322 ◆04ylyHyu7w New! 2006/07/01(土) 20:38:30.68 ID:JqS7+Z3R0
じゃ、いきます。


『陽炎の憂鬱』


僕が屋上の扉を開けると、フェンスによりかかって校庭を見ている彼女がいた。
僕が来たことに気がついた彼女は、こちらに振り返り微笑んだ。
彼女はまた校庭の方を向き、突然話し始めた。

川 ゚ -゚)「聞いてくれるかい?」

(´・ω・`)「何?」

川 ゚ -゚)「鷹を・・・鷹を見たんだ。」

(´・ω・`)「どこで?」

川 ゚ -゚)「分からない。でも、確かに見た。最初はカラスだと思った・・・だが、大きさ、褐色の翼、飛びかた、鋭い爪、口ばし、カラスなんかとは全然違った。その鷹は、少し飛んだ後、電線にとまって、私の方を見ていた。その鷹は、人の言葉をしゃべるんだ。」

323 ◆04ylyHyu7w New! 2006/07/01(土) 20:39:17.38 ID:JqS7+Z3R0
(´・ω・`)「・・・鷹は何て言ったの?」

川 ゚ -゚)「一言もしゃべらなかったよ。」

彼女があまりにもサラッと答えたから、僕はなんだかそれがとてもおかしくって笑いながら聞いた。
(´・ω・`)「じゃあ、どうしてその鷹が人の言葉をしゃべるって分かったの?」

川 ゚ -゚)「なんとなくだよ。何故笑ってるんだ。失敬な!」

(´・ω・`)「ごめんごめん。で、なんとなくってどんな感じ?」

川 ゚ -゚)「うむ・・・難しいな・・・その、何か、もの言いたげな表情をしていたんだよ。」

(´・ω・`)「鷹の表情なんてわかるの?」

川 ゚ -゚)「生きてるものは皆表情があるものだよ。」

(´・ω・`)「じゃあ、アオミドロの表情も分かるの?」

川 ゚ -゚)「流石にアオミドロは・・・顔が無いしな・・・。」

324 ◆04ylyHyu7w New! 2006/07/01(土) 20:39:57.48 ID:JqS7+Z3R0
(´・ω・`)「冗談だよ。」

川 ゚ -゚)「じゃあ、聞くが、私が話した鷹のことは今君が言ったような冗談だと思うか?」

(´・ω・`)「さあ・・・冗談じゃないの?」

川 ゚ -゚)「うん、本当のことじゃない。夢で見たんだ。」

(´・ω・`)「ふーん。」

川 ゚ -゚)「ははっ反応が薄いな、君は。」

(´・ω・`)「悪い?」

川 ゚ -゚)「いや、私は君らしくていいと思うよ。それとも気に障ったかい?」

(´・ω・`)「気にしてないよ。」

川 ゚ -゚)「それなら良かった。・・・・ところで、もう一つ話を聞いてくれないか?」

(´・ω・`)「いいよ。」

325 ◆04ylyHyu7w New! 2006/07/01(土) 20:42:12.70 ID:JqS7+Z3R0
川 ゚ -゚)「あれは、学校からの帰り道だった。その日は暑くてさっさと帰りたくて早歩きをしていたんだ。
帰り道の途中の曲がり角にある郵便局の前には局員の人が立ってて、『この暑いのにご苦労なことだ。』と思いながら歩いていたんだ。
で、ふと、足元を見てみると、何か、オオサンショウウオの下半身みたいな影が足元にあったんだ。
もちろん、私の影ではなかった。周りにも、そんな影を作るものは無かったから、誰かが水でも撒いた跡だろうと思っていたんだ。
立ち止まってよく見てみようとも思ったが、局員の人とかに変な目で見られるのがいやだったから通り過ぎたんだ。
で、曲がり角を曲がる瞬間にパッと振り向いてみたんだ。でも、そこには影も水を撒いた跡も無かったんだ。」

(´・ω・`)「それは本当の話?」

川 ゚ -゚)「ああ、この間私が体験したことだ。」

(´・ω・`)「結局それはなんだったんだろうね。」

川 ゚ -゚)「それがなんだったかあまり重要ではないと思うぞ。『私がちゃんと見てなかっただけで実は何かの影でした。』じゃ面白くないだろう。何か不思議なものが見れた、それだけで十分面白いからな。」

(´・ω・`)「確かに。」

326 ◆04ylyHyu7w New! 2006/07/01(土) 20:43:01.22 ID:JqS7+Z3R0
キーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコーン

川 ゚ -゚)「む、鐘が鳴ったな。どうする?」

(´・ω・`)「今から戻っても先生に怒られるだけだと思うよ。」

川 ゚ -゚)「それは『抜け出そう。』と言いたいのか?」

(´・ω・`)「そうは言ってないけど・・・君がそれでもいいなら。」

川 ゚ -゚)「そうだな。じゃあ、二人でどこか行こうか・・・・・・・・・・。」


そう言いながら彼女が仰いだ空に、一羽の鷹が・・・飛んでいったような気がした。

END
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