724 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/06/21(水) 22:53:34.23 ID:WKoz4DeNO
ある夏の夜、後楽園ホールにて。
「なっいとお!!なっいとお!!」
「ドクオ!!ドクオ!!」
満員の観客席を揺るがす、怒号にも似た声援。
それを浴びるのは、リング中央で死闘を繰り広げる二人の男。
一方は、笑みに見えなくも無い表情を張り付けたアジア系の色白。
( ^ω^)「(さすがメキシコ王者……強いお!!)」
もう一方は、某力石を彷彿とさせる青白い肌と濃い目のクマが特徴的な、ラテン系。
('A`)「(日本人の癖して、良いセンスしてやがる!)」
二人の間を猛烈な打撃が行き交い、その度に両者は自分に向かって来るそれらを、防ぎ、避け、打ち返す。
ξ゚听)ξ「内藤!頑張って!」
内藤、と呼ばれた男のセコンドが声を振り絞って応援する。
勿論、相手のセコンドも黙っては居ない。
( ´∀`)「ドク!もっと手ぇ出すモナ!打ち負けたら倒されるモナ!」
――さて、ここまで来れば、これが何の競技かわかるだろう。


残念ながら、読者で有るあなたの想像はハズレだ。
ボクシング?
違う。が、正解に近い、もっとも限りなく正解に近い。
しかし「正解に近い」だけでは部分点しか貰えないのが世の常だ。
正解か不正解かでは不正解にカテゴライズされるだろう。
残念、ボッシュート。

どくしゃ の ぼうけん は ここでおわってしまった!


否、終わらない。もう少しお付き合い頂こう。

725 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/06/21(水) 22:55:05.39 ID:WKoz4DeNO
『チャンピオンの肖像〜カブトガニボクシング初代フェザー級世界王者、リムルス・ドク・O・ポリヘムスは語る』

('A`)「ここまで来るには苦労したさ。未開拓のジャンルだから簡単にチャンピオンになれるだろう、なんて考えて始めたんだがね。
やっぱり世の中は甘くなかったな。同じ事考える奴がウジャウジャ居てさ。
こんな馬鹿なスポーツやる奴なんか居ないだろうと、思ったんだけどなぁ……。
……ああ、だってそうだろう?確かにあの事件はびっくりしたよ。世界的なカブトガニの大発生。
俺の故郷の街もやられたよ。道路から建物から、カブトガニでびっしりさ。しかも奴等、突然変異だか知らないが、陸でも普通に生き延びやがる。
カブトガニの血は医療に使えるらしいが、WHOだって数億匹のカブトガニなんかいらねえよな。他に再利用の目処も立たねえし。
でもよ――、チャンピオンになっといて何だが、こりゃあデタラメだよ。何処のヤク中が考えたんだ?グローブの代わりにカブトガニ使ってボクシングなんてよ!」


726 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/06/21(水) 22:57:03.17 ID:WKoz4DeNO
そう――二人の男は、グローブの代わりにカブトガニを嵌めていた。
カブトガニの尾剣を肘に添わせ、手首から拳に厚く巻いたバンテージに六対の脚を噛ませ、前体と後体を手甲の様に嵌める形である。
('A`)「(日本人が……さっさと倒れろ!)」
前述のメキシコ王者、通称ドクオの左ジャブ二発、右・左のフック、右ストレートのコンビネーション。
対する我らが日本ランキング一位、リングネーム『内藤"ブーン゛ホライゾン』は、異名の由来となった飛ぶようなステップでそれを避ける。
しかし――完全に避けたわけでは無い。
( ^ω^)「ぐっ!」
内藤の頬と肩口が薄く避け、血と皮が飛ぶ。
カブトガニボクシングの恐ろしい所は、ここに有る。
その独特の体型、外周に沿う形で備わったノコギリの様な縁棘。
従来の格闘技とは一線を画す、その危険度。
ξ゚听)ξ「内藤ぉっ!」
内藤のセコンドであるツンの悲壮な叫び。
だが、それも空しくドクオの拳は、着実に内藤の肉体を削り散らす。
( ^ω^)「(このままじゃ……ジリ貧だお!)」
内藤は覚悟を決め、姿勢を低めて膝を曲げる。
「行けえ内藤っ!!」
観客達は知っている。内藤ホライゾンは、いつもこの姿勢から逆転劇を起こして来たのだ。
(;´∀`)「ホライゾンロール……来るか!!」

727 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/06/21(水) 22:59:07.60 ID:WKoz4DeNO
肉色の砲弾が解き放たれた。
低空飛行の様な馬鹿げた歩幅と速度を誇るダッシュでの接近、そこから繰り出されるラッシュ。
ホライゾンロール。
('A`)「――速いっ!?」
一瞬で距離を詰められた事にドクオが気付いた時には、もう、内藤は拳を振りかぶっている。
バックステップどころかスウェーさえ間に合わない。
そう判断してドクオはガードを固め――、第一打、着弾。
('A`)「うぐぉっ!?」
両腕のガードは容易く跳ね上げられ、カブトガニの甲羅が砕け、飛び散る。
慌ててガードを下げ、そこに二打目。
ドクオの体が激しく揺れ、衝撃を殺し切れずに、両足は無意識にかつ強制的に後方へと退がる。
それを五、六打ほど繰り返した時――
(;´∀`)「ドク!後がないモナ!」
ドクオの背に触れるひやりとした感触。
ロープ際。絶対絶命である。

729 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします サーバに繋がらん。auふざけてるの? New! 2006/06/21(水) 23:12:11.96 ID:WKoz4DeNO
( ^ω^)「(ここで、倒すおっ!!)」
止めといわんばかりに、内藤は歯を食いしばり、最高にして最強の右フックを――外した。
( ^ω^)「えっ!?」
内藤の視界に写ったのは、空を切る己の拳。
ロープに限界まで背を食い込ませ、鼻先で拳を躱した対戦相手。
そして――向かってくる六対の脚。
( ^ω^)「うわぁぁモゴッ!?」
内藤の視界は閉ざされた。
否、閉ざされたのは視界だけでは無い。鼻と口もだ。
つまり、呼吸が出来ない。
ξ )ξ「な……何よ、あれ」
セコンドのツンが見ている光景は、凡そボクシングとは掛け離れた物であった。
ドクオの両手が、ハサミの様に内藤の顔に当てられている。
( ω )「ギギギ……」
更に恐ろしい事に、いつの間にか裏返しにされた二匹のカブトガニが、内藤の顔面をがっちりとホールドしていたのだ。
( ´∀`)b「対ホライゾンロール用『フェイスハガー』!決まったモナ!」
呼吸器を塞がれた内藤は、必死にカブトガニを引き剥がさんと暴れる。
しかし、甲羅を砕かれたカブトガニが死に際の底力でそれを許さない。
ξ#゚听)ξ「ちょっとレフェリー!あれ、反則じゃないの!」
ツンが抗議すると、レフェリーは首を振って返す。
どうやら反則では無いらしい。
('A`)「正直、ヤバかったよ」
妙に醒めた声で、痙攣を始めた内藤を見詰めながら、呟く様にドクオが言う。

そのまま、三分弱。

('A`)「名前は覚えておく……グッバイ、ホライゾン・ナイトウ」
内藤の体から、力が抜けた。

732 >>730は違う人。 New! 2006/06/21(水) 23:21:19.90 ID:WKoz4DeNO
内藤のトランクスを黄色い液体が伝い、水溜まりがリングに現れる。
('A`)「これで21度目の防衛、か」
ドクオがカブトガニの爪を内藤の頭から引き抜く。
つぷり、と音がして、紅い糸が引かれた。頭皮にまで食い込んでいた様だ。
そのままドクオが振り返り、セコンドに声を掛けようとした所で――
('A`)「(…………ゴングは、どうした?)」
ゴングが鳴っていない。試合は終わっていない。

相手はまだ、倒れていない。
('A`)「しまっ――」
再度振り返ったドクオを最初に出迎えたのは、黒。
眼前に迫った、今度こそ避けようの無い右ストレート。

首の骨がブチ折られる様な衝撃。
そして、爆発と流転を繰り返す世界。


連打、連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打。

血を撒き散らしながら拳とロープの間を往復するドクオ。
その目はとうに白一色。顔は痣の青と血液の紅。
(# ^ω^)「文太兄ぃ!これがワシのピカドンじゃけえ!!!!」
最後にドクオを打ち砕いたのは、核爆発の様な、限り無くチョップブローに近いフルスイングの右。
内藤の右拳に嵌まっていたカブトガニは爆散。
ドクオはボールの様にマットを転がり、死体の様に力なく、グニャリと沈んだ。

733 >>730は違う人。 New! 2006/06/21(水) 23:24:18.19 ID:WKoz4DeNO
ξ゚听)ξ「おめでとう内藤!でも小便漏らしたのはどうかと」


('A`)「お前が新しいチャンプだ。でも小便漏らしたのはどうかと」


( ´∀`)「うちのドクオが負けるなんて……強すぎるモナ。でも小便漏らしたのはどうかと」




( ;ω;)「いわないでくだしあ」
劇終 ジャーン



げえっ、関羽!
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