121 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/07/03(月) 18:00:42.56 ID:ky8XkeGCO
「プログラム終了です。御利用ありがとうございました」

女性に似せた柔らかい、しかしどこか違和感のある合成音声が耳元で響き、内藤は意識を取り戻した。

慢な動作でヘッドギアを外す。
電極のついた、一昔のB級映画に出てきそうなやつだ。

122 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/07/03(月) 18:01:37.90 ID:ky8XkeGCO
内藤はたった今まで勇者だった。
その前はヤクザの若頭。
その前は魔法学校の生徒。
更にその前はモンスターの中の人で、そしてその前はetcetc...

だがそれは決して輪廻転生だとか不可思議な事でなく、即ち科学の産物、「VRマシン」によるものだった。

全世期末に開発されたそれはまたたく間に世界中に広がり、多くの人々を虜にしていった。

なにせ仮想現実には何でもありなのだ。醜悪な容姿の者は他に類を見ない美しさに。貧しい生まれの者は世界一の大富豪に。

しかし、だからこそ現実に戻ってきた時の虚しさにはとても耐えられない。内藤はそう感じている。


――――――所詮、僕は僕だ。

123 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/07/03(月) 18:02:13.13 ID:ky8XkeGCO
( ^ω^)ブーンがゲーム脳にかかったようです

第一話


授業終了を告げるチャイム。次第に騒がしくなっていく教室。
だが内藤は、むしろ休み時間が嫌いだ。
一人ぼっちだという事実を突き付けられるから。

だからただ、机に伏している。

驚くべき事か、内藤は僅か二、三分程で自らを熟睡まで持っていく事ができる。
これもある種の適応力というべきか。

だが今日に限っては、そのまどろみは案外あっさり破られた。

「ちょっと、内藤」

124 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/07/03(月) 18:04:23.89 ID:ky8XkeGCO
呼び掛けてきたのは気の強そうな女の子の声。
いかにも気だるげに顔を上げるが、内藤には既に声の主が誰かわかっている。

クラスメイトのツンだ。

( ^ω^)「お…?」
ξ゚听)ξ「お…じゃないわよ馬鹿。今度の文化祭で作るクラスTシャツ、まだ代金払ってないのはあんただけよ」
( ^ω^)「……フヒヒ。ごめん。今払うお…」
ξ°凵K)ξ「きっも…。もう払わないでいいよ。つうか来ないでいいし」

そう言ってツンは内藤に背を向け、いつも一緒にいる女の子たちのもとへ戻っていく。
そこからはたちまちキモいだの何だの、内藤を中傷する言葉が聞こえてきた。

内藤は、ただぼーっと薄く頬を赤らめている。

125 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/07/03(月) 18:05:45.25 ID:ky8XkeGCO
そう、内藤は密かにツンに思いを寄せている。

VRで何か物語を構築する際、ヒロイン役にはいつもツン(によく似たプログラム)を登用している。
彼女にはドクオという彼氏がいたが、大した問題ではなかった。

仮想世界で何度も合わせた唇。何度も抱いた体。何度も囁いた言葉。
内藤にはそれが全てだった。

――――どうしてかな?学校ではツンは僕に冷たい。でもそれは彼女が素直じゃないからなんだ。彼女を理解してるのは僕だけだ。僕だけだ。


――――――――だから。

126 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/07/03(月) 18:06:20.27 ID:ky8XkeGCO
第二話

その日ドクオは少し早めに帰宅した。
テスト勉強のためだ。

ツンは一緒に帰りたがったが、ドクオはそれ以上に一緒に帰りたがった。
ならばそうすればいいのに、いかんせん二人の家は全く正反対の位置なのだ。

「仕方ないよね」
目に少し涙を溜めたツンの言葉が決め手となった。

つまり二人は、いわゆる“ラブラブ”というやつだ。


127 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/07/03(月) 18:07:55.49 ID:ky8XkeGCO
('A`)「ふぅ〜…」

勉強は一向にはかどらない。
ドクオは理系クラスの生徒だが、それは両親たっての希望によるもので、彼自身の脳はどちらかといえば文系寄りだった。

―――――ツン、何してるかな?

思わず携帯に手がのびる。

――――いや、だめだだめだだめだ。集中集中。

――――でもなぁ…

散々迷ったあげく、ドクオの指は結局ペンを握っていた。

そして溜め息

('A`)「はa「とぅおるるるるるるるるるる!!!」

着信音。

蛍光灯の照らし具合のせいで、サブディスプレイに表示されてる名前はわからないが、これは間違いない。ツンだ。

('A`)「信じられねぇぜ…こういうのを奇跡っていうんだな、めったにある事じゃねぇ…。
こんなタイミングで電話がくるなんて…
俺たちやっぱ繋がってるなwwwwww」

129 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/07/03(月) 18:08:37.76 ID:ky8XkeGCO
とおおるるるるるるるるるるる

とぉるるる…

ぶつッ!!

('A`)「もしもし、はいドックオです」
「ドクオ!?」

飛込んで来たのは、焦りきった男の声。いやこれは―――

('A`)「どーしたショボン。落ち着けよ」
(´・ω・`)「落ち着いてられるか馬鹿!ぶち殺すぞ馬鹿!」

ショボンがこんなに取り乱すなんて、ただ事じゃない。
自然とドクオの声にも緊張がはしる。

('A`)「…どうした?」

(´・ω・`)「ツンがッ!病院にッ!早くッ!」


――――――――え?

130 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/07/03(月) 18:11:23.14 ID:ky8XkeGCO
第三話

ドクオが病院に着いた頃には、ツンは既に息を引き取っていた。

死因は撲殺。しかし犯人も動機も不明。
むせび泣くドクオに、ショボンはただ、「遺体は見ない方がいい」としか言ってやれなかった。


私用でこの総合病院に寄った折、偶然ツンが搬送される所に立ち会い、勢いドクオに連絡したショボンだが、これなら教えなかった方が良かったとすら思ってしまう。

そのぐらい、嫌な空気だ。

131 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/07/03(月) 18:12:10.12 ID:ky8XkeGCO
しばらくして警察と共にツンの家族も到着し、面会時間も過ぎようかという病院は、しかしそれにそぐわない程の騒がしさを帯びていた。

ほどなくして部外者として(ドクオは特別らしい)閉め出されたショボンは一人帰路につく。

―――――『遺体は見ない方がいい』…か。最低じゃないか、僕は。


だからといって、何かしてやれたわけではない。
しかし、だからこそ、辛かった。


132 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/07/03(月) 18:12:43.27 ID:ky8XkeGCO
ショボンは、いつの間にか自分が泣いていることに気付いた。

前が見えない。

ふいてもふいても、涙は枯れなかった。


そして濁りきった視界の端、名も知れないビルの屋上に一瞬、ショボンはたしかに内藤の姿を捉えた。

133 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/07/03(月) 18:14:37.72 ID:ky8XkeGCO
第四話

街灯が申し訳程度に灯った、長々とした路地裏。
ツンは、この道が大嫌いだ。

薄っ暗いし、横幅もない。
自分のように生理的嫌悪感まで感じる者は少ないかも知れないが、かといってこれを好む者は皆無だろうと思う。痴漢だの何だのを除けば、だが。

足早に通り過ぎようとする中で、ツンはいつしか自分以外の足音も響き始めたことに気付いた。
そしてそれは、自分との距離を確実に詰めている。
15メートル

10メートル

5メートル

蒼白な顔をしたツンが振り返るのと、粘着質な声が響いたのはほぼ同時だった。

136 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/07/03(月) 18:17:04.97 ID:ky8XkeGCO
「ツンちゃん…」

背の高い、そのくせ酷く華奢な男だ。
もう暑くなってきたというのに、黒一色の長袖、長ズボン。
簾のような前髪のせいで顔は見えない。

ξ゚听)ξ「ひっ…」

――――こいつは、やばい。

心臓が鑼鐘の様な音を立てている。
だのに、足が動かない。

「ねぇ、好きなんだ。ずぅーっと見てた…」
ξ゚听)ξ「……」
「ねぇ?」
ξ゚听)ξ「……」

男の声が、明らかに
苛立ちを孕む。

「ねぇ?」
ξ゚听)ξ「……」

そして。

「返事しろってんだよぉおおおーッ」
ξ゚听)ξ「いやぁあああああああああ!!!!!」

137 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/07/03(月) 18:17:33.00 ID:ky8XkeGCO
見れば男はいつの間にやら、随分と無骨な形のナイフを掴んでいる。
興奮し振り乱した前髪から僅かに除く男の目は、明らかに正気を失っている。

「き、きみがおれを受け入れないのなら、殺してやるッ」

まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい

ゴツッ

鈍い音が路地裏に響いた。


138 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/07/03(月) 18:19:04.84 ID:ky8XkeGCO
いつまで経っても痛みは伝わってこなかった。

薄目を開けると、そこには。

( ^ω^)「……大丈夫?」

うつ伏せに倒れ、後頭部を血に濡らした男と、そしてその血に濡れた鉄パイプを持った、内藤。

本来なら安心して腰でも抜かしまう所だが、どうしてかツンの背筋は更に硬直し、冷や汗を垂らし続ける。

奇妙な、違和感。

139 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/07/03(月) 18:20:10.82 ID:ky8XkeGCO
ξ゚听)ξ「…あ、ありがとう…」

( ^ω^)「…うん」
ξ゚听)ξ「えと、あの…」

( ^ω^)「良かったよ。」

ξ゚听)ξ「え?」

( ^ω^)「横取りされなくて。」

動かない。動けない。
( ^ω^)「僕は、君を、愛してる」

言葉の意味が、すぐには理解出来なかった。
ξ゚听)ξ「え…あの…」

困惑するツン。
すると突如、内藤の顔が曇った。

(  ω )「……が…だろ…」

怖い。

(  ω )「…がう…ちが…ちがう…ちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがう」

141 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/07/03(月) 18:21:30.06 ID:ky8XkeGCO
(  ω )「そこはそのセリフじゃない筈だ!?バグか!?ふざけるな…?!

内藤は何か喚きながら頭を掻きむしり始める。ツンには何も出来ない。

しかし次の瞬間、突如いつものへらへらとした笑顔を見せる。

( ^ω^)「あっ!そーか!」

そしてツンの方を向き、今までにないほど明るい声を放つ。

( ^ω^)「お前、ツンじゃないだろ」

笑顔の内藤が鉄パイプを振り上げ、次の瞬間、こめかみのあたりに衝撃を感じる。

そこでツンは意識を失った。

142 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/07/03(月) 18:22:47.36 ID:ky8XkeGCO
最終話

内藤は月が好きだ。
自分に似ているから。
今彼は、月の傍――――すなわち、とあるビルの屋上に、いる。

月は、照らされてこそ輝く。
先程の自分が、普段からは想像もつかぬ行動力を発揮できたのも、きっとツンという太陽に照らされたからだろう。

――――――だけど、あれは偽物だった。

143 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/07/03(月) 18:23:46.66 ID:ky8XkeGCO
あの時、内藤の筋書きでは、ツンは泣きながら自分に抱きついてくるはずだった。

――――――はず、だった。

しかし彼女は抱きつくどころか硬直し、むしろ畏怖そのものの表情を向けてきた。

そこで気付いてしまったのだ。

――――――今回のプログラムはバグだ。


しかしどういうわけだかリセットボタンが見当たらない。

――――ならば、強制終了するしかない。

愉快気に笑い、内藤はフェンスを乗り越えた。

そしてそのまま――――――落ちる。

144 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/07/03(月) 18:24:50.69 ID:ky8XkeGCO
なんだかとても幸せな気分だった。

内藤は月だったが、浮けなかった。

しかし今自分は、重力からも、地面からも解き放たれている。
それが内藤にはとても小気味よく感じた。

――――――このプログラムも悪くなかったかもな。


そして――――――――――



―――――――死にたくない。

接吻すら出来る距離まで、地面は近付いていた。

145 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/07/03(月) 18:25:53.09 ID:ky8XkeGCO
( *ω*)「アッー!」

「プログラム終了です。御利用ありがとうございました」

聴き飽きた、しかし今は安心感すら覚える合成音声が耳元で響く。
( ^ω^)「や…やっぱりVRだった…か」

( ^ω^)「……」

瞼を開くと、清潔感に満ちた白い光が飛込んでくる。
とても、綺麗だ。

内藤はきびきびとヘッドギアを外す。
電極のついた、一昔のB級映画に出てきそうなやつだ。

( ^ω^)「よくもまぁ毎日飽きもせずこんなもん着けてたもんだお」

146 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/07/03(月) 18:26:17.88 ID:ky8XkeGCO
( ^ω^)「もうこんなものとはバイバイだお」

心なしか軽やかな身のこなしで、内藤は白い部屋のドアに向かう。

そして迷うことなく、ノブを回し、開けた。

その先には――――――――――――






――――――――暗黒。


(了)
://jumpres/read.cgi/news4vip/1151863259/159">>>159
そう言ってもらえると嬉しいわw
地の文書くの苦手だから長いのは苦手なんだ('A`)

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