477 ( ´・ω・`)が親友の仇をとるそうです New! 2006/06/16(金) 23:47:00.22 ID:kjsBDyhR0
('A`)「……」

「二番線に下野行きが参ります。
 危ないですから、白線の内側までお下がりください」

('A`)「今、何時だ……?」

時間を確認しようとして、ポケットから取り出した携帯電話が
突然歌いだしたので、俺の身体がびくっと震えた。

平井堅の着うた。
相手が誰か、俺にはすぐ分かった。

('A`)「はい……?」

ヽ|・∀・|ノ「俺だ……」

分かっていても、呼吸が一瞬止まる。
緊張に胃が締め上げられて、朝飯の鮭むすびを線路に嘔吐しそうになった。

479 ( ´・ω・`)が親友の仇をとるそうです New! 2006/06/16(金) 23:47:43.31 ID:kjsBDyhR0
ヽ|・∀・|ノ「今、駅のホームに居るな?」

('A`)「はい、今、野津駅の、はい、言われた通り三番ホーム」

ヽ|・∀・|ノ「あと十分後、きっかり十分後だ。標的が来る」

('A`)「……」

ヽ|・∀・|ノ「聴いているなら返事をしろ……」

Σ('A`)「は、はいっ、はいっ、すいません。聞いています!!」

電話越しの重低音に、背筋が凍った。
心臓に直接氷を当てられたら、こんな気分だろう。

ヽ|・∀・|ノ「アイツはいつも通り、スーツの上にリュックを背負って
      ホームの端に立つだろう」

('A`)「はい……」

481 ( ´・ω・`)が親友の仇をとるそうです New! 2006/06/16(金) 23:48:18.97 ID:kjsBDyhR0
ヽ|・∀・|ノ「毎朝毎朝同じ行動パターンを、奴は繰り返す。
      同じキヨスクで新聞を買う、同じ自販で緑茶を買う。
      ジンクスか、或いはルーチンワークに身体が慣れきってるのか」

('A`)「……はい」

ヽ|・∀・|ノ「そして奴は、同じ電車の同じドアの前に立つ。同じホームの端に立って、な」

('A`)「……」

次に何を言われるのかが分かって、俺の身体が固まった。わき腹に汗が伝っていく。

ヽ|・∀・|ノ「あの位置なら、監視カメラから映らん。車掌もすぐには対応出来ん。
      仕事が終わったら、走って階段を上がって、それから改札を抜けろ」

自分がそれを行う姿を頭に描いて、できるか否か考えてみる。

(;'A`)「……ぁ……はい」

胸が苦しくて、声が出づらかった。

482 ( ´・ω・`)が親友の仇をとるそうです New! 2006/06/16(金) 23:48:54.41 ID:kjsBDyhR0
ヽ|・∀・|ノ「心配はしなくていい」

('A`)「あの、万一、あの、捕まった、り……」

ヽ|・∀・|ノ「二度、同じ言葉を言わすな。心配は?」

('A`)「しなくて、ぃぃ……です」

ヽ|・∀・|ノ「あと五分後。顔写真は渡した通りだ。……幸運を、毒男」

電話は、掛かってきたときより更に唐突に切れた。
恐怖と不安で、ただ立っているだけで息が荒くなっている。
背中にシャツがぴったりと張り付いていて、冷たい。

こみあげる嘔吐感に耐え切れず、俺は柱にしがみついて地に顔を向けた。
背中を波打たせるたびに、胃液だけがびちゃびちゃと垂れる。
人気の無いホームに「げえっ、ぇっ」という嗚咽だけが反響する。

「大丈夫かお?」
真横から声がした。

483 ( ´・ω・`)が親友の仇をとるそうです New! 2006/06/16(金) 23:49:49.80 ID:kjsBDyhR0
('A`)「……ああ、すいません。大丈夫です。飲みすぎただけで」

「ハンカチ、要る?」

('A`)「いや結構、すいません、大丈夫」

俺は顔を上げて、声のほうを向いた。

( ^ω^)「大丈夫なら良かったお」

男は俺に背を向けて、ホームの白線の方に歩いていく。
そして、彼は白線の上に立ち止まり、新聞を広げた。
俺はすぐに胸ポケットをまさぐり、一枚の写真を取り出す。

[( ^ω^)]

――こいつが――。

起き上がり、俺は口を袖で拭った。無防備なスーツの背中に焦点を合わせる。
身体の内側に、無数のアリが這い回っているような不快感があった。


485 ( ´・ω・`)が親友の仇をとるそうです New! 2006/06/16(金) 23:50:40.15 ID:kjsBDyhR0
「まもなく、三番線を、快速電車が」

俺は、少しだけ歩いて

「通過致します」

彼の五歩後ろに立った。

電車が、轟音とともに近づいてくる。
その姿は獲物を追う巨大な肉食獣のように俺には見える。
相変わらず無防備なスーツの背中。

生唾を飲み込む。
俺は助走をつけた。
奴の肩甲骨を、両手の掌で押しだすように。

轟音。

電車が通る瞬間、さっき聞いた言葉が、頭の中を過ぎった。

( ^ω^)  ――大丈夫なら良かったお――


486 ( ´・ω・`)が親友の仇をとるそうです New! 2006/06/16(金) 23:51:56.68 ID:kjsBDyhR0
ヽ|・∀・|ノ「返せないなら、それでも構わんよ」

あの男の声が聞こえる。
確かこれは、一週間前に交わした会話だ。

ヽ|・∀・|ノ「ただ、アンタが金を返せなくても、俺たちは“返させる”。意味が分かるか?」

ヽ|・∀・|ノ「アンタには、まだ売れるものが沢山あるんだ。
      奥さんが32で、娘が14か。どちらもいい歳じゃないか」

ヽ|・∀・|ノ「二人と引き換えに、アンタは自由を手に入れられる、簡単だろう?」

ヽ|・∀・|ノ「幸い、奥さんもまだ艶が残ってる。豚みたいに太ってもいない。今は年増の需要も多いんだ。
      知ってるか? 川崎の南町に人妻専門の店がある。生OK中OK。格安だが回転率は抜群だ」

ヽ|・∀・|ノ「それに可愛い娘さんじゃないか……。年増と同じように、年端も行かないのが好きな男は多いからな。
      彼女ら二人なら、いい稼ぎになるだろう……」

ヽ|・∀・|ノ「二人にはここに来てもらって、事情を説明する。“あんたらは売られたんだ”と。
      それからハラを据えてもらうために、ここで試し打ちさせてもらう。ウチもアジア系の若いのを何人も飼ってるんだ。
      奴らも相当飢えているだろうからな。……アンタにはここでそれを見てもらう。一晩中、十時間近くな」

ヽ|・∀・|ノ「簡単じゃないか。他人を捨てるなんて。自分が助かるなら。簡単じゃないか。……そうだろ?」

487 ( ´・ω・`)が親友の仇をとるそうです New! 2006/06/16(金) 23:52:31.24 ID:kjsBDyhR0
俺はその問いにNoと答えた。

自分のために家族を捨てる、という発想ははなから沸かなかった。
なぜなら、彼女ら二人は、すでに俺の一部であったから。
二人が居なくなって、どうして俺だけで生きていけるというのか。

ヽ|・∀・|ノ「アンタも困った人だな。じゃあアンタ自身の生命保険を使うか?
      俺は金さえ回収されればどちらでも構わない……」

それから意味ありげに一拍置いて、男は付け足した。

ヽ|・∀・|ノ「そうだ、いい話がある」

アンタも家族も傷つかない、最高にハッピーな話だ。男はそう結んだ。
そして見せられた一枚の写真。

[( ^ω^)]

ヽ|・∀・|ノ「この男を――」

488 ( ´・ω・`)が親友の仇をとるそうです New! 2006/06/16(金) 23:52:56.20 ID:kjsBDyhR0
( ゚゚ω)「マジマジ、超スゲかった!! なあ!?」

(゚∀゚)「うん、俺あんなの初めて見たって!! 吐くかと思ったもん」

( ゚゚ω)「スイカみたいなのが線路に散らばっててさ、俺何かって思ったんだよ」

(゚∀゚)「そんでよくよく見たらさ!!」

キーンコーンカーンコーン……

( ´・ω・`)「はい起立ー、礼ー、はいショボーン」

( ゚゚ω)「あ、塩尾先生、見た見た? 野津駅の事故!!」

( ´・ω・`)「はいはいどうした腐ったミカン達」

(゚∀゚)「野津駅で飛び込み事故あったんだよ! 俺たち来る途中で見てきた」

( ´・ω・`)「えーと、そんなグロいもの先生嫌いです」


489 ( ´・ω・`)が親友の仇をとるそうです New! 2006/06/16(金) 23:53:30.72 ID:kjsBDyhR0
(゚∀゚)「スゲかったよ!! まっピンクの塊みたいのが落ちててさ」

( ゚゚ω)「頭とか無かったんだよ!!」

( ´・ω・`)「お前らはアレか、朝一スプラッターズか。朝一スプラッタブラザーズか。荒川ラップブラザーズか。
      そんなん聞きたないの。先生エクソシストも怖くて見られないんだから」

(゚∀゚)「革靴と足首だけ残っててさ」

( ゚゚ω)「アレ絶対自殺だよ!!」

( ´・ω・`)「……じ」

――自殺……?――

( ゚゚ω)「どうしたの先生?」

( ´・ω・`)「……今日は……ちょっと、自習だ。悪いけど」

490 ( ´・ω・`)が親友の仇をとるそうです New! 2006/06/16(金) 23:54:13.25 ID:kjsBDyhR0
(゚∀゚)「自習!? やったー!! マジで!!」

( ゚゚ω)「うわ、ヤベ、DS持ってきて良かった」

( ´・ω・`)「遊ぶ気満々かお前らは。お前らは遊ぶ気満々なのか。
      昨日出した二次関数の問題解いておけよ……静かにな」

廊下に出て、扉を閉めた瞬間、教室内がざわめきに包まれる。
だが、俺にはそれすら気にする余裕が無かった。
リノリウムの床を革靴で蹴るようにして歩きながら、
頭の中では数日前に交わした会話をリピートし続けていた。

「俺……もうダメかも知れない……」

( ´・ω・`)「何言ってんだ、お前は弱気将軍か。なにもダメなことなんてないぞ」

「俺……もう、死ぬしか、死ぬしかないって、ちょっと本気で思うんだ」

( ´・ω・`)「……正男……」


491 ( ´・ω・`)が親友の仇をとるそうです New! 2006/06/16(金) 23:55:08.19 ID:kjsBDyhR0
( ´・ω・`)「死ぬなんて、簡単に言うんじゃないよ。お前が死ぬことでどれだけの人間が
      悲しむか、どれだけの人間が泣くのか、どれだけの人間の心に穴が開くか
      分かって言っているのか!? お前バカじゃないから分かるだろ。
      人間の命ってのは、そいつ自身だけのものじゃないんだ」

「……」

( ´・ω・`)「お前のことを大切なものだと思ってくれている人が居るんだ。
      お前が死ねば、そいつらの心の中にその分の穴が開いちまう。
      誰にもそんなことをする権利なんて無いんだ。自分を殺す権利なんてな」

「……説教臭くなったな、センセイ」

( ´・ω・`)「真面目に聞いてるのか」

「分かってる、全部分かってるよ。それでも、もうダメかも知れない。   
 俺、野津駅のホームに立つたびに思うんだ。ここで飛べられれば、楽になるって」

( ´・ω・`)「……」

「長電話、付き合ってくれてありがとうな。お前は、いい奴だ。お前だけは。忘れないよ」

( ´・ω・`)「おい、正男。……おいっ!! 正男!! おいっ!! ……クソッ!!」

494 ( ´・ω・`)が親友の仇をとるそうです New! 2006/06/16(金) 23:56:10.89 ID:kjsBDyhR0
( ´・ω・`)「……まさか、な。いくらアイツでも、そんな」

確認するように、声に出してそう呟いた。
それでも、鼓動は気持ちの悪いリズムを刻み続ける。
みぞおちに不快な塊がもやもやと蠢いているのが分かる。
俺は職員室に入ると、すぐにテレビを付けた。
しばらくあちこちチャンネルを変えて、ローカルニュースに合わせる。

「――では、次のニュースです。今朝、10時11分頃、中央線野津駅のホームで……」

どくん、と心臓が一度打つ。

「会社員 毒田正男さん31歳が、野津駅を通過する快速まゆび21号に飛び込み」

( ´・ω・`)「……」

「毒田さんは全身を強く打ち、即死しました。この事故の影響で中央線下野〜内海間の」

( ´;ω;`)「……冗談だろ?」

「自殺と見られており、引き続き捜査が進められています。では次のニュースです。
 阪神の桧山選手がやってくれました――」

俺はテレビを消すことも出来ずに、椅子に座り込んだまま、頭を抱えた。アイツの顔を思い出す。

('A`)

――毒田正男――毒男――お前は――

496 ( ´・ω・`)が親友の仇をとるそうです New! 2006/06/16(金) 23:56:48.42 ID:kjsBDyhR0
ID変わるので唐突に終

506 ( ´・ω・`)が親友の仇をとるそうです New! 2006/06/17(土) 00:00:20.17 ID:pzeyiOBs0
>>502
ぶっちゃけあと10レス分くらいは書いてるけど、収集がつかなくなって( ´・ω・`)ショボーン

510 ( ´・ω・`)が親友の仇をとるそうです New! 2006/06/17(土) 00:06:08.35 ID:pzeyiOBs0
パイプ椅子と長テーブルの並ぶ無機質な会議室に、
警察官が一人飛び込んできて、敬礼をした。

(-A-)「鉄道警察隊第二中隊長、早瀬と申します」

        _,,..,,,,_  
         / ,' 3  `ヽーっ 「……」
         l   ⊃ ⌒_つ
          `'ー---‐'''''"

(-A-)「あ、あの、荒巻警視正?」

/ ,' 3  `ヽーっ 「ぐぅ……もう食べられないよ」

(-A-)「うわ、ベタな寝言……」

/ ,' 3  `ヽーっ 「実は起きてる罠」

(-A-)「あっ、あ、失礼致しました!! わたくし、鉄道警官隊……」

/ ,' 3  `ヽーっ 「早瀬君ね。自己紹介はもういいよ。で、例の写真見せて」

(-A-)「あ、はい。こちらです」

/ ,' 3  `ヽーっ 「ふーん……」

511 ( ´・ω・`)が親友の仇をとるそうです New! 2006/06/17(土) 00:06:28.95 ID:pzeyiOBs0
[( ^ω^)]  
  
/ ,' 3  `ヽーっ 「ホトケさん、胸ポケットにこんな写真入れてたのか」
        
(-A-)「はい。胴体と、手足首だけは残っていまして……」

/ ,' 3  `ヽーっ 「毒田正男、だったよね、ホトケさん」

(-A-)「え、あ、確か。はい(良く覚えてるな……)」

/ ,' 3  `ヽーっ 「ふむ。なかなか面白いことだ、いや、面白いなんつったら不謹慎か」

(-A-)「あの、荒巻警視正」

/ ,' 3  `ヽーっ 「……ん?」

(-A-)「警視正は、事故や自殺では、無い、とお考えですか?」

512 ( ´・ω・`)が親友の仇をとるそうです New! 2006/06/17(土) 00:06:47.95 ID:pzeyiOBs0
/ ,' 3  `ヽーっ 「ふむ。キミなかなか面白いこと言うね。なんで?」

(-A-)「い、いえ、あの、その」

/ ,' 3  `ヽーっ 「たかだかサラリーマンの自殺に警視正サマが出てくるとは何事? みたいな」

(-A-)「い、いえ。決してそのような」

/ ,' 3  `ヽーっ 「いいセンスしてるな。キミは。……けど、首を突っ込むのはやめておきなさい。
         何事も、分相応だ。好奇心が人を殺すことだってあるんだからね」

(-A-)「は」

/ ,' 3  `ヽーっ 「敬礼しなくてもいいよ。さーて……と、失礼するよ」

(-A-)「はっ」

/ ,' 3  `ヽーっ 「……荒れそうだなぁ……」

荒巻はそう言うと、窓の外に広がる濁った空を見上げた。

513 ( ´・ω・`)が親友の仇をとるそうです New! 2006/06/17(土) 00:07:32.12 ID:pzeyiOBs0
「毒田家」と書かれた札が立っている角を曲がると、黒服の男が二人立っていた。
俺の服装をちら、と見てから男達は「この奥、左の清雨斎場です」と教えてくれた。
この小雨の中、棒立ちで案内役はさぞ大変だろう。俺は二人に礼を言いながら、少しだけ同情した。

( ´・ω・`)「……」

雨に濡れた黒のスーツがやけに重く感じられる。
両肩に、正男の霊でも乗っかっているんだろうか。
そう考えて、俺は一人苦く笑う。

斎場に入ると、受付に立っていた女に香典袋を渡した。
「塩尾 盆」と記帳してから、会葬者の席へと歩いていく。
石畳の上にパイプイスがずらりと並んでいる。その三分の二が埋まっていた。

「これより、故毒田正男殿の葬儀、及び告別式を行います」

スピーカーから流れてくる機械的な言葉に、
俺はなぜか胸を締め付けられるような気分を味わった。
告別式、とは何て悲しい言葉なのだろう。

――別れを告げる式。

514 ( ´・ω・`)が親友の仇をとるそうです New! 2006/06/17(土) 00:08:22.18 ID:pzeyiOBs0
「ご遺族の焼香でございます」

司会の言葉とともに、通路に毒田の家族が歩いてきた。

J('ー`)し

毒田の奥さん、毒田香とは、何回も話したことがある。
彼女は泣いていなかった。だが、俺にははっきりと分かる。
おっとりとして、一度も夫と喧嘩したことのないという彼女が
今、悔しさと悲しさに押し潰されそうなことが。

ξ´;ω;)ξ

毒田の娘、毒田照子は母親と違い、ぼろぼろと大粒の涙を零していた。
数年前に入学祝いを渡した覚えがあるので、今は中学二年か三年生だろう。
しかし、長身と小さな顔と、その割りに大きな顔のパーツが
どこか大人びた印象を与える少女である。

(ノД`)・。゚・

そして毒田の弟、毒田藤臣は、故人の妻が涙を堪えているというのに
恥ずかしげも無く、わんわんと泣いていた。
ハンカチで双眸を押さえ、肩を震わせているその姿は滑稽ですらあったが
兄の死を誰よりも悲しんでいるのは確かであった。

彼ら三人が遺影の前に立った、そのときである。

515 ( ´・ω・`)が親友の仇をとるそうです New! 2006/06/17(土) 00:08:53.11 ID:pzeyiOBs0
――ざわめきが起こった。

毒田の娘が、遺影の前で泣き崩れてしまったのだ。
母親に抱きかかえられるようにして立ち上がりながら、
それでも毒田照子は顔をぐしゃぐしゃにして泣いていた。

ξ´;ω;)ξ

そぼ降る雨も手伝って、会場はますます陰惨なムードに覆われていく。

「あ、えー、引き続き、ご会葬者の皆様、ご焼香をお願い致します」

司会者が慌てたようにそう言ったので、俺は立ち上がった。
祭壇の中央で薄く笑っている正男の写真を、近くで見る。

( ´・ω・`)「死んでんじゃねえよ……馬鹿野郎」

心の中でだけ言うつもりの台詞が、口から漏れた。

怒りなのか悔しさなのか悲しみなのか或いは別の何かなのか、
自分でも良く分からない暴力的な感情が、
まるでアイツの居なくなった心の穴を埋めるように吹き出していた。

516 ( ´・ω・`)が親友の仇をとるそうです New! 2006/06/17(土) 00:09:17.86 ID:pzeyiOBs0
「ただいま」を言う相手も居ない家に帰ると、俺はすぐスーツを脱いだ。
留守番電話のスイッチを押してから、部屋着に着替えてソファに身体を落とす。
ひどく疲れていた。

「ピー、ナナケン、デンゴンヲ、オアズカリシテイマス」

かなり長い間放置していたので、伝言は溜まっていた。
もっとも、携帯でなく自宅電話に掛けてくるのは大抵が、
謎の無言電話やら勧誘やらなので余り問題は無い。

( ´・ω・`)「……参ったな、何もやる気がしない」

俺は溜め息をついて、煙草をくわえた。そのとき。

「あ、塩尾か!!」

聞きなれた声が、留守番電話から流れてきたので俺は思わず起き上がってしまった。

( ´・ω・`)「……正男!?」

517 ( ´・ω・`)が親友の仇をとるそうです New! 2006/06/17(土) 00:10:00.31 ID:pzeyiOBs0
(;'A`)「塩尾、いきなりすまん。この電話、いつ聞くのかは分からないけど。
    聞いておいて欲しいことがあるんだ。

    ――三番線、電車が参ります――

    俺、俺は、もしかしたらっ、ころ、し、死ぬかも、しれない。
    これは本当だ。本当に。死ぬのかも知れない。
    でも、俺が、自殺するんじゃなくて……自殺なんかしないんだ。

    でも俺は殺される、きっと、俺はっ。

    塩尾、あの、時間が無い。時間が無い。もう……。
    香と、照子のこと、勝手だけど、頼む!! ……俺が居なくても……。
    あの、幸せに、あいつらが幸せになれるように……

    ……頼む……」

ブツ、と録音は切れた。

「ゴゴ、ジュウジ、ロップン、ノ、ロクオン、デス」

518 ( ´・ω・`)が親友の仇をとるそうです New! 2006/06/17(土) 00:10:51.58 ID:pzeyiOBs0
俺は毒田の録音を何度も何度も繰り返し聞いた。
間違いなく、奴の声だ。
駅のホームから、あいつは死ぬ直前に俺に電話をかけてきていたのだ。

でも何故、携帯電話でなく、俺の自宅電話に掛けたんだ?
そして何故、家族でなく、最後の電話を、俺に?

――殺される、ってどういうことだ?

俺はフローリングの部屋を、間抜けなモルモットのようにぐるぐると歩き回った。
思考をフル回転させているつもりだが、何の結論も出てこない。

殺される?

ピンポーン……。

( ´・ω・`)「……誰だよ、こんなときに」

インターフォンのカメラから、来客の姿を見た。

         _,,..,,,,_  
         / ,' 3  `ヽーっ 
         l   ⊃ ⌒_つ
          `'ー---‐'''''"

519 ( ´・ω・`)が親友の仇をとるそうです New! 2006/06/17(土) 00:11:41.27 ID:pzeyiOBs0
/ ,' 3  `ヽーっ「すーいません。夜分遅く。わたくし警視庁科学捜査研究所の荒巻と申します」

警視庁、という言葉にわけもなく胸がざわついた。
やましいことなど無いのに、鼓動が早まる。
さっきの留守録のことがあるからだろうか。

( ´・ω・`)「……すいません、一応、あの、証拠を見せてもらえますか」

/ ,' 3  `ヽーっ「証拠と言いますと……あ、あーあー、はいはい、コレ」

男はスーツの内ポケットから警察手帳を取り出して、カメラに向けて見せた。

/ ,' 3  `ヽーっ「いやいやすいません、なにぶん、こういうの慣れてなくてね」

三十の半ばほどの警察官はそう言うと、すこし白いものが混ざった髪を掻きあげた。
その姿はどこか滑稽で、昔見た洋画を思い出させる。
「いや、ウチのカミさんがね」などと雑談を始めそうな、どこか間抜けな雰囲気。

/ ,' 3  `ヽーっ「ちょーっと、四、五分お話させていただいて宜しいですか?」

( ´・ω・`)「……分かりました。玄関で話すのも何なので、上がってもらっていいですか?」

520 ( ´・ω・`)が親友の仇をとるそうです New! 2006/06/17(土) 00:12:14.99 ID:pzeyiOBs0
/ ,' 3  `ヽーっ「あーあー、すいません。いやお構いなく、すぐ帰りますんで」

( ´・ω・`)「いえ、わざわざ上がってもらったんですから、これくらいは」

さんざ遠慮した割には、上手そうにコーヒーをすすりだしたこの男は
「科捜研の荒巻警視正です」と改めて名乗った。

( ´・ω・`)「警視正、って……こういう聞き込み捜査みたいなことするんですか?
      それに、警察の人って普通、二人一組で行動するんじゃないんですか」

警察の制度に明るいわけではないが、警視正がかなり偉い役職であることは分かる。
多分、普通のサラリーマンなら役員クラスではなかろうか。

/ ,' 3  `ヽーっ「ま、普通はしませんがね。あたしゃニセキャリアですからねー。
        まあ、ちょっと事情が特殊でね。……ちょっと質問させていただいていいですかな」

( ´・ω・`)「毒田の件に……何かあったんですか?」

俺の言葉に、荒巻はぴくりと反応した。


522 ( ´・ω・`)が親友の仇をとるそうです New! 2006/06/17(土) 00:12:49.90 ID:pzeyiOBs0
/ ,' 3  `ヽーっ「毒田正男さんの件はね、自殺でほぼ断定してます。借金苦で悩んでいたという証言が出てますから。
        奥さんと弟さんと、それから正男さんの古くからの親友である、あなたからね」

( ´・ω・`)「確かにそう証言しました」

正男が自殺を仄めかしていたことは、警察にすでに話してあった。
もちろん、今の留守電を聞く前の話である。

/ ,' 3  `ヽーっ「ただねえ、アタシどーも腑に落ちない点がありまして。
        毒田さんね、自殺の瞬間を監視カメラに撮られて無いんですな」

( ´・ω・`)「それは、どういう」

/ ,' 3  `ヽーっ「んー、このコーヒー美味しいですね。良い豆使ってるでしょう」

( ´・ω・`)「インスタントですよ」

/ ,' 3  `ヽーっ「だと思いました」

( ´・ω・`)「カメラに映ってない、ってどういうことです?」


523 ( ´・ω・`)が親友の仇をとるそうです New! 2006/06/17(土) 00:13:17.30 ID:pzeyiOBs0
/ ,' 3  `ヽーっ「監視カメラには、配置条件といいますか、ルールがあって、
        当然のことながら、ホーム全体を見渡せるように置かれているんですよ」

( ´・ω・`)「……」

/ ,' 3  `ヽーっ「ですが、野津駅のカメラはね。間抜けなことに一部死角が存在するんですな。
        ちょうどカメラが捉えない、半径数メートルの死角が。古い駅ですからなあ。」

( ´・ω・`)「その、死角でちょうど飛び降りた、ということですね」

/ ,' 3  `ヽーっ「だから、誰も彼の落ちる瞬間を見ていない。彼を轢いてしまった快速の運転手も
        毒田さんの身体が宙に浮いているところしか見ていないそうで」

( ´・ω・`)「それは、つまり」

/ ,' 3  `ヽーっ「自殺の証拠が無い、というお話です」

( ´・ω・`)「……」

525 ( ´・ω・`)が親友の仇をとるそうです New! 2006/06/17(土) 00:13:44.66 ID:pzeyiOBs0
/ ,' 3  `ヽーっ「この男、ご存知ですか?」

( ´・ω・`)「え?」

荒巻は突然、テーブルの上に写真を一枚出した。

[( ^ω^)]

見たことの無い顔だった。
俺は五秒ほど記憶を辿ったが、やはりこの顔の見覚えは無かった。

( ´・ω・`)「……いえ、全く」

/ ,' 3  `ヽーっ「毒田さん、この写真を胸ポケットに入れていたんですよ。
        自殺する前に、家族の写真でなく、この男の写真をね」

( ´・ω・`)「……」

/ ,' 3  `ヽーっ「毒田さんの家にもね、私行ったんですけれど、なんともねえ。
        自殺する人の家にどうしても私見えなかったんです」


526 ( ´・ω・`)が親友の仇をとるそうです New! 2006/06/17(土) 00:14:09.10 ID:pzeyiOBs0
/ ,' 3  `ヽーっ「例えば本に栞がしてあったり、食べかけのプリンにラップをしてあったり
        借金苦で明日自殺しようって考えてる人にしては、妙に行動がね。
        帰ってくることを前提にしているといいますか。
        奥さんも信じられないって言ってました。
        確かに追い詰められていたけれど、死ぬようには全く見えなかった、とね。
        まぁ、なーんの証拠にもなる話じゃないですが」

( ´・ω・`)「……俺も、アイツが自殺したとは思っていません」

/ ,' 3  `ヽーっ「あ、そうなんですか。そりゃまたどうして」

( ´・ω・`)「ちょっと見て、いや、見るんじゃなくて、聞いてほしいものがあります」

俺は、さっき聞いたばかりの留守録を、この男に聞かせることにした。

527 ( ´・ω・`)が親友の仇をとるそうです New! 2006/06/17(土) 00:15:35.13 ID:pzeyiOBs0
録音された、毒田の遺言が再び流れる。
荒巻警視正はそれを真剣な顔で聞き終えると、俺の方を向いて呆れたように言った。

/ ,' 3  `ヽーっ「……塩尾さん、困りますねー。こういう重要な手がかりを内緒にされちゃ」

( ´・ω・`)「違うんです。今さっき、初めて確認したんです」

/ ,' 3  `ヽーっ「あー、そうなんですか。タイミングのいいことで」

( ´・ω・`)「……ええ。俺、留守録をあんまり聞かないんで、気付くのが遅れちゃって」

/ ,' 3  `ヽーっ「ふーん、殺される、ねえ。物騒な話です。毒田さん、自殺する気は無いって
        わざわざ言ってますね。てことは勿論、事故でもー、無いでしょうなあ」

( ´・ω・`)「……」

/ ,' 3  `ヽーっ「やっぱり他殺となりますかぁ……こりゃ大変だ。
        いやあね、アタシね、自殺じゃない可能性を確認しにここに来たんですが、
        まさか故人本人からのメッセージがあるとは思いませんでした。」

( ´・ω・`)「ええ。これで、警察は殺人事件として調査を始めてくれるんですね」

/ ,' 3  `ヽーっ「……そうなるでしょうねえ。県境が近くてちょっと厄介なんですが。
        なんにせよ、貴重な情報、有難うございます。ご協力感謝しますよ」


529 ( ´・ω・`)が親友の仇をとるそうです New! 2006/06/17(土) 00:17:00.65 ID:pzeyiOBs0
/ ,' 3  `ヽーっ「多分後で、署の方にご足労願うことになるかと思いますが、宜しくお願いしますね。
        では、夜分遅くすいませんでした。コーヒー、ご馳走様」

荒巻は来たときと同じように、ばたばたと挨拶をして去っていった。
俺はコーヒーカップを片付けながら、状況を整理する。

( ´・ω・`)「毒田は借金で苦しんでいた……。自殺するかも、とも言ってた。
      でも駅のホームから『殺される』と俺に電話を掛けてきた。
      そしてわざわざカメラの死角から、快速の入ってくる線路に突き落とされた……」

テーブルを絞った雑巾で拭く。コーヒーカップの置いた跡などは拭かないと気がすまない。A型はこういう時に不便だ。
俺はさっき何度も聞いた毒田の言葉をもう一度思い出す。

( ´・ω・`)「……アイツは『助けてくれ』とは言わなかった。『家族を頼む』とだけしか……。
      つまり、殺されることはもう覚悟していた、ってコトになるな……」

そう一人呟いた瞬間、自分でも全く予想外のタイミングで横隔膜が震えた。

( ´;ω;`)「……」

自分が殺される直前だってのに、アイツは最低限、それだけは伝えたかったのか。
毒田の最後の言葉が、頭の中で何度も繰り返し流れていく。

――あの、幸せに、あいつらが幸せになれるように……――

――……頼む……――

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