179 この子の七つのお祝いに New! 2006/06/20(火) 16:14:47.31 ID:2tD0R77f0
異臭で眼が覚めた。

( ^ω^)「……?」

シャツの襟が、べったりと肌にくっついている。
額から、だらだらと汗が流れている。
布団が湿っていて、気色悪かった。

( ^ω^)「カーチャン?」

熱くて臭くてたまらなかったので、母を呼んだ。
カーテンが全て閉まっていて、部屋の中は真っ暗だ。
襖を開けて、母を捜したが、どこにも居なかった。

( ^ω^)「カーチャン?」

もう一度呼んだが、返事は無かった。
代わりに風呂場から水が滴る音がする。

180 この子の七つのお祝いに New! 2006/06/20(火) 16:15:33.79 ID:2tD0R77f0
( ^ω^)「カーチャン?」

半畳ぶんくらいの広さの風呂に入る。
安っぽい白のタイルは薄汚れていて、そこかしこにカビが見えた。
湯船いっぱいに、黒とも赤ともいえない水が溜まっている。

配管工が体を流しても、こんなに汚い色にはならないだろう。
濁った水で満ちた湯船は、底が見えなかった。

ちゃぽ、と音がする。
臭くて熱くて、立っていると意識が遠のいていきそうだった。

急に怖くなり、外に出ようと本能的に思う。
だが、ノブをいくら回しても、部屋のドアは開かなかった。

ただくるくると空転するばかりである。
焦りがこみあげて、ドアをどんどんと叩いた。

気付くと、背後に人が立っている。

181 この子の七つのお祝いに New! 2006/06/20(火) 16:15:57.47 ID:2tD0R77f0
从'ー'从「起きたんだ」

ドアを必死で叩いていると、背後から声がした。
驚きで、両肩が三センチほど持ち上がる。
「あ」とも「う」ともいえないような呻きを漏らしながら、振り向く。

( ^ω^)「誰だお……?」

从'ー'从「だめじゃない、そんなことしたら」

( ^ω^)「何言ってるお!! お前誰だお!! カーチャンは」

从'ー'从「あついね、この部屋」

見れば彼女も額からたらたらと汗を流している。
その瞳は大きく見開かれていて、
二人の間の空間に目の焦点を合わせているようだ。

部屋が暗いせいか、若いようにも、中年のようにも見えた。

从'ー'从「お風呂入りなよ」


182 この子の七つのお祝いに New! 2006/06/20(火) 16:16:37.87 ID:2tD0R77f0
从'ー'从「お風呂入りなよ」

女はそう言うと、風呂場のドアを開けた。
麻痺しかけた鼻に、より強い悪臭が突き上げる。

( ^ω^)「な、なにしてるお!!」

彼女は湯船に手を入れると、湯をかき回し始めた。
湯から上がった腕に、黒い塊が巻きついている。
汚泥や糞尿を煮込んだような、真っ黒いなにか。

腕から肩にかけて、小さな虫が這い上がっていく。

从'ー'从「丁度いいお湯加減だよ」

言葉が出てこなかった。暑いのに肌に鳥肌が立つ。

从'ー'从「一人で入るのが怖いの? 分かった、お母さんが一緒に入ったげるよ」

女はそういうと、上着を脱ぎ捨てた。

183 この子の七つのお祝いに New! 2006/06/20(火) 16:17:08.59 ID:2tD0R77f0
静止しようと思ったが、女の体に触れるのが怖かった。
彼女は全て服を脱ぎ去ると、真っ黒な湯船に脚を差し込む。
ごぼ、と妙な音がした。一層悪臭が強まる。

( ^ω^)「やめ……るお」

上唇と下唇が張り付いて上手く喋れない。

从'ー'从「どうしたの? 一緒にはいろ」

女はすでに、下半身全てを浸している。
折り曲げた体、少し出た腹に小さな白い虫が這っている。
へその中に虫が入っていくのが見えて、ぞっとした。

しかし、彼女は全身を湯に浸すことが出来なかった。
何か大きな塊が、すでに湯の中に入っていて、
それが邪魔で入られない、というような動き。

从'ー'从「どうしたの、ね」

彼女は湯から上がると、俺の方を向いた。
下半身をまるで腐乱したように汚して。

184 この子の七つのお祝いに New! 2006/06/20(火) 16:17:38.26 ID:2tD0R77f0
彼女が近づいてきたので、情けなくも悲鳴が出た。

从'ー'从「覚えてる?」

( ^ω^)「やめるお!! 来るな!!」

从'ー'从「とおりゃんせ、歌うとすぐに泣き止んだよね」

( ^ω^)「何言って、うわっ!!」

一秒の半分にも満たない、その刹那、
彼女の体がまるで車にでも跳ねられたかのように吹き飛んできた。

びしゃ、と音がして、彼女の体に組み付かれる。

( ^ω^)「や、離れるお、うわ、うわあ」

从'ー'从「あんなに大事に育てたのに、なんで」

涙を流しているのが分かった。
それと同時に、何か心の一部を口から吐き漏らすような
そんな声が、耳元に囁かれる。

从'ー'从「なんで死んだのぉ?」

185 この子の七つのお祝いに New! 2006/06/20(火) 16:18:01.87 ID:2tD0R77f0
彼女は小さい声で何かを歌っていた。
まるであやすように頭を撫でてくる。

从'ー'从「ご用のないもの通しゃせぬ……」

異臭。そして、体の表面を虫が這っている感触。

从'ー'从「この子の七つのお祝いに……」

息が触れるくらい近くにこの女の顔が。
その顔を見て、ようやく一つの記憶が戻ってくる。
一瞬だけ、見たことがあるのだ。

葬式の日に。

186 この子の七つのお祝いに New! 2006/06/20(火) 16:18:22.84 ID:2tD0R77f0
一ヶ月以上前、聞いたのだ。
母の親友が、子供を事故で亡くした、と。

从'ー'从「行きはよいよい 帰りは怖い……」

喪服を着た女と、一瞬だけ眼があったのだ。
手首に巻かれた数珠。

( ^ω^)「お、お前がなんでここにいるお!!」

母と話している、喪服の女の姿を思い出す。
真っ白い肌に、涙ひとつ流さず、仮面を貼り付けたような顔。

( ^ω^)「カ、カーチャンをどうしたお!!」

異臭、腐乱したような湯船がまたごぼごぼと音を立てた。

从'ー'从「怖いながらもとおりゃんせ とおりゃんせ……」

187 この子の七つのお祝いに New! 2006/06/20(火) 16:18:53.17 ID:2tD0R77f0


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