502 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/06/18(日) 19:57:31.64 ID:DPnkRQ/h0
 人と言うのはどうしてこうも面倒臭いものだろうかと、僕はいつも思うのだ。今目の前に居るような輩
を相手にしている時などは、殊更にそう思わずにはいられない。いや、もう既に僕自身が世界に囚われて
しまって、内側から滲み出た思い込みが僕を絡めているだけなのかも知れない。少なくともそうと考える
しか僕はどうにもこの状況を説明できない。

('A`)「何ボーっとしてるんだよ。聞かせろよ。どうして皆を殺した」

 あぁ、そうだ。兎に角、どうやら僕はトモダチと呼ばれるものを殺してしまったらしいのだ。その定義
する所、彼の激昂振りから判断するに、どうやら無くなってしまっては正常を保てないものらしい。
 殺す、と言うことは理解できる。いや、誤解を招くと困るので断っておくが、勿論、友達と言うものも
理解はできる。ただ、今となって果たしてそれはこいつが言っているトモダチと同じだったのかと、
ふと疑問を感じてしまうのである。

('A`)「どうした? 気でもおかしくしちゃったか? 溝川だってもうちょっとマシな面してるぜ」

 いやいや、どうしてそれは正しいのかもしれない。僕は本当におかしくなってしまったんだろう。
きっと目の前の男とはもう分かり合えないに違いない。そんな予感さえ僕には心を動かすに足りなかった。
はは、と薄く笑って自分を確認した。僕は本当におかしくなってしまったんだなァ、と。

503 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/06/18(日) 19:58:21.03 ID:DPnkRQ/h0
 僕は友達皆でホームパーティをしていた。僕はその日の為に用意した綺麗目のジャケットを羽織って、
どんな反応があるかとウキウキしていたのだが、始まってしまえばそんなものは実に関係なかった。
やれドクオだの、やれ内藤だの、やれ長岡だの、目まぐるしく皆が皆の名を呼び合って馬鹿騒ぎを
していたのだ。
 僕もそう呼ばれては、気分を良くして両手を広げて走り回ったり、裸になってテーブルの上から
『テポドン発射』と言ってソファーの上で横になっていたショボンに飛び込んだりと乱痴気甚だしかった
のをよく憶えている。 先に断っておくが、これから話すことをあまり理解しようとしない方がいい。
何せ当の僕が未だによく理解できないのだ。それを他人に理解できるよう説明するのはまるで
無理と言うものだ。

 それは本当に突然の事で僕は目眩を起す暇さえなかったのを今でも悪寒と共に鮮明に思い出せる。
まず、長岡がショボンを殴り、踏みつけた後唾を吐き棄てたのだ。周りのものは一瞬にしてしん、と
静まりただ二人を交互に見ていた。そして逆上したショボンがテーブルの上に置いてあったフォーク
を長岡に投げたのだが、それは長岡に当たる事無く後ろに居たツンの右瞼をかすめたのだ。そうだ、
この場には女子も居たのだ。
 それを見てか、場の空気に流されてか、いつの間にか皆が掴み、殴り、泣き、喚いていた。まるで
野犬が縄張りを争うかのような醜さに、僕は流されそうになりながらも吐き気を催していた。そして、
確認したのだ。このパーティの主催者。紫色のラベルが貼られている褐色の瓶を片手に一人何故か
騒ぎに巻き込まれずにニヤニヤしている男の顔を、しかとこの目で確認したのだ。今でもはっきりと
思い出せる。その顔は――('A`)。目の前の男と寸分違わず醜い顔の男だ。この男が僕たちに何かを
した確証は無いが、可能性は確証に近いほどあり、それは僕の心をギシギシと歪めていった。

 そうだ、血まみれの宴が人の匂いを無くし、肉の匂いに変わった頃、('A`)は僕に向かっていってきたのだ。
『どうして皆を殺した』、と。

504 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/06/18(日) 19:58:53.52 ID:DPnkRQ/h0
 全く理解の範疇を超えた話だが、きっと僕はおかしくなってしまっていて、目の前の男が言う友達と
言うものは僕のものとは全く違っていて、おかしくなってしまった僕が皆を殺した。考えるのが面倒臭い
のだからそう結論付けてしまえばいいのだ。

 ジャケットを嬉々として買った時の僕はどこへ行ったのか。皆死んでしまった。僕が殺してしまったのだ。
見せる相手もいない。長岡もショボンもツンもクーも内藤も皆々僕が殺してしまったのだ。何故かなんて
おかしくなった僕にはわからないのだ。そうだなァ、君が考えてくれればいい、そう攻め立てないでくれ、
そうさ君のほうが僕よりももっと賢そうだ、違いない。あぁ、違いない。

 そう笑って僕は右手に握り締めていた褐色の瓶を振り翳し、目の前で笑う('A`)に叩き付けて無数のヒビ
を入れ、その反動で二つにぱっくりと割れてギザギザに尖った瓶を同じように自分の顔に叩き付け、
頭の中で渦巻く思考を頭の割れ目から逃がそうと努めた。あぁ、買ったばかりのジャケットなのになァと、
そんなことを考えながら。



−終−

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