410 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/06/18(日) 13:14:02.64 ID:p/sVW/AP0
('A`) 「あー、ブーンか。あいつちゃんと働けるのか?」

ごちゃごちゃと物が詰め込まれた狭い部屋にドクオはいた。
他のがらくたと見分けがつかないような椅子に座り、粗大ゴミと間違えそうな机で書類を見ていた。

その書類の頭には履歴書と書いてある。
お客が増え、常連も出来たからか、この「喫茶VIP」もついに接客が追いつかなくなってきたのだ。
代わりに経営にはバイトを雇えるくらいの余裕が出てきた。
現在、書類審査の真っ最中である。

('A`) 「わかんないです……。注文もわかんないとか言いそうだしな」

('A`) 「ショボンはバーボンハウスの手伝いがあるだろ」

('A`) 「ニダー、は問題外」

とは言うものの、応募してくるのは顔見知りばかり。
この町でバイトするような若者は大抵知り合いだから無理もない。

かといって住民をすべて把握している、というわけでもない。
新AAと称して引っ越してくる人や一部の地域しか出歩かないような者もいるからだ。
まぁ、そんな奴らは大抵濃いキャラなのでどっちにしろ雇いにくいのだが。

('A`) 「ん? 何だこいつ」

まともな従業員を半ば諦めていたドクオは、紙束の一番下に隠れていた書類を見つけた。

411 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/06/18(日) 13:14:22.59 ID:p/sVW/AP0
('A`) 「シャーミン松中……。誰だろ、聞いたことねぇな」

履歴書にも見覚えのあることは書いてない。
特技は忍術、座右の銘は「先っぽだけでいいから!」備考、先端恐怖症。

('A`)「なんだこれ」

およそ喫茶店に関わるものが何一つない。
いや、普段の生活から喫茶店漬けでも困るのだけれども。

('A`)「……とりあえず面接してみるか?」

まともじゃ無くても他よりはマシだろう。多分。
輪をかけて駄目だったらブーンとか無難なところを雇えばいいだけだ。

('A`)「んじゃ電話かけてみるか。えっと携帯はどこだ?」

ドクオはシャーミンの人柄への期待と履歴書を手に、古い携帯のボタンを押し始めた。

412 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/06/18(日) 13:14:40.96 ID:p/sVW/AP0
後日。
面接用に店を閉め、テーブルを片づけて椅子をそれらしく並べてみた。
ちょっと微妙な雰囲気だが別にどうでもいいだろう。
重要なのはドクオ自身の観察眼。どれだけ猫を被っていようが必ず本質を見抜いてみせる――!!

……コホン、すこし熱くなりすぎた。
ともかく現在時刻は9時50分。指定した時間は10時だからそれまでに来なかったら大幅に減点だな。

「こんにちはナリだすー。面接に来たナリだすが、よろしいナリだすかー?」

考えたそばからシャーミンとやらが到着した。
10分前行動とはなかなかよい感じかもしれない。いきなり入ってこないのも好印象だ。

とりあえず第一関門は突破。期待できる人物かもしれない。

('A`)「鍵は開いてますのでどうぞ中へ」

,( ・) ・)、「失礼しますナリだす」

語尾は変だが、礼儀はきちんとしている。
扉も後ろ手ではなく閉めているし用意された椅子にも勝手に座ったりはしない。

413 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/06/18(日) 13:14:57.16 ID:p/sVW/AP0
('A`)「どうぞ、お座りください」

,( ・) ・)、「はいナリだす」

姿勢も良いな。背筋がピンと伸びている。
これは思わぬ掘り出し物かもしれないぞ? どうするよ俺。どうする?

[採用]
[採用]
[採用]

続きはwebで!
いやここwebだし。

適当に質問を繰り返した後、採用と伝えよう。
ビバ新住民。ありがとう引っ越してきてくれて。

('A`)「というわけで採用。明日から来てね」

,( ・) ・)、「あ、ありがとうございますナリだす!」

414 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/06/18(日) 13:15:45.67 ID:p/sVW/AP0
さらに後日。
出勤一日目でほとんどの仕事、といってもたいした量ではないが、を覚えたシャーミンは恐るべき働きを見せた。

,( ・) ・)、「いらっしゃいませナリだすー」

,( ・) ・)、「コーヒーにピラフ、有機サラダでよろしかったナリだすでしょうか」

,( ・) ・)、「お会計、1230円にナリだすますー」

,( ・) ・)、「店長。コーヒースリー、ピラフワン、サラダツーナリだす」

('A`)「あ、あぁ。わかった」

四人分くらい働く、のではなく実際四人いる。
特技の欄に書かれていた「忍術」らしい。曰く「働けるくらいの分身は3人が限界ナリだすよ」だとか。何それ。

とにかくこんなに働いてくれる人材はそうはいないだろう。
プラス思考に考えるんだ。一人分の賃金で四人雇えるんだぞ? まったく同じ姿が四つ動いてても何も問題ないじゃないか。
お客は四つ子か何かだと思ってるし。こんな四つ子いねぇだろ。

('A`)「時給600円じゃ安すぎるかもな」

,( ・) ・)、「またのご来店をナリだすー」

415 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/06/18(日) 13:16:12.02 ID:p/sVW/AP0
('A`)「はい、今日はお疲れ様でした」

,( ・) ・)、「お疲れ様ナリだすでしたー!」

シャーミンを雇ってから5日目。
四つ子がいる喫茶店として町でも話題となり、お客が増えてもシャーミンが全て対応してくれた。
かなり忙しいはずだが文句一つ言わないしむしろ楽しんでいる節すらある。

――ほんっっっと、良いバイト拾ったなぁ!!

ドクオはかなり上機嫌だった。
元々料理にも自信はあり、四つ子話題で来た客の中にも気に入ってくれた人も大勢いた。
それもこれもみんなシャーミンのおかげだ。
今日は感謝の気持ちを込めて飲みにでも誘おう! もちろん俺のおごりだー!

('A`)「よし。シャーミンくん飲みに行かないか?」

,( ・) ・)、「あ、すんません。彼女と約束してるんナリだすよ」

ピキリ。
ドクオは腕を振り上げたまま、その体を凍り付かせた。

――彼女? wife? はは、まさかな。何かの聞き間違いさ。
  こんな二等身てかむしろどこまでが頭だよみたいなやつに彼女がいるわけが……。

416 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/06/18(日) 13:16:44.99 ID:p/sVW/AP0
从*・v・从「えっと、すみませーん。シャーミンくんはいらっしゃいますかー?」

('A`)「へ……?」

,( ・) ・)、「いっちゃん!」

从*・v・从「シャーくん! もうお仕事はいいの?」

,( ・) ・)、「もちろんナリだす! お店は終わったし、約束してたからナリだすからね。
     それじゃ店長。失礼しますナリだすー!」

……ドクオはすでに周りの話など聞いてはいなかった。
否、聞こえるわけがなかった。脳には焼き切れるような怒りが走り、拳には痛いくらいの力を込めて。

ドクオとは、独身男性の略である。

故に、ドクオに彼女は出来ない。出来たとしても話の中心として語られることはほとんど無いのだ。
つまりはイチャイチャとバカップルらしいことをした経験が皆無だということ。
そんなドクオの目の前でらぶらぶおーらを醸しだすシャーミンに激しい怒りを持つのは仕方のないこと。
水が下へ流れるように、炎が物を焼き尽くすように、至極当然のことなのであった――――!

418 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/06/18(日) 13:17:06.61 ID:p/sVW/AP0
('A`)「フィンフィンフィンフィンフィン」

,( ・) ・)、「ど、どうしたナリだすか? 髪の毛が金色に逆立ってオーラっぽいものが周りに見えてますナリだすよ!?」

('A`)「とっくにご存じなんだろ?」

,( ・) ・)、「何をナリだすかー!?」

('A`)「俺は静かな諦めをもちながらカップルへの激しい妬みによって生まれた伝説の戦士」

('A`)「スーパー嫉妬マスク人三号だ!!」

,( ・) ・)、「一号と二号はどこにっ!?」

('A`)「シャーミン松中。おまえは……首だァー!」

,( ・) ・)、「え、えええぇぇぇっ!?」





後日、再び喫茶VIPに求人のチラシが貼られた。
採用条件に「彼女がいないこと」と書き足されて。
ショボンが「彼氏はOKなのかい?」とか聞きに来たのは、また別のお話。

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