618 ブーンとNURUPO New! 2006/07/02(日) 19:42:47.97 ID:2nuc7wmg0
2006年、某日のVIP市内。
現在この街では、新種のウイルス「NURUPO」による汚染が進んでいた。
このウイルスに感染した患者は、体中の免疫機能が著しく低下し、軽い切り傷の再生もままならなくなる。
さらに、皮膚が弱くなり傷自体ができやすくなり、最終的には様々な病原体に体を侵され、死に至るという。
元々衛生環境が悪かったVIP市内でのこのウイルスによる被害は甚大で、早急な解決が求められようとしていた。

そして結成された特殊チーム「VIPPER」の一員にこの僕、内藤ホライゾンが所属することになったのは、つい3日前のことだった。
僕達VIPPERの主な活動は以下の通り。

・通常はウイルスによる汚染が進んだ地域(主に貧民街)に派遣される
・そこで患者の状態、ウイルスの進行状況、地域の環境等を調査する
・助かる見込みがある患者は市内の病院へと輸送し、助かりそうにない状態の患者は速やかに始末する(これはウイルスが人間同士の接触による感染が行われるか確認されていないため、
万が一のことを考慮し決定された苦肉の策だそうだ)

そして僕達の初仕事は明後日。
同じ隊員であるツンやショボンにも、日増しに緊張の表情が浮かぶようだった。
無理もない。市内から緊急に選ばれた医学の知識が豊富な者が、いきなり謎のウイルスの調査をするように命じられたのだから。
国からの援助が早急に行われることを、祈るばかりである。

620 ブーンとNURUPO 書き溜めじゃないので投下の間が長いですがご了承を New! 2006/07/02(日) 19:54:42.43 ID:2nuc7wmg0
──任務初日

僕達は数台の車に分かれて乗り、被害地へと向かっていた。
患者は少数だが、ウイルスの進行がかなり速いそうで、もしかすると始末することになるかもしれないらしい。
初仕事でいきなり人を殺さなければいけないなんて、と憂鬱な気分になりながら車に揺られること数十分。
僕達は、目的地へと到着した。


( ゚д゚ )「全員揃ったか?」

隊長のミルナ氏の声を聞き、隊員達が集まる。
僕達は元々、市内でも都市部の方で研究をしていたような人間だ。それもかなり若い者ばかりである。
このような緊急事態となっている場所へ直接足を運ぶのは初めてなので、プレッシャーなども大きいが、それよりも深刻な問題があった。

ξ゚听)ξ「何よ・・・・この臭い・・・・」

あらかじめ知らされていたわけだが、この地域は衛生環境が非常に悪いそうで、
様々なゴミが道路に転がり、悪臭が鼻をつく。
ここに住んでいる人は皆、まともに五感が働いていないのではないかと思う程だ。
ミルナ氏も、予想以上の悪環境に顔をしかめている。

( ゚д゚ )「臭いはともかく・・・とりあえず患者の元へと向かうぞ。各自、防護服の点検をしろ」

念には念を押し、市は僕らVIPPERに防護服などを配給していた。
元々NURUPO以外にも病原菌が蔓延っていそうな場所だ。当然と言えば当然の装備かもしれない。
全員の点検が済んだことを確認すると、ミルナ氏の「行くぞ」の一言を合図に僕らは歩き出した。
どうやら、ここからは車は入れないらしい。

629 ブーンとNURUPO New! 2006/07/02(日) 20:08:59.09 ID:2nuc7wmg0
狭い路地を歩き続ける僕らは、普段見ることのない様々なモノを見た。
薄汚いボロを見にまとった母子や、地べたに寝転がり寝息をたてている男性、死んでいるんじゃないかと
思える老人など、以前貧民街について少し見る機会があった資料に載っていた写真の光景に近かった。
いや、それより酷いかもしれない。
彼らは皆飢えているようで、起きている者は皆歩き続ける僕らを恨めしげに見ていた。
彼らを観察するような目で見ていたショボンも、慌てて目を逸らす。
先頭を歩くミルナ氏が、苦々しい表情を浮かべるのが見えた。

歩き続けること数分、車を降りた場所からそれほど遠くない場所が、僕達の目的地のようだった。
少ししか歩いていないというのに、周辺の環境はより劣悪化していて、防護服を装備しているとはいえ、
異常な臭いは何処かから入ってきた。

「お、おえぇ・・・」

隊員の一人が思わず嘔吐しそうになり立ち止まる。
すると、突然何処かから若い男が飛び出してきて、隊員の元へと走り寄る。
何をするのかと、呆然とその光景を眺めていたのが、僕達の間違いだった。
男は手に瓦礫の一部か何かを持っていたらしく、悪臭に苦しむ隊員の頭を思いっきり殴った。
貧民街に住んでいるせいか痩せこけている男であったが、成人男性の基本的な身体能力ぐらいはあるらしく、
骨が砕ける嫌な音が路地に響き渡る。
隊員はそのまま地面へと倒れ伏し、ピクリとも動かなくなった。
隊員を殴った若い男は、隊員が持っていた救急用具などが入った配給品を持ち走り去っていく。
その身軽さは、彼よりもかなり良い体付きをしているミルナ氏が唖然とする程だった。
慌てて僕らが倒れている隊員に駆け寄った時には、隊員の命は既になかった。

貧民街というのは、僕達の想像以上に危険な場所のようだった。
今から行われようとしている任務に対する気持ちを引き締め、僕らは数人の隊員の死体の
運搬を頼み、目的地である医療所のような建物へと入っていった。

634 ブーンとNURUPO 数人の隊員の〜→数人の隊員に New! 2006/07/02(日) 20:26:31.06 ID:2nuc7wmg0
医療所は外よりはだいぶましで、医師や看護士と見られる人間数人と、呻き声をあげる患者数人がいた。
患者の数は3人。いずれも苦しそうな声を出していた。
医師と見られる人間が、僕らの元へと歩み寄ってくる。

/ ,' 3 「どうも、この診療所と責任者となっている、新巻スカルチノフです。」

( ゚д゚ )「VIPPERの隊長の、コッチ・ミルナです。患者の様態を説明して下さい。」

新巻氏によると、患者は4日前にここへ運ばれてきたらしく、全員が高熱を出し、嘔吐、下痢、痙攣などを
繰り返しているらしく、最近では寝返りをうつだけで体に軽い傷ができてしまうそうだ。
食事はまともにとっていないらしく(元々この地域にそれほど食料はないようだが)、水分も看護士が
何とか飲ませようとするものの、患者は意識が朦朧としているらしく、なかなか円滑に進まないらしい。
周辺の環境に関しては、僕達が自分達の目で見てきた通りのようで、最悪の衛生環境のようだ。
幸いなことに、他に感染者はまだ出ていないらしい。
新巻氏の説明を聞き終えた僕達は、患者の元へ歩いていく。

( ,,゚Д゚)「うぅ・・・あつ・・・あ・・・あつ・・・・い・・・」

(*゚ー゚)「お兄ちゃん・・・何処・・・おに・・・おにいちゃ・・・」

('A`)「か・・・・・はぁ・・・・かぁ・・・・・」

3人ともまともに喋ることは不可能のようだ。
手前に寝ている二人の子供はギコとしぃと言うそうだ。何でも兄妹らしい。
さらに奥に寝ている子は二人よりさらに幼く、まだ幼稚園児ぐらいの年齢のようだった。
名前はドクオというそうだ。
3人の患者の様態を少し観察した後、ミルナ氏がツンにある物を出すように命じる。
それはウイルスの感染状況を詳しく出す装置らしく、、この子達が助かるかどうかはこの装置が決めるようだ。

636 ブーンとNURUPO New! 2006/07/02(日) 20:34:28.22 ID:2nuc7wmg0
数分後、装置が患者の詳しい感染状況を表示する。
通常の人間の状態を0とし、助かる見込みが全くない人間の数値は70.完全に感染した患者、
つまり死人の数値は100だそうだ。
3人の数値を見る。
3人とも、




70を超えていた。



( ^ω^)「そ──そんな・・・ッッ」

思わず声を出してしまう。
そう、予想はできていた事態だった。
最初から患者は助からないかもしれないと言われていたし、いざという時のために全員に拳銃が配給されている。
それでも、現実がここまで酷いものだとは思わなかった。
──どうしてこんなことになったんだ。
これじゃあ、誰一人として救われないじゃないか。
それじゃあ、僕達は何のためにここに来たというのだ。
僕達は、患者を救いに来たんだ。死にかけの人間の寿命をさらに短くするために来たんじゃない。
そこをどいてくれ、僕がこの子たちを──

見ると、ショボンが腕で、患者の元へ歩み寄ろうとしていた僕を無言で遮っていた。
ショボンの涙は、重々しい装備により、地面を濡らすことはなかった。


639 ブーンとNURUPO New! 2006/07/02(日) 20:47:57.14 ID:2nuc7wmg0
数十分後、僕らは再び車に振られながら帰路を辿っていた。
結局、僕達の悲嘆に暮れた表情を見て、ミルナ氏が拳銃による始末は自分がやると言ってくれた。
このまま放っておいてもあの子達は死ぬんだろうが、やはり上からの命令は絶対だ。
これ以上患者が増えるかもしれないことを考慮すると、殺すのがもっとも確実とのこと。
ミルナ氏があの子達を運ぼうとしていた、あの時。
あの子達の目は、皆死にそうな目だった。
でも、まだ死んでいなかった。
幼い彼らは、生きることを切に願い、目元に涙を浮かべ、呻いていた。
死ぬ間際のあの子達にできた、最後の抵抗だったのだろう。
結局、誰も助けられなかった。隊員までもが死んでしまった。
誰一人悪くないのに、誰一人救われない。
そんな現実を目の当たりにした。


数日後、隊員の一人を失った僕らに、新たな任務が言い渡された。
NURUPOに汚染された地域は、どうやら貧民街に多いらしく、前回の場所ほどではなかったが
今度の派遣先もやはり汚染が酷い地域であった。
だが、国からの連絡によると、ウイルスに対するワクチン「GAXTU」の開発は順調に進んでいるらしく、
近い内にNURUPOによる大規模な被害は食い止められそうだということだ。
だけど、前みたいに国からの援助だけをただ待つようじゃ、僕らに人は救えない。
また同じ過ちを繰り返すだろう。また失うだけで、何一つ救えないだろう。
だから今度は、僕達の手で患者を救ってみせる。
もう、何一つ失わない。

僕達は確固たる意志を胸に、任務の準備を始めた。


【ブーンとNURUPO】 完
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