75 迷いの地獄へようこそ sage New! 2006/07/07(金) 21:20:18.40 ID:3ao3EshxO
( ;ω;)「嫌だお嫌だお。
なんで僕が地獄行きなんだお?」

灰色の一色で空が埋め尽くされている地獄の一丁目。
めそめそ泣いているのはご存じ内藤ホライゾン。
ロボットに搭乗したり、時空を旅したり、ピアノを弾いたりしていた彼も、遂に死んでしまったのだ。

( ;ω;)「うぅ、誰か助けてくれお。
ツン、ドクオ、ショボン……」

今は懐かしい友人達を思い出し、声にしてみても、誰一人として彼には手を差しのべてはくれない。
かつて友人に囲まれていた彼だが、今や圧倒的な孤独に、圧し潰されていた。


76 迷いの地獄へようこそ sage New! 2006/07/07(金) 21:21:08.80 ID:3ao3EshxO
『何を泣いている、内藤ホライゾン』

( ;ω;)「……!」

内藤の頭に響く声。
その正体はわからないが、内藤は耳を塞いだ。
この声に耳を傾けてはいけないのだ。
絶対に。

『お前はこの先を知っている筈だ。
この先には信頼できる仲間がいるだろう。
辛い試練もあるだろう。
だが幸せな結末が待っている……何を怯えている?』

内藤は知った。
この声の正体は、自分。
自分の中の悪魔が、囁くのだ。


77 迷いの地獄へようこそ sage New! 2006/07/07(金) 21:22:01.75 ID:3ao3EshxO
『僕はわかっているよ、内藤ホライゾン。
怖いのだろう?
わからないのだろう?
苦しいのだろう?』

その通りだ。彼には分かっていた。
これから先の筋道が。
結末が。
だがしかし、彼にはその道筋を上手く辿る自信が無く、辿る道筋の長さが怖かった。

『この苦しみから解放される方法を僕は知っている。
簡単な事さ。それはな』

( ^ω^)「……それぐらい、僕にもわかるお」

涙はすでに乾いている。
彼は両足に力を込め、立ち上がった。


78 迷いの地獄へようこそ sage New! 2006/07/07(金) 21:22:45.33 ID:3ao3EshxO
( ^ω^)「歩みを止めればいいんだお」

声が内藤に続く。

『そうさ、歩くことをやめればいい。
何、いずれみんな忘れてしまうさ。
そもそも、最初から期待されているわけじゃない。
周囲の面白半分と惰性にお前は歩かされてきただけだ』

――だが、それでも。

( ^ω^)「僕は歩みを止める訳にはいかないお。
誰かの為ではなく、自分の為に」

これはただの自己満足なのだ。
だがもしも、自分が受ける受難で人々が息を呑み、迎える結末で涙を流してくれるならば。

それを考えると、内藤は歩みを止める訳には行かないのだ。

内藤の視線の先はどこまでも続く灰色の一本道。
彼は一呼吸つき、再び歩きだす。構築された偽りの地獄を。


79 迷いの地獄へようこそ sage New! 2006/07/07(金) 21:23:47.05 ID:3ao3EshxO
『言うは易し、行うは難し……か』

内藤から離れた声は、どこかうらやましげに。
どこか哀しげに。

幾度も幾度も彼は同じような光景を繰り返していた。
ある者は歩く事をやめて、またある者は再び歩く決意をし。
そして、再び自分の声に耳を傾けてしまう者もいる。
次の『内藤ホライゾン』はどうだろうか。
無事に【( ^ω^)ブーンが地獄に落ちたようです】を、終わらせる事ができるだろうか。
歩く姿は堂々としていたが。

『自分の意志なんて、か弱いもんさ』

内藤が見えなくなった事を確認して、声は呟いた。
しばし後、暗転。

また一つ、中途終了のベルが響く。

終わり


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