている。
わずかでも動けば、研ぎすまされた刃は即座に頸動脈を切り裂くだろう。
北極6号に、三度目の攻撃を繰り出す暇は与えられなかった。
受け身にまわっていたナナメギコが、ひとたび攻勢に転じた時の速さは、北極6号の及ぶところではなかった。
圧倒的な力量の差。

々 ゚( ,,゚Д゚)「……あなたは、6号さんではありません。」

゚、 。 (*゚ー゚)「?!」

静かに、だがきっぱりと言い切るナナメギコに、北極6号が目をむいた。

々 ゚( ,,゚Д゚)「もし、本物の6号さんなら。
       接近戦では分が悪い、とわかっていたはずです。」

゚、 。 (*゚ー゚)「……。」

ナナメギコの言葉は図星だったのか、それとも。
もはや、北極6号に笑顔はなかった。

゚、 。 (*゚ー゚)「上等だわ……。
      ええ、上等よ! そこまで言うなら、お望み通りの戦い方で始末してあげる!!」

716 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします sage New! 2006/07/09(日) 15:17:41.64 ID:I4pdoPyx0
ナナメギコの剣をはねのけ、北極6号は後ろに飛びすさる。
あわせてナナメギコも距離をあけた。

゚、 。 (*゚ー゚)「最短ルートで『あの世』へ送ってあげるわ!」

二対の刃が、空間を切り裂く。
突如、何もない空中の四辺が切り取られた。
北極6号の言葉は、決してただの比喩ではない。
時空を歪めて生み出されたブラックホールは、文字通り、あの世――冥界へとつながっている。

北極6号が、印を切り始めた。
複雑な印を切り結んでいくに従って、空間の歪みから放出される負のエネルギーが強くなる。
それは生きとし生ける者すべてを飲み込まんとする、暗黒世界からの呼び声。
目に見えない、だが確実に引きずり込もうとする力を感じ、ナナメギコは足を踏ん張る。
しかし、怪我で生命力が弱っている左腕を強引に持っていかれそうな感覚に思わずよろめき、表情を険しくした。

々 ゚( ,,゚Д゚)「ぐっ……。」

゚、 。 (*゚ー゚)「……さよなら、ナナメギコ。」

最後の印を結び終えて。
北極6号は、目の前の冥界への入り口に、すべての集中力を注ぎ込んだ。
途端にナナメギコを襲う、抗いようのない強烈な引力。

゚、 。 (*゚ー゚)『……積尸気冥界波!!!』

717 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします sage New! 2006/07/09(日) 15:18:57.69 ID:I4pdoPyx0
ところが。

゚、 。 (*゚ー゚)「な、何?!」

冥界の門が、突如としてかき消えたのだ。
辺りを覆い尽くさんばかりだった負のエネルギーも、まったく感じない。

゚、 。 (*゚ー゚)「い、いったい何が……。」

々 ゚( ,,゚Д゚)「ごめんなさい。」

変わらず淡々と冷静に、しかし場違いな謝罪をナナメギコが口にする。

々 ゚( ,,゚Д゚)「あなたの技のエネルギーを借りました。この技は『返し技』ですから。」

さっきまで、黄泉の国が扉を開いて待っていた場所には、今は別の歪みが存在していた。
先刻のものよりは、ずっと小さい歪み。
だが、先刻のものとは明らかに異質な類の歪みだった。

々 ゚( ,,゚Д゚)「……そして、技の威力はこちらの方が格段に強い。」

々 ゚( ,,゚Д゚)「あなたの技は、『時空』の歪みです。
       ですがこれは、『次元』の歪みです。」

゚、 。 (*゚ー゚)「次元ですって……まさか、双児宮属性……?!」

蒼白な顔で言いかけた北極6号に、目を伏せたナナメギコの言葉が重なる。
それが、最後通告だった。

々 ゚( ,,゚Д゚)『 ア ナ ザ ー デ ィ メ ン シ ョ ン 』

718 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします sage New! 2006/07/09(日) 15:19:51.49 ID:I4pdoPyx0



ξ;゚听)ξ「?!」

不意に、ツンの全身を支配していた圧迫感が消えた。
肌を覆っていたはずの石膏は、影も形もない。
唐突に拘束が消えて身体に力が入らないまま、ツンは床に崩折れた。

ξ;゚听)ξ「な、何が……きゃっ!」

突然、視界が白い布に覆われる。
数時間にわたって自由を奪われていた身体は、すぐに思うようには動けない。
どうにかもがいて、ツンは全身をすっぽり覆う大きな布から顔を出した。
描きかけのキャンバスに掛けておく布のようだ。
油絵の具や水彩絵の具が、あちこちについた布。
だが、美術部員のツンには、絵の具とは違う種類の真新しい赤い染みが一目で判別できた。

恐る恐る、ツンは顔を上げる。
さっきまで、目の前でこの世のものとは思えない死闘を繰り広げていた教師二人。
一人は、左腕を真っ赤に染めて立ち尽くしている。
いま一人は床に倒れ伏し、ぴくりとも動かなかった。

ξ;゚听)ξ「……し、しぃ先生……。」

恐ろしかった。
この人は、自分を殺そうとしたのだ。
けれど、美術部に入部してから一年半の間。
しぃ先生はずっと優しくていつも親身になってくれる、大好きな先生だった。
そんな先生がいきなり豹変したあげく、死んでしまうなんて……。

719 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします sage New! 2006/07/09(日) 15:20:53.53 ID:I4pdoPyx0

々 ゚( ,,゚Д゚)「死んでません。」

ξ;;)ξ「!」

突然降ってきた声に、ツンは打たれたように顔を上げた。

々 ゚( ,,゚Д゚)「『しぃ先生』は無事です。」

ギコ……いや、ギコに『憑依』しているらしい誰かは、ツンに背を向けたまま立っている。
裸の上に布一枚しかまとっていない自分を気づかってくれているのだろう、と、ツンは思った。

々 ゚( ,,゚Д゚)「ですが、『彼女』は……。」

ギコの姿をした男の声がわずかに震えたように、ツンには聴こえた。
自分の身に起こったことが、いったい何だったのか。
さっきの戦いは何だったのか。
ツンにはわからないことだらけだ。
だが、大人の男には、他人に見せたくないものがあるのだろうという事だけは、その背中を見ていてわかったような気がした。

々 ゚( ,,゚Д゚)「……それより、」

言いかけた男が、いきなり膝から崩れ落ちた。
驚いたツンは、慌てつつもうまく動かない身体をどうにか叱咤し、男のほうへ這い寄る。

ξ;゚听)ξ「ギ、ギコ先生?!」

々 ゚( ,,゚Д゚)「か……『彼』を、ギコを、病院に……。医者はどこですか?」

720 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします sage New! 2006/07/09(日) 15:21:49.81 ID:I4pdoPyx0
放課後の美術室で、出血多量の男性教師と、意識不明の女性教師と、全裸の女子生徒が発見されるという事件。
学校中を駆け巡ったそのニュースは、しかし一晩たつと、誰一人として記憶に留めている者はいなかった。
ただ一人を除いて。

( ,,゚Д゚)「しかし、学校中の全員の記憶を消せるなんて、あんまり気分のいい能力じゃねえな。」

々 ゚「同感です。」

( ,,゚Д゚)「しれっとよく言うぜ、てめぇの力のくせして。」

放課後の誰もいない屋上。
ギコが職員室のすぐ隣にある喫煙室ではなく、いつも屋上に足を運ぶのは、ひとつには狭苦しい部屋よりも広い空の下で煙草をふかしたいから。
そして、数日前から増えた、もうひとつの理由。
自分以外には見えない、この異界の街の住人と話している姿を、他人に見られないためだった。

( ,,゚Д゚)「……あの女は、お前の探してる女とは別人だったのか。」

々 ゚「デスマスクの事ですか?」

( ,,゚Д゚)「んな物騒な名前だったのか、あの女。」

NANAME CITY防衛軍・巨蟹宮属性の戦士、通称デスマスク。本名でぃ。
ナナメギコや北極6号とも、一時は同じ部隊にいたので顔見知りだった。
変装の名人として、潜入捜査を得意としていた彼女。
ある時、冗談めかして打ち明けられたことがある。

『毎日毎日、他人になりすましてばかりでさ。もう自分の顔も名前も忘れそうだわ。』
『だから、ずっと変わらない人って憧れなの。』

それで『生身の人間よりも、人形のほうが良い』などと言っていたのだろうか。

721 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします sage New! 2006/07/09(日) 15:22:29.04 ID:I4pdoPyx0
( ,,゚Д゚)「……あいつ、お前に惚れてたんだろうな。」

一人言のような口調で、ギコがつぶやく。
ナナメギコにはわからなかった。

( ,,゚Д゚)「さてと、休憩終了。
    うるさい学年主任のとこにでも行ってこようかね。」

々 ゚「始末書の提出ですか?」

( ,,゚Д゚)「おいおい、記憶は消してくれたんじゃなかったのか?」

々 ゚「言ってみただけです。」

( ,,゚Д゚)「……てめぇに実体があったら、その首さらに180度曲がるまでぶん殴るぞゴルァ」


ナナメギコはまだ知らない。
ギコの胸ポケットに「辞表」と書かれた封筒が収められていることを。

ギコはまだ知らない。
これも何かの縁だ、とことんまでつき合ってやるぜ、と意気込んでいるこの先の道が、想像以上の困難に満ちていることを。

奇妙な友情で結ばれた、この二人の旅路に幸あれ。


おしまい


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